ワタミのセミセルフ居酒屋

居酒屋大手のワタミが低価格帯市場に参入するために開発した、ユニークな業態の新型店(仰天酒場『和っしょい』)が一号店を開店させたことが話題になっていた。

仰天酒場『和っしょい2』五反田店


この店はただの「ファーストフード型」の低価格居酒屋ではなく、食材の原価比率を高めて、値段よりは一段上の料理を出すことで利用客に訴求することを狙った戦略店だという。それを可能にしているのが、店舗運営の徹底したシステム化とオペレーションの効率化である。

同店の特徴は大きく二つある。一つは全メニューが「250円」か「500円」(共に税込み)という2プライスの店であること(フードの75%、ドリンクの85%が250円)。もう一つの特徴がユニークな店舗オペレーションだ。事前に、専用カードに現金をチャージし、オーダーと支払いは客席に設置した小型の注文・決済端末を使う。出来上がった料理はお客が自分でカウンターまで取りに行くという「セミセルフサービス」を導入した。こうした店舗オペレーションの工夫でホールスタッフの人数を減らし、フードメニューの原価率を43%と高く設定する一方で、人件費比率は20%未満に抑えるという。(略)料理については、例えば、250円メニューの一つ「イカ丸焼き」は25センチ以上のイカを使用。「これは和民なら380円で出せるもの」(ワタミフードサービスの瀬住厚哉新業態 統括部長)というお得感がある。


外食産業は価格競争が厳しく、給与が低いわりに労働が厳しいことで評判がよくないが、こんなふうに少ないスタッフで運営できる仕組みを整え、そのぶん質の高い料理を出すことで利用客からも支持を得られれば、数を絞り込んだスタッフにそれだけ厚く報いることも可能になる。

この考え方は、以前取り上げた「小売業界のセルフレジ」と同じである。システム業界を含む「仕事を作り替える」頭脳労働者と(調理技術を持っている等)スキルの高い中核運営スタッフに人件費を集中配分することで、サービスレベルの引き上げとコストダウンを両立させる。従業員の処遇という点では、囲い込まれた側は待遇が維持改善されるが、それ以外は低賃金どころかまったくのゼロになる。フロアを走り回って注文をとったり、料理を運んだりといった、体一つでできる単純作業の「仕事=雇用」は消滅する。雇う側からすれば、少なく払って叱られていたのだから、そもそも雇わなければ問題自体が生じないし、残った社員を責任を持って雇用し、より手厚く処遇するのであれば企業としての責務は求められている通りに果たしているわけだ。

それによって低賃金という「目に見える」問題は、「失業」という当該の企業や産業分野からは「見えない」全体の問題へと置き換えられ、追いやられるが、それは既に雇用されている側の待遇改善を望む世論と、それに後押しされて諸種の制度設計に腐心している現政権が自分で選んでそうしたことであり、それに対して企業が可能な限り適応し、自身を最適化した結果である。





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2010/09/12 | TrackBack(0) | 情報技術 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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