幽霊電車(6期鬼太郎)

登録日:2018/5/20 (日曜日) 00:53:50
更新日:2021/02/07 Sun 11:05:37
所要時間:約 8 分で読めます








「父さん、あの社長さんは、この電車の行き先に気づいてないみたいですね……」



「幽霊電車」とは、2018年4月から放送中のアニメ「ゲゲゲの鬼太郎」の第7話である。

「幽霊電車」は原作でも非常に有名であり、1期の同一世界観である2期を除いて全てのシリーズでアニメ化されている珠玉の人気エピソードである。

このエピソードは、1期はコミカルさを交えつつ原作を程よくアレンジし、3期はほんのりホラーながらも比較的明るくコメディな作風、
4期ホラーテイストにガッツリ全振り5期人間の罪を暴く衝撃的な展開、そして『墓場』でプロトタイプ版アニメ化と、
メディアミックスごとに各世代の特色が色濃く反映されている。

そしてこの6期のエピソードは、「いじめ」や「パワハラ」といった現代社会の問題に深く切り込み、そして人間側にとって一切の救いのない内容が特徴である。

放送日:2018/5/13
脚本:吉野弘幸
演出(絵コンテ):地岡公俊


【あらすじ】



『でも、今日も面白かったねー』

『あいつまだクツ探しているのかな?』

『ゴミ箱漁ってるの面白かったよね~』

『それでも見つかんなくて、泣いてたの。チョーウケた!』

『じゃーさー、明日は何してあいつで遊ぼっか?』

とある駅の13番ホーム。
そこではギターを担いだ電車を待つ女子高生が、どす黒いオーラを身に纏いながら、同級生をどういじめるか携帯で友人たちと楽し気に相談していた。

すると、警笛が鳴ると同時にとある男に不意にぶつかられてしまう。
あわや線路に落ちそうになった女子高生はその男に怒鳴るが、酔っ払っているのかおぼつかない足取りで人の波をかき分け去っていく。

「謝んないとか信じらんない! ネットにさらしてやる!!」
そういって彼女はスマホを取り出すが、その男はふらつきながらやがて線路に引き寄せられるように近づいていき、そして……。









ドォン!



響き渡る悲鳴。ざわつく構内。
突然の人身事故に駅が騒然とする中、女子高生は自分が撮影した「何か」を見ながら恐怖に震えていた……。
「何……? 何なのよ……!?」






「妖怪だ? 幽霊だ? そんなもの信じるなんて、バカな人間の証拠だな!」


所変わって、東京のとある路地裏の屋台。
そこではとある中小企業の「社長」が、眼鏡をかけた「部下」を引き連れて飲んだくれていた。
先日退社した社員の会話を引き合いに、社長は妖怪や幽霊の存在を全否定する。すると、

「お言葉ですけどねぇ? 目に見えないものでも、いるものはいますよ?」

いつの間にか背後にいた鬼太郎とねずみ男に声をかけられた。
さらに追い打ちのようにねずみ男の発した「こんな奴に関わってもロクなことにならない」と言うセリフがプライドに触り、自らの立場を鼻にかけ鬼太郎たちを「貧乏人」「ゴミ屑」と罵るが…


