白色のスナッパーを震わせて   作:本醸醤油味の黒豆

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終わんなかった、短編……前後編予定……とは


EP.3:Takin’ my Heart

 レイが何か悩んでる気がする。私がバイトまでの時間、チュチュのマンションにあるスタジオで練習しようとリビングを通った時になんだか上の空で座っていた。レイ? と問いかけると最初は反応がなかった。

 

「なんだかライブの後から、あんな感じなんです」

「そうなんだ」

「あ、パレオもご一緒していいですか?」

「いいよ」

 

 二人でセッションするのも楽しい。私が作った曲をたくさん教えてあげるとそれじゃあとすぐさま編曲してキーボードのパートを作り出すのは本当に天才だ、と素直に感じた。いつも楽しそうに演奏しているところもいい、思わず私の頬に太陽が浮かんでしまう。

 

「ハナさん」

「ん?」

「レイヤさんは、どうなされたのでしょうか」

「んー、おなか痛い……ってワケないか」

 

 でも、今のレイは演奏をしていて、なんだか苦しそうっていうか、それこそおなかが痛いみたいな……もっとひどい表現で許されるなら、海の中で溺れてるみたいな。たぶんそれは、チュチュもそうだと思う。あの友希那先輩との件から、なんというかいつも苦しそう。

 

「RASは」

「はい」

「……バラバラだね、なんというか」

「ですね……」

 

 ますきのパーソナリティはかなり知ることができた。この間は一緒にラーメンを食べに行ったし。その時に店主のヒトに色々訊くこともできた。あとバイクの後ろは新世界だったよ。うん、帰ってから曲作ったもん。

 ──でも、パレオとチュチュに関しては……ほとんど知らない。なんでこんなすっごいところに住んでるのとか、パレオはどこから通ってるの、とか。でもそれをただ口を開けて待ってるだけじゃダメなんだってことはよくわかってるから、なんでもいいと話題を振っていく。

 

「あ、そうだ。この間さバイト先でストバグ見つけて」

「ストバグ?」

「うん、こう、弦が八本あって。日本じゃあんまり見かけないんだけど」

 

 弦は通常六本、増やすとより低い音が出るからメタルとかのジャンルでは活躍できるんだけど。それを見て試しに弾かせてもらってみてコレだ! って思ったんだよね。私がRASでやっていく中で必要になっていくもの。

 

「だから、思い切って今使ってるスナッパーの七弦のギター買っちゃったし」

「買っちゃった……ですか」

「うん」

 

 色はちょっと悩んだけど白色にしてみた。ウサギの色だし。オタエとしてRASの一人として私は翠簾(スイレン)を上げる側として、一段階また成長していきたいから。出費がひどくてしばらく買い食いは禁止だけど。商店街の同じ学年の山吹さんがやってるパン屋、気に入ってたんだけどな。

 

「やっぱりハナさんは、不思議な方ですね」

「そう?」

「チュチュ様がハナさんにオタエと名前を付ける前は、非常にハナゾノとするか悩んでいたようですよ」

「そうなんだ」

 

 本名そのままなので却下したそうですが、と付け加えられちょっと興味が湧いてくる。そもそも昔の女性という名前にもちゃんと意味があるのだとパレオはあの時敢えて口にしていなかった私の名前を解説してくれた。

 

「昔の女性は、男性の付属品という考えが基本でしたよね」

「男尊女卑、だね」

「はい。ですからハナさんがおたえ、と呼ばれる頃にタイムスリップしたら苗字を名乗ることも許されない。全てが男性、配偶者という()()()()()に掛けられる。こじつけですが、そういうのをチュチュ様は花園、というお名前から連想したそうで」

 

 うーんと、ちょっとよくわからないけど。秘密の花園、見えないもの、フィルターの奥で本当の自分を押し殺してきた昔の女性。そんな感じだと力説される。やっぱりわからない。けど、そういうの全部を捲って、私たちは世界最強としてステージに立ち続けるんだって思えるよね。

 

「ですです!」

「そうだ、たぶんチュチュはRASっぽくないからって断られると思ってたんだけど、バンド用に編曲したのあるんだよね」

「わぁ……!」

 

 この曲はもともとバンド用に作ってたんだけど、結局路上で一番しか歌ってこれなかった子なんだ。キーボードと、ベースと、ドラムと、ギター。そんな感じで音を増やして、みんなで楽しいを増やしていく、そんな曲を。

 

「かわいい!」

「でしょ?」

「とってもかわいい曲です! 光が広がっていく、キラキラしていて」

 

