メディスンとは……魔界とは……

2020-09-21 10:04
    東方花映塚にて初登場し、その後は文花帖で登場した以外は余り音沙汰の無い、毒人形妖怪のメディスン・メランコリー。
    一見余り深い設定が無いように見える彼女ですが、セリフや設定を読んでいくと色々練られている事が判ってきます。
    そんな彼女について、色々追っていきましょう。

    ①「スーさん」について
    彼女が事ある毎に言及する存在、「スーさん」。
    大きい体の傍にある妖精っぽい何かだと思われる事も多いソレですが、彼女の言動を追っていくとどうやら「鈴蘭の花」そのものであると思われる事が判ってきます。

    「咲き過ぎ」。


    「今年のスーさん」。


    「咲いている」。

    つまり、彼女は自分が動けるようになった原因、鈴蘭の花そのものを「スーさん」と呼び親か友のように慕っている、という可能性が高いのです。

    ただ、それだと説明が付かない場面も出てきます。
    ストーリー、小町戦後のセリフ。

    周りに彼岸花ばかりで、鈴蘭が存在していない状況でも何かを「スーさん」と呼ぶメディスン。
    やはり横にいる存在もスーさんなのか……?

    ……と、考えてしまう所ですが。
    ここで、「メディスン・メランコリー」という存在の成り立ち、構成を少し考えてみましょう。

    ②メディスンの成り立ち
    メディスンは、無名の丘にあった人形が鈴蘭の毒に侵され、それによって妖怪化した存在です。
    本人曰く「捨てられた」人形。
    出来方としては付喪神に似ていますが、一貫して付喪神扱いはされていません。
    他に付喪神の項目がある求聞史紀においても、メディスンは付喪神ではなく「妖怪」の項に含まれています。

    ここで、彼女が捨てられていた無名の丘について考えましょう。

    東方求聞史紀の危険区域案内によると、無名の丘は「(恐らくは人間の里から見て)妖怪の山とは正反対の方角」にある小山の中腹に「何故か人里から隠されるように」存在する、鈴蘭が咲き乱れる草原です。
    この場所は、幻想郷が博麗大結界に包まれる以前、外と自由に行き来出来た頃には「間引きの現場だった」という暗い過去があったようです。
    名前すら付けられず間引きとして捨てられた子供が鈴蘭毒により眠るように亡くなり、遺体が妖怪に片付けられて跡形もなく消える、そんな場所だったようです。
    しかし、時折捨てられた子供が生きたまま妖怪に攫われ妖怪として育てられたという事もあったようで、親としても例え間引かざるを得ない子供でも子が死ぬ姿を見たくはなく、例え思い込みでもそんな風に妖怪になってでも生きているかもしれないとしてここに捨てた、という悲しい話もあったそうです。
    そのような話もある故に、人里の人間は滅多にここには近寄らない様子。

    つまり、無名の丘に長い間放置されていたメディスンは「元」は「子供の持ち物」だった可能性が高いです。間引きの過去により人が普段近寄らないのなら、そういう話とまるで無関係な人形であった可能性は低い故に。
    となると、メディスンの「元」は「子供が持っていそうな物」。或いは「親が子供に餞別としてでも渡しそうな物」であると思われます。
    メディスンは幻想郷縁起(求聞史紀)では「腹話術に使う大きめの人形程度の姿、元々の人形がそのくらいの大きさだったものと思われる」などと、大きい人形が主体であるような書かれ方をしていますが、これはあくまで阿求の認識です。

    元が「子供の持ち物」である事を考えると、メディスンの「単なる人形時代」の姿は小さい方の体だったのではないでしょうか。
    妖精のようなあの体、あれは大きい方の体のサイズを思うとちょうど子供の手遊び人形くらいのサイズに思えます。