「あんたは本当に哀れな奴だ。」


呆れた鬼太郎の返した言葉に逆上し、鬼太郎を蹴り飛ばしてしまう。

「よくお似合いだぜ! このゴミが!!」

ゴミ置き場に吹き飛ばされゴミまみれになる鬼太郎を嘲笑う社長に、鬼太郎が冷たい声で言い放つ。


「因果応報という言葉を知っているか?」
「覚えておくといい。自分がしてきたことは、やがて必ず自分に返る……」

鬼太郎の放つ異様な雰囲気、そして恐ろしく冷たい目線に怯みながら、社長は部下を連れてその場を後にした。

そして駅についた社長は終電を逃したことを愚痴っていた。

「あ~あ~あ~。変なのに絡まれたせいで、終電逃しちまったじゃねえか」

「いえ。まだ大丈夫みたいですよ?」

そう言って部下が指を指したのは0:42 多魔霊園行きと表示されていた電光掲示板だった。


部下は通りかかった片目の駅員にこの電車が今日だけの最終電車だと確認し、怪訝に思う社長を連れてホームに向かった。

赤電話や袋式のゴミ箱が目立つやたら古めかしいホームに辿り着くと、そこには全く物音を立てない異様な雰囲気の客たちがひしめいていた。
やがて辿り着く、2両編成の赤い木造の電車が、火葬場のような音を響かせながら扉を開いて2人を誘う。
この世のものとは思えない状況に慄く社長だが、やがて落ち着きを取り戻し電車に乗った。

この後、想像を絶する恐怖を味わうことになるとも知らずに……。

「出発しんこーう」

【登場人物】


ご存知我らが主人公にして今回のトラウマメーカー
人間と距離を置く今作では珍しく、今回は自分から社長に関わっていった。
社長のことはどうやら知っていたようで、ある目的をもって彼に近づいたようだが……。


ご存知鬼太郎の父親。
鬼太郎が社長に蹴り飛ばされた際、その社長の態度を見て「噂には聞いていたが本当に醜い人間だ」と呟く。
今回の出番はこれだけ。


「おいやめようぜ鬼太郎。こんな奴に関わったってロクなことがねえ!」
自称鬼太郎の大親友。そもそも一番最初(貸本版)はこいつに鬼太郎がやり返すための幽霊電車だった
人間に関わろうとする鬼太郎を上述のセリフでたしなめるが、相手が社長だと分かった瞬間手のひらを返し酒を集ろうとして怒鳴り散らされる。
鬼太郎が吹っ飛ばされた時は慌てて心配するなど、なんやかんやで仲の良い様子が見受けられる。


「すみません……」
社長たちが乗りこんだ臨時電車の席に乗っていた。
不気味な念仏をスマホの着メロにするという趣味の悪い一面があり、マナーモードにしなかったせいでそれを流してしまうが……。
既にバレバレだが正体は猫娘。目元は暗く隠れていたが、4話以来3週間ぶりの登場となりファンを歓喜させた。


  • 社長
「バーカ! 人間はな、自分で稼いで自分で食うんだ! それが出来ないお前らみたいな落後者は、生きてる意味がねぇんだ!!」
CV:手塚秀彰
とある30人からなる中小企業の社長。
社会人としての意識は高く、仕事と酒が絡まない分には普通のおっさんなのだがとにかく口が悪く尊大で、部下に対しても非常に高圧的に接する典型的なパワハラ社長
部下との会話から非常に厳しいノルマを社員に強いてるらしい。
一方で定期が一週間切れていることに気が付かないドジな一面も。
妖怪や幽霊の存在を一切信じていないが、世にも不思議な電車に部下と共に乗る羽目になり……。
別の世界でもパワハラ上司だった。


  • 部下
「社長いつも言ってるじゃないですか。即断即決が勝利の鍵って!」
CV:沼田祐介
眼鏡をかけた「眼鏡出っ歯顔」(水木作品の常連キャラ)の社員*1
気弱だが礼儀正しく、社長にボコられた鬼太郎たちに頭を下げて代わりに謝るなどよくできた人間。
社長曰く仕事が遅いらしく、二週間近く家に戻れていないらしいが、電光掲示板から臨時電車の存在にいち早く気が付いたり、定期が切れた社長の分の切符を先に買っておくなどとても気が回る。
本作のトラウマメーカーその2
演じた沼田氏は4期で谷本淳を演じていた。

  • 国重
CV:千葉俊哉
社長の会社の社員で、部下の先輩にあたる。
何らかの理由で入院し退院するも、川に飛び込んで自殺したとのことだが、電車の中で社長の前に現れ目を離した隙に姿を消す。

