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傀儡と蟷螂

     夏の終わり、入水心中した二人の噂     

トロ川

▼シナリオの画像素材について

使用できる画像は当該ページの最下部からダウンロードできる画像のみセッションに係る使用方法に限り、自由に使用可能。

※シナリオ本文内に素材取り扱いについての規則が記述されている場合、そちらの規則を優先。

▼シナリオの6版⇔7版コンバートについて

​可能。KPで独自に行うこと。ただしシナリオの根幹が変わるような改変は不可。

▼シナリオリプレイ作品投稿について

トラブルを避けるためリプレイ作品の有料公開は禁止。
無料公開のみ可能(小説、漫画、動画配信など媒体問わず)。
ただし以下3項目をリプレイ作品の分かりやすい箇所へ記載すること。

1:シナリオ名/作者名
2:ネタバレがある旨の注意書き
3:シナリオで許容されている範囲での改変がある場合、改変箇所と改変理由
※3はシナリオネタバレに係る事項であろうから、ネタバレに配慮した箇所へ記載すること。

▼シナリオの配信利用について

企画中、収益化チャンネルや有料メンバー限定での公開は禁止。
誰でも視聴可能な状態であり、視聴自体に金銭が発生しない方法であれば、動画に年齢制限をつけた上で配信可能。
ただし以下3項目を配信時分かりやすい箇所へ記載すること。

1:シナリオ名/作者名
2:ネタバレがある旨の注意書き
3:シナリオで許容されている範囲での改変がある場合、改変箇所と改変理由

※3はシナリオネタバレに係る事項であろうから、ネタバレに配慮したタイミングでの情報周知でも構わない。

 
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■タイトル:傀儡と蟷螂(クグツとトウロウ)
■噂の文言:夏の終わり、入水心中した二人の噂(ナツのオわり、ジュスイシンジュウしたフタリのウワサ)
■システム:6版
■年齢制限:R18(G)
■傾向:脱出系インモラル半クローズド
■プレイ時間:ボイセ4時間、テキセ10時間
■プレイ人数:1名(+KPC)
■推奨技能:目星、図書館
■準推奨技能:なし
■その他特記事項
現代シナリオ
エログロゴア要素あり
後遺症・ロスト可能性あり

【概要】
港町の温泉旅館二泊三日のペアチケットが当たったあなたは、
友人や知人、あるいは恋人と某県にある海喃町に向かうことになる。
その土地は人魚伝説と、それに纏わる自殺の名所であった。
あなたちは今夜、どのような関係であったとしても、心中する。

 

 

【特記事項】
探索者×探索者、PC×神話生物の可能性あり
セッション中、探索者二人にはリュウグウノツカイの刺青が半分ずつ入る。
また、シナリオ中にランダムでHOが配られる。
PCは生殖能力のある男性限定(肉体が男性であればよい)。KPCの性別は問わない。
「羅刹の檻」と共通の世界観。通過している場合のお楽しみ要素があり。
KPやPL、PC、KPCは「羅刹の檻」を通過していなくても問題なくプレイできる。
「傀儡と蟷螂」後に「羅刹の檻」をプレイすることも可能。

【注意事項】
強姦、屍姦、異種姦など、猟奇的で非倫理的な描写を含む。
神話生物と探索者、あるいは探索者間で性行為を余儀なくされる事はないが、展開によっては可能性あり。

 


【シナリオ真相】
このシナリオの黒幕は緑の深淵の落とし子(MM,P111)、そしてそれらを統べるゾス・サイラ(MM,P187)と呼ばれる邪悪な美しい女王である。
彼らは「緑の深淵の帝国」と呼ばれる非ヒューマノイドたちの海底帝国に住んでおり、催眠力のある歌で人間を引き寄せる。
また、魔力を持ち、歌で誘った人間を海底での生活に適するように変えてしまう。
落とし子達の知性は高く、他言語を学ぶこともある。
その為、探索者達に、その地固有の景色を見せることで同調性を高め、自身の体に取り込みやすくした。
落とし子達が以前、従属させた遊廓の人々の記憶を元に構築した世界は、日本の仏教、当時の観念を歪に内包しており、それらは不安定に探索者の身を包む。
そして、現在の女王が死んでも、他の緑の深淵の落とし子の一体がゾス・サイラの名と称号、地位を継承し、女王の持つ力を得るまでに成長する。
海喃町に観光に来た探索者は、不幸にも次代の女王(ユキ)に魅入られ、海底帝国へと引きずり込まれてしまう。
彼女と契らずに、同行者と地上へと戻れるかがシナリオクリアの鍵となる。
作中にはC・H・トムスン著の『緑の深淵の落とし子』をオマージュした部分が含まれる。

 

 

【真相含むPC・NPC紹介】
PC
旅行チケットが当たり、KPCと海喃町に向かう。
ユキに一目惚れをされ、海底帝国で求婚される。
彼女に魅入られないためには、予めKPCと心中立てをしなければいけない。

KPC
PCと海喃町に向かう。
PCに一目惚れされたユキに催眠を掛けられ、海底帝国まで連れ去る為の餌にされる。

ユキ(改変可能NPC)
海喃町に住む女性。年齢は高校生以上なら幾つでも良い。
彼女の父親は、以前海底帝国に連れ去られており、その時にゾス・サイラと交わったために生まれた。
ユキが生まれてから父親は、地上に子供を連れ去り、異形の母の存在を知らせずに育てた。
海面下にいる緑の深淵の落とし子達から、帝国に戻るように呼びかけられる中で、PCに一目惚れする。
女王として覚醒した時、PCと夫婦になりたいと強く思い、KPCを使って海底帝国へと連れ去った。
見た目や名前は改変可。海底帝国ではPCが好む見た目に姿を変えているかもしれない。

 

 

【特殊処理】
㈠深海進行
探索者の体は、ゾス・サイラの催眠により次第に魚人化していき、人としての理性を失っていく。
地下帝国で一部屋見るごとに〈POW*5〉を行うこと。
失敗する度に進行度が1上がり、進行すればするほど最後の海底からの浮上ロールに補正がかかるが、その分後遺症の可能性も高くなる。
人の体に近い状態では海中での呼吸が難しいが、魚人化が進むにつれて息を吸いやすくなるためである。
また、HO1とHO2があるが、PCとKPCに一つずつ配るのであれば、どちらにどのHOが渡っても構わない。

 

HO1:生殖 不邪婬戒(ふじゃいんかい)
以下進行描写

 

一、
肌が痒くなる。少しずつ息が上がっていく。
痒みのある箇所を見てみれば、皮膚が乾燥し、ぼろぼろと崩れ落ちている。

 

二、
皮膚が紅潮していき、汗が流れる。
先程よりも呼吸はしやすくなったのに、どこか頭がぼうっとする。
自身の崩れ落ちた皮膚の下から、薄い鱗が幾重にも重なって見えた。

 

三、
体に現れた鱗が全身を侵食し始める。
乾いた表皮が水を求めるような渇望があなたを襲った。
欲望の発露。相手を性的に求めたくなる、または暴力的な行動を起こす事で性的な快楽を得る。
【HO1特殊発狂表】の1d6のダイスを振る。
RPにどの程度反映するかはPLPCに一任する。

