勉強法

復習の適切なタイミングを計算・管理する方法

問題集において×3式を適応する場合の復習スケジュール。

今日も元気に復習してますか!?

試験を突破したい、何かスキルを身に付けたいと願って勉強に挑む私たちにとって、「復習」というのは一見その効果を認識しにくい行動です。
新しいテキストを読んだり、問題を解けるようになるなら、いかにも成長したって感じがします。
それに対して復習は、同じ問題の繰り返しで何の進歩もないように見えてしまいます。
しかし、人間の脳の仕組みを考えれば、「復習」はむしろ、勉強の最重要項目なのです。

この記事では、復習するにあたって抑えておきたい脳の仕組みに触れつつ、どのタイミングで復習をすればいいかについてお伝えします。

復習するなら覚えておきたい脳の性質

人間の脳の仕組みを知らずに勉強をするというのは、ペダルを踏まずに自転車をこぐようなものです。
遅いスピードでなら上手くいくかもしれませんが、目的地には全然つくことがないでしょう。

この章では、復習するならこれだけは覚えておきたいという、脳の性質についてご紹介します。

「短期記憶」「長期記憶」

そもそも、私たちはどうやって物事を覚えているのでしょうか?
たとえば、「apple」の意味が「りんご」だということを、私たちはどうやって覚えたのでしょうか?
この仕組みに関わるのが、「短期記憶」と「長期記憶」です。

短期記憶というのはいわばメモ帳」のような働きをする記憶です。
私たちの五感から入った情報は、ある程度選別されたあと、このメモ帳にとりあえず書かれます。
たとえば、「apple」の意味が「りんご」だということを知った時、頭の中のメモ帳にはこう書かれます。
短期記憶の様子。メモ帳にりんごとappleの文字列が記載されている。

さて、このメモ帳は一度に書き込める量が限られています
量としては、ランダムな文字や数字が5~9個、まとまった単語なら3~5個程度になります。
しかも、メモ帳に書かれたものはずっと残っているわけではなく、30秒程度で消えてしまうのです。

もし短期記憶しかできなければ、私たちは30秒程度で消えてしまうメモ帳に、書いては消え、書いては消えを繰り返し、3~5個の単語だけを覚えながら一生を過ごすことになります。
しかし、現実には私たちはもっと多くのことを覚えることができます。長期記憶のおかげです。

長期記憶は、いわば「本棚」のような働きをします。
一度記憶が「本」として入ってしまえば、消えることはありません
また、覚えられる容量も、一生かけても使いきれないほどあります。
本棚の奥に入っている本が、取り出しにくい(思い出しにくい)ことはありますが、消えることはありません。

しかし残念ながら、全ての短期記憶長期記憶に入るわけではありません。
短期記憶を司る脳の海馬という部分が、重要な情報だけ長期記憶に入れるように、記憶を選別しているのです。
本当に覚えたい情報を長期記憶に入れるには、海馬に「これは重要な情報である」と思わせなければならないのです。

海馬の性質として、以下のような情報が重要だと見なされるようです。
・自分の感情が大きく動いた時の情報
・自分に関連する情報
・自分が思い出そうとしている情報
繰り返された情報

記憶の性質として、自分の感情が大きく動かされたり、自分に関連していると覚えやすいというものがあります。
また、その記憶を思い出そうとすると、「この記憶は実際に使うから重要なのだ」と海馬が判断し、次から思い出しやすくなります。
そして最後に、「繰り返す」ことによって海馬を説得することができます。
今回のメインテーマは、復習のタイミング、つまりどう繰り返すべきかです。

「集中学習」vs「分散学習」

どのように繰り返すのが適切かについては、実験心理学の分野において繰り返し検証されてきました。
多くが確定しているわけではありませんが、ほとんど確定している事実としては、「集中学習」よりも「分散学習」の方がいいということです。

集中学習とは、できるまでひたすら練習し、できてからもひたすら練習した後は、脳に焼き付いているから大丈夫だろうという方法です。
対して分散学習とは、一回できるようになったら(もしくはできるようになる前に)、あえて時間をおいて再度学習するという方法です。
つまり、一度にまとめて10回やるのが集中学習、1週間ごとに10回やるのが分散学習になります。

集中学習は、その瞬間はできるようになります。そのため、効果が実感しやすいのも集中学習です。
しかし、できるようになるのは、その瞬間だけです。
そこから急速に忘却が始まり、本当に実力を発揮したい頃には、その学習は忘れ去られて使い物になりません。

