藤原、殺し合い止めてたってよ
閉じる
閉じる

藤原、殺し合い止めてたってよ

2020-05-20 11:40
    藤原妹紅と蓬莱山輝夜様。
    この二人について、設定での言及や二次創作での扱い等から「常日頃から殺し合いをしている」「妹紅が輝夜に突っかかったり輝夜が妹紅に嫌がらせをしたりする」と言った印象を持っている人は多いのではないでしょうか。

    実際、永夜抄での妹紅の設定においては「今では、輝夜と殺しあうのが日常である。」「今でも輝夜は憎い。それに輝夜は私を消そうとしてくる。」という記述が存在しますし、東方儚月抄の小説第四話「不尽の火」においても「勿論、今でも宿敵である事は変わりない。今ではお互い不死という事もあり、定期的に壮絶な殺し合いを行っている。」と妹紅本人が言及しています。更に東方文花帖でも、姫様と妹紅の居る竹林で小火騒ぎが起こったという記事があり、二人が喧嘩していたような印象を受けます。

    しかしこれら、実は時系列としては「東方永夜抄EXTRAの前の話」である可能性が高いのです。

    ①序・「殺し合い」言及について

    永夜抄の設定テキスト・妹紅の項は、内容を見れば「永夜抄EXTRAに至るまでの境遇」ですし、「今では、~」以降は妹紅を示す呼称が「私」になっている事から判るように『妹紅の一人称視点による独白』という形式になっています。

    文花帖の妹紅の記事は「第百十九季 葉月の四」。
    文々。新聞の発行時期は「○月の◇」という形で表記されますが、一度の特例(ミスティア記事。第百二十季 神無月の一三。この月は天狗の新聞大会なので)を除き◇に入るのは一~四、時折五。つまり基本的に月に4~5回発行している様子なので、葉月の四は葉月、つまり旧暦八月の後半1/4となります。記事に書かれた事件は記事の発行より前ではあるでしょうが、当該記事において「紙面から」の欄に「特集・永夜異変を振り返る(一)」があるので、永夜抄本編より後なのは確実でしょう。
    一方永夜抄本編は「中秋の名月」の日。中秋の名月は葉月、旧暦八月における十五日。
    そして、永夜抄EXTRAは「本当の満月が照らすようになった今」、つまり永夜抄本編の次の満月。本編の一か月後という事に。

    つまり順番としては「永夜抄本編→文花帖妹紅記事→永夜抄EXTRA」という順番になります。

    儚月抄小説四話「不尽の火」における妹紅の、慧音との会話の回想。これは儚月抄時点における「今」から「数年前」の話です。儚月抄は、掲載時期等から2007年の話と推定されます。一方永夜抄は花映塚(第百二十季)を2005年とした場合逆算する2004年。1年や2年前の話を「数年前」とは流石に言わないでしょうから、最低限3年以上前、そして東方に於いても「多い数」とされる「八」年未満、辺りでしょう。
    3年丁度前、つまり永夜抄当時の可能性も無くはないですが。

    ②破・「殺し合い」は為されなくなっていた?

    で、これらが「永夜抄EXTRA前」だとして何が起こるのか。

    実は永夜抄EXTRA以降において、これら以外で「殺し合いをしている」事を裏付ける描写は一切無いのです。

    東方作品において、「一度表に出た上で継続している出来事」は機会さえあれば、対戦勝利時セリフ然り、漫画の背景然り、どこかしらで描写が挟まれる事が多いです。
    ミスティアやチルノの屋台、水蜜船長の血の池地獄通い、小町や天子と文々。新聞との繋がり、等。

    描写の機会が無かった(本編に出ているキャラの関係者でなかった、描写される場面に現れそうなキャラではなかった、等)のならそれもあり得るのですが、緋想天、非想天則、深秘録、憑依華、と出張っている鈴仙、及び深秘録から再登場した当事者の妹紅、どちらも姫様と妹紅の殺し合いが「あった」ならそれに言及しても良いものを両者共に一切言及しません。
    彼女らに話し掛ける人物からも殺し合いを示唆する言葉は一切ありませんでした。

