159 彼女
そうと決まれば、まずはエレミアやアスラと合流したい。
いろんな街に伝言を残すという手もあるが、エルフエレメンタリストに異端者認定されている身なので、目立つことはなるべく避けたい。
……こうなると、本気で追跡を撒いてしまったことが悔やまれなくもない。
(身勝手だな)
彼女たちの気持ちをはぐらかしつつ、戦力としては利用したいというのだから。
(だが、それも昨日までだ)
自分の気持ちははっきりした。
あとはそれを伝えるだけだ。
伝えた気持ちを彼女たちがどう受け止めるかは、俺が決められることじゃない。
その上で、これからの関係を話し合えばいい。
――メルヴィと別れた俺とリリアは、
エルフエレメンタリストについての情報収集が目的だが、ひょっとしたらエレミアやアスラと出くわすかもしれないと思っている。もしすれ違ったとしても、二人なら俺の痕跡に気づくだろう。
……いや、すべてが俺の自意識過剰で、二人は俺に愛想を尽かしてミスランディアで待っているという可能性もあるのだが。
俺はバルバロッサのメインストリートを一人で歩く。
リリアは食べ物を捕りに行くと言って、別行動をしている。人化の術にも制約があり、ずっと人間のままでいるわけにもいかないらしい。今は本来の火竜の姿に戻って、文字通り「羽を伸ばしている」ところだろう。
メインストリートを行き交う人々は……なんというか、緑色をしていた。
緑の布を、マントのように、あるいはフードのように身に着けた者。腕に巻いているだけの者。リボンやタイとして使っている者。方法はそれぞれだが、ほとんどの人が緑の布を身に着けている。
俺は屋台で食い物を物色しながら、屋台の店主から話を聞く。
ちなみに、俺は田舎から出てきたばかりだという設定だ。
「みんな緑の布をしてるけど、あれは何なんだ?」
店主に尋ねてみると、店主はそんなことも知らないのかという顔をして、
「ありゃ、エルフエレメンタリストの指導を受け入れるって証だよ。おまえも、悪いことは言わんからつけておけ。過激派に見つかったら面倒だぞ」
「過激派? そんなのがいるのか」
「大半のエルフエレメンタリストは穏健派だが、中には過激な思想を持った連中もいるんだ」
「それじゃ、エルフエレメンタリストと言っても一枚岩じゃないんだな。それに、みんな心からエルフエレメンタリストに従ってるってわけでもないのか」
「そらそうだ。あんな連中とまともに付き合ってたら生活できんだろう。魔法は秘蹟だから使うな、必要な時はエルフエレメンタリストの魔法使いに金を払え……だぜ? 他にも、鉄製品は原則禁止、酒を買うのにも高い税がかかる。木工品や皮革製品だけで暮らせとよ。森ん中に住むエルフじゃあるまいし、人間の都市でそんな生活ができるか!」
店主が言った。
「じゃあ、どうして言うことを聞いてるんだ? エルフエレメンタリストより人間の方が断然数は多いだろ?」
「たしかに、税は重いわ、魔法は禁止するわで批判もされるが、連中のお陰で治安はいいし、何より戦争が起こらねえ。生活への干渉はうざったいが、統治能力に関しちゃ文句がつけられねぇのさ」
「なるほどな」
理想を掲げる管理国家という意味では、前世のソ連に似ているか。
もっとも、ソ連が社会主義だったのに対し、エルフエレメンタリストが求めるのは精霊至上主義だ。イランのイスラム体制のような、宗教を核とした体制に近いのかもしれない。
そういう体制に共通の難点といえば、
「景気はどうだい?」
自由競争を否定することによる経済効率の低下だろう。
「景気か? あまり気にしたことはねぇが……おおむね安定してるんじゃねぇか?」
「税金が重いのにか?」
「税は重いが、その分、病気や年齢で動けない奴なんかに回してるって話だぜ? だから、みんなが最低限の金を持ってるんだ。そのおかげで経済が回ってるっつー話だったかな」
「へえ……」
エルフエレメンタリストは経済運営も得意らしい。
(全体主義っていうより、福祉国家かな?)