    そして、存在としては異なるようですが前述のように成り立ちは非常に付喪神に似ています。
    放置された人形が妖怪化した存在。
    付喪神は、「長年使い込まれ神性を持った道具が、供養もされず壊されもせず放置された事により神性が変異して妖怪化した」という存在です。
    メディスンはこれと似た特性を持っている様に思えますが、唯一異なるのが「長年使い込まれてはいないであろう」という点。
    無名の丘に捨てられるのが子供であろう事から、長年使い込むほどの時間が無かったであろうという所です。
    親や知り合いから長年使い込まれた人形を渡された可能性もなくはないですが、付喪神になれなかった都合そうではなく新しい人形で余り使い込まれはしなかったのでしょう。
    では何故妖怪になれたのかと言うと、本人が言う様に鈴蘭の毒の力のようです。
    毒で体を動かせるようになった。「使用者が使い込む事により溜まる念」が足りない分、それを毒の魔力で補った、とかそういう話なのかもしれません。

    そして、他の現生ネームド付喪神は全て「元の道具」と「それを扱う形で存在する人間体(使用者の魔力)」で構成されています。
    例えば、多々良小傘は「唐傘」と「傘を持つ少女」、堀川雷鼓は「ドラム」と「ドラマーの少女」で成り立っています。

    つまり、大きい体は小さい人形が「毒で作った体」、且つ「小さい人形を扱う使用者の少女」である可能性があります。それを、使用者の魔力ではなく毒で作った為にそちらも「人形」になっているのかもしれません。

    この事は、彼女のテーマ曲のタイトルの形でもある意味示されているかもしれないのです。

    メディスンのテーマ曲は「ポイズンボディ ~Forsaken Doll 」。
    主題に見える「ポイズンボディ」は勿論「毒の体」。
    そして副題に見える「Forsaken Doll」は「見捨てられた人形」です。
    主題に見える方が「ドール」ではなく「ボディ」……体で、副題に見える方が「Doll」なのです。
    そして、メディスンは「捨てられた人形」である以上実は副題の方がメディスンの本質に近い。
    「表面上本体に見える」大きい人形が実は本体ではなく「表面上添え物に過ぎない」様に見える小さい存在が実は本体、というメディスンの構成を、最初から示していたのかもですね。

    ③Re・「スーさん」について
    さて。
    以上を前提に考えると、メディスンの大きい体は「毒で出来た体」。
    その毒は鈴蘭の毒です。

    ……前述の「鈴蘭の花が無い場面で『スーさん』に呼びかけた」件。
    メディスンは、「小さい方の認識」を主体として「大きい方」を「鈴蘭毒で出来た存在=鈴蘭の一種=スーさん」とでも認識しているのではないでしょうか。

    それを裏付けているとも取れるセリフがあります。

    「スーさんの力があれば他にも仲間を作れそう」

    メディスンは、ずっと「一人ぼっちで」無名の丘に住んでいた筈です。
    しかし、このセリフを信じるならメディスンは「既に『仲間』を『スーさんの力で作っている』」という事になります。
    この「仲間」というのは、実は大きい方の体……「ポイズンボディ」の事を言っているのではないでしょうか。

    「自分の一部だというのに『仲間』だなんて、そんな勘違いをするだろうか」という意見もあるかもしれません。
    しかしメディスンは、


    精神波長が短くて(=気性が激し過ぎて)普通の人に声が届かない事や、


    視野が狭過ぎる事を指摘されています。

    加えて、彼女はかなり長い間道具として動けないまま放置されていた上で花映塚時点では「妖怪になって数年しか経っていない」存在です。
    ただの人形であった期間が、妖怪になってからの期間よりずっと長い。

    「後で出来た大きい体」が「自分の一部」であると、この時は認識出来ていなかったのではないでしょうか。
    でも、「自分に溜まった鈴蘭の毒で出来た」という事だけは認識出来た。
    だから、大きい体を「鈴蘭毒で作った仲間」と認識した。
    その上で「鈴蘭毒で出来た存在=鈴蘭の一種=スーさん」と捉えてもいた。
    だからこそ、周りに鈴蘭が無い場面でも「仲間=大きい体=スーさん」に、小さい体の目線で呼びかけた。
    あの場面はそういう意味なのではないでしょうか。