  • 塩田、杉本、柴崎
CV:祖山桃子(柴崎)
社長の会社の元社員たち。塩田と杉本は男性で柴崎は女性。
塩田と杉本は屋台での社長と部下の会話にて名前が出ている。
電気が消えた電車の中で社長の前に現れ、電気が復旧すると姿を消す。

  • 女子高生
CV:古城門志帆
冒頭に登場した女子高生。可愛い見た目に反し、同級生と共に遊び半分で卑劣ないじめを行うような下衆な性格。
前述の通り、突然とある男にぶつけられ報復にその姿をネットに晒そうとするが、
その男がホームから転落死した際に写った「何か」に恐怖し、後述するように鬼太郎に相談するのだが・・・。
演じた古城門氏は裕太役を演じてる人。


↓以下、本編のネタバレを含みます。





電車で談笑を続ける社長と部下。
すると、駅員が車内検札に訪れる。
このご時世に検札がある事を訝りながらも定期を提示する社長だが、どういうわけか1週間前に定期は切れていた。
気を利かせて切符を二枚買っていた部下のおかげで事なきを得たが、そこに表示されていた値段は六文
目をこすって切符を見直すと、表記は260円に戻っていた。すると、

「次は~火葬場~、火葬場~」
駅員が告げたのは、聞いたこともない駅名だった。
部下に間違いではないか確認させた社長は、窓の景色を見る。そこは……。

「川? いつもはこんな川……」
見覚えのない川が広がっていた。
河原には賽が積まれていて、社長からは見えないが白骨が船で渡っている
まるで三途の川のような……。

すると、窓の外に突然黒い影が横切った。

「お、おい! 今……!?」
驚いた社長は部下に声をかけようとするが、車両にいた大勢の人々がいつの間にか忽然と姿を消していた。

驚愕する社長の目の前に、先ほどの黒い影が老婆の姿となって社長に襲い掛かってきた!
慌てて後退りする社長だが、地面から生えてきた謎の白い手に動きを封じられ、為す術なく老婆の餌食に……!!

「ぎゃああああああああああああああああああああ!!」






「社長、起きてください」
「大丈夫ですか? 倒れてましたよ?」


部下の声を聞き目を覚ます社長。
気が付くとそこは先ほどと全く同じ、陰気ながらも人が大勢いる電車の中だった。

「何だったんだあれは……」
「夢? いやそれにしては……」

足首に不気味な手形の青あざが残っていたが、気に留めず席に着く社長。
そんな社長の状態を心配する部下。

「大丈夫ですか? 明日も痛むようでしたら、病院、いった方がいいかもしれませんね?」
「いいとこ知ってますよ! 国重先輩が入院していたとこ」
「国重? ああいたなそんな奴。でも最近見掛けてないぞ?」
「そりゃあそうでしょう。」
「先輩、退院してすぐ、川に飛び込んで、自殺しちゃいましたから」

部下が告げたのは、国重が心を病んで自殺したという事実だった。
しかし社長は、部下の死を「能力がないから悩んだ挙句死んでいった生まれついての負け組」と一言で切って捨てる。

「そう……ですか……」

そう発した部下の表情は、先ほどまで持っていた温和で優しいものとは完全に異なるものだった。

「おい、なんだその目は……!」
その反抗的な表情の部下を社長がたしなめようとしたその時、電車内の蛍光灯が消える。
そして……。


「社長……!!」

ずぶぬれになった国重が、いつの間にか社長たちの向かいに座っていた。
「なんだよ生きてるじゃないか! お前つまらない嘘つきやがって。見ろよ。国重が……。」

笑いながら部下に問いかけるが、社長が少し目を離した瞬間、国重の姿は消えていた。
しかし、その席は水で濡れており、確かにそこに国重は存在したのだ。
入水自殺した国重が。

