増え続けるティラノ軍団のメンバー…2020年に報告されたジンベイサウルス・ワンギ

ティラノサウルス徹底研究 最終回
好評連載「ダイナソー小林の超肉食恐竜ティラノサウルス徹底研究」
ティラノサウルスの仲間を進化の度合いから一軍、二軍、三軍に分け、さらにそれぞれの棲息時期やエリアを整理してきた本連載もいよいよ最終回です。今回は、2020年に論文が発表された最新のティラノ軍団メンバーをご紹介します。

2020年 ジンベイサウルス

最後にもうひとつ、甚平サウルス――ではなく、ジンベイサウルス・ワンギをご紹介しておきましょう。こちらも2020年に発表されたもので、中国・山西省の白亜紀後期の地層から発見されたティラノ軍団メンバーです。

ジン(Jin)は山西省の略称が「晋(中国発音でジンと読みます)」で、「ベイbei」が北を表しています。つまりこれはジンベイザメとはまったくの無関係で、地名からつけられた名前なのです。

発見されたのは、頭骨の一部(両方の上顎骨、右歯骨)、2個の頚椎骨、5個の胴椎骨、腰の骨の一部(右の恥骨)と、残念ながらあまりいい標本ではありません。

では、このジンベイサウルスがティラノ軍団のどこに属すかというと、二軍と判断されました。ティラノ軍団の中でもシオングアンロンやティムルレンギアに近い種だったそうですが、ただ関係が近いだけではなく、体の大きさもシオングアンロンと同等レベルで、さほど大きくないメンバーということになります。

このように、ティラノ軍団の研究はまだまだ途上。今後もさらに新しい発見は続くでしょうし、そのたびにティラノ軍団の構成メンバーは増えていくはずです。

ここまでティラノ軍団の進化の解明について、2010年以降の研究を駆け足で紹介してきました。発見があるたびに進化の歴史が明らかになり、それと同時に新たな謎が増えていくようすが、みなさんにもリアルに体感していただけたのではないでしょうか。ティラノ軍団メンバーについて一つ一つつぶさに解説してきたのも、地道でありながらも着実に進んでいる恐竜研究のリアルをお伝えすることが目的でした。

研究とは地道な作業の連続。それゆえ、かんたんに答えが出るものではありません。そんななかで私たち恐竜研究者は、少しでも真実に近づけるよう、新たな発見を求めて日夜研究にはげんでいるのです。

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