 

四、
強い性的興奮を覚える。男性なら性器が勃起する。
三の継続または、もう一度1d6のダイスを振る
RPにどの程度反映するかはPLPCに一任する。

 

五、
生殖をしたいと強く願う。
四の継続または、もう一度1d6のダイスを振る
RPにどの程度反映するかはPLPCに一任する。

 

【HO1特殊発狂表】
1:相手の肌を感じたい・舐めたいと思う性愛
2:相手から好意を抱かれたい・口にされたいと思う性愛
3:相手と一つになりたい・自身との同一化を求める性愛
4:永続的な快楽を求める・与えられたいという性愛
5:相手への虚無的・破壊的な性愛
6:自身や相手が死に近づくことで得る性愛


 

HO2:怒り 不殺生戒(ふせっしょうかい)
以下進行描写

 

一、
肌がちりちりと痛む。少しずつ息が上がっていく。
胸がチクリと刺されるような感覚があり、不快感と嫌悪感が広がる。
痛みのある箇所を見てみれば、皮膚が赤く腫れ上がっている。

 

二、
びりびりと肌が痺れる。
苛立ちが増し、相手の僅かな行動が目に止まっては声を荒げたくなる。
皮膚が腫れていた箇所が硬く薄い鱗となり、まだらになっている。

 

三、
体に現れた鱗が全身を侵食し始める。
欲望の発露。相手を性的に求めたくなる、または暴力的な行動を起こす事で性的な快楽を得る。
【HO2特殊発狂表】の1d6のダイスを振る。
RPにどの程度反映するかはPLPCに一任する。

 

四、
強い性的興奮を覚える。男性なら性器が勃起する。
三の継続または、もう一度1d6のダイスを振る

 

五、
性行為をしたいと強く願う。
四の継続または、もう一度1d6のダイスを振る

 

【HO2特殊発狂表】
1:欺瞞・嘘:思ってもいないことを相手に言いたくなる・自分の行動で相手を揺らがせたり、試したくなる
2:暴力:相手を痛めつけて、その反応が見たくなる。血が流れる姿が愛しいと思う
3:偏愛:相手に偏った愛情を抱く。無闇矢鱈と愛したくなる
4:躾:相手は自分のものである・言いつけを守るべきであると教え込ませたくなる
5:死:相手を死に追いやりたくなる。苦しむ相手を見て満たされる
6:怒:相手への苛立ちや怒り・あるいは過去の体験からの怒りの奔流


【シナリオ本文】

青黒色の天へと昇る細やかな泡と飛沫を見上げながら、一つ息を吐いた。
暗澹とした俗間を眺めるのはもう飽きた。
この出会いが定められた縁なのだとしたら、酷いものだと神に一言文句を付けて遣りたかったが。
もはや立つ瀬も遣る瀬もない。
つくづく自分には運が無いと、心中で毒づきながら。
其の身は底へと墜ちてゆく。
吊り上げた唇からあぶくが溢れた。

俺はとんだ傀儡だったのだ。

 

 

じりじりと肌を焦がすような、熱い夏が終わり、涼やかな風が吹く季節。
商店街の店先に構えるイベント用の集会テントの下、
目の前に転がる金色の玉。
続けてパフパフと鳴るラッパーホーンと想像以上に大きいハンドベルのガランガランという音に思わずびくりとする。
「おめでとうございます!港町の温泉旅館二泊三日のペアチケット当選です!」
髪を結いた女性とその隣の人の良さげな中年男性が朗らかな笑顔でそう言った。

 

遡ること二時間前。
食料品の買い足しをするために、あなたはスーパーへとやって来ていた。
その日はたまたま商店街のイベントが行われている期間中で、スーパーの店頭に福引抽選会の会場があったのだ。
会場、と言っても集会用テントが2つ並んで設置されただけのものだが。
ちょうど5千円以上の買い物をしたあなたは、気紛れにレシートを係員に見せて、ガラポンのハンドル回した。
その結果が、これだ。

「ぜひお相手さんと楽しんでくださいね〜」
「宿泊日のみネットか電話での予約となりますが、宿泊料は食事代含め全て無料ですので!」
にこにこと笑う女性はあなたにチケットを渡す。

 

(温泉旅行チケット)
某県の海喃町(かいなんちょう)にある温泉旅館、塩生旅館(しおいけりょかん)で二泊三日過ごせるチケット。
海が一望できる和室で豪華な夕食が楽しめる。
昼食は出ないため、近隣の港町での食事の割引券が付いているようだ。

 

・海喃町について調べる
〈図書館〉〈コンピューター〉

(海喃町)
海喃町(かいなんちょう)は人口こそ少ないが漁業が盛んな港町であり漁港や足谷岬(あしやみさき)、温泉街に土産屋、資料館などの観光スポットもある。
町から若者が離れないのは、車を走らせて一時間ほどにある隣の市が栄えているからだ。
漁港近くでは、サザエやアワビを食べられる飲食店が多く、壺焼きも刺身も絶品らしい。
資料館では地域に伝わる人魚伝説についての資料が残っている。

 

・足谷岬について調べる
〈図書館〉〈コンピューター〉
(足谷岬)
足谷岬(あしやみさき)は心中・自殺の名所とされている。
恋が叶わなかった男女が情死した、海から声が聞こえると1人飛び込んだ人間がいた、などと様々な噂が残っている。
実際に年に死者や行方不明者が数人出ているらしい。

 

 

【KPCを誘う、あるいは出会う】
ここでPCはKPCと共に旅行の約束を取り付けることになる。誘うのか、あるいはKPCに共に行きたいと言われるのか、互いに誘い合わずに塩生旅館で偶然出会うかは自由である。
KPとPLで擦り合せ、自由に描写してほしい。

 

(海喃町に向かう)
あなた達は新幹線に乗って海喃町まで向かうことになる。
ビールを飲んだり駅弁を食べたり寝たりしながら、窓の外を眺めれば、山間を抜けた所で海が広がる。
駅に到着してから送迎バスに乗り、旅館まで向かう。

 

 

【塩生旅館】
あなた達の宿泊する塩生旅館(しおいけりょかん)は、創業100年の老舗旅館である。
旅館は古い建物を何度か改築しており、古き良き時代を蘇らせる重厚な佇まいだった。
ロビーにはソファや本棚が並び、周辺のパンフレットやチラシを置くスペースもある。
予約した旨をフロントに伝えると、部屋の鍵が渡された。
探索箇所
本棚、パンフレット

・本棚
旅館の本棚には童話や伝承、この地域にゆかりのある偉人の漫画などが置いてある。
特に、浦島太郎や人魚伝説等が多い。周辺で生きている生物の図鑑もあった。

 

〈図書館〉〈知識〉
あなたはふと、浦島太郎のおとぎ話を思い出す。

 