    それどころか、もう一方の当事者である輝夜様などは儚月抄の小説2話「三千年の玉」において「身の回りの事は兎達がしてくれるし外の情報も兎達が届けてくれるので私は普段何もする事がない」とまで言っています。流石に、EXTRA以降も殺し合いをしていたのならここで言及しないのも妙な話でしょう。

    更に更に、妹紅再登場の東方深秘録においては妹紅は浮き世の出来事に興味を無くして無気力になっており、不死で亡くなり死ぬ方法を模索までしている始末。
    その上、菫子との戦闘で久しぶりに血沸き肉躍ったのか戦闘に楽しみを見出していました。
    ずっと殺し合いを続けていたのなら、無気力になるのも菫子との戦いで再燃するのもおかしい話に思えます。

    つまり東方永夜抄EXTRA以降、姫様と妹紅の殺し合いは行われていなかったのではないでしょうか?
    それ故に、姫様は「普段する事がない」と言い、妹紅も無気力になっていた、という……

    ③急・何故「殺し合い」は終わったのか?

    では、それが合っていると仮定すると。
    何故二人の殺し合いは行われなくなったのか。

    ポイントは、文花帖の妹紅の記事。及び、永夜抄EXTRAの前後の展開(おまけテキストのEXTRA前ストーリー含む)自体でしょう。
    前述のように、文花帖の妹紅の記事、「竹林で小火騒ぎ」は時機を見るとEXTRAの話の少し前になります。
    この記事においては、迷いの竹林に於いて火災が起きかけ、それを「偶然居合わせた」妹紅と姫様及び永遠亭の兎達が消火をして難を逃れた、という事が語られます。
    この際の反応ですが、妹紅はどもりつつ何故か気まずげ、姫様は呆れ気味、な様子で描かれます。
    「た、煙草のポイ捨てかしら?」等と誤魔化す妹紅に対し「焼き鳥のポイ捨てかもしれないわね」と少々イヤミっぽく返す姫様。
    その記事に対する妹紅と文の会話でも、妹紅は文を脅してまで「無かった事」にしようとしている様子。

    まず、何故小火が起こったのでしょう。
    そして、何故兎達も居たのでしょう。
    何故妹紅は慌て気味、姫様は呆れ気味なのでしょうか。

    ……二人のセリフ、及び状況から、想像にはなりますが姫様は妹紅との殺し合いを止めようと申し出にでも行ったのではないでしょうか。
    きっかけは恐らく、この少し前の永夜抄本編。姫様は人間と妖怪が協力している幻想郷の状況、及び二重結界のお陰で隠れ住まなくて良くなった境遇からこれから色々楽しむつもりである事をエンディング(結界組や詠唱組)で語っています。
    そこで、復讐による不毛な殺し合いを止め幻想郷での暮らしを互いに満喫する提案でもしに行ったのかもしれません。

    まぁ、提案内容は想像として。
    兎達を連れ立って向かった事から、姫様はそもそも戦う意志が無い事を示す為に非戦闘員の兎を連れて行ったのかもしれません。
    そうして妹紅の元に向かって何かしら提案をしたものの、妹紅はどうせ悪巧みだ等と聞く耳を持たなかったのではないでしょうか。そして勝手にヒートアップ。火の鳥攻撃を仕掛けた。しかしそれが外れ火災に。
    (勝手にヒートアップ、というのは永夜抄EXTRAでも「輝夜」の名を出したら一人で盛り上がったり、深秘録EXTRAでも勝手に想像を膨らませて鈴仙に攻撃したりと、妹紅はそういう性格であると思われる事からです)