長命種族であるエルフだけに、社会の隅々まで目が行き届いているようだ。
「じゃあ、エルフエレメンタリストの評判はいいってことか」
俺の質問に、店主が首を傾げる。
「どうだろうな。あいつらは、精霊以外に興味がねぇだけだろ。だが、それがかえってうまくいってるんだ。あいつらが言うのは、『人間らしい自然な暮らしに立ち返れ』ってことだ。それ自体は、まぁ、正論だわな」
なんか……イメージと違うな。
火山でいきなり襲ってきた連中は、もっと狂信的な雰囲気を持っていた。
いや、あれは過激派だったのか。
「じゃあ、穏健派はまともってことでいいのか?」
「いんや、そうとも言い切れねぇな」
「なんだ、悪いのは過激派なんじゃなかったのか?」
「穏健派も、過激派も、もともと目的は同じだからよ。単に、そのための手段が穏健か過激かってだけだ。穏健派は争いを嫌うが、過激派と争うことも嫌ってる。だから過激派がめちゃくちゃなことをやっても、見て見ぬふりを貫くんだよ。その典型が異端狩りだ」
「異端?」
その言葉にぎくりとする。
店主はこちらの顔色には気づかず続ける。
「近くの村に、生活に役立ついろんな品を造る職人がいたんだと。エルフエレメンタリストが出張ってくる前は鍛冶師だったらしい。そいつが、なんでもえらく便利な井戸汲みの道具を発明したんだそうだ。女でも年寄りでも、軽い力で水が汲み上げられる道具らしい。詳しいことは知らねえが」
つるべのようなものだろうか。
あるいは、ひょっとしたらポンプを発明したのかもしれない。
「それで?」
「その職人が、異端者にされたんだよ。裁判で今後一切の自然に反する発明をしないことを誓わされた」
「そいつは……行きすぎてるな」
「いや、それだけじゃねぇんだ。その後、その職人は、過激派からリンチを受けて殺された。職人の死体は、井戸の前で逆さ吊りにされて発見されたらしい」
思わずため息をつく。
店主も同じタイミングでため息をついていた。
「生活をよくしようって奴が殺されるなんて、俺にはわけがわからんよ。鉄だって、使ったっていいじゃねぇか。鋏やら包丁やらは必要だし、湯を沸かすには土鍋より鉄瓶の方が便利だよ。結局、みんな隠れて使ってるんだが、連中に見つかり次第没収だ。悪くすりゃ裁判にかけられて罰金、もっと悪けりゃ過激派に家を取り囲まれて火をかけられる」
「……技術革新を封じる、か」
エルフエレメンタリストの経済運営がうまく行っているのはひょっとしたらそのせいかもしれない。
経済を成長させ、社会を変化させるのは技術の進歩だ。
その進歩を「異端」という形で摘み取っていけば、社会を定常状態に置くことができる……かもしれない。
「よくわかったよ。ありがとうな、おっちゃん」
俺は店主に銅貨を渡し、バルバロッサの散策へと戻っていく。
「……ふぅ。こんなところか?」
屋台の後も、話しかけられそうな相手には話しかけ、情報収集に励んだが、最初の屋台で得られた以上の話は聞けなかった。
そうこうするうちに夕方である。
そろそろ宿を探そうかと思った矢先に、俺は視界の隅にかすかな違和感を覚えた。
〈スピリチュアルエルダー〉によって、俺の五感は常時鋭くなっている。
改めて視界の隅に目を移す。
通りを挟んだ反対側に、緑色のローブをまとった者が立っている。
それは一見、周囲より一層敬虔なだけのエルフエレメンタリズムの信者のように見える。
しかし――そのフードの奥。
(仮面……か?)