(浦島太郎)
浦島太郎という男は、浜で子供達が亀をいじめているところに出会う。
彼は心根が優しい人物であったためその亀を保護し、海に放した。
2、3日後、亀が現れ、礼として太郎を背に乗せ、海中の竜宮城に連れて行く。
竜宮城では乙姫からの饗応を受け、楽しい生活を送った。
しばらくして太郎が帰る意思を伝えると、乙姫は「決して蓋を開けてはならない」と伝えて玉手箱を渡す。
太郎が亀に乗って元の浜に帰ると、太郎が知っている人は誰もいない。
彼が忠告を忘れて玉手箱を開けると、中から白い煙が発生し、太郎は白髪の老爺に変化してしまった。

→人魚伝説を読む
(人魚姫)
遠い海の底に住む人魚姫はある日、陸に住む王子に恋をする。
彼に会いたいと願った人魚姫は魔女のところへ行き、人間にしてほしいと頼んだ。
そして、声と引き換えに足を手に入れたが、恋が実らずに泡になって消えてしまった。

→生物図鑑を読む
〈目星〉〈図書館〉
ふと、かまきりの頁が目にとまる。

 

(かまきりの生態)
カマキリ(螳螂、蟷螂、鎌切、蠅取虫)は、昆虫綱カマキリ目(蟷螂目、学名:Mantodea)に分類される昆虫の総称。前脚が鎌状に変化し、他の小動物を捕食する肉食性の昆虫である。漢字表記は螳螂、蟷螂(とうろう)、鎌切。
カマキリ類では、同じ種類でも体の小さいオスが体の大きいメスに共食いされてしまう場合がある。
交尾の際も共食いが行われ、オスはメスに不用意に近づくと、交尾前に食べられてしまうので、オスは慎重にメスに近づいて交尾まで持ち込む。
自然環境下では一般的に交尾の最中、メスはオスを頭から生殖器までむしゃむしゃと食べる。

 

・パンフレット
パンフレットには周辺地図が載っている。おすすめの観光スポットも書いてあった。
調べたとおり、資料館、足谷岬、温泉街などについて記載されていた。
資料館では風土資料を見たり、足谷岬では海原の景色が一望できるらしく、温泉街には温泉は勿論、土産屋、屋台などもあるようだ。
ここから近いのは足谷岬と資料館で、特に岬は歩いてすぐの場所にある。

 

 

【客室】
客室は、銘木や土壁を配した趣のある造りで、窓からは海を眺めることができる。
広縁には椅子が二脚と机が置いてあり、茶菓子もあった。
現在時刻は昼過ぎ。夕飯は19時だと伝えられる。
この付近であるなら夕食までに散策できるのではないかと思うだろう。
探索箇所
足谷岬、資料館

【足谷岬】
旅館から歩いて少しすれば、足谷岬へと辿り着く。
柵とロープがあるため、落ちることはないが、荒々しい岩肌の隙間に海が覗くのが見えた。
高さ20メートル以上に及ぶ大地の断崖に荒波が打ち寄せる姿は自然の苛烈さを感じさせた。
周辺には観光客がちらほらといる。


〈目星〉
人があまりいない場所の崖近くに一つ立て看板を見つける。
『「迷ったらこちらにお電話ください。24時間対応しております」自殺防止センター』

 

(イベント)
どこからか歌声が聞こえる。
美しい女性の声だ。
その声を聞いていると、段々と夢見心地になって来る。
心が捉えられるような気持ちになり、あなたは崖へと歩み出す。
隣の男が何か言ったような気もする。が、彼の声は歌声にかき消されて分からなかった。
あと一歩、あと一歩で、と言う所で腕を強く掴まれる。
「おい、PC!しっかりしろ」
KPCの呼ぶ声を聞きながら、あなたの意識は暗転した。

口からあぶくが漏れている。
底から見上げる天は暗く、自分が今どれほどの位置に居るのか想像がつかない。
全身はどこまでも怠い。腕や手足は緩慢に動いた。
戻ってみようか、と思った所で、あなたの体を何かが掴んだ。
僅かな光を青緑に反射する、アメーバ状の手の群れ。
腐敗した肉の塊だ。
凄まじい死臭がする。
触手は此処に居ろと言わんばかりにあなたの四肢を抑えつけた。
そして口に、眼球に、体中の隅々まで、全てを支配し蹂躙するように、
肉塊が侵食してくる。
 
堪えきれない不快感と異物感に、胃酸が逆流する。
地面に両手を付いてかがんだ所で、喉奥にKPCの指が突っ込まれた。
喉がひりつくような痛みを感じてすぐに、腹の奥が幾度か痙攣し口から胃の内容物があふれ出る。
しばらくずっと咳き込んで、胃液しか出なくなった頃に、あなたの嘔気は収まった。
あと数歩で、崖から海へ飛び込もうとしていたのだと気づいたのはその時だった。
正気度ロール 0/1

 

「息できる?」
「わり、指突っ込んで。吐かないとヤバそうだったから」
「水ちょうど切らしてたんだよな。ちょっと待ってろ」
彼が動こうとした時に、一人の女性が近づいてくる。
「あの…お水、飲みますか?まだ開けていないので」
彼女はあなたにペットボトルの水を差し出す。
あなたはそれを飲むだろう。
「…ちょっと楽になった?」
「お兄さんここの人じゃないでしょ?たまにあるんだ。こうゆうの」
「景色はいいし、観光には最適だけどね。感じやすい人が来るとあてられちゃうっていうか」
「今までにも、覚えあるでしょ?」
「ふふ、大変なこといっぱいあったんだねぇ」
彼女はあなたの背中を擦る。
黒髪に黒いワンピースを身にまとった彼女は、小柄だが成人しているのだろうと推測がつく。
喋り方の落ち着きから、それが汲み取れるのだ。
体は白く、健康的にも不健康にも見える。得も言われぬ妖しい魅力を放っていた。
「私は白波ユキ(しらなみゆき)っていいます。海潮町に住んでます。よろしくね」
「あなたの名前は?どう呼んだら良いかな」
あなたが答えると、彼女は微笑んで頷く。
「最近は海から声がよく聞こえるね。PCくんも聞いた?」
「だよね。私には帰っておいで、帰っておいで、って聞こえた」
「でも絶対戻れないよね。行っちゃったらさ」
「この町には好きなものがたくさんあるし、だから行かないんだ」
「さすがに真っ昼間から自殺する人なんていないだろうし、私と同じかなって思って声かけてよかった」

 

→資料館にまだ行っていない場合
「次はどこいくの?」
「資料館か…ついてってもいい?」
「お兄さん、なんとなく心配だから。あとここに住んでると観光資料館なんてそうそう行かないからね」

 

→資料館に行った後に足谷岬に来た場合
「私はこれからグリーンフラッシュが見れないか待ってようかなぁって思っていたんだけれど、PCくんも気になって来たのかな」
「もし危なくなったら私が止めるから、崖からちょっと離れたところで座って見ようよ」

→【夕方の足谷岬】へ描写を移す


【資料館】
風土資料の残っている資料館。
中に入ればどの年代でも楽しめるように、子供用と大人用に部屋を分けてパネルやイラストが展示されている。
別館にはさらに詳しい風土資料が置かれているが、未成年は入ることが出来ないと張り紙がされている。
探索箇所
人魚伝説に関する展示、足谷岬に関する展示、資料館別館

 

・人魚伝説に関する展示
イラストの描かれたパネルや、地誌の複製本が飾られている。
一般公開するためにも、わかりやすくまとめてあるようだ。

 

