厚生労働省は固定残業代をめぐるトラブルに本気で向き合うのか?

ハローワークの求人票と実際の労働条件が異なるという問題に対処するために、厚生労働省は3月24日から「ハローワーク求人ホットライン」を設けている(報道発表資料はこちら)。

この件については既に3月21日に本欄の下記で取り上げた。

問題状況があれば対策が取られる、わけではない ―「ハローワーク求人ホットライン」の開設を促したもの

リーフレットには固定残業代をめぐるトラブルの例示なし

しかしその際に、うかつにも気づいていなかったことがある。厚生労働省が作成したハローワーク求人ホットラインのリーフレット(こちら)には、下記のように、固定残業代をめぐるトラブルが事例として取り上げられていなかったのである。

「ハローワーク求人ホットライン」リーフレットより
「ハローワーク求人ホットライン」リーフレットより

連合が2013年12月に実施した「就活応援ホットライン」のリーフレット(こちら)では、固定残業代をめぐるトラブルが下記のように取り上げられていた。違いを見比べていただきたい。

連合「就活応援ホットライン」リーフレットより
連合「就活応援ホットライン」リーフレットより

連合の「就活応援ホットライン」のリーフレットでは

残業代も「基本給に含まれている」と言われ、支払われない。

という例がトラブル事例として紹介されている。しかし、ハローワーク求人ホットラインの「こんなことがあったら、迷わずお申し出ください」の例示には、固定残業代をめぐる同様のトラブルが例示されていないのだ。

求職者にとっては、給与額に残業代を含んでいるか否かは、大違い

言うまでもなく、求職者にとっては、求人票で提示された給与額に残業代を含んでいるか否かは、大違いだ。

3月1日の記事「就活中の学生が気づきにくい、募集要項の落とし穴」(こちら)に掲載した例を再掲しておく。例1は22万円の給与に30時間分の残業代が含まれているケース、例2は22万の給与に60時間分の残業代が含まれているケース、比較例は22万円の基本給に加えて30時間分の残業代を別途支払う通常の企業のケースだ。

上西充子「就活中の学生が気づきにくい、募集要項の落とし穴」より再掲
上西充子「就活中の学生が気づきにくい、募集要項の落とし穴」より再掲

求人票に22万円と記されていたのに、実はその中に30時間分や60時間分の残業代が含まれていた、ということになれば、「残業代は当然、別途支払われるもの」と思っていた求職者にとっては、求人票で示された労働条件と実際の労働条件が違う、ということとなる。そしてその額は、上記のグラフに見るように、月々数万円に及ぶ大きな額だ。

固定残業代をめぐるトラブルは多いはずなのに・・・

厚生労働省の3月24日の報道発表資料(こちら)には下記のように記されている。

平成 24 年度に全国のハローワークに寄せられた申出で、求人票の記載内容と実際の労働条件が違うといった申出は、 7,783 件でした。申出の内容の上位は、賃金に関することが 2,031 件( 26 %)、就業時間に関することが 1,405 件( 18 %)、選考方法・応募書類に関することが 1,030 件( 13 %)でした。

「求人票の記載内容と実際の労働条件が違う」という申出のうち、もっとも件数が多いのは「賃金に関すること」だ。この中には当然、固定残業代をめぐるトラブルも含まれているだろう。

にもかかわらず、厚生労働省がトラブル事例として固定残業代を例示しないのはなぜなのか。

考えられるのは、固定残業代の制度そのものは、適切に運用されている限りにおいては違法ではないから、という理由だ。

しかし、求人段階で提示した給与額に固定残業代を含ませることは、給与額を高く見せかけて求職者の誤認を誘うという問題があり、また、「残業代は給与に含まれているから」と一定の残業時間を超えても追加の残業代を支払わずに済ます違法な運用をされても気づきにくい、という問題がある(※)。

だから、厚生労働省はむしろ積極的に、固定残業代をめぐるトラブルを例示して、求職者に注意を促すと共に、問題事例を積極的に掘り起こして、対策の検討に資するべきなのだ。

厚生労働省は積極的に、問題事例の掘り起しを!

厚生労働省の3月24日の報道発表資料(こちら)には、ハローワーク求人ホットラインへの申出を、未然防止策の検討・実施に活用することが記されている。

◆ 申出の集計・分析を行い、未然防止策の検討・実施に活用

平成26年度からは毎年、ホットラインや全国のハローワークに寄せられた申出の集計・分析を行い、求人票と実際の労働条件が異なるようなことが起こらないよう、防止策の検討や実施に活用します。

固定残業代をめぐるトラブルは、一般の求職者・労働者にとってはわかりにくいものであり、積極的に掘り起こさなければ、問題事例として集まってこない。未然防止策の検討・実施のためには、まずは、積極的な問題事例の掘り起しが必要である。

労働政策審議会の議論を踏まえ、「問題の顕在化」を!

