default
pixivは2020年3月30日付けでプライバシーポリシーを改定しました。詳細
この作品「第26局:ほたるの院生試験(前)」は「ヒカルの碁」「ヒカル」等のタグがつけられた作品です。
第26局:ほたるの院生試験(前)/トノカの小説

第26局:ほたるの院生試験(前)

7,966 文字(読了目安: 16分)

二ヶ月も空いてしまいました。
しかも予定の半分しか書けてないのに、余りに更新が遅れるからと緊急投下。駄目ですね、もうちょいスピード意識しないと……超難産でした。

取り敢えず(前)とか付けて誤魔化してます、すいません。

2019年3月9日 17:41
1
white
horizontal

「はぁっ……な、何か緊張してきた……。」

「ほたる、本当に大丈夫か? まだ何も始まってねーぞ? 俺も試験部屋までは一緒に行けないしな……。」

八月も終わりに差し掛かり、夏休みも後少しと言う頃合いだった。
ヒカルは隣でソワソワと落ち着かなさそうに座っているほたるに苦笑しながらそう返すと、自分もサッと辺りに視線を巡らせた。
……そこには何とも、懐かしい光景が広がっている。『日本棋院』。入り口で見たそう書かれた看板には、ヒカルは何度も見覚えがあった。
しかしそれを実際に見たのは何年振りだろうか。それは正しく、『向こう振り』と言う言葉が相応しい期間である。
ヒカルからして、此処は自分の家の次に長く過ごした場所、プロ棋士であったヒカルの仕事場とも言える思い出の場所だ。
……そんな場所に今、ヒカルはほたるの『付き添い』として、もう一度足を踏み入れている。何とも、不思議な感覚であった。

「ヒカル君、そこを何とかならないかな……。」

「いや、流石に何ともならないって。そもそも俺、試験官側からしたら完全に部外者だぜ?」

「それはそうなんだけど……はぁっ……。」

そう言って溜め息をつくほたるは、珍しく落ち着かない様子でソワソワと視線をさまよわせており、流石にヒカルも心配になったが、此処まで来たらもう成る様にしかならないだろう。

今日二人が此所に来ているのは、ほたるの院生試験があるからだ。
いや、何故部外者の筈のヒカルが『付き添い』の相手として此所に居るのかと言う疑問はヒカル自身にもあるのだが、今日はほたるの両親も正開も揃って都合が悪い日だったらしく、ならばヒカルに行って欲しいと、周りから直接頼まれてしまったのだ。
まあヒカルとしても、普段からほたるには世話になっている自覚があるので、そのくらいは構わないと二つ返事で承諾したのだが……。

「でもやっぱり、雅さんに来て貰った方が良かったんじゃないか? 結局、予定も聞かないままだったし……雅さん、凹まない?」

「えっ……? あー、うん、それはまぁ……お姉ちゃんにも、色々あるみたいだから……。」

「……なるほど。色々あるなら仕方ないか。」

「うん、ごめんね。無理言っちゃって。」

(……『色々』ね。まあ俺にだってあるしな、『色々』。)

『色々』と言う言葉に、自分の複雑過ぎる事情が頭を過り、ヒカルは自嘲する様に苦笑した。
ほたるの申し訳なさそうな表情と、雅が今日来れなかった理由には……ヒカルも、少しだけ思い当たる節がないでもない。
しかしそれは、かなり微妙な問題なのだとヒカルも雰囲気で察して居る。

(……まぁ、突っつかれたくはないよな。誰でも……。)

「いや、俺は別に気にしてないよ。丁度良い気分転換になるし。たまには俺もほたるの役に立っとかないとな。俺だけじゃなくて、あかりの宿題まで見てもらっちまった訳だし。」

「あははっ、それこそ気にしなくて良いよ。いつもお世話になってるのは私の方なんだし、あかりさんのお陰で棋譜も三枚揃ったんだから。……それにあかりさんと仲良くなれたの、私も嬉しかったから。」

「ふーん、まあそう言ってくれるとこっちも助かるけど。」

数日前、三枚目の棋譜に迷っていた最中。あかりと言う半ば忘れかけていた心当たりを思い出したヒカルは、ほたるを進藤家に呼んであかりと打たせようとしたのだが、その際にヒカルに頼る為にあかりが持ち込んだ夏休みの宿題をほたるに教えて貰ったと言う出来事があったのである。
ヒカルの知識は海王受験で止まっているので、海王と言えど英語やら何やらは苦手なのだ。中国語と韓国語なら小学生の時に覚えたのだが……。

