『仮面ライダービルド』の万丈龍我 / 仮面ライダークローズ 役で注目を集めた若手俳優の赤楚衛二が、Bunkamura 30周年記念 シアターコクーン公演の第1弾として上演される舞台『民衆の敵』に若き記者・ビリング役で出演する。
“近代演劇の父”とも称されるノルウェーの劇作家ヘンリック・イプセンの代表作のひとつで、現代にも通じる社会問題を鮮烈に描いた作品。
物語はノルウェー南部の海岸町で起こる。温泉の発見に盛り上がる町だが、発見の功労者である医師トマス・ストックマンは、その水質が工場の廃液によって汚染されている事実を突き止める。しかしトマスの兄で市長のペテルは事実を隠蔽しようと持ちかけ、トマスを支持していたマスコミも補修費用が税金から賄われると知った途端に手のひらを返す。トマスの孤立が深まるなか、トマスは市民に真実を伝えるべく集会を開く。そこで彼は“民衆の敵”であると烙印を押される……。
演出はロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(RSC)出身のジョナサン・マンビィ。主演は2016年の舞台『るつぼ』に続きジョナサンと2度目のタッグとなる堤 真一が、トマス・ストックマンを演じる。また、トマスの妻・カトリーネを演じる安蘭けい、新聞編集者・ホヴスタ役の谷原章介、市長のペテル役の段田安則など実力派俳優が揃った期待作。
海外演出家&ベテランばかりのキャスト陣という舞台の現場に、赤楚はどう臨むのか。稽古に合流した初日の率直な心境を聞いた。
取材・文 / 片桐ユウ 撮影 / 冨田望
“賢い”とか“悪い”というより、“ずる賢い”がしっくりくる
本日からお稽古に参加されたとお聞きしました。
はい。昨日は眠れないくらい緊張していました(笑)。今日はワークショップ的な感じで、時代背景や、その時代の新聞記者がどのようなものだったのか、僕が演じる記者・ビリングがどんな意志を持って生きているのか、というところから始まりました。
それはレクチャーがメイン? それともご自身からの提案がメインだったのでしょうか?
話し合って、という感じでしたね。台本に書かれていることの裏の意味というか、その考えが合っているかの擦り合わせのような感じでした。
では、ご自身でも役を練ってきていないとできない、という……。
そうですね。ちょっと怖かったです(笑)。でも答え合わせはできた気がします。今まで経験したことがない作品と役柄なので、好奇心で面白いなと思う反面、どうしても怖い気持ちがあります。まだ役者としては未熟なので、台本を読み込めているつもりでも足りなかったりしますし。それに前にやっていた役は1年間演じてきたので、新たな役への寄り添い方をどうアプローチしていけばいいのか、とても悩んでいます。
前の役というと『仮面ライダービルド』の万丈龍我ですね。実は『民衆の敵』というタイトルを聞いたときに、どこかビルドが提示していた問題とも重なる部分があるように思ったのですが。
ありますよね、やっぱり。民衆の大多数は裏を知らず、表側しか見ていないところとか。『民衆の敵』も真実があるのに、それを隠して利益を優先する人たちがいるからこそ問題が起こるので。ただ、僕も最初に台本を読んだときには「トマスこそ正しい」と思ったのですが、何度も読んでいるうちに「あれ? トマスって我が強いな?」とも感じてきて(笑)。その強さが果たして正しいのかというと、難しい。『民衆の敵』をご覧になるお客様はトマス側と市長側のどちらに共感するのか、あるいは民衆に共感するのか、気になるところです。
そうした民衆と主人公・トマスとの間のような位置に、赤楚さんが演じる若き記者・ビリングは立っています。どのような人間だと思われますか?
この作中で一番のポイントは“手のひらを返す”ところです。若さゆえに退屈な日常へのわだかまりを持っていて、なおかつ野心も秘めている。それが根本にありつつの、ずる賢い人間ですかね。今日のワークショップでも、彼はよその町からやってきていて、こんな想いを抱いていたのではないかなどいろいろ話し合ったんですけど、“賢い”とか“悪い”というより、“ずる賢い”がしっくりくる。
万丈龍我とは真逆ですね。
逆ですね~(笑)。ビリングは頭で考えるタイプだなと思います。
どちらのタイプのほうが演じやすいですか?
経験が豊富ではないので、演じやすい役がハッキリしているわけではないですけど……やっぱり自分の性格に似ているほうが演じやすい、ですかね。
と、なると?
万丈とビリングだったら、ビリングのほうが自分に近いかもしれないと思ったんですけど、万丈に関しては自分自身が近づいていっちゃっているので。万丈も最初は「コイツ無理~!」と思ってたんですよ。「ここまで自分のことだけで動く!?」ってちょっと気に食わなかった(笑)。でもそれを理解しようとして万丈と向き合ったから、ビリングのことも次第にわかるようになるかもしれないと思っていて。万丈はだんだん“人のために”って変わっていく役だったので、演じやすいと思えました。それも1年間添い遂げたからこそですね。
そうお聞きすると、最初に仰っていた「役への寄り添い方」が舞台とは違うというのも頷けます。
そうなんです。空気感や人との関係性も違いますし……でも稽古場は温かくて、魅力的な空間に感じました。
堤 真一さんや谷原章介さんもお稽古場にいらっしゃったということですが、どんな方々でしたか?
とても優しい方々でした。まだそんなに深くはお話できていないのですが、ワークショップでは一緒にサンドイッチを食べました。
サンドイッチを?
設定を与えられて、即興で役としてその場でどう振る舞うのかを演じるんです。客人として招かれてサンドイッチをいただく、という場面をやったので。
ワークショップではそういった即興もされるのですね。
僕も初めてでした。それが第1幕の冒頭の場面の食事のシーンに反映されると聞いて「なるほど、こうやってつくっていくんだ」と思いました。すごく楽しかったです。
そういった即興的なものは得意ですか?
楽しいとは思えるんですけど、得意かというと難しいですね。関係性がまだできていない中でどうやって接するのかとか、見られている意識もありますし。まだ役を共有していないぶん、どんなことが起こるんだろうと思っていたんですけど、周りがベテランの方たちばかりなので、僕はそこに甘えて入っていった感じです(笑)。