    ただ、花映塚のストーリーの後メディスンは永琳らと交流し成長もした様子。
    その後ずっと同じ認識とは限りません。今なら、大きい体が自分の一部だと理解出来ているかもしれないですね。

    ④メディスンの来歴とか持ち主とか
    ここまで、メディスンの構造や成り立ち、認識などについて語ってきました。
    しかし、まだ謎はあります。

    一体誰が何時メディスンを落としたのか。
    無名の丘に捨てられた昔の子供である可能性は高いのですが。

    ここで、唐突ですが特殊な付喪神である堀川雷鼓の事について考えてみましょう。

    彼女は元は和太鼓の付喪神でしたが、打ち出の小槌の魔力に侵された際にそれにすぐに気付き、宿っている神性を他の道具に移し道具と使用者の魔力を捨て去るという呪法を用いました。
    移った先は外界から入ってきたドラム。
    外界の魔力で改めて使用者を作ったからか、その「使用者」の服装は外界のものになっています。
    つまり、付喪神の作った使用者の体は元の使用者の込めた念に左右される可能性があります。

    そこで、メディスンの「使用者」の体に注目すると。
    金髪碧眼色白の、どう見ても西洋人の少女。服装も洋装です。
    使用期間が短かったであろうとはいえ、元の使用者は西洋人だった可能性があります。
    その念に影響されたからこそその姿なのかもしれないのです。

    しかし、それは妙なのです。
    幻想郷は日本にある隠れ里。無名の丘が間引き現場だったのは博麗大結界が無いほど大昔でその頃は外と行き来は出来たとはいえ、それでも120年以上昔にわざわざ日本まで来た西洋人が隠れ里である幻想郷に来るのも、そこで間引きをするのも。

    ここで、ちょっと目線を変えてみましょう。


    これがメディスン本体、元々の体と思われる人形です。
    ……何かに似ていませんか?

    そう、永夜抄でアリスに操られていた人形です。
    靴下や手足の形、羽が二枚ずつ左右にある所までそっくりです。
    アリスの人形は全て、彼女自らが作ったものです。

    アリス・マーガトロイド。
    人形遣いで、旧作では魔界に居りその後自機へのリベンジの為に幻想郷に来た魔法使い。
    人間で職業魔法使いである魔理沙と異なり、種族からして魔法使いです。

    旧作でも魔界に居て魔法を使っていた事から元から種族魔法使いと思われていましたが、求聞史紀では「人間から修行して魔法使いになったタイプ」「魔法使い歴は浅い」と書かれています。
    阿求の勘違いやアリスの嘘の可能性もありますが、断定的に言っている為に恐らく本人への取材で聞いた情報で真実である可能性が高いです。

    アリスは「自立人形の作成」を目標にしていますが、その理由について文花帖で「昔何度か自立人形を見かけた事があったから」と語っています。
    ……それは、メディスンではないのでしょうか?
    まだ登場していないキャラクターの可能性もありますが、現状登場している「自立して動く人形」というのはメディスンしか居ません。

    しかし、その場合アリスは魔界から幻想郷に来て間もなく無名の丘に行った事になります。
    人里から隠れるように存在するそんな場所へ、何故わざわざ?

    ……アリスは無名の丘を「知っていた」のではないでしょうか。
    もっと言うと、アリスこそが「無名の丘に捨てられ、メディスンの元になる人形を持たされていたけれど落としてしまった西洋人の人間」だったのではないでしょうか。
    メディスンを持っていたからこそその頃の思い出によりメディスンとそっくりに人形を作っていて。
    そして幻想郷に来た時に真っ先に無名の丘に行ったのも、そんな自分が捨てられていた場所であり人形を落とした場所だったから……そんな可能性もあるのかもしれませんね。

    危険地域案内の無名の丘の「妖怪に攫われて妖怪として育てられた」という話は、メタ的な視点で考えると単に出てこない人物の話を適当に出したのではなく「そういう過去を持つキャラクターが居る」事を示している、という可能性もありそうです。
    それこそがアリスだった、彼女を攫ったのは魔界人。
    そして攫われる際に、毒で弱っていた為に人形を落としてしまった、という。