「でもほたるも、あかりに対しては珍しく積極的だったよな……学校でも最初はいつも人をガンガン避けて逃げようとするのに。」

「も、もうっ、私だって成長してるんだよ? 初対面でも同姓なら……同い年で、趣味とか合えば……そこにヒカル君とかお姉ちゃんが居れば尚良し……だよ?」

「それ、本当に院生でやってけんのかよ……。」

「が、がんばるから大丈夫だよ! ……私も、いつまでもお姉ちゃんやヒカル君の後ろで隠れてちゃいけないし。」

「……そっか。そういう事なら、頑張れよ。」

「う、うんっ。」

ヒカルのその言葉に、ほたるは少し頬を染めながらも、確かに頷いた。
それは人によっては『成長』と言うには未だ結果が伴っていない気持ちの変化でしかないのかも知れない。
しかしながら、ヒカルから見てほたるは確かに『成長』していると感じる。その気持ちの変化は、ほたるが前に進むために必要な、大きな一歩だ。こうして自ら外の世界に出ようとして居る事が何よりの証明である。
たった一つの選択や出来事、心の持ち方で世界の全てが変わってしまう事を、ヒカルは既に知っている。
そしてだからこそ、ほたるの家族も今回のほたるの決意を何も言わずに見守って居るのだろう。

(雅さんも俺の前であれだけ反対した割には、ほたるが自分で言ったら何も言わなくなったし。……ああいう所があるから、ほたるもお姉ちゃんっ子なんだろうな。)

雅はああ見えて、とても観察力が鋭い女性だとヒカルは思っている。最初に打った際の事もそうだが、特に妹に対してなら尚更なのだろう。
普段の態度からしてちゃらんぽらんに見えはするが、雅は何だかんだで見てる部分は見ている。

(……まあ、雅さんの件に関しては、そんな雅さんに対してだからこそ、周りも何も言わないんだろうけど。)

「…………。」

確かにヒカルだけではなく、人には『色々』あるのだろう。しかし、それに無闇に首を突っ込む程、今のヒカルは向こう見ずではないし、子供でもない。
ヒカルはそんな風に一歩引いて考えながら、今まで通り自分の内心を言葉にする事なく飲み込んだ。
……しかし、そんなヒカルの表情を覗き込むように、ほたるの瞳が見つめていた。

「………前から思ってたけど、ヒカル君って、本当に大人だよね。」

「そうか? 前もそんな事を言ってた気がするけど。まあ、そう見えるってのは別に否定する様な事じゃないし、良いけどさ。」

「……うーん……、大人に見えるって言うか、子供に見えないって言うか、達観し過ぎてるって言うか……じーっ……。」

「……な、なんだよ。」

「…………なんでもない。」

「えぇ……。」

見られるだけ見られて顔を背けられたのでは、ヒカルも反応に困って微妙な顔をするしかなかった。
まあ、ヒカルにその女心の微妙な機微が分かるようなら、前の世界でヒカルの幼馴染が苦労する事もなかったのだろうが。何だかんだでこういう所は、全く進歩が見えないヒカルである。
……とは言え、女心はさっぱりでも、ほたるが何かを言いたそうに自分の方を見ている事を察するくらいには、ヒカルも成長していた。

「どうかしたのか? まだ緊張してる?」

「……う、うん。緊張はしてるんだけど……あの……あのね?」

「ん?」

「その……ヒカル君って、碁を辞めたいとか、打ちたくないとか、そういう風に思った事……ある?」

「…………。」

それは、唐突な質問にも思えたが、しかし同時に、ヒカルは話の流れから府に落ちていた。ほたるが今、『誰』の話をしているのか。
ヒカルはその言葉に、暫し物思いに耽った。

(………碁を辞めたい、か。)

「あ、ご、ごめんね。いきなりこんな話をしちゃって……気にしな。」

「ないな。でも、辞めてた事はある。」

「………えっ?」

ヒカルはほたるを遮り、アッサリと、苦笑混じりにそう言った。
懐かしい記憶だ。あれはまだプロになって早々だった。随分前だけれど、今でもあの期間の事は良く覚えている。……とても印象的な時間だった。