 その日はパレオといっぱい話すことができた。別れ際にどこまで帰るの? となんの気なしに訊ねてみたら鴨川ですと笑顔で答えて去っていった。ますきに訊ねたら千葉の端っこと言われてびっくりだった。そんな遠くから通ってたんだ。

 

「……知らなかった」

「うん」

「やっぱり、花ちゃんは私たちを繋いでくれるんだね」

「私は、()()()がしたいだけ」

「……そうだね」

 

 でも、私は言うなら繋ぐ線なだけ。実際の星にコンステレーションラインはない。だからレイたち星が曇ってしまったら意味がないよ。特にレイは、レイヤはボーカルなんだから。

 ──そうなのかな、といつも以上に弱気なレイはうなだれるようにして下を向いたまま歩いていた。

 

「バンドって星座のα星は、リーダーでもプロデューサーでもない。ボーカルだよ」

「花ちゃん……」

「ボーカルが歌って、ドラムがビートを刻んで、キーボードが流れて、ベースとギターが奏でる。そうやって音のラインは繋がっていく。それがバンドでしょ?」

 

 私たちの場合はそこにチュチュのDJが入るけどと付け加えて私はパレオに教えた歌をアカペラで歌い始める。路上の時とは違う、本当に広がった私のフォトンベルトを。レイにはみんなのフロントで歌えるって喜びをもっと感じてほしい。バンドができるって嬉しさをもっと感じてほしいから。

 

「ほらレイ、リズム取って」

「う、うん」

「誰より辛いこと、誰より苦しいこと、誰より悲しいこと、知りたい。誰より強烈な光を放つ頃、誰よりも優しくなれるから──」

 

 私は今まで、この歌を妄想の中でしか歌えなかった。ホントウの私は、フォトンベルトを広げることなんてできていなかったから。ただライブハウスのバイトでそういう喜びを抱いているのを遠くで見ながら感じていたことを、羨ましいと思った憧憬を書き記したものだった。

 

「世界で一番幸せな瞬間を少しでもたくさんわかち合えるようにBanG! BanG! 飛沫上げる熱を燃やして、フォトンベルト広がってゆけ──!」

 

 レイのキレイな手拍子で一番を歌い切って、私はどうだと笑顔を向けた。私は今レイの手拍子で歌えただけですっごく楽しかった! パレオのキーボードと私のギターでセッションできるだけで嬉しかった! だから、レイもチュチュももっと楽しんでいいと思うんだ。

 

「……花ちゃん」

「Roseliaに勝つとか、負けるとか、そういうのはもうどうだっていいんだよ……って言ったらゼッタイ、チュチュは怒るだろうけど」

「そうだね」

「でも、負けても世界最強にはなれる。だって私たちはRoseliaじゃなくてRASだから」

「……ありがとう、花ちゃん」

 

 バンドを組めること、演奏できることを楽しむことが、自由で世界最強の音楽なんじゃないかな。それがちゃんとレイにも伝わったようで、レイのおなかが痛そうな顔はもう、どっかに飛んで行っちゃった。レイはもっとわがままでいいんだよ。ほら、お客さんに言うみたいにもっと強引にみんなをアゲていけるようになってほしいな。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 花ちゃんからエールをもらった私は、一人でチュチュのマンションにやってきた。チュチュはあの日からずっとクローゼットに引きこもっているみたいで、ますきやパレオが何かを言っても反応することはなかった。

 

「チュチュ。私はこのままだなんて嫌だ。このまま、湊友希那に言われっぱなしなのは、嫌だよ」

「──っ! なら……ならどうすればいいのよ」

 

 そこで、私は初めてチュチュの叫びを聞いた。チュチュの両親はすごい才能を持った音楽家で、チュチュも自然と音楽に傾倒した。

 ──だけど、残酷なことに彼女にそこまでの才能はなかった。チュチュの手は小さく、音楽をするには向いていない。でも両親は何をしても褒めてくれるし楽器を欲しがればなんだって与えてくれる。パレオの服やウィッグだって、元々はチュチュのお母さんが送ってきたものだった。

 

「だからプロデューサーだったんだ」

「……ええ、ええそうよ! 自分でできないのなら最強のメンバーを集めて、結果を積み重ねてやる、そう決めて、なのに……っ!」

 

 なのに才能は、残酷なまでにその足で凡人を踏みつぶしていく。友希那さんの歌、Roseliaという完成された()()を目の当たりにしたチュチュは、結局どう足掻いても自分が踏みつぶされる側だということを認識しただけだった。

 

「だから、どうにかして、踏みつぶす側に回りたかった! ()()()()()()()で!」

「──それは、無理だよ」

「なっ……なに、言って……」

「だってRASは……()()()()()()()()じゃない。()()()()()()()だから」

 

