陸装研ロゴ CBRN対応遠隔操縦作業車両 ATLAロゴ

1.「CBRN対応遠隔操縦作業車両」とは?

 「CBRN」とは、Chemical(化学剤)、Biological(生物剤)、Radiological(放射線)、Nuclear(核)の頭文字を並べた言葉です。CBRNで汚染された場所はとても危険で、防護服を着ていても、人間が作業するには安全面で問題があります。そういう場所でも使用できる、無人で動く作業車両を目指して試作したのが、遠隔操縦できる大型の作業車両「CBRN対応遠隔操縦作業車両」です。

CBRN-01 CBRN-02

 この車両はカタピラ式で、2両を製作しました。油圧ショベルのように油圧アームを装備する(写真左)ことも、ブルドーザーのように排土プレートを装備する(写真右)こともできます。

2.デモンストレーション動画

 一般公開等でCBRN対応遠隔操縦作業車両を展示するときは、場所の制約があるため、油圧アームを装備したもの1両だけを展示することが多いです。また、昨年の一般公開では車両の展示は行いましたが、実際に動かすデモンストレーションまでは行いませんでしたので、来場された方は残念に思われたかもしれません。しかし、今年はオンラインでの紹介で、場所の制約などはありませんので、製作した2両が並んでいる試験光景の動画(約1分10秒)をご紹介します。作業しているのは油圧アームを装備した車両で、遠隔操縦で盛り土を移動しています。

「CBRN対応遠隔操縦作業車両」試験光景
(YouTube防衛装備庁公式チャンネルに飛びます)

 さて、上の動画でCBRN対応遠隔操縦作業車両を遠隔操縦しているとご紹介しましたが、どれくらい離れた所から操縦しているか、想像できますか? 5km? 10km? いえいえ、140km離れたところから操縦しています! この試験のとき、操縦装置は神奈川県の陸上装備研究所、車両は茨城県の陸上自衛隊勝田演習場にありました。衛星通信を使うことで、これだけ離れていても遠隔操縦ができるのです!
 この研究のきっかけとなったのは東日本大震災です。このとき、福島第一原子力発電所から約20km離れた福島県のスポーツトレーニング施設、Jヴィレッジが作業員の基地となったことから、CBRN対応遠隔操縦作業車両は20km以上離れた場所からの遠隔操縦でも、がれき除去等の作業ができることを目指しました。20kmどころか140km先からも遠隔操縦できることを試験により確かめられ、私たちはこの技術に自信をもつことができました。
 最後に、遠隔操縦の技術についてご紹介します。
CBRN-Remote 最初は、遠隔操縦にはカメラ画像だけを使っていました。右は当時の操縦装置の画面です。油圧アームを装備した車両のもので、油圧アーム全体と、土を掘り起こす先端のバケット部分が見えるようになっています。これを見ればわかると思いますが、車両が作業現場のどこにいるのか、油圧アームがどこに届いているかが慣れていないとわかりにくく、初心者には相応の練習が必要でした。もっと操縦しやすくできないか、と工夫を重ねて、現在は下の動画(約40秒)のような操縦画面になっています。

「CBRN対応遠隔操縦作業車両」遠隔操縦画面
(YouTube防衛装備庁公式チャンネルに飛びます)

 画面の左上にご注目ください。車両を斜め上から見たような画面が加わっています。これだったら、車両が作業現場のどこにいて、油圧アームがどこを掘り返そうとしているか、すぐにわかります。今までのカメラに加えて、LiDAR(ライダーと読みます)という装置を利用することで可能となりました。LiDARは、レーザーを使って周囲の地形を三次元情報として読み取ります。この情報に、車両が作業現場でどう走ったか、油圧アームがどういう状態にあるかの情報を加えると、左上のような画面を計算で作り出せるのです。このため、視点を車両の真上でも、真横でも、いくらでも変更することも可能です。この作業の時はこういう方向から見た画像がほしい、という操縦者の望みに対応できます。この画像を追加することで、スムーズに遠隔操縦ができることが分かりました。このように、操縦者が使いやすい遠隔操縦を実現することも、この研究の重要なテーマなのです。