「たった数ヶ月の筈なのに……長かったな。ずっと碁石に触ってなかったし、意識的に碁を避けてた。あの時は、もう二度と打たないつもりだったよ。」

「ひ、ヒカル君が? 二度と?」

「ああ。おかしいか?」

「……うん。だって辞めたいとか、打ちたくないって思った事、ないんでしょ? それなのに、もう二度と打たないなんて……。」

「まあな。」

「…………。」

ほたるの言葉に、ヒカルはあの頃の自分の言葉を思い出していた。『碁を辞める』、『打ちたくない』そんな事ばかりを言っていた気がする。
その自分が『辞めたいと思った事はない』なんて、此所に伊角や塔矢が居たらどんな顔をされたものやら……しかしきっと、誰も責めはしまい。

「確かにあの時は、もう打たない、碁はもう辞めるって、そんな風に考えてたし、何度も言ってたと思うけど。」

「……それって、辞めたいって事なんじゃないの? 打つのが辛いって事じゃないの? 辞めたくないのに、もう辞めるなんて言わないんじゃ……。」

「……そうだな……。」

「…………。」

そう言ったきり答えないヒカルに対し、ほたるは真剣な表情で、ヒカルが続きを話すのを待った。

あの時ヒカルが打たなくなったのは、決して打つのが辛くなったからではない。
心の何処かで、打たなければ佐為が戻って来るのではないかと言う根拠のない希望があった。
佐為の才能を理解し、打つのが自分では意味がないと言う自分への失望があった。
そして、あれだけ打ちたがっていた佐為に、あまり打たせてやれなかったと言う自責の念があった。

だから打つ事が、とても罪深い事の様に思えてしまったのかも知れない。
あの時の想いは、今のヒカルにだって、上手く言葉に表す事が出来ない。それがきっと、人の心というものなのだ。

「俺にも、色々あったんだよ。もう辞めるって言っちゃうような事がさ。」

「……色々……?」

「ああ、色々。単純に言えないってのもあるけど、あの時の事は俺も上手く言葉に出来ないんだ。自分の心の事だけど、俺にだってちゃんと分かってないのかも知れないな。……俺が分かってるのは、俺は本当に碁が好きで、辞めたい、打ちたくないなんて、本気で思える筈ないって事だ。逃げたいって思う事と、辞めたいって思う事は、似てるけど、やっぱり違う。」

もし本気で辞めたいと思って居たのなら、あの時間の中で感じた空虚は一体何だったのか。伊角との一局で感じた鼓動の高鳴りは、塔矢の元へ駆けた時の、あの充実感は何だったのか。
そんな風に過去を回想するヒカルの隣で、ほたるは壁に背を預けながら体の力を抜いた。ふぅ、と溜息が漏れ、僅かに微笑む。

「やっぱり、ヒカル君は凄いね。」

「ん?」

「……私もね、今まで日舞を一生懸命やって来たつもりだけど。好きとか嫌いとか、辞めるとか辞めないとか、そもそも自分でも良く分からないの。」

そう言ったほたるの表情は、ヒカルの目には何処と無く寂しげに映った。
ヒカルはそのままほたるに視線を向け、耳を傾ける。

「小さい頃から舞って来て、それが当たり前だったけど……何で舞い続けて来たのか、今も続けているのかって考えると、良く分からなくなっちゃって。」

「……何で、か。」

「うん……ヒカル君なら分かると思うけど、日舞の世界も凄く厳しい世界なの。私も色んな理由で辞めていく人を見て来た。それはお金とか環境とか、辞める理由は人それぞれだったけど……どんな気持ちで辞めるって言ったのか、本当に本心だったのか、ずっとそう思い続けて来たのか……。そんな事を考えた事も、気にした事もなかった。」

「凄い話だな。ほたるだって中学生には思えないぜ?」

「私は家を継ぐ人間だから、そうならなくちゃ行けない……って、言うのもあるけど……その……。」

「……そっか。」

(……難しいもんだよな、こういうのは。ほたるの性格的に、気にしてない筈がないとは思ってたけど。)

