板尾創路さん「『一人になったほうがおもしろくなるかも』という感情が生まれるのは自然なこと」
喜劇王・須賀廼家万太郎を演じる板尾 創路さん。一見、何を考えているかわからないようなつかみどころのないキャラクターですが、板尾さんは万太郎という人物をどのように捉えていたのでしょうか?
昔の喜劇人のすごみや不気味さを出したかった
「おちょやん」で万太郎は、喜劇王としてシンボリックに描かれています。万太郎を演じるにあたり、昔の喜劇人のすごみや、目が笑っていなかったり、何を考えてるのかわからないような不気味さを出せるといいなと思いました。昔の喜劇に出演されていた師匠たちのすごみは、実際に僕も肌で感じたことがありますから。
千之助もそうですけど、昔はああいう“おもろくてなんぼ”みたいな喜劇人は多かったんじゃないですかね。そういうむき出しの熱いものを持っていた時代やったし、だからちょっと怖い部分もあったんやと思います。
ただこういう役をさせていただくのは、どちらかというとやりにくいです。リアルすぎても伝わらないところもあるので、その辺の難しさは感じますね。
千之助は万太郎から離れたから、あそこまで頑張れた
万太郎は一座から千之助を切り捨てましたが、その本当の理由は脚本にも詳しくは描かれていません。万太郎が本音を語るようなせりふもないですが、でもそういう「言葉で表現できない思い」こそ、ホンマのことやと思うんです。
万太郎と千之助、二人で喜劇を続けていたら怖いもんなしやったでしょうけど、万太郎は「それやとあかん!」と、本能的に思ったんでしょうね。喜劇やエンターテインメントの世界には正解がないので、「一人のほうがおもしろくなるんちゃうか」とか「こいつとは距離をおいたほうがええんちゃうか」っていう感情は、自然と生まれてくるもの。それは昔も今も変わらないんじゃないかと思います。あえてそうすることによって、自分を追い込めるし、自身の成長にもつながりますから。千之助は万太郎と別れたから、あそこまで頑張れたのだろうし、万太郎も自分がそういうふうにしむけた手前、トップであり続けなければ、というプレッシャーもあったでしょう。
最後、万太郎は千之助を居酒屋に呼び出して二人で会いました。仲直りということではなく、「ええ戦いやったな」ということで、一席設けたかったんでしょう。鶴亀家庭劇での千之助の活躍が、腹の底ではホンマにうれしかったんやと思いますね。