原発を「動かした裁判官」「停めた裁判官」そのキャリアの大きな違い

エリートと「現場主義」
岩瀬 達哉 プロフィール

入れ替わった判断

西川裁判長が示した「ゼロリスク論」を排除した判断枠組みは、早速、原発訴訟を担当する裁判官たちが「参照」することになる。なかでも象徴的だったのが、四国電力の伊方原発3号機をめぐる広島地裁と広島高裁における3人の裁判長の判断だろう。

原発再稼働を容認した地裁の裁判長に対し、ベテランの高裁裁判長が待ったをかけたものの、すぐさま同僚の高裁裁判長によって退けられ、最終的に再稼働の決定が下された。

 

広島地裁の吉岡茂之裁判長(48期、当時47歳)は、2017年3月30日の決定書で「福岡高裁宮崎支部の決定を参照するのが相当」と断ったうえで、「四国電力は……具体的危険がないことについて、仮処分で求められる程度の立証をした」として再稼働を容認した。吉岡裁判長もまた、司法研修所教官を務めたエリートである。

ところがこの決定を不服として、住民側が起こした即時抗告審で、広島高裁の野々上友之裁判長(33期、当時64歳)は、約9ヵ月間の審理ののち地裁の決定を覆し、高裁裁判長としてはじめて原発の運転禁止を命じた。

同判決要旨は、最新の科学的知見をもとに専門家が分析したところ、約9万年前に阿蘇山で大規模な噴火が起きていることが判明している。その際噴出した火砕流は、海峡を越え130キロ離れた伊方原発の敷地エリアまで到達していた。

阿蘇山の大規模な破局的噴火は、原則40年とされる原発の運転期間中に発生する可能性があるうえ、国内最大の活断層である中央構造線断層帯に近いため、噴火リスクだけでなく、地震や津波などによって原発が壊滅的打撃を受ける可能性がある。そもそも立地に適さないエリアに伊方原発は建設されているとして、再稼働を禁止したのである。

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