ガリバーのビジネスモデル

金融危機以降の消費減退で、流通業界全体で厳しい状況が続いているが、その逆風の中で中古車買取・販売の新興企業が業績を拡大して注目されている。乗用車のガリバー・インターナショナルとオートバイのバイク王(アイケーコーポレーション)である。この二社は先日別々の経済情報サイトで紹介されていたが(MoneyZineプレジデントロイター)、事業スタイルや経営姿勢が生物学の収斂進化のように似通っているところも多く、個人的にも接点の薄い業界ということもあって、新鮮な感覚で読んだ。

それらの記事によると、両社はともに中古乗用車・バイクの買取事業を中核に発展してきた会社だが、この業界では、近年事業者向けのオークション会場というのが全国に整備されるようになって、両社は一般ユーザから買い取った中古車両をこのオークション会場で転売するという事業スタイルを確立することで業績を伸ばしてきたという。買取在庫は一定の短期間しか手元におかず、どんどん流していくので、従来の中古車販売業にあったような、店頭で店晒しになるまで在庫を持ち続ける「骨董屋」型のどんよりした事業モデルと違って、よほど血の巡りのよい、近代的で機動的な経営ができるし、販路もはるかに大きいから、限られた小さな商圏の中でその場で買ってその場で売る商売と比べれば、在庫リスクも比較にならないくらい小さく抑えられる。この点についてガリバー創業者の羽鳥会長は別のインタビューで次のように説明している。

従来の、展示場に何百台、何千台の中古車を並べて、売れるか売れないか分からない在庫を抱えるビジネス・モデルを考えてみましょう。中古車の在庫は1カ月に1回転もしません。3分の1回転から4分の1回転程度です。例えば、1000台の展示車のうち300台が売れたとします。売れ残った700台は償却するわけですが、売れた300台に売れ残った700台の償却分も上乗せしないと、経営が成り立たない。300人のお客さんに、買わなかった自動車の分まで負担してもらわなければいけません。このモデルは、いくら何でもお客さんに不利益です。


また、両社の話で特に強い印象を受けたのは、中古物品の買取審査、値付けを現場で行わず、本部で集中的に行うというところである。本部で集中審査するということは、審査プロセスが細かく定型化、評点化され、またそれが情報システム上に載っていることを意味する。現場はその細分化された定型的な項目ごとに、実際の物品を判定して、白黒の情報を本部に送るという分担になるのだろう。

この方式が実現できるのであれば、メリットは確かに大きなものがある。まず買取を交渉する顧客にとっては、従来型の業態では、そこの販売業者の店主なり担当者なりが、それぞれ属人的な経験と相場勘で買取品を評価し、値付けしていたから、価格の揺れ、不透明感というのがなにより強かった。集中審査方式であれば、基準が統一されているので、どこの支店だから、どの担当者だからということのブレは極小化される。

さらにこの方式であれば、いわばホストセントリック型/クラウド型の処理になるので、現場の負担は吸い上げられてそれだけ軽くなる。多数の現場担当者のレベルを厚く訓練して高いレベルまで引き上げ、同等に統一するという経営的な負荷も軽減されるし、事業規模がそのような高度な審査担当者の頭数を揃えることの制約からも解放される。中古車販売事業者は、われわれのイメージからしても小規模な零細事業者が一般的で、規模の拡大が難しい印象があるが、ネックになっているのはまさにこの点と考えられ、上記の両社が馬群から抜け出して事業を急拡大できたのも、それがあればこそだったはずだ。また、全体の審査コストが抑えられるということは、当然企業競争力につながるし、企業にとっての利益増と顧客に対する価格的な還元を行ううえでの原資にもなるだろう。

以上のように集中審査方式はメリットがいろいろと多いが、興味を惹かれたのは、それがどの程度実際に可能なのかという点である。いくら現地の担当者が口伝てに情報を送達するとはいっても、千差万別の中古物品を、現物を見ずに遠隔操作で本当に有効に値付けが可能だろうか。そのような審査の形態は、原理的にどの程度の妥当性があり、また、どの程度リスクがあって、それを全体としてどうコントロールするのか。そういったところに関心を持った。

その際、視点を少し後ろに引いて考えてみると、この審査の問題というのは、銀行や商工ローンなどのノンバンク、消費者金融・クレジットカード会社といった金融機関が、中小企業や個人に資金を融資する時の融資審査が抱える問題とちょうど並行していることが理解できる。判定するのがモノかヒトかの違いこそあるけれども、双方ともに一つ一つ状態が異なる審査対象を相手に、経営上合理的な買取価格や金利プレミアムをクールに設定し、もっと高く売れるはずだ、もっと安く貸してくれるはずだという人間のどろどろとした欲望の海の中を、算盤ひとつで自力で掻き分け、切り拓いて前進していく、そういう仕事であり、商売である。

そこで次回で、この双方の業界を並べ比べながら、この「審査」の問題をさらに踏み込んでみていくことにしたい。





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2009/12/09 | TrackBack(0) | 小売り | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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