(人魚伝説)
かつてこの海には人魚がいたと言い伝えられている。
歌声を海から聞かせて漁夫を引き寄せたり、荒れ狂う波を引き起こして船を難波させたりしたそうだ。
ある日、漁夫は船が難波した為に、海喃町の港に流れ着いてしまった。
彼はそこで美しい女性に助けてもらい、次第に回復していった。
女性は宿屋をしており、年老いた父親と共に暮らしていた。
宿屋を手伝う男は度々、老人に不思議な予言をされる。
それらは全て当たり、男は次第に裕福になったという。
そして彼女との間に子をもうけ、臨月になった頃に老人に不幸な事実を言われた。
「娘の母親は人魚であり、もうじき娘は海へ帰ってしまうだろう」
そして本当に彼女は子供が生まれる前に、海に飛び込もうとしてしまう。
そこで男が後を追い、2人で海に身を投げてしまったそうだ。

 

・足谷岬に関する展示
岬の写真と説明用のパネルが展示してある。
写真は朝方撮ったものや夕日を写したものなど様々だ。

 

(足谷岬)
足谷岬の岩は国の天然記念物に指定されている。
荒波が砕け、白波や飛び散る断崖絶壁が有名だ。
波の浸食を受けて芸術的な岩が形成されている。海上からの岩壁の眺めも、一味違った素晴らしいものとなっている。
夕日の絶景が望める足谷岬ではグリーンフラッシュが見られるかもしれないと言う。

(グリーンフラッシュ)
グリーンフラッシュというのは太陽が水平線に沈んだ直後、緑色の光が一瞬だけ放たれる現象である。
この現象が見られる確率は、非常に低いが、足谷岬でも年に数回見られている。
グリーンフラッシュを見ると幸せになる、その愛が永遠になる等の言い伝えがある。

【資料館別館】
人魚伝説について研究された部屋、この地域の歴史の移り変わりと芸能についてまとめられた部屋がある。
こちらも人が立ち入れるように整えてはあるが、本館よりは片付けが行き届いていないらしく、膨大な資料が積み上げられた部屋が散見された。
探索箇所
人魚伝説の部屋、海喃町の歴史の部屋

・人魚伝説の部屋
資料や研究論文が置いてある部屋だ。
古い書物特有の黴びた匂いがする。
ここでPCは幸運を3回振る。成功した回数だけ、資料を見つけることができる。

 

(人魚伝説の研究)
海喃町は長い間、宿場や花街として栄えていた。
江戸以前の中世の文献からもこのような記述が多かったため、伝説に出てくる女性はいわゆる宿場女郎、宿屋を経営する娼婦だったのではないかと考えられる。
男は彼女の行いを後に知ったため足谷岬で無理心中したのではないかと推測ができる。
しかしこの場合だと、人魚は何を指すのか、海へ帰るとはどういった意味なのかが不明瞭であり、補完しきれない部分も多い。
また、この人魚伝説は童話でいう浦島太郎のような異郷訪問譚(いきょうほうもんたん)と異類婚姻譚(いるいこんいんたん)に近いものとして分類できる。
 
(浦島太郎から見る人魚伝説)
現在広く流布している御伽噺の浦島太郎は、浦島子伝説が原話とされ、古くは日本書紀、万葉集、丹後国風土記逸文(たんごのくにふどきいつぶん)などの文献に記述が残る。
それらは、名称や設定が異なり、報恩の要素も欠けている。
行き先は「竜宮城」ではなく「蓬莱(とこよのくに)」なので、異郷淹留譚(いきょうえんりゅうだん)に分類される。
また、丹後国風土記逸文には竜宮城に行ってからの浦島太郎の行状も記されていた。
子供に伝えるにふさわしくない結婚生活の内容が含まれているので、童話においてはこの部分は省略された。
そこでは主に、乙姫との官能的な性生活の描写がある(「男女の契りを結び、三年間の結婚生活を送った」等)。
浦島太郎において強調されるものは、”おくりもの”に象徴された生命の永遠性、とこよのくにの愛情と悦楽、又、現し世ととこよのくにとの時間的経過の差異などであって、そこにも両者の隔りがある。
人魚伝説の主人公の男性は、常世の国での夢から醒め、その異常性に気付いたが、幸福や歓楽から離れることができずに海に飛び込んでしまった、と捉えることもできる。
 
(常世の国)
常世の国(とこよのくに)は、古代日本で信仰された、海の彼方にあるとされる異世界である。
一種の理想郷として観想され、永久不変や不老不死、若返りなどと結び付けられた、日本神話の他界観をあらわす代表的な概念だ。
古事記、日本書紀、万葉集、風土記などの記述にその顕れがある。
もしも、人魚伝説でこの地が常世の国に近いものとして記述されたのであれば、海喃町は美しくも恐ろしい歓楽街であったに違いない。

 

・海喃町の歴史の部屋
地誌を纏めているようだが、この土地は様々な文化や芸能が入り交じる町だったらしく、資料の中には見慣れない単語も多い。
ここでPCは幸運を2回振る。成功した回数だけ、資料を見つけることができる。

 

(海喃町における傀儡子)
傀儡子(くぐつし)とは、木偶(木の人形)またはそれを操る部族のことで、流浪の民や旅芸人のうち狩猟と傀儡(人形)を使った芸能を生業とした集団である。
後代になると旅回りの芸人の一座を指しており、海喃町には多くの旅芸人が土着したらしい。
また女性の場合は傀儡女(くぐつめ)ともいう。
操り人形の人形劇を行い、女性は劇に合わせた詩を唄い、男性は奇術や剣舞、相撲や滑稽芸を行っていた。
呪術の要素も持ち女性は禊や祓いとして、客と閨をともにしたともいわれる。
傀儡女は歌と売春を主業とし、遊女の一種だった。
傀儡子らの芸は、のちに猿楽に昇華し、操り人形はからくりなどの人形芝居となる。
江戸時代に説経節などの語り物や三味線と合体して人形浄瑠璃に発展し文楽となり、その他の芸は能楽や歌舞伎へと発展していった。
 
(江戸時代の花街)
この時代で幕府公認の遊郭と言えば、江戸・吉原。
他にも京都・島原、大阪・新町があり、この3つを三大遊郭と呼んだりしている。
しかし、全国には女郎屋や芸妓屋が集まった非公認の遊郭・花街が無数に存在しており、こういった場所を岡場所(おかばしょ)と呼んでいた。
海喃町もその一つである。
中世から傀儡子などの芸能が盛んであったこともあり、江戸時代の海喃町は街道沿いの宿場、花街として有名であった。
宿泊施設である旅籠屋(はたごや)の他にも、茶店、居酒屋、さまざまな飲食店が立ち並んでいたようだ。
後に幕府は”宿場に泊まる”意の飯盛旅籠(めしもりはたご)と言う名目で営業を認め、飯盛旅籠1軒に付き2人の女郎までなら良い、といった規制を敷くことで許可する。
その人数規制も歳月が経つにつれ、徐々に緩和されていった。

 