 私は踏みつぶすとか、考えるのはゴメンだよ。いくら海の中で息ができなくて苦しかった思い出があるからって気に入らないヒトの頭を掴んで溺れさせることなんて、やっちゃいけないことなんだ。復讐に意味はあるのかもしれない。だけど、それじゃあバンドは楽しくない。

 

「ワタシは、楽しさだなんて──!」

「だから、勝てないんだよ」

 

 花ちゃんも言ってた。Roseliaも最初は友希那さんだけのバンドだったって。だけど経験を積んでいく中で、ケンカして揉めて、高め合って。五人で一つの音楽を奏でる意味を見出したから今の完成度なんだって。今のままじゃ私たちはとても五人で一つの音楽を奏でてるなんていえない。フォトンベルトは繋がっていかないんだよ。

 

「バラバラのままじゃ、RASは終わるよ」

「……そんなの、イヤ」

「なら、嘘ばっかり吐くのはやめようよ。足掻き続けようよ」

 

 ああ、うまく言葉が出てこない。私は、なんて無力なんだろう。チュチュに甘えてずっとただ歌っているだけで、バンドのことをなにも考えてこなかったツケが回ってきたのだろう。でも、花ちゃんの言葉通りだ。バンドって星座のα星はボーカルだ。チュチュでも花ちゃんでも、ますきでもパレオでもない。RASのレイヤ(わたし)なんだから。そして、ボーカルの役目は、歌でみんなを引っ張ること。

 

「──Long falling down again 嘘を重ねて、離ればなれ幼き自分」

「レイヤ?」

「千切れそうにある心を抱いて、作り笑いにねぇ、頬が痛いCry──!」

 

 私は、私はただ湊友希那さんの代わりだったのかもしれない。あのヒトがもしチュチュのスカウトに首を縦に振っていたら、いらなかったのかもしれない。だからこそ、私の声は届いているの? いつだって不安になる。チュチュがもし私をいらないと言ったら、私はまた前のように惨めに消え去るだけの、孤独なベーシストに逆戻りだ。

 ──でも、それはチュチュだって同じだ。今ここでRASがなくなればチュチュの叫びは届かなくなる。ただ才能ないモノとして惨めに海に溶けるだけの、孤独な泡沫でしかない。

 

「……私たちは似たもの同士、でしょ?」

「レイ、ヤ……」

「さぁ、幕を上げようよ……拳を突き上げて、私たちがココにいるってことを世界に教えてあげようよ」

 

 扉が開く、涙にぬれた頬を驚きのまま擦っていく。ふふ、私だけだと思った? 最初はそうだったんだけど、ちょうど歌う前くらいにみんなも来てくれたんだ。ますきがパレオを迎えに行ってくれて……花ちゃんが知っていたから、みんなで集まれた。

 

「うう……みなさんにこんな姿を見せるつもりじゃ……」

「なんでだよ、かわいいじゃんか、なぁハナ?」

「うん。かわいいよパレオ」

「……パ、パレオよりチュチュ様ですっ!」

 

 私たちは、一つの音楽を追い求める仲間なんだ。誰かが一人欠けたら崩壊してしまう、でもだからこそ五人が集まればそれこそ、世界最強なんてメじゃない。私はそう信じてる。みんなの音楽を、私の音楽を、そして、チュチュの音楽を。

 

「チュチュには……その、感謝してんだよ。だから、な?」

「マスキング……」

 

 ますきは狂犬と呼ばれ、あまりに暴れるその演奏から敬遠されてきた存在、それに啖呵を切って、居場所をくれたチュチュにはずっと感謝していたみたい。後はずっとバンド仲間に差し入れとかしたかったらしくて、今日なんてケーキを焼いてきてくれたんだから。

 

「パレオはチュチュ様にずーっとついていきます。地獄の果てだろうと、どこまでも!」

「パレオ……」

 

 パレオはその最たるものだよ。チュチュに見つけてもらわなければ、ずっと自分に我慢をして過ごしていたかもしれない彼女は、それゆえにチュチュの側にずっといたいと考えているんだ。いつか自分が、チュチュの助けになるのだと、恩返しができるのだと信じているから。

 

「チュチュは、魔法使いだった。私に太陽をくれたヒトだから」

 

 花ちゃんは、私が連れてきたんだけど。それでも受け入れてくれたチュチュとRASのためにとギターを新しいのを買っていたくらい、バンドのことを考えてくれている。ほらね、もう暖簾を降ろしてる場合じゃないんじゃないかな? バラバラの個性を一つにするのが、チュチュの、プロデューサーの仕事じゃない? 