一瞬だけ意識に引っかかったのは、そこに人間の顔がなかったからだ。
(銀色だったな)
そいつの仮面は、あきらかに金属でできていた。
多くの部品によって構成された複雑な仮面だ。
仮面をつけた人物は、一応、頭と身体を長い緑色のローブで隠し、ストリートの隅で身を小さくしている。
俺も、〈スピリチュアルエルダー〉による視覚強化がなければ見逃していたかもしれない。
たしかに、金属製品を使うことすら禁じるエルフエレメンタリストの支配する街で、金属製の仮面をかぶるのは危険だろう。
(顔を隠すにしたって、木の仮面でもつければよさそうなもんだが……いや、待て。あの仮面、なんか見覚えがあるぞ)
しかし、どこで見たのかが思い出せない。
ずいぶん昔のことだろう。
ひょっとしたら前世のことだったかもしれない。
(前世だって?)
通りを、強めの風が吹き抜けた。
向かいにいる仮面の人物のフードが風でめくれそうになる。
そのフードを、仮面の人物が手を伸ばして押さえた。
何の不思議もない動作。
が、俺の目はそこにあった異常を見逃さなかった。
フードを押さえるために伸ばした腕。
ローブからはみ出したその「人物」の腕は、紛れもなく
前世の記憶がフラッシュバックする。
アメリカ製のSF映画の金字塔。
俺はコアなファンではなかったが、テレビ放映で見たことがある。
その中に、銀色のアンドロイドが登場する。
その名前は――
「……R-4N4だ」
今の感覚からすればややレトロな風情のあるアンドロイドの名を、俺は思わずつぶやいていた。
その声に、通りの向こうにいた「アンドロイド」が反応した。
「アンドロイド」が、俺に向かって歩いてくる。
俺は思わず身構える。
「アンドロイド」は、敵意がないことを証明するように両手を軽く持ち上げる。
ずり落ちたフードの裾からロボットの腕がはっきりと見えた。
『失礼。今、なんとおっしゃいましたか?』
銀色のアンドロイドが聞いてくる。
その言語は、意外と言うべきか、それとも意外でないというべきか、この世界の標準語であるマルクェクト共通語だ。イントネーションがややぎこちない気はするが。
「い、いや……」
俺はとっさに否定する。
銀色のアンドロイドが、ずいっと距離を詰めてきた。
『R-4N4、とおっしゃいましたね?』
確認してくるアンドロイドから目をそらす。
「……聞き間違いじゃないか?」
『私が聞き間違えると思いますか?』
目の前のアンドロイドが本物なら、それはありえないだろう。
通りを挟んだ向こうからでも俺のつぶやきを拾えるくらいの聴覚センサーを備えているということだ。
「……思わないな」
あきらめて、俺は認める。
そこで、通りの人混みの奥から、ひとつの人影が駆け寄ってきた。
(まさかアンドロイドの仲間が?)
と一瞬疑ったが、近づいてきたのは十代半ばすぎくらいの少女だった。
長い黒髪。
整った顔立ち。
真面目そうだが、同時に活発そうな雰囲気もある。
(利発なクラス委員長って感じだな……って)
そんなことをなぜ思ったのか。
それは、顔立ちから受ける印象に懐かしさを覚えたからだ。
少女は、日本人のような目鼻立ちをしていた。
「サンシロー? どうしたの?」
少女がアンドロイドに言う。
『いえ。こちらの御仁が興味深いことをおっしゃられたので。』
アンドロイド――サンシロウ? が日本語で答える。
(三四郎?)