    この一件で「妹紅は復讐対象である私、及びその身内である永遠亭所属人員では停戦も聴く耳を持たない」と覚った姫様。
    それが、次の策として思い付いたのが満月肝試し作戦……永夜抄EXTRAの展開なのではないでしょうか。

    永夜抄EXTRA前の話、おまけストーリーでは、永夜抄本編の一か月後の満月の日に退屈してる自機人間勢に対して、その日の夜の満月の晩の肝試しを提案します。
    何か仕掛けがあるのかと訝しむ咲夜に対して、「仕掛けなくても貴方のご主人様よりよっぽど怖い」と姫様は返します。地の文では「妖怪でも幽霊でも何でもござれの幻想郷、何が怖いというのだろう。」と語られています。これらから、暗に肝試しのメイン、主題は妖怪でも幽霊でもない事が示されています。その後の展開からするに、つまり姫様が自機勢に会わせたかったのは妹紅であると思われます。

    また、ここでは姫様は「ついでだから、あいつも退治してくれると助かるんだけどね。」と漏らしています。
    その後の展開で出てくる「退治」される存在と言えば、満月の夜に妖怪化している慧音だけです。その慧音は、自機達を待ち構え「あの人間には指一本触れされない!」と意気込みます。
    永夜抄より前と思われる儚月抄小説回想の時点で慧音は妹紅にとって「数少ない理解者」とまで言われる程の存在なので、慧音からしても大切な存在で守護していたのでしょう。
    しかし、妹紅が復讐心から先鋭化する中で妹紅を過保護に守る慧音は、妹紅を開放(仮)したがっている姫様からしたら目の上のタンコブでしょう。
    この「ついでだから~」は、そのような想いが漏れたのかもしれません。


    そしてこの永夜抄EXTRA以降、前述のように「殺し合い」があったと思しき描写はほぼ一切なくなり、また妹紅は怨みの対象であった筈の姫様の棲む永遠亭へ案内人をするようになっています。
    それまでの事を考えると、「罪滅ぼし」にも思える行動です。
    妹紅の復讐動機の事を考えても、父がかかされた「恥」も姫様に対して虚偽を働いた結果、妹紅の不死化とその後の苦労も衝動的に薬を奪って飲んだ事が原因、と共に「自業自得」でもあるものです。根本原因が姫様の行動とはいえ、妹紅もそこを把握はしていて、だから頭が冷えた後はそのような行動を取っていたのかもしれません。
    しかし、根本原因が姫様ではある為に儚月抄時点でも「宿敵」扱いは止めなかったのかもですが。

    ④新・蓬莱山輝夜の『殺し合い』
    さて、妹紅が主体の「殺し合い」はそのような流れで終わっていたとして。
    「殺し『合い』」は双方が殺意が無いと成立しないものです。
    しかし、妹紅側はともかく姫様には殺し「合い」に応じる理由はありません。
    基本的には隠れ住んでいる都合上目立ちたくはないであろう上に、原作作中の姫様は温厚で思い遣りがあり無闇に迷惑をかけないようにすらするものです。
    二次創作での性格ならばともかく、単に「面白い存在だから」とか「ちょっかいを掛けると楽しいから」といった理由で面白半分に殺し「合い」をしそうには思えません。お遊びの軽い勝負なら兎も角。

    考えられる理由。
    姫様も「復讐」だったのではないかというものです。

    永夜抄EXTRA、詠唱組ルートにおいて妹紅は戦闘前にこんな事を言います。


    「全て」。
    まるで一つではなく、複数あってそれを全て使ったかのような言い方。
    そして


    一度、二度、三度という言い回し。
    それぞれの時の効果を知っているような言い方。

    妹紅は、蓬莱の薬を「三個」使ったのではないでしょうか。

    東方世界における竹取物語で、蓬莱の薬は複数登場します。
    一つは、姫様が月に帰るという時に帝に謝礼として渡されたもの。
    これは帝が飲む事を拒否し、この薬が妹紅が盗み飲んだものになります。