ヒカルも何となく、分かっては居たのだ。今回の話も、ほたるが誰の話をしているのかを考えれば、この歯切れの悪さも察しが付く。そもそもヒカルに取って、『見ず知らずの相手』であれば、こんな遠回しになる必要もないのだから。
ヒカルがそんな事を考えながら黙っていると、ほたるはハッとした表情になり、直ぐに取り繕った。

「あ、えっと……ご、ゴメンねっ? 意味分からないよね、いきなりこんな話……気にしないで?」

「そうだな。……まあ俺も、日舞の事は、良く分からないけどさ。」

「……えっ?」

そんなほたるに、ヒカルは気にした様子もなく、思い出すように呟いた。自分から、ほたるの家の色々に口を出すつもりはなかったけれど、それは何となく、他人事じゃないような気がしたからか。

「自分の事はまだともかくとして、他人の事は、理解しようとして出来るもんじゃない。その人がどんな思いをして、今どんな気持ちで居るのか、究極の所、本人以外には分からない。少なくとも俺は、自分の事を話したからって理解して貰えるなんて思ってないし、他人に理解出来るなんて思って欲しくない。俺にとって、『あの時間』はそう言うものだった。」

「……ヒカル君の……色々。」

「ああ。あの苦しみも、悩みも、誰にも理解できやしない。話す話さない以前に、話したからって何にもならないって今でも思ってる。もし話す事があるとして、それは『必要だから』とか、『理解出来るから』では決してない。……ただ、そう言う気分になったら、話すやつには話すかもってだけだ。」

「…………。」

少し厳しい言い方なのは、ヒカルも自覚していた。
理解したいと言う気持ちが、おこがましいなんて言うつもりはない。その優しさはほたるの魅力だし、きっと大切なものだ。生きていく上でも、勝負師や芸術家としても……。それはほたるにも、ちゃんと分かっている筈だ。
そして、そんなほたるにだからこそ、ヒカルは続けた。

「……俺には、ライバルだって思ってる奴がいるんだ。今でも、間違いなく、あいつもそう思ってる筈さ。」

「ライバル……ヒカル君に?」

「ああ……。」

そう話しながら、あの日の事を思い出す。あれはそう、若獅子戦を休んだ辺りだったか。塔矢の奴が、学校の図書館にまで乗り込んで来たのだ。あの時は、本当に驚いたのを覚えている。

「あいつ、打つのを辞めた俺にいきなり会いに来て、何があったのか聞いて来てさ……。俺はそいつにもう打たない、碁は辞めるって言ったんだ。……その時、そいつがなんて言ったと思う?」

「え……えっと、何で相談してくれないのか、とか?」

「ははははっ!! あいつが? そんな事言わねーよ、あいつは。あいつは……塔矢は……辞めるだとっ、ふざけるなっ! って大声で叫んで、真っ直ぐに睨み付けて来たんだ、こっちの気も知らないでさ。挙げ句の果てには、僕と打つ為に……っと、僕と打つ為に碁を続けて来たんじゃないのか! みたいな事まで言い出してさ……本当に勝手な奴だよ、あいつは。」

「僕と打つ為に……か、凄いね……その人。」

「……ああ、凄いぜ、あいつは。」

『僕と打つ為にプロになったんじゃないのか!』なんて、普通は言えない。でも、完全にその通りだった。あの言葉は……本当に刺さった。

「それからあいつは現れなくなったけど、ずっと俺を待ってた。俺がそのまま辞める筈がないってな。……それに、あいつだけじゃない。立ち直る切っ掛けになった人も、俺に対して本気でぶつかって来ただけだ。一度で良いから、自分のこれからの為に打ってくれって、本気で頼んで来ただけだ。俺が打たない理由なんか、そっちのけでさ……あの時の眼は、本当に本気の眼をしてた。だから俺は打ったんだ。だから俺が本当に囲碁が好きなんだって、気付けたんだ。」

「…………。」

「他の皆も、俺の事を深くは詮索しなかった。大事な対局をいくつもすっぽかした俺を、何も言わずに受け入れてくれた。心配はされてたと思うけど……俺はそれが、凄く嬉しかった。」

森下先生や研究会の皆も、碁会所の皆も、院生の皆も、塔矢も、伊角さんも、和谷も、家族やあかりも……何故休んでいたかなんて深くは詮索しなかった。
ただ喜んでくれて、闘志をぶつけて来てくれて……。
ヒカルがほたるの方を見ると、ほたるは息を呑んで聞いていた。ヒカルがどれだけ真剣に話しているのか、ちゃんと汲み取れるだけの努力と経験を、ほたるはして来ている。

