カナダ、安楽死の対象拡大で法案可決 精神疾患も容認へ

カナダでは重篤な病気を抱える患者の「死ぬ権利」をめぐる議論が進んでいる=ロイター

【ニューヨーク=白岩ひおな】カナダ上院は17日、医師のほう助による安楽死の対象を拡大する法案を可決した。病状により死が予期できるとする要件を撤廃し、慢性的な身体の苦痛を抱える患者や精神疾患を持つ人の「死ぬ権利」の容認に道を開く。カナダでは2016年から安楽死が合法化されたが、重篤な病状があっても死期が差し迫っていないと考えられる場合、対象から外されていた。

カナダ連邦最高裁は15年、重篤な病状により耐えられない肉体的、精神的苦痛を感じている患者に医師のほう助による安楽死を認める判決を下した。判決に基づく現行法は①カナダの公的医療サービスを受ける資格がある②18歳以上で意思能力がある③治療の難しい重篤な病気を患い、自然死が合理的に予見できる④医師の説明があり、患者が自発的に安楽死を希望している――といった要件で安楽死を認めてきた。

新たな法律では「自然死が予期できる」とする要件を撤廃する。19年にケベック州の裁判所が、同要件を違憲とする判断を下した。重篤で治癒が見込めない病気や障害を患い、患者が耐えがたい苦痛を抱えている場合、致命的な病気でなくとも安楽死を選択できるようにする。

カナダ国内では、全身の慢性的な激しい痛みを特徴とする線維筋痛症の患者などから対象を広げるよう求める声が上がっていた。法案は賛成60、反対25の賛成多数で可決し、同日成立した。5人は投票を棄権した。

新法は精神疾患のみを抱える人にも安楽死を認める道を開く。今後2年間は精神疾患を唯一の基礎疾患とする患者には安楽死を禁止するが、その後の制度の利用を視野に枠組みを検討する。異なる医師による診断や、カウンセリングや障害者支援など症状の緩和や生活支援の提供などを行った上で、限定的に運用するとみられる。

対象の拡大をめぐっては、障害や精神疾患を持ち、適切な支援やサービスを十分に受けられていない人々を安楽死の判断に向かわせてしまうとの懸念も出ている。重度のうつ病などで、精神疾患により引き起こされる希死念慮(死にたいという気持ち)と本人の自発的な意思を見極める難しさもある。ラメッティ法相は採決後「カナダ国民の自律性を尊重すると同時に、弱者を保護するものだ」とツイートした。

カナダでは19年に5631人が安楽死の制度を利用し、合法化された16年から19年末までに1万4000人近い患者が医師のほう助による安楽死を迎えた。がん患者が3分の2を占め、神経疾患、心血管・呼吸器疾患が続く。

安楽死は国により要件や内容が異なるものの、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、コロンビアなどのほか、米国の一部の州などでも合法化されている。スペイン議会も18日、安楽死を合法化する法案を可決した。ニュージーランドも21年11月から合法化される見通しだ。

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