夏目漱石の小説の主人公の名前。大学の教養科目のレポートを書くために読んだが、詳しい筋は忘れてしまった。
「興味深いこと? それは、あなたが人目に触れないことよりも優先順位が高いこと……なのね?」
『その通りです。彼は、私の姿を見てこう言いました。『R-4N4だ』と』
サンシロウ?の言葉に、少女の顔がこわばった。
少女の片手が腰に伸びる。
腰には、緑色の布に隠される形で、一振りの剣が差されている。独特の
少女が奇妙な目つきで俺を見た。
右目だけに余分な力が入っている。〈スピリチュアルエルダー〉で視覚が強化されていなければ見逃していただろう。同時に〈マギ・アデプト〉で右目から魔力が漏れていることにも気づく。
(まさか……【鑑定】か!?)
そう思って警戒するが、【鑑定】のための魔力のピンは飛んでこない。
(なんだ? 俺っていうより、俺の背後を見通すような目つきだな)
そこに何を見たのか。
少女は意外そうな顔をして、警戒心をわずかに緩めた。
少女が言う。
「R-4N4、と言ったのですね?」
サンシロウ?ではなく、黒髪の少女がそう言った。
「ああ」
俺はしかたなく認めた。
どちらにせよ、俺が転生者であることは、大陸の東側で調べればわかることだ。
それにしても……日本語を使うのはひさしぶりだ。
「あなたは転生者なのですか?」
「そういうことだ。あんたと同じく、な」
問題なのは、目の前の少女がどちら側の転生者かだ。
俺と同じ魂と輪廻を司る神アトラゼネクの使徒なのか。それとも、悪神モヌゴェヌェスの使徒なのか。
それによって、次の瞬間には戦いが始まっている可能性がある。
(ステータスを見るか?)
ステータスを覗けばひと目でどちらかわかるが、察知されないとも限らない。
少女のさっきの目つきも気になっている。
もう少し様子を見るべきだろう。
少女はこくんと唾を飲み込んでから言った。
「じ、じゃあ……
「――っ!」
驚いた。
真剣な表情で少女が口にしたのは、前世における俺の名前だったのだ。
俺は迷った。
前世での名前は、こちらの世界では口外していない。
とはいえ、知られたからどうだという話でもある。
しかし、有名人でもないはずの俺のことを彼女がどうして知っているのか。
いや、通り魔の一件で国民栄誉賞なんかをもらってしまったから、名前は売れているのかもしれない。死んだ後のことだからいまだに実感が持てないのだが。
俺が「加木智紀」だったことを認めることが、どんな意味を持つのか。
俺は今一度少女の顔を見る。
一途そうな女の子だ。
顔立ちが整っている分、その印象がなおのこと引き立っている。
その顔を見ているうちに――つながった。
「あっ……!」
思い出した。
この少女は――
「通り魔の時の――」
俺が目を見開いて言いかける。
それと同時だった。
少女がいきなり俺に抱きついてきた。
かわそうと思えばかわせたが、俺はなんとなく受け止めてしまう。
少女は俺にしがみつき、俺を見上げながら言った。
「加木、さん……!」
少女の目には涙が浮かんでいた。
少女の頬は赤く上気している。
俺に抱きついたままの少女の顔に浮かんだ表情に、俺はどぎまぎしてしまう。
「き、君は、通り魔に襲われかけていた女子高生か!」
「はい……そうです。あの時は、本当にありがとうございました」
少女が身体を離して深々と頭を下げる。
綺麗なつむじが俺の方を向いた。
「あ、ああ……なんて言ったらいいかわからないけど、とっさに身体が動いただけだ」
「でも……そのせいで加木さんは殺されて……」
「通り魔じゃなくて警官にだけどな」
苦笑して言う。
(悪神の使徒ではなさそうだな)
通り魔――杵崎亨に殺されかけていた女子高生が、悪神の使徒になるとは考えにくい。
もっとも、女神様の使徒なのだとしたら、女神様から俺に一言あってもよさそうなものなのだが……。