「皆本気でやってるんだ。だから理解なんかより先に、全力でぶつかれば良いんだ。相手もそうだと思うなら、自分も本気になってぶつかれば良い……今、ほたるがしてるみたいにさ。」

「っ……!」

「院生になって、何を理解出来るかって言われたら、多分理解なんか出来ないよ。他人の人生だからな。でも、ほたるのしてる事は無駄じゃないと思うし……そんな事を考えてる暇があるなら、今自分のやるべき事を考えた方が良いぜ。院生試験は、誰にでもクリア出来るものじゃない。プロの卵になる訳だからな。」

「……うん、そうだね。プロになる人達の、試験なんだ。あそこでプロ試験を受けてる院生は、皆通ってる道……お姉ちゃんだけじゃない……。」

「そう言う事だな……っと。」

(そろそろ時間か……。)

二人で話をしているうちに、そろそろ試験と言う時間になった。
その内にガチャリと事務室の扉を開けて、見覚えのある顔が出て来る。それは、ヒカルに取っては懐かしい顔だ。最後の記憶にあるものよりも、少し若々しい。
彼、篠田院生師範は、真っ直ぐにこちらに向かって来ると、いつも通りの優しい笑顔を向けて会釈した。

「初めまして、こんにちは。お待たせ致しました。私が院生試験の試験官を担当させて頂いている、篠田と申します。えー、貴女が、試験を受ける藤原ほたるさんですね? そちらは、えっと……。」

「こんにちは、俺は付き添いです。気にしないで下さい。」

「ふ、藤原ほたるです! 今日は宜しくお願い致します!」

「は、はあ、宜しくお願い致します。付き添いですか……親御さんか、お姉さんが来るものと思って居ましたが……。」

「あははっ、どちらも予定があるみたいで……。」

その篠田師範の顔を見て、ヒカルは懐かしさを覚えながらも、少し胸が傷んだ。まあ、覚えている筈がないのだから仕方ないのだが。
……さて、時間もプロ試験の邪魔にならない様に調整しているのだろうし、無駄に時間を取らせるのも悪いだろう。

「それじゃあ、俺はこの辺りで待たせて貰いますので……ほたる、頑張れよ!」

「うんっ。私も、全力でやってみるから!」

「ふふっ。それじゃあ、大体二時間くらい掛かるから、それまで待っててくれるかな? 今あっちで大事な試験をしてるから、騒がないようにね?」

「あ、あはは……はい、分かりました。」

「それじゃあ、行こうか。試験部屋はあそこになるから。」

「は、はいっ!」

そう言うと、気合いが入って緊張が抑えられた様に見えるほたるを連れて、篠田は見覚えのある試験部屋へと入って行った。
ヒカルはそれを、微妙な顔をして見送る。まあ確かに、子供を一人でプロ試験会場に置いておくのは不安だよなあ……と分かりはするのだが、微妙な気分になるのは仕方ないだろうと、ヒカルは見送りながら嘆息した。

「……ま、雑誌でも読んで、大人しくしてますか。」

懐かしい篠田の子供扱いに、内心で色んな感情を覚えつつも、ヒカルは一人ロビーの雑誌を手に取って、ソファーに腰掛けるのだった。

コメント

  • 木崎

    ひとつだけ気になるのですが、ヒカルが佐為の不在で囲碁を辞めていた期間は2〜3ヶ月ほどだと思います。5/5〜その年のプロ試験の直前までですよね?プロ試験は予選が夏開始なので。

    2019年10月18日
  • 木崎

    はじめまして。ヒカ碁再熱中のものです。逆行ものはチート化して悩みも成長もなくなると苦手だったのですが、こちらの作品はヒカルは強いけど迷い、そしてほたるちゃんがヒカルの影響で成長していく姿が生き生きと人間らしく描かれていて、とても素敵だと思いました。続きを見て楽しみにしています。

    2019年10月18日
  • MONSTER
    2019年7月8日
センシティブな内容が含まれている可能性のある作品は一覧に表示されません
人気のイラストタグ
人気の小説タグ