緊急事態宣言、“解除前夜”に最前線の専門家がどうしても伝えたかった“ある”メッセージ

コロナとどう対峙する?
西浦 博 プロフィール

まだ遅くない、必要な「心に届くメッセージ」

政治や行政はどうすればいいのか。これまでに、西村担当大臣や尾身分科会長を代表として、様々な情報が発信されてきた。加えて、日々、新型コロナウイルス感染症の伝達事項はあふれかえっている。でも、残念ながらカギとなる情報が、多くの方にとって咀嚼される形、心に届くような形で伝達されていないのではないだろうか。

事態を改善させる1つの案としてリスクコミュニケーション(リスクについて政治、行政、専門家、市民などの間で情報交換を行うことで、相互の意思疎通を図ること)のプロたち多数で固めたチームを構築し、国民に具体的に理解してもらえる工夫や模索をしてもらえないものだろうか。主権者である国民にメッセージが届き、国民が国のあり方を決める本来あるべき姿になっていただきたい。

またコミュニケーションは様々な段階があり、「正しい情報の伝達」だけにしても、色々な方法があると思う。米国ではファウチ国立アレルギー感染症研究所長が歯に衣着せぬ言い回しでトランプ前大統領と不協和音を立てつつも、科学的に正しい情報の発信をすることに徹してこられた。

アンソニー・ファウチ所長〔PHOTO〕gettyimages

これが日本でできないのは残念でならない。政治との信頼関係の維持が科学者からの発信とパッケージになっており、そういう政権運営側のどうしようもない謀が過去の常識になる必要があるのだろう。
 
地域では良い例はある。ある都道府県の首長は、本人の政策判断の科学的な是非はともかくとして、記者会見の場では顔をひきつらせながらも質問がなくなるまで座って返答に応じる。すると、少なくとも、首長が頑張っている姿勢が地域住民に確実に届いているのである。全力で努力している姿に人の心が動かされている良い例である。

 

今こそコミュニケーションのプロチームを形成して激的な変化を考えられないか。政治家が直接大胆に発信することに加え、さまざまな方法があると思う。例えばもっと漫画やテレビドラマなどのメディアを活用し、堅苦しくなく、高齢者にもわかりやすい新型コロナウイルス感染症に関するストーリー仕立ての話を展開できないか。中国のテレビドラマ「在一起」は医療従事者の活躍と連帯を熱く描き、多くの若者が胸を熱くした。

メッセージが届きにくい層にはより一層SNSを活用して工夫して伝える方法もあるだろう。英語圏のTwitterでは個人による予防策の発信が全関連発信の半数を占める。(DOI:10.21203/rs.3.rs-195119/v1)

最も重要なところで、余りに動きが遅いように思うのは私だけだろうか。政治がうまく発信すれば国民も変わっていくと信じている。まだ遅くはない。

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