→ユキがいる場合
「私はこれからグリーンフラッシュが見れないか待ってようかなぁって思っていたんだけれど、PCくん達はどう?」
「もし危なくなったら私が止めるから、崖からちょっと離れたところで座って見ようよ」

 


【足谷岬】
夕暮れの足谷岬には波の静かな音が響いている。
赤い空の中で、水平線に溶ける白い太陽が見えた。
「あ!もしかしてそろそろじゃない?」
はしゃいだ声のユキは隣に座る。このまま待つようだ。
傾きながらも消えて行く夕日は、次第に輪郭が黄色く縁取られていく。
太陽が完全に沈む直前の一瞬、緑色に発光した。
美しい緑閃光は海の中へと吸い込まれてゆく。
幻想的な美しい景色だった。


〈目星〉
夕日が水平線に溶け込み発光した時に、海の中が一瞬照らされる。
揺らぐ水面に青緑の大きな影が映ったような気がした。

PC達が話をしているところで、隣のユキが呟いた。
「帰らなきゃ」
彼女はスッと立ち上がると、あなた達に笑顔を向ける。
「今日はありがとね。はじめてグリーンフラッシュも見れたし。これからいいことあるかな」
「また会えるといいね!じゃあね」
彼女は手を振って旅館とは逆方向の道へと帰っていった。
見送るKPCは腕時計を見て「やべ」と呟く。
「19時に飯だったよな。急いで戻らないと食いっぱぐれるぞ」
あなた達も旅館へと帰ることになる。

 

 

【塩生旅館】
部屋に戻って荷物等を片付け終わった頃に、仲居さんが食事を持ってくる。
舟盛りには数種類の刺し身が並び、新鮮なアワビやサザエ、岩牡蠣などがテーブルを彩る。
魚のアラの味噌汁や金目鯛の煮付けがあり、デザートにはくずまんじゅうが付いていた。
仲居さんは、「ご飯の量はどれくらいにしますか?」と尋ね、よそってくれる。

「今日はどうでしたか。海喃町の観光はできましたか?」
「もうだいぶ昔の話ですがね。この地域には大波が来て、すべて流されてしまったそうですよ」
「それでも諦めず、町を守ろうとした人がいたからこそ、今もこうやって活気があるんです」
「だから次の人のためにも、私達が守ってかないといけないと思いますよ」
「楽しんでいってくださいね」
そう言って下がっていくだろう。

デザートのくずまんじゅうは甘さが控えめでとても美味しい。
上品な餡と、喉ごしの良い葛餅が相性抜群だ。
あなた達は夕食を楽しむだろう。

(就寝前にできること)
KPCに〈目星〉
ふとKPCを見た時に、顎の横に薄い切れ込みのような痕がついている事に気が付く。
彼の顎下に沿って斜めに入った一本の線は、溝のようになっている。
治りかけの怪我のように見えた。
※魚人化はすでに始まっている為、顎の両側に不完全な鰓が発生しています。確認するのであれば、PCにも同じような痕があります

温泉は内湯と外湯がある大浴場で、ゆったりと楽しめる。
外は寒いが、露天風呂に入れば体が温まることだろう。
SAN1d3回復
部屋に帰れば、布団が敷いてあるため、いつでも寝ることが出来る。


 

【深夜】
深夜。あなたは隣の彼が体を起こす音で目が覚める。
時刻は2時。窓の外は暗く、波の音が遠く聞こえる。
彼は旅館の浴衣を着たまま、素足で部屋の扉を開け、外に出ていった。
あなたは1人出ていくKPCを追いかけ、旅館を出る。
彼の足は思ったよりも早かった。携帯を懐中電灯代りにしても、辺り一面は真っ暗なのに。

それもそのはず。ここは足谷岬だった。
 

岸壁には荒い波が幾度も押し寄せ、岩を砕くような音が響いている。
油絵具を伸ばしたような海が月光に照らされて、どこまでも、黒黒と広がっていた。
彼は看板の横を進み、柵を通り抜ける。
あなたが止めようと手を伸ばした時、彼の足がピタリと止まった。
ここは崖のふちで、これ以上進むことはできない。

海で泳ぐものはいない。この岬にいるのはあなた達だけのようだ。
声を掛けても返事はない。
暗い海と激しい波の音だけがこちらに迫るようだった。

 

彼は振り向く。深い海の底を映した様な瞳がこちらを見た。
一言、あなたに尋ねる。

「なぁ、PC」
「俺と一緒に死ねるか」

あなたが返事をすれば、
彼はあなたの腕を強く引いた。
海の方へ。
何もない場所に2人、躍り出るように。
真っ逆さまに落ちていく。
風を切る音と、波が騒々しく岩を打つ音が聞こえる。
黒い海は大きく白波を蹴立てて、あなた達を飲み込んだ。
暗転。

 


【目覚め】
鈍い痛みと硬い板の感触で目を醒ます。
見慣れない板の間にあなたと彼は眠っていた。
旅館の着物を纏ったままで、床に寝転がっている。
全身に怠さを感じながらも起き上がり、横を見やる。
KPCはまだ眠っているようだ。
この板の間は広く、何もない。
廊下に続く襖だけが一枚あった。
※KPCを起こすのならば、彼も問題なく目覚める

〈目星〉〈アイデア〉
浴衣から覗くKPCの体に、奇妙な模様が見えた気がする。

浴衣を解けば、そこには魚の鱗が幾重にもきらめいた。
本物かと思ったが、違う。魚の鱗が絵に描かれているのだ。
墨で彫り込まれたのは美しい魚。
竜宮の使いの半身であった。

あなたが同じように着物を脱いで見てみると、そこには彼と同じ刺青が泳いでいた。
まだらに波打つ天井が、かろうじて部屋の中に光を取り込んでいる。
その下で、あなたたちは自身の異常と変化を、まざまざと見せつけられるのであった。

 


【廊下】
廊下に出る。
左へ進めば入り口へ、右へ進めば奥の一部屋を見ることができそうだ。
入り口側には上り階段も見えた。
探索箇所
入り口、奥の部屋、上り階段

【入り口】
玄関近くには帳場があり、土間には台所や井戸がある。
玄関脇には妓夫台(ぎゆうだい)と呼ばれる、半畳ほどの畳敷きの台がある。
妓夫台の横には、通りに面して格子窓の部屋が張り出しているようだ。
格子窓の向こうは暗いが、ここから外の様子を覗くことはできそうである。

 

〈アイデア〉
これが妓夫台だと気がついたのは、資料館の別館で、遊郭・妓楼の屋内の造りを見たからであった。
ここはおそらく遊郭の内部なのではないかと思うだろう。

 

探索箇所
玄関、台所、妓夫台、格子窓、帳場

・玄関
木の扉には内鍵がついており、鍵が掛けられている。
鍵がないと開くことはないだろう。


〈聞き耳〉
外からゴボゴボという音が聞こえる。
そして、澱んだ膿の匂いが鼻を掠めた。

 

〈アイデア〉
これが水の音なのではないかと気がつく。

・台所
魚や野菜を置いてあり、料理の支度をする為の道具が並んでいた。
生活感はあるが、人は一切いないようだった。
使われていない井戸は口をぽっかりと開けたままである。

 

 