 

「じゃないと、私たちは勝手に暴れちゃうから」

「いいなソレ、初めて会った時みたいにヤリ合おうぜ!」

「ではパレオも参加致します~♪」

「震わせた方が勝ち」

「勝ち負けあるの?」

「いやソレ、ぜってー終わんねぇから」

 

 和気藹々ではバンドの方針を腐らせる。そうなのかもしれないけど、私たちは常に音楽とともにあるから。だからもう、一人じゃなくていいんだよチュチュ。

 ──私たちと一緒に、どこまでもアガろうよ。さっきの曲もさ、チュチュが作り直したらきっといい歌になるから。

 

「クレイジーね、あなたたちはホントウに」

「チュチュ様が集められたバンドなので!」

 

 これで、わだかまりは解けたかな。それともう一つ、まだ間に合うって聞いたから参加することにしたよ、ガールズバンドチャレンジ。なんでも予選上位二バンドは武道館でライブできるらしいから。

 

「……オッケー」

「お前、武道館経験者だろ?」

「ふふ、()()()()()()初めてだよ」

「……そっか、ならアタシもだな!」

「パレオもです~!」

「私も」

 

 間違いなくRoseliaは決勝候補に上がってくる。そうなればチュチュの望んでる目に見えるカタチで決着するかもしれない。私は、私もあのヒトには挑戦してみたい。そう言うと、もういいわと晴れやかな顔でチュチュはさっきの歌を口ずさんだ。

 

「──とことんまで、アゲて、楽しんで。オーディエンス全部を巻き込んで! ブドウカンをRAS一色にしてやるだけよ!」

「おお!」

「はい!」

「いいね」

「……うん」

 

 世界最強なんて夢がどのくらい先にあるかなんて見えやしない。遠くて、遠くの光すぎて。そうだとしても、私たちは叫び続けるだけ。私の魂を、心を掛けて。私の存在を誰かに届けるまで。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 チュチュはひとまず自分たちがRoseliaとどれくらいの差の開きがあるのかを明確にするべきだと言った。そこで私たちは敢えて同じ時間にライブをすることになった。実質的な対バンのようなもので、私たちもそれ相応の準備を続けていた。

 

「──ありがとう」

 

 MCを挟み、拍手を送られる。次の曲にと準備しているものは私がチュチュのスカウトを受けた時にわがままを言って編曲してもらったものだった。ただ、これには今までのRASとは大きく曲調の異なる……もはやRASの曲とは言い難いものだった。

 

「チュチュ、この楽譜」

「これはレイヤの曲よ。好きなように歌いなさい」

「……うん」

 

 そう、これは私の挑戦だ。みんなはそれについてきてくれるだけ。ああ、これが友希那さんが背負っている重圧なのかと思わず長い息を吐き出してしまう。いつもライブをしてきたホームなのに、今はまるで違う場所みたいだ。真っ暗で、何も見えない。

 

「レイ」

「……花ちゃん」

「大丈夫」

 

 大丈夫、そうだね花ちゃん。私は大丈夫。だってもう私の歌は、私の演奏は、私の想いは、一人のものじゃないから。私にステージを預けてくれたチュチュ、いつも支えてくれるますき。率先して盛り上げてくれるパレオ。魅せてくれる花ちゃん。みんながいてくれるから。

 

「それでは聴いてください……Are you ready to FIGHT」

 

 この曲の入りは花ちゃん(ギター)からだから、目線で合図を送ってから花ちゃんがまず暴れていく。そしてギターソロはいつもよりもさらに音を歪ませていたようで、アンプから放たれる雑味を含んだ音で観客を盛り上げていく。そしてドラム、DJ、キーボード。みんなが加わるのを一番フロントで目を閉じながら、ここまでのこと、そしてこれからのことを込めて歌い始めていく。

 

「──Stand up 始めようゲーム、胸躍る熱いバトル。命かけて戦いぬくよCan you feel it? Okay」

 

 いつものRASにはない重厚感と低音、ローテンポで奏でていく。それでも私の独壇場にしまいとみんなが演奏で存在感を示すステージは歌い終えるころには歓声と拍手の中、晴れやかな気持ちになることができた。そのまま『R.I.O.T』を続けていく。

 

「今日は、私たちRASが生まれ変わる日だから……たくさん新曲を披露したいと思います」

 

 会場がざわつく。その横で花ちゃんが静かにスナッパー(ギター)をいつものヤツから七弦のものに持ち替えていた。その色は、白色で実は本来白は取り扱ってないと言われたというエピソードをふと思い出した。