そして、社長の目の前には次々と……。

「塩……田? 杉本……? 柴……崎……?」
そこに現れたのは、首にロープが巻きついたような跡がついた首を曲げた塩田、生気を失ったようにうなだれる杉本、何かに轢かれたように体を不自然に捻じ曲げた柴崎、全て姿を消した会社の社員たちだった。

そして、電車の電気が付くと同時に、彼らの姿は霧のように消えていた。

「どうしました? 幽霊でも見たような顔をしてますよ?」
「そ、そんなことはない……。第一、幽霊なんていねぇしな」
「そうですよねぇ!!」

(そうだ……幽霊なんているわけない……俺は、取り付かれるような真似なんて……)

そうやって必死に自分に言い聞かせるが、社長の脳裏にとある記憶が蘇る。

塩田のことを、「指示待ち人間」と罵り殴りつけたこと。
何度も謝罪する柴崎の頭を押さえつけ「使えなくて前の職場を辞めさせられたお前の居場所はここしかない」と怒鳴りつけたことを。
「愛の鞭」と謳いながら「眼鏡をかけた」部下を突き飛ばし蹴り付けたことを……。


「大丈夫だ……。俺は間違ってない。会社ってのはそういうもんだ」
「そう、だからそう。あれだって……」
「俺のせいじゃない……!!」

そういって脳裏に蘇るのは……。
ビルの前に倒れ伏す人間を前に戦慄する社長。そして、血溜まりに転がるひび割れた眼鏡……。


社長は気が付いてしまった。

「あれは……あそこで飛び降りて、死んでたのは……!!」


「ああ……やっと……」











「思い出してくれましたかぁ……!!」


社長の目の前にいたのは頭から血を流し、目を見開き、眼鏡はひび割れ、ありえない方向に腕を捻じ曲げた、この世ならざるものに変わり果てた部下の姿だった。

そして、驚愕する社長の背後に、国重を始めとした、自ら命を絶ったかつての社員たちが白骨と化して襲い掛かってきた!

恐怖に駆られた社長は慌てて逃げだし、乗務員室に駆け込んだ。


「開けてくれ! 開けろ!!開けてくれ!!

「どうしましたぁ?」
「ば、バケモンが!」
「化け物ですかぁ~? 化け物っていうのは、」
「こういう者たちのことですかぁ~?」


車掌がそう言うや否や、乗務員室から大量の妖怪が押し寄せてきた!!
社長は悲鳴を上げて逃げだすが、すでに後ろから白骨が迫り挟み撃ちにされてしまう。


「お、降りるんだ! こんな電車、無理やりにでも降りてやる!!」
社長は悲鳴を上げながら、意を決して窓から飛び降りる……!


「わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」














社長が辿り着いたのは、先ほど飛び降りたはずの電車の中だった。

「何だよこれ……! なんなんだよ!」
信じられない状況に驚愕する社長。そこに現れたのは……。


「この電車からは出られませんよ?」
「お前は……! これは一体何なんだ!何が起こっている!?」

「これは、地獄行きの電車です」

すがるように事態を問い詰める社長に、正体を現した鬼太郎が淡々と告げる。

「地獄!?」
「あなたは生きていた時に、様々な人の恨みを買い、いじめて死に追いやった。 その報いを受けるんです」
「『生きていた……』だと?」
「ええ」
「何言ってやがる! 俺はこうしてピンピン生きているぞ!! 足だってちゃんとある! 幽霊なんかじゃ……!」