「あの警察官は、のちに薬物使用が発覚して逮捕されました」
「らしいな。女神様に聞いたよ」
「女神様?」
「魂と輪廻を司る神アトラゼネク。君も転生したなら会ったんじゃないか?」
俺の言葉に、少女が首を振る。
「いえ、わたしはアッティエラさんにこの世界に連れて来てもらったんです」
「アッティエラだって!?」
魔法を司る神アッティエラは、アルフェシアさんを封印していたことが発覚していずこへともなく逃げ出したはずだ。
「地球に来たアッティエラさんに、命の危機を助けてもらいました。死ぬところだったので、こっちに連れてこられることになったんです」
「そんなことが……」
通り魔に引き続いて、この
一回目は俺、二回目は異界の神に助けられたのだとしたら、相当な悪運の持ち主だ。
「それより、加木さん」
「何だ?」
「ずっと、お会いしたかったです」
「そ、そうか」
「わたしを命がけで助けてくださいました」
「そ、そうなるな」
「あの時のこと、今でも覚えてます。わたしが今こうしていられるのは加木さんのおかげです」
な、なんていうか……ぐいぐい来るな。
エレミアやアスラと一緒にいるからわかる。
この娘、俺のことが好きなんだ。それも、崇拝に近いような気持ちを持ってる。〈
「だ、だから、そのぅ……えっと……」
少女が顔を赤くして言葉に迷う。
「ずっと、ずっと会いたくて!」
「う、うん……それはわかった」
「お会いできて嬉しくて!」
「それは……ありがとう?」
「で、でも……どうしたらいいんでしょう!?」
「お、俺に聞かれても……」
「そ、そうですよね……わたしがどうしたいか、ですよね」
少女は顎に指を当てて何やら考え始めた。
「わたし、加木さんに助けられた後、ずっと考えていたんです。救われたこの命を何に使おうかって」
「そんなに……気負わなくてもいいのに。君は事件の被害者なんだから」
「それでも、命をかけて助けてくださった加木さんの想いに応えたかったんです」
その気持ちは嬉しいけど、いきなり言われるとちょっと重いな。
「加木さんがスラムファイターが好きだと聞いて、わたしもやり始めたんです」
「えっ、スラムファイターを?」
懐かしい名前に思わず反応してしまう。
格闘ゲームか。転生以来だからもう二十年近くやってない。
「REVOLVEにも出ました」
「マジで!?」
REVOLVEといえば世界最大の格闘ゲームの大会だ。
俺も一度くらい出てみたいと思ってた。
「それで、そのう……優勝、しちゃいました」
「マジで!?」
ワンパで申し訳ないが、本気で驚いた。
「それも、6年連続で優勝しました」
「マジかよぉっ!?」
プロゲーマーだって、優勝どころか決勝トーナメントに残ることすら難しい大会だ。
それを6連覇……だと。
「それもこれも加木さんのおかげです」
「いや、絶対それは俺のおかげじゃないから!」
「加木さんのおかげなんです!」
思わず否定した俺に、彼女がぐいっと迫ってくる。
「REVOLVEでこのサンシローとも出会って、その後いろいろあってこの世界にやってきました」
「いやどんだけいろいろあったんだよ」
どうやったらその流れでマルクェクトに転生してくることになるんだ。
「これって、運命ですよね?」
「う、運命?」
「加木さんに通り魔から救われて、加木さんのおかげでREVOLVEを連覇して、加木さんのおかげでレティシアの陰謀に気づくことができて――」
「ち、ちょっと待て! レティシアだって!? まさかレティシア・ルダメイア!?」
「そのことは今は関係ありません! あとで話します!」
「うっ……わかった」
怒られてしまった。
「とにかく、これって運命なんです! 運命が、わたしを加木さんのもとに導いたんです!」
「い、いやー、それはおおげさなんじゃないかな……」
「わかってますっ! もののたとえです!」
「ハ、ハイ……」
少女は赤くなったり慌てたりしながら言葉をまとめる。