・妓夫台
遊女屋の入り口にあるこの台は、客引きの男が控えている為にあるらしい。

 

〈目星〉
現代的な手帳とボールペンが見つかる。
手帳は泥で汚れており、濡れていない場所はかろうじて読めそうだ。

(手帳)
女性のもののようだ。
中にスケジュールが書き込まれている。
日毎に短い日記がつけられているようだ。
記述がある日付は、今から一ヶ月前のものだった。

○月×日
マナの誘いで海喃町に行くことになった。
人魚伝説があるなんてロマンチック。
ちょっと子供っぽいけど、内容を調べてみたら悲恋っぽかった。嫌いじゃないかも。

 

○月×日
海喃町に着いた。ホテルに荷物をおろしてすぐに海に向かったマナは体力があるなと思った。
海は明日にしようと思ってたけど、来てすぐ入るのは冷たくて気持ち良かった。
新しい水着を奮発して買ってよかった。

 

○月×日
天候が悪くて今日は海に入れなかった。仕方がないので資料館へ。
この地域、色々あったみたい。
高校で習った歴史の授業より面白かった。

 

○月×日
マナがおかしい。止めようとしたらここにいた。
ここはどこ?手を動かさないと不安。

隣にいるのはマナなのに、私にベタベタしてくる。気持ち悪い。

うるさい。またマナを泣かせた。ごめん
ずっとイライラする
鍵が みつからない
ドロドロの手から逃げた 私たちを襲おうとしてきた
逃げ

(ここから先は汚れた水で濡れたのか紙が黒くなって湿っている)

・格子窓
ここはいわゆる張り見世(はりみせ)でないかと思う。
表通りに面した格子つきの部屋に遊女が並んで客を待つ部屋である。
格子の外は暗いが、覗くことはできそうだ。

 

〈目星〉
黒い外の景色に、揺らぐ影を見る。
姿形は墨の塊。
粘着質の肉塊が、粥のように解けた巻鬚じみたものを這わせて前進している。
爬虫類のような網目状の外皮には小さな孔があいており、そこから青みがかった膿のような粘液を出している。
耐えきれないような異臭を放つそれらには、裂けた傷にも見える口がついており、音程の取れていない歌が聞こえた。
口の上の長い触手の先には鱗に覆われた眼球が一つ付いており、肉の望遠鏡のように動く。
何体も、何体も、おぞましい生き物達が道を闊歩している。
その一つと、目が、合った。
正気度ロール 1d6/1d20

 

 

・帳場
遊郭の主人が帳簿を付けたり会計をする為の場所だ。
机の上には古い和綴の帳簿が置かれている。

 

(帳簿)
古い言葉遣いで書かれているためか、読み解くのに時間を有するだろう。
〈日本語〉〈歴史〉〈古文〉等

 

この遊郭の主人が、客の会計の記録を取っていたようだ。
気になるのはその日付が400年ほど前だということだ。

 

○月×日
最近ここを抜け出ようとする女郎が増えた。
憑物があるようだ。

 

○月×日
憑物を落とすには、血を流すことが必要だ。
自由恋愛などと謳い始める世になったせいか、こういった輩が増えるのは困りものだ。

 

○月×日
ここから出たければ、身請けされればいい。
妾になり、妻になれば抜け出せるというものを。
金のない男と出て行こうなんて馬鹿なことをするものだ。

 

○月×日
手順を踏まずに、自由だけを求める。
義務を果たしていないのに、利益を求める。
誓約を破る者にはバチが当たる。
正当な儀式をせずに夫婦になったと勘違いする輩がいる。
頭の足りない者どもがどうも此処には多過ぎる。

最後の記述のされた頁には和紙が挟まれている。
こちらも古い言葉遣いで書かれている。

 

〈日本語〉〈歴史〉〈古文〉等

(魔を祓う)
魔を祓うには、その魔を浄化するに適切な道具を選び、取り込ませる、触れさせて討ち倒すことが必要である。
あるいは、己を魔から遠ざける為に除霊や誓いの文句を立て、見合った行動をする事でも効果が期待できる。
どちらも儀式の一つであり、当事者にとって何が起きているかを正しく捉えた上で、意志を持って行うことが必要不可欠となる。
魔を祓うのであれば、根本的な解決になるが、相手が上位の悪霊である場合、術者の身に危険が起こりやすい。
魔を遠ざける場合も同様である。実情を把握し、正しく心から誓いを立て、行動に移すべきである。

 


【奥の部屋・行燈部屋】
倉庫のような部屋だ。
使っていない行燈が幾つも並べられている。
また、梁に縄が掛かっているのが目に付く。
探索箇所
棚、部屋全体

・棚
〈目星〉
棚に細い紐や鞭のようなもの、小刀がある。
もしやここは倉庫以外にも折檻部屋として使われていたのではないだろうかと思った。

 

 

・部屋全体
〈目星〉
見渡すと、床に一箇所埃の積もっていない場所を見つける。
そこには四角いツマミがあり、持ち上げることができそうだ。

 

→開く
あなたは板を持ち上げる。
地下へと通じる暗く急勾配の階段が現れた。
手持ちの明かりがないため、下りるのは危険だと思うことだろう。


 

【上り階段】
Y字階段が二階へと伸び、二つの細い廊下を空中廻廊が繋いでいる。
上れば、両側に幾つか部屋があるのが分かるだろう。

 

 

二階探索箇所
大部屋、書庫、女郎部屋、廻し部屋、客用便所

【大部屋】
宴会場に使われていたらしい大部屋。
大きな襖絵には異形の怪物が描かれていた。
青緑の肌を持つ天女が水中で羽衣を靡かせて悠々と泳いでいる。
その周囲には何匹もの粘着質の泥のような人型が傘を持ち、共に泳いでいた。
天女の姿は美しく、惹きつけられる魅力があった。
彼女は微笑をたたえてこちらを見ている。
部屋には複数の空の膳が並んで置いてあり、客を待っているようだった。

 

探索箇所
膳、部屋全体

・膳
〈目星〉
置かれている猪口の中の一つに、一杯分の水が入っている。
※水を飲んだ場合、飲んだものの【深海進行】が1下がる。

 

→水を見つけた場合
〈聞き耳〉
澱んだ匂いはしない。
だが、匂いを嗅いだ時、自分の首筋に疼くような軽い痛みを感じる。

 

〈アイデア〉
真水なのではないか、と感じる。
水に生理的な嫌悪感が湧くことに違和感を感じるが、飲むことができそうだ。

 

 

・部屋全体
〈目星〉
床にメモが落ちているのに気づく。

 

(手紙)
PCくんへ
もしも私に会いたいと、そう思ってくださるなら、どうか地下まで逢いに来てくださいませんか。
私はあなたを待っています。ずっとずっと。

(部屋を出る際のイベント)
〈アイデア〉
→成功
塩気のある水の匂いがする。
瞬間、部屋が淀んだ空気に包まれた。
くるりと景色が入れ替わっていく。

 

→失敗
突然背後から物音がする。

 

