自民党が1月7日、憲法改正を推進するために発表したポスターが、人気イラストレーター、Noritakeさんのものに似ているとして、Twitterでは物議を醸している。同党が改憲をテーマにしたポスターを作るのは初めて。キャッチコピーは「憲法改正の主役は、あなたです。」
「自民党改憲ポスターが、よりによって谷川俊太郎『へいわとせんそう』の絵を担当してるnoritakeさんの絵をパクっていたとは なんでもありの政府だとなんでもこうなるのかー」
なお、Noritakeさんは1月9日、以下のようにツイートしている。
「DMをいただくので書きますが、私が告知しているお仕事以外、ほぼ私の仕事ではありません。よろしくお願いします。」
Noritakeさんは、絵本「へいわとせんそう」や、嵐のグッズイラストなどを手がけている。
このイラストに、Twitter上では多くの人が反応している。
「明らかに、Noritakeさんのタッチを意識して書けとオーダーされている」「これで著作権侵害になってしまったら、イラストレーターは一人二人残して全滅してしまう」「正直、普通の人からしたらああよく見る絵柄だな、としか感じない」「Noritakeさんは憲法改正支持派なんだと勘違いする人が出てくるはず」…… など、その評価は様々だ。
イラストレーターの中村佑介さんもコメントし、多くの反響が寄せられている。
「発表された『改憲ポスター』、広告という作者記名のない中、明らかに意識されたnoritakeさんの作風の安易な翻案権侵害としても、今後の仕事の業務妨害としても問題アリ。大切なことなのですから、そこもきちんとしましょうよ、自民党さん。この大舞台で恥ずかしいです、代理店さん、デザイナーさん。」
自民党改憲ポスターは「著作権侵害」か
実際にこのイラストは「著作権侵害」と言えるのか?著作権法に詳しい福井健策弁護士に聞いてみた。
福井氏は 「結論からいえば、この改憲ポスターは、指摘されたNoritakeさんのイラストへの著作権侵害と判断されるレベルには達していないと思う」という。
そもそも著作権は「ありふれた表現」や「アイデア」のレベルで類似しているだけでは、侵害とは認められない。
このケースであれば、確かにポスターは眉毛や口の形など、Noritakeさんのイラストとの共通点はあるものの、鼻や目の形状や描線の特徴など、相違点も少なくないと福井氏は指摘する。
もし著作権侵害が成立した場合はさらに、不本意に改変したり、無断で広告に使ったことで著作者の名誉を傷つけたとして「著作者人格権侵害」が成立する可能性も高くなる。
だが過去の判例から見て、このイラストが著作権侵害に当たる可能性は低いと福井氏は語る。
ポスターは2種類あり、それぞれ4万枚印刷されるという。
出典:自民党公式ウェブサイト
その一方で、このポスターが「自民党が公表した、改憲を訴えるポスター」であることの影響はどうだろうか。
仮定の話として、もしも現実にNoritakeさんがキャンペーンに協力したと勘違いした人が非常に多いというような場合には、政治的に微妙なテーマの広告だけに、Noritakeさんに対するなんらかの違法行為が認められる可能性は考えられる、と同氏はいう。
しかしその場合も、Twitterで影響力のある人が「そっくりだ」と指摘し、賛同した人が多かったというだけでは恐らく不十分で、より予備知識のない多数の人々が現実に勘違いしたような場合の話だろう、という。
自民党によると、同ポスターは4万枚が印刷され、1月下旬から全国的に展開、党の各種集会でも積極的に活用されるという。
(文・写真、西山里緒)