    ⑤アリスという女をもうちょっと考えよう
    しかし、そうだとしたら妙な事があります。
    幻想郷に外から西洋人が入ってこられたのは花映塚より120年以上昔。
    無名の丘が間引き現場だったのもその頃、及びそれより昔です。
    アリスがその頃捨てられた人間だとして、彼女が人間から魔法使いになったのは、求聞史紀での記述を信じるなら「最近」です。
    しかし彼女の外見は若い。
    「若返った」という可能性もありますが……
    しかし、元人間にして「若返った」魔法使いである聖白蓮さんのように老人時代を経験したような老獪さは彼女からは感じられないように思われます。

    ここで、アリスが自機になった東方永夜抄の事に話を唐突に飛ばしてみましょう。

    永夜抄では満月をニセモノに摩り替えた黒幕(八意永琳)の不明な目的を阻止する為に、自機達は夜を「永夜の術」で止めて異変を調査する事になります。
    ここで「永夜の術」を使ったのは、夢幻の紅魔チーム(使用者:咲夜)を除いた全チームにおいて妖怪側になります。つまり八雲紫、西行寺幽々子、アリス・マーガトロイドです。

    そしてこの「永夜の術」。
    真ENDルートの蓬莱山輝夜様……永遠の魔法を操れる彼女によると


    永遠の魔法の一種らしいのです。「半端」でもあるようですが。
    ……つまり、アリスは「永遠の魔法」をある程度操れる事になります。
    またアリスが使えるという事は、アリスに魔法を教えたであろう者やその周りの魔界人にも永遠の魔法を知っていた……使えた者が居た事になります

    永遠の魔法とは、掛けた対象の歴史的変化を拒絶する魔法。
    掛ければ割れた壺は元に戻り、生き物は老いず死なず、食べ物は腐らず、建物も劣化もしないというものです。

    ……アリスが昔の人間の筈なのに老いていないのは、本人が使ったのか、彼女に魔法を教えたりした周りの魔界人が使ったのかは不明ですが永遠の魔法の効果によるものという可能性もあるのかもしれないですね。
    そして、その効果によりずっと老いていなかった故にずっと若い人間のままで、そこから最近魔法使い化したので「魔法使い歴は浅い」という。

    ⑥余談的なもの?
    さて、メディスンとアリスが繋がるかもしれない過去の推定はそこまでですが。
    アリスのそれら推定される過去から、気になる要素があります。

    アリスが幻想郷に居た西洋人の子供だとして、何故捨てられたのか。
    何かトラブルでもあったのでしょうか。
    魔界人も、何故捨てられたアリスを拾ったのか。
    慈善事業でもないですし、わざわざ人間を普通に拾うメリットも薄いように思えます。

    もしかしたら、アリスには元々魔法の才能が有り、それ故に魔界人がそれを見出して拾った……そんな事もあるのかもしれません。
    そして、元人間なのに魔法の才能があったという事は捨てられた原因となったトラブルというのもその才能に関わる事なのかも。

    ……昔に魔法に纏わるトラブルがあった……西洋人の……金髪の子供……

    唐突ですが、霧雨魔理沙は名前としては日本人なのに明らかに金髪です。
    魔法の才能も高いようです。
    そして実家の道具屋・霧雨店は魔法関連の道具を取り扱っていません。

    ……霧雨店が魔法関連の道具を扱っていないのは過去に魔法に関するトラブルがあったからで、それはかつてこの店に関わっていた西洋人の人間の魔法使いの家系に関わるもので、そのトラブルでその魔法使いは子供を捨てざるを得ない事になり、捨てられたのがアリスで。
    そしてその人間魔法使いはそのまま霧雨店の家系に加わり、その血を引いているから魔理沙は金髪で魔法の才能がある。
    つまり魔理沙はアリスの遠い親戚……

    そんな可能性もある?のかも?しれませんね?
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