※以下同文

ずるり、ずるり、音が聞こえる。
ちゃくちゃくと水っぽい音が耳に入り込んでくる。
着物の男が目の前で背中を丸めて座っている。
男の肩は何度も震え、上下している。
こちらに背を向けている為、表情は見えない。
畳は血濡れだ。生臭い腐った匂いが部屋に充満している。溶けた肉の酸っぱい香りが鼻をかすめる。
彼の前には女が倒れていた。
青緑にてらてらと光る体には鱗と鰓がある。
頭髪は人間のものだが、黒から白く変色し、眼球は丸く飛び出て魚のようだった。
すでに絶命してから時間が経ったのか、顔は暗赤色に変色し、血管が黒く浮き出てぶよぶよと膨れている。
脱力しているせいか、だらしなく口は開き、舌が前に突き出ている。
二股に避けた足の片側は鰭のようなものが生えているが、もう片方の足は濡れた人間のものだった。
魚の鰓と人の足を繋ぐ股からは白濁の液体がどろりと溢れている。
悍しい姿をした女の胎はばっくりと大きく裂かれていた。
その中に覗く臓腑を掻き分けて、男は何かを口に運んでいる。
赤黒い塊を、男は口に喰んでいる。
ちゃく、ちゃく、ちゃく、ちゃく。
正気度ロール 1d3/1d6

 

視界が切り替わる。
目が醒める。
男は居ない。魚のような女も、居ない。
※PCとKPC二人は過去を幻視する

 


【書庫】
中は和風建築に似合わない異様な空間だった。
現代的なグレーのブックラックには、様々な本が並んでいる。
ここでなら様々な本を探して読むことができそうだ。


〈アイデア〉
部屋の外見よりも中身は広いように感じる。
この場所は、自分たちが想像しているよりも大きく、底知れない空間なのではないかと思うだろう。正気度ロール 0/1
探索箇所
ラック1、2、3

 

・ラック1
〈図書館〉
江戸時代の心中立てについて書かれた本が手に取れる。

 

(心中立て)
江戸時代、遊郭の遊女たちが特別な男性への愛情を誓うことを心中立てと言った。
この心中立てには様々な方法があるが、誓いへの信用度を高めるために肉体的な苦痛を伴うものが殆どだった。
重大な決意を示すものとしては「指切り」がある。
名の通り指を切り相手に送るというものだ。
1枚の神札に”我らは二世を契った仲である”と書き込み、男女で血判を押す「起請文」も有名だ。
血判を押す場合、男性は左の中指か薬指、女性は右手の中指か薬指を使う。
ほかにも、相手の名前を自分の体に入れ墨で彫るという「起誓彫り(きせいほり)」がある。
相手の体に印を入れる、自分のものにすることで、一般に通用させなくする意もある。
愛の誓いの究極な形として、愛する相手とともに命を絶つ「心中」は自由恋愛ができなかった時代への彼らの最後の抵抗だったとも言える。

 

 

・ラック2
〈図書館〉
仏教における七宝の本を見つける。

 

(七宝)
仏教においては「七宝」(しっぽう・しちほう)と呼ばれる七種の宝があり、極楽浄土の荘厳さを表現する際のたとえとして用いられる。
美しく珍しい宝は、御利益のあるものとされ、大切にされてきた。
七宝は金、銀、瑠璃(るり)、玻璃(はり)、硨磲(しゃこ)、珊瑚(さんご)、瑪瑙(めのう)を指しており、
瑠璃は青色の玉、玻瓈は水晶、硨磲は白い珊瑚または美しい貝殻を言う。
珊瑚は現代の珊瑚と同じものを指すが、碼碯は今の碼碯ではなく、エメラルドである。
七つの宝は其々、別の効力を持つと言う。

 

 

・ラック3
〈図書館〉
怪異についての本を見つける。

 

(怪異と誓い)
古来、日本には妖怪がいた。
これは負の感情、犯罪、疫病、気象現象等の災害を受けた人々が、それらを畏怖し、名を付けて伝聞したことにより広まったものとされる。
理解できない怖ろしいものでも、名さえあれば形があり、正体があり、対処する方法があるとされたのだ。
それは人々にとっても心の拠り所となり、また忌避すべきものを他者へ伝える手段ともなった。
怪異は”誓い”や”清められたもの”を避ける。
人々の強い念によって形を得、生み出された怪異は、同じく人々の強い念によって打ち払われたとも言えよう。
護符や経、あるいは怪異が避ける小道具を持ち歩くことは有効であるとされた。
また、予め人々のした約束事には、怪異も手が出せなかったという。
逆に、怪異と約束事をしてしまった場合、それを破れば恐ろしい報復があるとされた。

ほかにも調べたい内容があれば、宣言で探すことも可能。
七宝について調べたいとPLPCから宣言があった場合、〈図書館〉成功で以下の情報を提示する。

 

(銀について)
銀は毒素に対し敏感な反応を示すことでも知られている。
その昔、お殿様の毒味役は、銀の箸であった。
当時の毒は『毒砂』と呼ばれていた硫ヒ鉄鉱で、その成分中の硫黄と銀の箸が反応し、黒くなることを利用した。
さらに銀には水を浄化する作用がある。
銀は極めて微量、水に溶解する性質を持つが、この溶液は、非常に薄くても水中の微生物を殺菌するのだ。

 


【女郎部屋】
渋い木目の壁に囲まれた六畳の座敷には、朱赤の絹布団が敷かれ、周囲には紙が何枚も散らばっている。
窓枠は黒木の格子で飾ってあった。
部屋には手持ちの行灯や煙草盆や文机、漆で装飾された化粧道具や鏡台があり、花を生けた桶がある。
ここが女性の生活部屋なのが窺えた。
探索箇所
文机、鏡台、化粧道具、部屋全体

 

・文机
引き出し付きの机だ。

 

〈目星〉
机の引き出しを引くと神札や毛筆、硯と墨が出てくる。

 

 

・鏡台
意匠の凝らされた美しい鏡が、あなたたちの顔を写している。

 

〈目星〉
鏡台には和紙、その近くからは裁縫道具、針や剃刀が見つかる。
そして二つほど、丸薬が紙に包まれているのも発見する。
※心中立ての本を読んでいる場合

 

〈アイデア〉
指を切った際の気付けの薬だと思う。

 

 

・化粧道具
引き出し付きの化粧道具には、
猪口や紅筆、白粉とそれを溶かすための溶碗がある。

 

〈目星〉
引き出しの中に七本綺麗に並べられた簪を見つけることができる。
宝石がついていたり、美しい細工が施されていた。

 

〈アイデア〉
一つ一つ確認していけば、それらは金、銀、瑠璃(るり)、玻璃(はり)、硨磲(しゃこ)、珊瑚(さんご)、瑪瑙(めのう)の簪であることがわかる。

 

 

・部屋全体
床に古い和紙が何枚も落ちている。

 

〈目星〉
拾って読んでみれば、誰かの独白のようだった。きちんとした文になっていない箇所も多々ある。
また、古い言葉遣いで書かれているためか、読み解くのに時間を有するだろう。

 

〈日本語〉〈歴史〉〈古文〉等

(女性の手記)
夜毎夢を見る。
海が私を呼ぶ夢だ。
私は何れ、海に帰るのだと理解した。
私は人魚と人の間に生まれた子らしい。
もしもそうならば、彼と別れるのはひどく辛い。
ここに私を引き止める鎖があるなら良かったのに。

恐ろしいことがあった。
嵐の夜、誘われるように海辺へ行ってしまった。
書いている今も震えが止まらない。
あの夜、海岸から何かが手を伸ばしてきた。
どろどろとした怪物は私を、掴んで砂浜に押し倒してきた。
あの手、あの荒い息、恐ろしい目に唇。
歌うように話しかけて、私の体を。
あれは人魚なの。あれが私の母と同じだというの。
こんなことを彼に伝えることはできない。

私のお腹に赤ちゃんができた。
この子は誰の子なの?