そして、とんでもないことを言い出した。
「だから――わたしを、加木さんの彼女にしてください!」
Oh,boy……
「って、きゃあああ! わたし何言ってるの!? そ、そうじゃなくて、えっと、でも、運命の人で……!」
「わ、わかった、わかったから落ち着いて!」
「わかったってことは彼女にしてくれるんですか!?」
「いやそれはおいといて、落ち着いてくれ!」
「わ、わたし、わたし……」
「ほら、深呼吸して! すーはー!」
「すー……はー……ふぅ」
「……落ち着いた?」
「は、はい」
少女はさらに何度か深呼吸を繰り返す。
「す、すみません。わたしったらいきなり……」
「うんまぁ、なんていうか……」
なんて言えばいいんだ。
「でも、加木さんのことを尊敬してるのは本当です。知れば知るほど好きになって……」
「いや、会うのは今日が初めてだろ」
「あの事件のあと、調べたんです。加木さんがどんな人だったのか」
「えっ……」
「会社の同僚さんや高校の同級生さんにも聞いたんですが、なかなか加木さんの素顔を知ってる人がいなくて……」
「まぁ、ぼっちだったしな」
っていうかこの
「最終的にたどり着いたのはゲームセンターでした」
「それでスラムファイターか」
そしてそれが高じて世界チャンプか。
俺が助けた女子高生はとんでもない才能の原石だったらしい。
「わたしは、自分で作り出した加木さんの幻影に恋をしているだけなのかもしれません」
少女がうつむいて言う。
「でも、好きな気持ちは本当です。ずっと会いたかった。変ですよね。死んでしまった人に恋をするなんて」
少女の言葉に何も言えない。
「
「……そうか」
あの事件で俺に助けられたことは、この娘の人生にとって本当に大きな転機になってしまったんだな。それなのに、肝心の俺は死んでしまっていた。
……カタハルって誰? という疑問は、混乱しそうなので流しておく。
「マルクェクトに転移することになったのはなりゆきでした。ふふっ。第三次世界大戦を防いで来たって言ったら、驚きます?」
「お、驚くよ!」
どんなことになってたんだ、地球。
でも、あの女――レティシア・ルダメイアが地球に転移していたのだとしたら、そんなことも可能かもしれない。国家元首級をたらしこむだけでそんなことができてしまう。
「あの女は、俺が取り逃がしてしまったんだ。君がなんとかしてくれたんならよかった」
「……それなら、命をかけた甲斐がありましたね」
ふふっ、と優しく笑う少女。
俺は虚をつかれて少女の笑顔に見惚れてしまった。
少女は俺を上目遣いに見上げながら言う。
「……それで、そのう……さっきの告白の返事はいただけますか?」
これは――ヤバい。
さっき出会ったばかりの女の子だ。
まだお互いのことをよく知らない。まぁ、彼女は俺のことを調べていたようだけど。
とにかく、よく知りもしない女の子を前にして――俺はたぶん、顔を真っ赤にしていた。
「そ、そっか……さっきのは有効なのか」
「有効です!」
少女が俺に詰め寄ってくる。
「それで……どうでしょう? わたしじゃ、ダメですか……?」
切なそうな表情を見せる少女から目をそらす。
十数秒、考えを巡らせて。
俺はこう答えることにした。
「……とりあえず、君の名前を教えてくれないか?」
エレミア「(キュピーン)何かとてもよくないことが起こってるような気がする……」
というわけで、合流です。
いつもお読みいただきありがとうございます。
すみません、いろいろ立て込んでいて、次回ちょっとお時間をいただくことになりそうです。
新連載『17⇔70 転生? いいえ、人格の入れ替わりです。』の方は、週2回更新で続きます。
講談社ラノベ文庫より、拙作『焰狼のエレオノラ』発売中です。
書店にお立ち寄りの際にはぜひ覗いてみてください。
それでは、今後ともよろしくお願いいたします。
天宮暁