自分が死んでるかのように話す鬼太郎に「幽霊なんかじゃない」と反論しようとする社長。
しかし、電車の窓に映ったのは、国重たちと同じ白骨化した自分の姿だった。

「ほらね」
「あなたはもう死んでいるんです。電車にはねられてね」
「ただ、それを頑なに否定していただけで……」


鬼太郎の指摘に、社長の記憶が再び蘇った。
冒頭のシーン、そう、女子高生にぶつかった後、吸い込まれるように線路に飛び上がり、電車にはねられ死んでいたことを。

「嘘だ……! あれは……!」

「事実です。一週間前のことです。」
「でも、一瞬の事で、あなた自身に死の自覚がなかったせいか、本当なら、すぐにでもこの電車に乗るはずだったあなたは……」
「幽霊として迷い出て、毎晩何かと理由をつけて終電を逃し、あの世に行くことが出来なかったんです」

「だから、あの世であなたを待っている、あなたを恨んでいる人たちが、痺れを切らしてあなたを迎えに来たんです」
「『早くあの世に来い』『地獄に落ちろ』と」


「逃げちゃだめですよ…?」 「行きましょう…!」

自らの死をようやく自覚し、恐怖に震えながらみるみる霊体へと変化していく社長を、
部下を始めとする死霊たちが群がり組み伏せた。



「骨壺~。骨壺~」
「次の停車駅は終点、地獄~」


電車はとうとう骨壺駅に辿り着き、
そこにはあの不気味な着メロを流していた少女が終点の駅名を伝えていた。
刻一刻と迫る破滅の時を前に社長はもう限界だった。

「い、嫌だ! 地獄になんて行きたくない!! 助けてくれ!!」
「あなたはそういった人たちを、助けたことがありましたか?」
「頼む! おい!! お前それでも人間か!!?」



「……ぼくは人間じゃありません……」


ゴミを見るような目で社長を見つめながら電車を降りる鬼太郎。
発車を知らせる警笛が響き、無情にも電車の扉は閉じていく。
そして、絶望する社長と彼に群がる他の死霊たちを乗せながら、地獄へと向かって電車は走り去っていくのだった。



「い"や" だ あ"あ"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」





鬼太郎たちにできることは、その様子をただ静かに見届けることだけだった……。














「じゃあ、一週間前に私が見たのって……」
「ええ、多くの恨みにとらわれて、彼は命を落としたのです」
翌日、鬼太郎はとあるカフェで冒頭の女子高生と会っていた。
彼女があの時撮った写真、そこにはあの社長を線路に突き落とす無数の白い手が映っていた。

彼女はこの手の存在を怖がってあの駅に立ち入れず、困り果てて鬼太郎に相談していたのだ。
不安がる彼女に、鬼太郎はこの手は社長を突き落とすために出てきただけで、彼女が突き落とされる心配はなく、写真も消して問題ないと伝える。

その言葉に安堵した女子高生は、写真を消去するのだった。








「ええ。あなたにそうされるような心当たりがなければ」

写真を消し終えた直後、鬼太郎が呟いた言葉に、女子高生は息をのむ。
そう、彼女は気づいてしまったのだ。
自分が、この男と全く同じことをしていることに。
自分がいつこの男と同じ目に遭ってもおかしくないことに……。
その証拠に、彼女のスマホには……。



『きょうはどうする?』

『何して遊ぼっか?』
『あいつ、まだ頑張るのかな?』          
『いいかげんいなくなればいいのに』



「これは、人間が人間をいじめ殺し、その恨みがさらに人間を殺した。それだけのことなんです」
















「妖怪なんかより…よっぽど恐ろしい」



迫りくるであろう破滅の予感に恐怖する女子高生にそう告げた鬼太郎の表情は、あの社長に向けられたそれと全く同じ、冷たくも恐ろしいものであった…。

…そして、今宵もどこかでこの世のものではない汽笛の音が鳴り響く…。




冒頭でも述べた通り「パワハラ」や「ブラック企業」そして「いじめ」といった現代社会の闇を痛烈に取り扱ったエピソード。
傍若無人な行いを繰り返す人間を徹底的に追い詰める鬼太郎の姿と表情、そして物語後半でその本性を現した部下やラストの鬼太郎の表情は非常に恐ろしく、日曜の朝から視聴者に強烈なトラウマを植え付けた。
特に、「どうやっても幽霊電車から逃れられない」という設定は、原作や過去のアニメを見ていた人たちにとって非常に衝撃的だっただろう。


