R45 ALL THAT "補足”
#1 『カプセルホテル』(2017年11月3日O.A.)
文&色えんぴつ画 柳田光司
新番組「R45オールザットらじヲ」の「柳田光司」と申します。
「柳田?誰やねん?お前?」というクレームを少しでも解消するため
「長~い長~い自己紹介」をさせていただくことになりました。
ずっと昔、サラリーマンをやっていました。
大学卒業後、2年弱。中小企業の広告代理店の営業をやっていました。
通勤ラッシュにもまれ、朝礼の小ネタに愛想笑い。
集金、残業もきっちりこなし頭を下げることをおぼえました。
週末の金曜日。決裁権がある取引先の人たちに誘われ屋上ビアガーデン。
生ぬるい風を受けながら、気の抜けた生ビールを飲んでいました。
携帯電話がまったくない時代でした。
会社の上司と部下は、ポケットベルでつながっていました。
ピッ―!ピッー!と発信音が鳴れば最寄りの公衆電話からかけ直していました。
カビ臭いスナック。湿った酒のアテ。笑えない下ネタ。ドギつい三文字。
年輪だらけの木株のような顔をしたママと並びながらムード歌謡をデュエット。
マラカスを振りながら、陽気で屈託のない若者を必死で演じていました。
金曜日の夜。「それじゃ、お疲れ!では、またまた月曜日~!」
終電がある時間に全員解散。この解放感が「すべて!!」でした。
大阪梅田、なんば、京橋、十三の繁華街。コッペパンのような黒い革靴を見下ろし、左手でネクタイの結び目を緩める。ちょっと遅い夜の帳を下ろします。
金曜日の夜から日曜日の夜までの40時間。
残高少ない40時間だけが、自分を正気に戻してくれる幸せタイムでした。
数か月前まで青春を謳歌していた長髪の若僧でした。
世間知らずで、社会に不適応な学生バンドマンの成れの果てでした。
まずは、気持ちをリセット。冷酒から呑み直し。腕時計をチラッと見る。
「ヤバっ!店が閉まる!」勘定をすばやく済ませ、早足でネオン街に直行。
店内に鳴り響くユーロビートの店。良からぬ店に入り浸るのが習慣だった。
日ごろの憂さを晴らすため、横丁を肩で風切り闊歩する事が気持ちよかった。
吹き出すアドレナリンの量なら負けない自信がありました。
鼻っから、暴れたいだけ。自暴自棄。始末に負えないタチの悪さ。
何度も何度も路地裏や大通りを逃げ回りました。
背広のポケットから小銭がこぼれ落ちました。
もつ鍋がブームだった頃、十三の路地裏でメンチを切られ殺されかけたことがあります。当時、世界チャンプだった「辰吉丈一郎さん」でした。(油汗)
週末の逃げ場所は、いつも同じでした。
ハチの巣のような横穴。
中には、小さなテレビモニターと10センチ四方の鏡がひとつ。
薄いカーテンを閉めながら、背広を脱ぎながらジャックにイヤホンを差し込む。
鞄からコンビニで買ったビール缶を開けながら、再放送の洋画を睨みつける。
放送終了を告げる“砂嵐”をぼんやり見つめていました。
「カプセルホテル」だけが、世界でたったひとつの避難場所でした。
空しさ。哀しさ。やりきれなさ。
重々自身の積極性のなさ、甘蜜すぎるコネ入社のなさを理解しながらも、
仕事の愚痴は 最後の最後まで誰にも伝えることはありませんでした。
今は亡き母に一度だけチラッと同意を求めたことがあります。
「なぁ、会社で働くってやっぱ…たいへんやな?」
「そらそうや。人間は、死に病と働くことが一番キツイんや。
しんどいから、毎月毎月 給料もらえるんや。
でもな、最近 私、ひとつコツがあることに気づいたんや。」
「えっ、何?コツって…?」藁をもすがる気持ちでした。
「大人になるためのコツは、 …“オトナの役”を演じることや。
結婚して子どもが生まれたら“お父さんの役”
年齢をとったら“おじいさんの役”を演じようと思ったら大丈夫や。
最初は、みんな、慣れへんだけや。大丈夫、そのうち慣れるから!」
残念ながら、最後の最後まで「その役」に慣れることができませんでした。
何度も何度も、つぶやきました。
…そう、思い込むことで、いつか納得できる!と自分自身を洗脳するんです。
強く、強く、言い聞かせましたが… ムリでした。
いちど、深夜のカプセルホテルを抜け出した事がありました。
大阪梅田の東通り商店街から、実家のある滋賀県まで歩いた事があります。
オッさんくさいナイロンの薄い靴下。安物の革靴。足の裏の血豆。
国道171号沿いのコンビニの駐車場。絶望感。夏の朝。雨。はしゃぐ学生。
アスファルトが気持ちよさそうに冷え気持ちよさそうでした。自暴自棄。
交通量の少ない時間帯であったことに感謝。最後は公園のベンチで熟睡。
気がつけば土曜日の夕方。直射日光を浴びての脱水症状。空腹で目が覚めた。
そういや、こんなこともありました。
学生時代の男友だちと待ち合わせ。
勢いにまかせ、彼が住む門真市内のワンルームマンションに一泊。
精一杯オッさんくさい会社員になりきりながら…聞き手に徹しました。
それが、「男気」というか「生きている証」というか「オトナ」というか?