    加えて、実は月に帰っていなかった姫様。彼女を匿う為に同行した使者を皆殺しにし逃亡する八意永琳。
    永琳は姫様の養父母であった老夫婦に「口止め料」として蓬莱の薬を渡しています。
    一人一つとするとここで二つ。
    帝と老夫婦の分、合計が丁度「三個」なのです。

    そして。
    永琳のキャラ設定によると「その人間(老夫婦)は薬を使わなかったらしく間もなく死亡した。『後で判った事だが』、地上人は何者かに殺されていたのである。」

    この「何者か」こそ、藤原妹紅なのではないでしょうか。

    逃亡後は迷いの竹林に辿り着いて隠れ住んでいた姫様と永琳。
    二人が老夫婦死亡の真実を「後で」知る事が出来る経緯など、「実は生きていた犯人の自供」くらいではないかと思われます。老夫婦は歴史上重要な人物でもない為、その死の真実が普通に後世に伝えられる事もないであろう事も含め。

    姫様が殺し「合い」に応じた理由は、恩人である老夫婦を殺した妹紅への「復讐」を彼女も願ったから……という可能性もあるのかもしれません。


    ただ、妹紅は熱くなる事こそあれ外道ではない為に、利己的な強盗殺人などは余りしなさそうにも思えます。また、タイミングを考えると妹紅が老夫婦の元を後に訪れていたとしてそれは一つ目の蓬莱の薬を飲んだ後なので、「不死になりたいから」という理由での強盗殺人もしそうには余り思えません。

    原典からすると、老夫婦はかぐや姫去りし後は世を儚んで臥せってしまったともされています。
    そこに妹紅が訪れた為に、老夫婦は介錯等を頼んだりしたのではないでしょうか。
    口止め料として貰った薬を対価に。
    基本的にはお人好しでもある妹紅はそれを断れずに老夫婦に手を掛けた、と。

    妹紅の名前は生まれつきではなく「自分『も紅』に染まれ」という意味を与えて自ら付けられた名前であるようです。
    自分「も」という事は、命名時は「自分以外」に「紅い」ものがあったという事。
    老夫婦の介錯方法が血を見るもので、それ故に妹紅は自分にその名を付けたのかもしれません。

    妹紅が、挑発の為に当初は殺害の事だけ明かすも、後にそれが介錯だった事まで口を滑らせたりした為に、姫様は永夜抄本編で幻想郷の環境を知った事もあり妹紅との和解を願ったりしたのかもしれませんね。

    深秘録でも、鈴仙が妹紅にこんな事を言います。


    妹紅は深秘録時点でも永遠亭に入りたがらず、そして姫様はそんな妹紅に気軽に遊びに来るようにまで勧めています。

    また、このセリフは低確率で出るもの。通常は

    という、「鈴仙が自ら誘う」という形になります。

    ここまでの経緯を考えると、これは「姫様が直接誘うと頑なに断る妹紅に対し、妹紅が多少は打ち解けている鈴仙の意志で誘っている形で招待すれば多少は来る可能性があるのでは」という姫様の提案かも知れません。
    レアセリフの方は、そんな姫様の想いを無下にしたくない鈴仙がつい姫様の意志である事を告げ、更に自己の過去も鑑み「時効」を話題に出して誘う事にした……そんな話なのかもしれません。

    このように、妹紅に対して融和的・友好的である姫様と、気まずいのかそれを避ける妹紅、という関係が、永夜抄EXTRA後は構築されていたのかもしれません。
    姫様がそれだけ妹紅を気にかけるのは、自業自得な部分はあれども自分が運命を狂わせてしまった相手である事に加え、老夫婦の最後の願いを聞き入れて汚れ仕事を受け負ってくれた妹紅に対する感謝の気持ちなどもあるのかもしれないですね。

    ……そのような関係の二人も、また良いのではないでしょうか。
    広告
    コメントを書く
    コメントをするには、
    ログインして下さい。