 

「じゃあその白いのは?」

「そ・れ・は! おたえがど~っしてもって言うからワタシが色々なツテを使って特注したのよ!」

「おお! スゲーな!」

「私さ、普段青のジロー使ってたんだ。でも路上の時、気分でシローに持ち替えてて」

「……ネーミングセンスが、安直でございますね」

 

 そうだったね。花ちゃんは初代の子がイチロー、と続いていて白の子が四つ目でシロー。それを気分でもっていった時に私に出会った。だからそれ以来RASではシローを使うって決めてるみたい。

 

「だから、私の中ではRASはシロって決めてるんだ。青じゃなくて」

 

 そうやって想いを掛けてくれるからこそ、RASというバンドのために何ができるかと考えてくれる花ちゃんがいてくれてよかった。そして私は私とチュチュの想い、ますきやパレオ、花ちゃんの孤独もぜんっぶを背負って、この歌を歌いたい。私たちははぐれもので、ヒトと違って、でもここでバンドを組んで出会えた。それはきっと、誰にも負けない無敵の絆になるから。

 

「まずは、Takin’ my Heartから」

 

 この曲は打って変わってのバラード調だ。観客を巻き込んで盛り上げられないぶん、感情を乗せて、聴き入ってもらわなきゃいけない。静かなチュチュからのスタートにパレオのキーボードの音が優しく滑っていく。寄り添うようなピアノのようなクラシカルな音が残りの三人が入ると同時に一気にRASの音に変わっていく。

 

「──Long falling down again 嘘を重ねて、離ればなれ幼き自分。千切れそうにある心を抱いて、作り笑いにねぇ、頬が痛いCry──!」

 

 この曲ももう一人じゃない。みんなの声が入って、一人一人の孤独や嘆きが一つの音楽に変わっていく。演奏するだけで褒められるということに窒息しそうだった、誰にも本当の自分を理解されないまま過ごしていた、いつの間にか自由を奪われて沈んでいた、誰かと本気で語り合いたかった、届かない想いと叶わない夢に渇いていた。私たちは何もかもが欠けていて、だからこそパズルみたいにみんなで一つになることで完成できる。それが、私たちなんだ。

 

「Takin’ my heart! 僕の声は今、Takin’ my heart! 届いているの? Takin’ my heart! 孤独の海の中、Takin’ my heart! 惨めに消えたくないから! 今日も明日もずっとその先も、叫び続けるだけ──I hope my feelings reach you!」

 

 でも私たちの道は、ここから始まっていくんだ。曲が終わって、感情をこめすぎて息が上がっているけど、ここで手は抜かない。私たちRASはステージに上がり続ける。アゲ続けていくから。

 

「さぁお前ら──声出してくぞ! 拳を上げろ!」

 

 もう嘆くのはおしまい。私たちのコレマデの言葉は終わった。ならコレカラを観客全員巻き込んでいくしかない。拳を突き上げて、声を出させて、一緒に声を枯らすまで最後の一滴まで出し尽くしていくだけ! 

 

「──Rais voice! Shout out!」

 

 ──この日は、帰りにみんなでラーメンを食べに行った。パレオは流石に泊るしかなかったみたいだけど、怒られるようならみんなで頭を下げよう。そのくらいには、あの日は最後まで誰も解散したがることはなかった。

 

 




次回はおたえ回になるといいな、この一話少なくともほぼ全部レイヤだったし。あとおたえの名づけ理由と白のスナッパーのシローは捏造です。ジローはマジ。七弦スナッパーは七弦だからシチローにするかナンバー的にゴローにするか悩んでそう。
今回演奏してる描写のある曲
『フォトンベルト』大塚紗英:かわいい曲なのでぜひ。あと本当にバンドが好きなんだなぁって思う歌でもあります。アルバム『アバンタイトル』に収録
『Are you ready to FIGHT』Raychell:カッコいい曲でアニメ『ヴァンガードG NEXT』のED。こちらマジで作詞にチェルさんが入ってて、ギターがさえチでドラムがなつぴーらしいです。
『R.I.O.T』RAS:い つ も の。実は色んなバージョンがある。
『Takin’ my Heart』RAS:同ユニット初めてのバラード曲であり、チュチュの嘆きが込められた曲になってます。神戸(へぶあす)二日目。
『DRIVE US CRAZY』RAS:WOW WOW で盛り上がれる腕がつかれる曲。疾走感がクセになるし序盤でライブ用の特別な編成(前奏がめちゃくちゃ長い)がある。ワクワクがすごい。

次回はEP.4:What's your Identityを予定してます。僕は諦めない!

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