…何と言うか?? まったくわかりません。
“人生、悟ったぜ!”という顔をしながら…人生相談に答えていました。
“女性をすべて知り尽くしたようなデキる営業マン気どり。
目を細めながら煙草を一服。…最悪です(笑)
今、思い出しても…これほど恥ずかしいことはありません。
でも、まったくの別人格を演じているから…
心にもない台詞もイタコが憑いたみたいにスラスラ出てくるんです。
誤解をおそれず言います。
案外、今でもこんな風にふるまっている人って多いんだろうなぁと思います。
言葉は悪いですが「遊び半分」「ゲーム感覚」で、大人を演じ続けている男って・・・
めちゃくちゃ多いんだろうなぁ~って思っています。
この番組名になっている『R45』をクリアしている男性であれば…
みなさん、もうベテラン役者の領域でしょうね。
いつしか、周囲から「おっちゃん」「〇〇さん」「〇〇部長」「おっさん」と
呼ばれながらも… 余程のことがなければ動じない名脇役です。
会社の出世ルートも、ほぼほぼ先まで見渡せているのに…
見えないふりをしながら、明るく週末をすごし、ふと昔を懐かしむ。
あいかわらず、会社の偉いさんに怒られながらも「アハハ」と笑ってごまかす。
今も、ネクタイを締めた会社員風の人たちを見れば、心から尊敬しています。
仕事途中に喫茶店やパチンコ屋で時間をつぶしている姿を見るたび、胸が痛い。申し訳ない。残念ながら、私には“超弱小会社の飛び込み営業マン”の「役」を演じ続ける才能はありませんでした。申し訳ない気持ちでいっぱいです。
…早いものです。
あれからもう、30年近く経ちました。
あの頃、「オギャー!」と生まれた赤ん坊は一人前の顔をしながら
人生の先輩たちを、小馬鹿にしながら…週末を楽しんでいることでしょう。
そんな思いを胸に、記念すべき第一回目の放送で僕が推薦した曲は…
≪バンバンバザール≫
♪『Fridaynightエビフライ』
このバンドを長年続けているのは、僕と同じ年齢の「福島康之」さん。
まもなく人生、半世紀のオッさんシンガーです。
かつて大人数のビッグバンドだった「バンバンバザール」は、
念願のメジャーデビューを果たしながらも…ヒット曲には恵まれず。
メンバーたちは、一人欠け、二人欠けていったようです。
しかし、福島さんは今なお現役。
インディーズのバンドマンとしてスィングしておられるようです。
曲は、めちゃくちゃカッコいい。
日本語の歌詞も、ビートを刻みながらノリノリです!
奇しくも、11月からスタートした番組は、金曜日の夜にOA。
ぜひ、みなさんに聞いて欲しいと思い…選曲させて頂きました。
はたして、この私の思いは みなさまに 届いたのでしょうか!?
結果が気になる方は、ぜひラジコのタイムフリーでも番組をお聞きください!
50歳を目前に、まさかのラジオデビューした私「柳田光司」が、
谷口キヨコと共に、人生の後半戦を楽しんでおります。
次回の『R45 ALL THATらじヲ』は、
11月10日(金曜日)夜9時から。
第2回のテーマは『あなたの人生のエンディング曲は何ですか?』
時間があれば、ぜひ聴いてくださいね~!
谷口「わー、わー、言うとります!」
柳田「お時間です!」
2人「さようなら!」 …(つづく)