上司側も最初から亡くなっていたことはこれまでにない特徴で、鬼太郎達も最初から部下達に協力して屋台で飲む上司に接近したのかもしれない。
この前提で省みると、「あなたは哀れだ」という鬼太郎の言葉、電車内で上司から離れて鬼太郎達に話しに行った部下、切符を手際よく用意していた部下、など腑に落ちる描写が目立つ。
既に他界している眼鏡の部下に協力する形になるのは、どこか5期に近いが、5期では部下が自分の死を理解していなかった。

原作や歴代シリーズと比較した場合、通過した駅名に「臨終」だけが無いのは、二人ともとっくに死んでいた=臨終は過ぎていたからだろう。

また、逃げ惑う上司の前に現れる鬼太郎と妖怪の仲間達の描写は、さながら往年の怪談と『舌切り雀』で罰が当たった欲深い老婆を思い起こさせる。


尚、この社長がしてきたことに同情の余地は一切ないが、恐らく彼は社員たちを苦しめようとする意志は一切なかった。
あくまで会社のために本人なりに一生懸命だったのだが、結果的に彼が社員たちにしてきたことはパワハラと何も変わりなく、その人を人として扱わないような振る舞いをし続けた事で、彼らの恨みを買い命を落とす事になった。

更に社長は、最後の最後まで自分の罪を自覚すらしていなかったので、5期の吉永とは違って重い地獄行きになる可能性はかなり高いと思われる。

そして、冒頭の女子高生のいじめも完全に遊び感覚であり、鬼太郎に暗に指摘されるまで全く自覚していなかった
彼女のその後に関しては明かされていないが、このままではあの社長と同じような運命を辿ることは間違いないだろう。
更に、たとえ悔い改めたとしても、社会人になった時にあの社長みたいな上司や雇用主がいる所に就職してしまう可能性も十分有り得るのだ。


この項目を見ているあなたは、自分が人から恨まれていないと胸を張って言えるだろうか?
相手と接するとき、言葉や態度に1ミリの悪意が混ざっていないと言い切れるだろうか?

もし、少しでも心当たりがあるのなら、すぐにでも改めなければならない。
そうしなければ、次にこの電車に乗るのはあなた達なのかもしれないのだから。





【余談】


  • Aパートで社長に襲い掛かった老婆の正体は「奪衣婆(だつえば)」*2
    この妖怪は「三途の川のほとりに住み、死者の衣服を奪いその衣服の重さでその者の生前の罪の重さをはかる妖怪」とされている
    実際、この後社長は上着を失いずっとワイシャツ姿だった。

  • 奪衣婆は、例えばエジプト神話におけるアヌビス神と似たような役割を持つ存在であり、対象の魂のあの世での行き先を決める。
    過去には敵として出てきたこともあるものの、奪衣婆が協力しているという点でも、今回の事例は地獄側からの協力があったのかもしれないし、これまでのシリーズに見られたように、地獄側が鬼太郎達に協力を要請したのかもしれない。

  • 一見唐突にも見えかねない社長の死に関してだが、「臨時」が「臨終」になっている、「多霊園」や社長が電車に乗ったホームに表示されていた駅名、そして部下の行動一つ一つといった細かい所に伏線が張られている。
    一度視聴し終えた後もう一度見てみると、だいぶ印象が変わるのではないだろうか。
    ついでに言っておくと、社長が自分の死の瞬間を思い出したシーンでは、とても豪快に大ジャンプしてるように宙を待っていたが、ラストシーンを見れば部下たちから恨みを買い過ぎていたという事実の伏線だったのが分かる。