対して分散学習では、できるようになるまでは時間がかかります。そのため、もどかしい思いを多少します。
その代わり、できてからの記憶がものすごく長持ちします。
忘れかけたタイミングで復習をすることで、復習するたびに記憶の持続する期間が長くなっていくのです。
人間の記憶には、期間をおいて思い出すことを繰り返すと、どんどん強化される性質があるのです。

実際の勉強では、「いつできるようになるか分からない」という状態では計画も建てられませんしプレッシャーもかかります。
そのため、「集中学習で身につけて、分散学習でそれを維持する」という戦略が最適になるでしょう。

この維持とは、もちろん「復習」のことです。

スケジューリングは「×3式」がオススメ

では、具体的には何日あければいいのでしょうか?
これを計算するオススメの方法が、「×3式」です。

×3式とは、
最初の復習間隔を1日とし、正解したら復習間隔を3倍していく方法。不正解なら1日に戻す
という方法です。

どういうことか具体的な例をあげて説明しましょう。

「今日、一回だけ解けたけれど復習したい」という問題があります。それらの次の復習は、明日になります。
明日の復習で正解したら、次は3日後に復習します。不正解なら、1日後です。
昨日不正解したものを正解したら、その問題は3日後に復習します。
3日後の復習で正解したら、次は9日後に復習します。不正解なら、1日後です。
間隔学習の図表。復習間隔は3の累乗。

こうすることで、得意な問題は少なめに、苦手な問題は集中的に復習することができます。
一度学んだものは、この復習スケジュールのおかげで二度と忘れることがなくなるのです。

SRSの活用

この「×3式」を最も活用できるのが、SRS(Spaced Repetiton learning System:分散学習システム)です。
平たく言えば、パソコンやスマホで動く、自動スケジュール機能付き単語カードです。

代表的なアプリとして、「Anki」というものがあります。
このアプリは大変な優れもので、復習スケジュールを1問ごとに自動管理してくれます。
問題さえこのアプリに入れてしまえば、後は何も気にせず、アプリが自動で出してくる問題を復習するだけでよくなります。
唯一の制約は、パソコンを持っていないと使いづらいということでしょうか。
そこさえクリアしている方は、本当に、是非入れてください。

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×3式を問題集で使う場合

こうしたSRSを活用できない場合でも、「×3式」を擬似的に再現する方法はあります。
1問単位とまではいきませんが、「苦手な問題に集中する」というコンセプトはある程度満たす方法です。

問題集もなく普通のテキストしかない場合は、テキストを問題集に変換する以下の方法を試してください。

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全問ループと誤答ループ

問題集で「×3式」を実践する前に、問題集付箋スケジュール帳を用意してください。
付箋間違えた問題をマークする用に、スケジュール帳復習間隔を管理するために使います。

では、大まかな流れについて説明していきましょう。
問題集で×3式を行う際は、「全問ループ」と「誤答ループ」の2つに管理を分けます。
全問ループとは、問題集の全ての問題を復習するループ。
誤答ループとは、誤答した問題のみを復習するループです。

問題集において×3式を適応する場合の復習スケジュール。青い矢印が全問ループの動き方、赤い矢印が誤答ループの動き方。数字は復習間隔を表す。

実際の動き方は以下の通りです。

・学習したら、その1日後が最初の「全問ループ」になる。
・「全問ループ」の日になったら、問題集を全問解く。
・「全問ループ」で全問解く時は、間違った問題に付箋をつける。
・「全問ループ」で解き終わったら、その3倍の日数後が「全問ループ」になる。
・「全問ループ」で誤答した問題は、1日後が「誤答ループ」になる。
・「誤答ループ」の日になったら、付箋のついた誤答問題を解く。(正解しても外さない。)
・「誤答ループ」で解き終わったら、その3倍の日数後が「誤答ループ」になる。ただし、それより前に「全問ループ」がある場合は「誤答ループ」を予定に入れない。

スケジュール帳に予定を書き込む際は、「問題集の名前 (全)(27)」「問題集の名前 (誤)(3)」など、そのループが何日目のループなのか分かるように書き込んでおくと管理が楽になります。

「やり忘れ」への対応

誰しも人間ですから、予定に書いてあった復習をやり忘れてしまう、ということがあると思います。
その場合は、やり忘れた日の予定を、今日の予定に書き写すだけで解決できます。

とはいえ、復習はなるべく貯めないようにしましょう。
一気に学習するよりは毎日こまめに学習した方がいいと、分散学習もそう言っています。