3月19日の第34回労働政策審議会では、UAゼンセン会長・逢見直人氏がハローワークの求人票をめぐってトラブルが相次いでいること、特に固定残業代が問題であることを次のように指摘している。

○逢見委員 

私からは2点申し上げたいと思います。

1つは、この資料2の28ページに、ハローワークの求人情報の開放というのが出ておりますし、33ページには、若者の使い捨てが疑われる企業への対応というのがございますが、これらに関連して、いわゆるブラック企業問題というのがございまして、この中で、求人票に記載されていた賃金や就業時間が実際の労働時間と異なっているというトラブルが相次いで出てきております。連合でも電話による労働相談をやっておりますが、そこでも求人票で示された労働条件と実際の労働条件が異なるという相談が出ております。また、労働局への苦情等でもそういうものが来ていると聞いております。

ハローワークへ行くと、労働契約の問題なのでハローワークではこうした問題はなかなか取り上げられない。一方で、労働基準監督署に行くと、求人票はハローワークの問題だということで、厚生労働省内でもたらい回しのところがあるのではないのかと思います。

特に問題なのは固定残業代、あるいは雇用形態、それから、試用期間といったことが求人票の中できちんと記載されていないということがあって、そうなると、ハローワークがこれをもとにして民間に情報提供するといった場合に、それがきちんとやはり信用される求人票でないといけないわけですが、今、起こっているような問題について放置したままで求人情報を外部に公表しても問題がさらに広まるということになりかねない。そういう意味で、トラブルが多発しないような改善、これは制度面、運用面含めてそういった検討をお願いしたいと思います。

議事録より。太字は筆者による)

それに対する岡崎職業安定局長の回答は以下の通りだ。

○岡崎職業安定局長 

1つは求人情報の関係でございますが、これにつきましては、求人票そのものが正確でなければいけないというのはおっしゃるとおりであります。ハローワークにおきましても、 どのぐらいそういう苦情があるかといいますと、7,000件ぐらい苦情が年間であったという状況でございます。中には、求人票そのものに問題があった場合もあれば、やや求職者の方の思いと違うというような場合もあるというふうには理解しておりますが、やはり問題のある求人票もあるということは真摯に受けとめなければいけないと思っています。

そういう状況も明らかになりましたので、1つはハローワークの求人受付部門におきまして、もう一回、チェックのやり方につきまして、再度指示をしたとともに、やはりそういう問題を顕在化させていくことが重要だろうと思っておりますので、 実は来週からでありますが、ハローワーク求人ホットラインということで、専用の番号を設けまして、そこで、そういう苦情や不満のある求職者の方からの問題を集約するという形にして、それを踏まえて、さらに対応していきたいと考えているということであります。

議事録より。太字は筆者による)

逢見委員が「特に問題なのは固定残業代」と指摘し、岡崎職業安定局長は「問題を顕在化させていくことが重要」で、そのためにハローワーク求人ホットラインを設けるという回答をしている。

厚生労働省にはぜひ、固定残業代をめぐるトラブルを例示したリーフレットを新たに作り、求職者に注意喚起すると共に、問題の掘り起し・顕在化に積極的に取り組んでいただきたい。そして、固定残業代という分かりにくい仕組みによって求職者が不利益を被ることがないよう、抜本的な対策を講じていただきたい。

***

※ 固定残業代をめぐってのトラブルや注意点について、詳しくはブラック企業対策プロジェクト発行「企業の募集要項、見ていますか?―こんな記載には要注意!―」(こちら)を参照いただきたい。

また、実例とそれに即した解説として、下記もあわせてご覧いただきたい。

・ブラック企業が労働者を安く使うカラクリ(佐々木亮)- Y!ニュースこちら

■2014年5月12日追記■

なお、2014年3月11日の参院予算委員会では吉良よし子議員と田村厚労相との間に次のやりとりがあったことが、しんぶん赤旗4月16日記事「労働条件偽装にメス ブラック企業の手口「固定残業代制」 吉良議員 現場の声 国会に」(こちら)に報じられている。

吉良 固定残業代制の大きな問題として募集広告の問題がある。月給総額だけが記載された募集要項を見るだけでは固定残業代制になっていることが求職者にすぐ分からないということが、被害を拡大している。

田村憲久厚労相 求職者に誤解を与えるような表現はよろしくない。しっかり指導したい。

また、同記事によれば、厚労省は、3月14日に「求人受理時における求人内容の適正な対応について」という文書を全国求人情報協会など関係3団体に出している。その内容は下記の通りである。

国会(3月11日・参・予算委)において「労働者の募集に当たっては、基本給と固定残業代を分けて表示すべきではないか。」と指摘があり、ある求人において「基本給と固定残業代を合算した額を基本給」としていたものがあり、求職者を欺く求人ではないかと問題視された。このため、今後とも、求人の受理(情報提供事業者にあっては掲載)に当っては、求職者視点に立って、職業安定法指針に定める労働条件明示に関する配慮すべき事項を遵守するよう適切な対応(注意喚起など)を図ること。

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公益社団法人 全国民営職業紹介事業協会HP(こちら)より

このように問題が把握されているのであれば、「ハローワーク求人ホットライン」でも同様の事例を例示し、求職者への注意喚起を行うと共に、積極的に問題事例の掘り起しと問題の顕在化に努めるべきだろう。

■2014年5月15日追記■

5月14日のToKyo FM Time Line の特集「求人票との食い違いがブラック企業への入口に?! ハローワーク問題の深刻さ(こちら)」で報じられたところによると、厚生労働省による「ハローワーク求人ホットライン」には、開設された3月24日から4月18日までの速報値では222件の苦情が寄せられ、その25%が求人票に記載された時間よりも長い、休憩時間がないといった、就業時間に関するもので、20%が提示された額よりも給料が低いといった、賃金に関するもの、また、求人票と違う職種だったという内容に関するものも17%あったという。