  • 自分が既に死人だと鬼太郎に告げられ、足があると反論した社長。
    確かに幽霊の特徴ではあるのだが、これは日本固有のもの。外国、特に欧米では足付きの幽霊の方が一般的だったりする。*3
    一説によると、欧米における幽霊は鏡に映すと骸骨に見えるとも。

  • 乗務員室から出てきた妖怪のうち、お歯黒べったりや小豆洗い、加牟波理入道(がんばり入道)といった一部の妖怪は5期のデザイン。また姥ヶ火は4期のデザイン
    5期で妖怪四十七士に選ばれたのに活躍の場に恵まれなかったわいらなどの登場はファンを喜ばせた。
    非常にホラー色が強い本作でこれらの妖怪を「かわいい」「癒された」と怖さを中和された毒された視聴者も多かったようである。

  • 一方、今回「骨壺」駅の駅員を担当した猫娘だったが、1期は砂かけ婆、3・4期は正体不明の老婆、5期はかわうそだった。つまり猫娘の年齢は……

  • 毎度おなじみ「サラリーマン山田」顔の部下は今回死んでいたことになっているが、「サラリーマン山田」顔のモブキャラはその後もいろんなところで登場しているのでご安心を。そもそも何回死んでも必ず生き返り、酷使されるのは原作から続くサラリーマン山田の宿命なので仕方ない。ちなみに、同じ「サラリーマン山田」顔である26話の渡辺さんや、40話の芸人ビンボーイサムなども今回の沼田氏が声を当てており、6期における「サラリーマン山田」声優としての地位を確立している模様。さらに余談だが、この二人も相当ろくな目に遭っていない上に、ビンボーイサムに至っては(自業自得とはいえ)恐らく死亡している。

  • 今回絵コンテを担当した地岡公俊氏は『墓場鬼太郎』のディレクターを務めていたこともある。
    そのため本作の演出は『墓場鬼太郎』に似通ったところも多く、身の毛もよだつホラー演出に一役買っている。

  • 今話が放送された日は母の日であったのだが、よりによってそんな日にこの恐怖エピソードが放送された。
    前話の「厄運のすねこすり」が母親に関する非常に感動的なエピソードだったため、「放送順を逆にした方がよかったんじゃないか」との声も。

  • 平均視聴率が5%前後と非常に好調な6期鬼太郎であるが、今話は6期最高の5.7%を記録した
    視聴層や商業展開の方法が異なるため一概には比べられないが、裏番組のニチアサキッズタイムの平均視聴率が2~3%である事を比較すると、
    朝のアニメ作品としてはかなり良い数字であることが分かるだろう。

  • この回の翌々週回でもある9話「河童の働き方改革」は一転してコミカルなギャグ回となっているが、内容はねずみ男と意気投合した男が立ち上げた会社で、キュウリを賃金代わりとして河童を働かせるというもので、ブラック企業や安い賃金で働かされる外国人労働者を思わせるなど社会風刺という面では共通している。

  • 40話「終極の譚歌 さら小僧」においても、人間の浅ましさと妖怪の恐ろしさが描写されており、完全に人間の味方ではない鬼太郎の姿と表情も描写されている。

  • 93話「まぼろしの汽車」も前述の各エピソードと互角以上にハードなシリアス回として制作されており、この世の物ではない乗り物を巡る物語という面では共通している。


追記・修正は幽霊電車に乗りながらお願いします。


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最終更新:2021年02月07日 11:05

*1 便宜上Wikipedia等では「サラリーマン山田」とも呼ばれているキャラクターデザイン。但し本作では原作デザインよりやや間延びした顔になっている。

*2 EDクレジットでは「脱衣婆」だが、こちらの表記がなじみがあるので以下このように表記

*3 日本の足なし幽霊も、丸山応挙の幽霊画や歌舞伎「四谷怪談」の演出などを通して江戸時代後半に確立したもの。それ以前は能の亡霊などのように足のあるものと捉えられていた

*4 ガクガクガク((o_o