中古車買取りビジネスの死角

数回にわたってさまざまな視点から検証してきた中古車流通ビジネスであるが、その新しい業態が社会に浸透しはじめてまだ日の浅く、形の完全に固まらずこれから変容可能性のいくらもある、発展途上で幼年期のビジネスである。現行みられるような事業形態からすれば、そこに新規参入者がつけ入る隙、あるいはそれ自身がこれからさらに進化していく姿としてどのようなポイントがあるか、ここではそれを探ってみたい。


査定コストと買取り価格

まず、利用者の立場からすれば、保有する自動車の売却に関して持っている主要な望みは以下の二つだと考えられる。

  (1) 売買相場に近接したできるだけ高い価格で売りたい
  (2) 売却に手間をかけず、また売り損ねなく確実に換金したい


この両項は互いに背反するところがある。(1)を最重視するとすれば、いちばんいいやり方は現在ではいわゆるオークション代行業者を使うことだろう。これは先にも触れた事業者間オークション会場への出品手続きを代理人として代行して、個人でも参加できるようにしてくれる事業者で、売却価格は中古車事業者が卸値で仕入れる生値そのものになり、代行業者はそれに事務手数料を上乗せするだけである。一方で手続きを代行してくれるとはいっても、本質的にはユーザーは中古車オークション会場という事業者間の卸市場における売買を、代行業者というマニピュレーター経由で、ちょうどゲーム機のUFOキャッチャーのように遠隔操作する形になるので、一定の手間はかかるし、競りに失敗して売り損ねるリスクもある。これらは利便コスト、時間コストとして売却価格から潜在的に差し引かれるので、他のやり方と比べて全体でそれをどう評価するかということになる。

一方でガリバーのような買取り事業者は、(2)の顧客ニーズを中心に応えながら、(1)もできる限り近いものとして実現していこうとするものだろう。顧客は事業者との対応で意思決定すればそこで手続きが完結するし、売却価格についても旧来のやり方に比べれば原理的なメリットがあるのは先に見たとおりである。その反面、最終的にオークション会場で売却されるまでの全体のプロセスの中間に、買取り会社というかなり重量級の事業者が介在し、その運営コストを負担することになるので、売却価格は原理的にオークション代行に匹敵するまでのものにはならないはずである。具体的には、事業者との対応のみで手続きが完結するということは、事業者自身がエンドユーザーの所有する商品を手元で査定(審査・値付け)するということである。この方法について、見てきたように新しい事業者は審査コストを抑制するための洗練された優れた仕組みを持っているけれども、そもそもそれを実施すること自体について、システム開発費や担当者の人件費、店舗網の維持費などのコストがかかることは確かで、それらは事業者のマージンとして最終的にオークション会場に事業者が売却する価格と、事業者がユーザから買い取る価格の差額の中からユーザが負担することになる。

逆にオークション代行業者をこれと比べるなら、彼らは査定機能を自分では持たずにすむ。なぜなら査定はオークション自身が行う(具体的にはオークション会場に専属する中古車査定士が行う)からである。両者を比較すれば、買取り事業者を経由するプロセスの方が、(2)の利便性を重視して実現するために全体として査定を二重に重複して行っているということがわかるだろう。

ユーザーもそのメリットを受け取っているので、これはそのこと自体がただちに問題だというわけではない。しかしこれからのあり方を考えた時には、(1)と(2)の要望実現は両立しないという前提自体が崩れる可能性がある。すなわちこれから最新の情報技術を用いてゼロベースでプロセス設計を行えば両方を同時に達成する事業モデルを描ける可能性は原理的に十分にある。それはたとえば商品査定の工程をオークション会場の一回分のみに集約しながら、洗練されたマッチング機能で売却の確実性・迅速性を高めるオークション代行の次世代版、高次版のような姿である。それが現実化すれば、ユーザにとっては最もありがたいことで、業界が新たな発展段階に突入することであり、旧来の原始的・徒手的なオークション代行業者や第一世代の買取り事業者にとっては脅威になる。これが第一のポイントである。もちろん彼らのうちどちらかが自ら能動的にそれを「カニバライズ」することで、その切符を自分で手にすることは十分に可能であるし、あるいは逆にこのまま買取り事業者の方が成長し、その査定機能の洗練度が増して業者間オークションの持つ人力のそれを凌駕し、圧倒するほどにまでなれば、重複していた査定機能が買取り業者側のそれの方に整理・集約され、庇(ひさし)を借りていた方が母屋まで取るという形で決着する可能性もある。


顧客認知、信頼性の形成

次に、顧客の側から大手買取り業者以外の事業者の認知を見た時に、中古車市場というレモン市場で膨大な小規模零細事業者の選択候補が存在する中で、ユーザーから見てどの事業者が信頼に足り、自分の優秀なアシスタントになってくれるのか、さっぱり分からない。特にオークション代行は軽量である反面、携帯電話一本で参入したような超零細事業者も多く、この傾向は甚だしいものがある。

これに比較して、新興の買取り事業者は、大量の広告費を投じて顧客認知を高め、店舗網も一気に全国に整備して、車を売りたいと思った時に最初に名前を思い浮かべてもらえ、店も近隣にある状態を実現することに成功したことは見られるとおりである。露出が多く名が売れていること、企業規模が大きく店舗網が整備されていることや株式上場していることなどは、企業の信頼性そのものとは直接的な関係はないものの、それを代替する仮想的な信頼性の代わりになる。

しかし一方でこのことはリスクにもなるし、これからはことにそうである。第一のポイントと同様に、最新の情報環境においては、事業者の顧客認知、「マインドシェア」を高める方法は、広告の大量投入だけがそれではなく、また広告の出稿自体もネット広告のようにこれまでよりずっと安価にできる。また、そこでは事業者側からの一方的な情報供給だけでなく、利用者自身が力を持ち、能動的にそれを形成していくので、それらがかえって裏目にでることもある。

さらに、マス宣伝や店舗網の維持は、これもまた大きな事業コストであり、その分だけユーザーの財布から差し引かれ、買取り価格を押し下げることになる。この状況で仮に新しい情報環境をより効果的に使って、強力なコスト競争力で顧客認知を高めてのし上がってきた次世代の事業者が出現したとしたら、両者を比較してどうだろうか。想定される悪いパターンは、相対的に高コスト型になる第一世代の事業者が、実態的にはより不利な買取り価格を、広告の物量と声の大きさで挽回し、掻き消そうとして、そのことが能動的に事業者を自分で「査定」する顧客群からの評価をさらに落としてしまうという悪循環である。これが第二のポイントである。これについても第一の点同様、第一世代の事業者が自己変革によって自分自身が新たなステージに脱皮していくという権利も無論保持している。


中古車流通業界の近未来の見通しについて、さしあたって考えられることは以上の二点である。いずれにしても中古市場自体に大きく光があたっていく中で、これからそれがますます動きの大きい、事業者にとってはスリリングだが顧客にとっては実りの多い、楽しみな分野になっていくことは間違いないだろう。





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2009/12/23 | TrackBack(0) | 小売り | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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