特筆すべきは、同社では作画だけでなく、監督(演出)やシリーズ構成、各話の脚本も所属するスタッフが主に担当していることだろう。これらはアニメーション制作の基盤を固め、方向性を定める重要な役職で、その才は経験によって培われる面も大きい。
それゆえ他社では実績のある人物を外部から起用することが多いのだが、ufotableの場合、元請制作となって3作目の『フタコイオルタナティブ』で、代表の近藤光が逢瀬祭の名義で総監督を務めている。このことからも、創業後かなり早い段階からこうした内製化を意識的に進めてきていたことがわかる。
作画含め、会社としてアニメ制作全般に対する経験値を高めていった成果が結実したのが劇場版「空の境界」シリーズであり、内製を軸とするufotableの体制が確立した作品だという。
こうした内製化の利点は、精度の高いコミュニケーションを可能とする点にある。様々な分野での共同作業で作り上げるアニメ制作においては、スタッフ同士で作品の方向性や価値観を共有しておくことが重要だ。
外部のスタジオに作業を発注した場合、ちょっとした相談や確認でもレスポンスに時間がかかるが、内製化によって大幅に短縮する。また同じメンバーが共同作業を重ねることで、各スタッフの特性や得手不得手を把握でき、それぞれに合ったシーンを割り振ることで作業効率や質が向上する。
たとえば『鬼滅の刃』で評判を呼んだ、主人公・竈門炭治郎の"水の呼吸"の浮世絵を連想させるような表現は、制作の前段階から3Dと撮影の担当者が検討を繰り返したという。こうしたイメージのすり合わせと、そのための試行錯誤を容易に行なえるのは、内製比率の高さによるところだろう。