海が呼んでいる。
帰らなきゃ。
その前に私は彼に、話をしなければいけない。

 

 

・大体の情報を集め終わった
〈アイデア〉
この建物内には「心中立て」をするための道具が全て備わっていることが分かる。

 

 

【廻し部屋】
青臭い腐敗臭が鼻腔を満たす。
大部屋は屏風で仕切られ、複数の布団が敷かれていた。
行灯がともり、薄ぼんやりとしか見渡せない部屋は酷く不気味だった。


〈聞き耳〉
饐えた匂いに気を取られていたが、奥からズルリズルリという音と、床の軋む音がする。
探索箇所
部屋全体、床

 

・部屋全体
〈目星〉
そこには団子のように丸くなった黒い肉の塊があった。
どろりと溶けた背は上下しており、体から裂けて生まれる口はぱくぱくと動いている。
外皮にあいた穴からは絶えず青紫の粘液を垂れ流ししていた。
興奮しているのか何度も溝のような匂いの息を吐いては、それ体を動かしている。
口の上の長い触手の先にある眼球は、こちらではなく異形の組み敷くものを凝視していた。
よく見れば、その腐った肉団子の下に女の体があるのだった。
青白く血の抜けた体は中途半端に鱗に覆われている。
白濁した眼球は揺すられて何度もぶるぶると動いていた。
この生き物は、死んだ女にのしかかり、性交しているのだった。

→一階の格子窓の外を見ていない場合
正気度ロール 1d6/1d20

 

→一階の格子窓の外を見た場合
正気度ロール 1d3/1d10

 

怪物は行為に夢中のようで、こちらに気付いていないようだ。
離れようと思えば離れることができる。

 

 

・床
畳敷きの床は、染みが付き汚れている。
血や体液が入り混じってついたのだろうと察しがついた。
千切れた布団からは綿がこぼれ、散らばっている。


〈目星〉
その中に一枚、古びた紙が落ちていた。
書かれている文章は次第に崩れ、文脈もおかしくなっている。
終わりの方は文字にもなっていなかった。

 

〈日本語〉〈歴史〉〈古文〉等

(誰かの文章)
あれは人ではなかった。人を誑かす恐ろしい怪物だった。
確かに美しく、人を惹きつけるような魅力があれにはあったが、そこから得たものは全てまやかしだったのだ。
この悍しい生き物を生かしておくことはできない。
俺は彼女と共に海へと落ちた。
そしてこの場所へと辿り着いた。
俺と彼女は死んでいなかった。
来るまでがひどく朧げで、この場所の風景も記憶も何もかもが、覚束ない。
彼女はこの場所で、自分は新たな女王になるのだと言った。
前の女王が死んだから、人魚である自分が呼ばれ、座を継いだのだと。
そして、俺をまだ愛しているのだと嘯いた。ここで暮らしてほしいと。
信じられるわけがなかった。
俺の体は日に日に怪物へと姿を変えている。
思考でさえも蝕まれ、文字も忘れている。
此処からどうにかして逃げ出さねばいけない。
鍵はあれが持っている。

 

〈目星〉
蚯蚓のような走り書きを見つける。
「にんはぎょのにくはみょじゅうをのばすききいた」
「おおれもありれのにくをくえら えいええんののいのちが」
「あの女の腹を割いて、子を食おう」
「俺の子ではないのだから」

 

 

・部屋を出る際
〈アイデア〉
→成功失敗問わず
足元から、体へと這い上がってくるものがある。
あなたの足を撫で、体に割り込むような何かがいる。
深い底から脳髄を揺らすような甘い声で呼ばれる。
思考を絡め取り、心を侵す何かが、この足の下に、地下にいる。
そう確信する。
あなたを何かが待っている。
相手はあなたが来ることを望んでいるようだった。

 

 

【客用便所】
古い和式便所である。
〈聞き耳〉
便所の中から、波打つ水音と、啜り泣くような、物を擦り合わせるような音が聞こえる。
聞いているうちに気分が悪くなり、目眩がした。
正気度ロール 0/1

【心中立てを行う】
(指切りをする)
意を決し、指を切り落とす。
血肉と神経が切断される痛みでくぐもった声が出た。
しばらく耐えればゴロリと指が転げ落ちる。
HP1d3減少

→着付けの薬を飲む
指切りでのHP減少分を回復する

 

(起誓文を書く)
文言を書き、指を軽く切ってから血判を押した。
神札にあなたの血が滲む。
同じように隣の彼も血の印を押した。
ここに一つ、誓いが生まれた。

 

【行灯部屋から地下へ向かう】
※PLPCから地下に向かうと宣言があった場合、「ここでの行動は分岐の一つです。よろしければ続けます」と伝える。事前に心中立てを行うか否かで展開が変化する。

あなた達は行灯部屋にある地下への入口までやって来る。
扉を開けると、音一つしない暗闇が広がっている。
階段がかなり先まで続いており、地面は見えなかった。
一歩足を踏み出した時、とてつもない勢いで、こちらに何かが向かってくる。反応しようとして、あまりの威圧感に足が竦んだ。

 

一瞬のことだ。あなたの体を青黒く光る触手が掴んだ。
青い粘性質の触腕は一本が太く、表面に幾つのもの吸盤がついており、おぞましい生き物の全貌を想起させた。

 

美しい声が聞こえる。
逃げなければ、と意識を保つために身を捩るが、人智を超えた怪物の腕になど到底敵うはずもない。
脳を揺すられ、景色が遠ざかる。体が千切れるほどの力で、あなたは闇へと連れ込まれた。

 

 

「PCくん、PCくん」
「起きて」

夢を見ていた気がする。
あなたは布団の上に寝ていた。
体にはじっとりと汗が伝っている。
あたりは暗い。深夜なのだ。
隣には妻のユキがいる。

「ずっと魘されてたのよ…顔色が悪いわ。大丈夫?」
「悪い夢でも見てたの?」
酷く恐ろしい夢を見ていた気がする。
しかし、内容を思い出そうとしても霧のように消えていってしまった。
「台所にお水があるから、飲んできたらどう?」
※ここでPCはユキ(緑の深淵の女王)から催眠をかけられる。KPCに関する記憶や、日常生活に関する記憶の一切を失う。〈アイデア〉等で思い出そうとしても、ユキとここで暮らしている、という偽りの記憶以外のあらゆる経験に靄がかかる

 

探索箇所
部屋、台所、ユキ

 

・部屋
あなたとユキが暮らしている家だ。
此処は夫婦の寝室である。

・台所
台所には水瓶が置いてある。
ここに入っている水を飲んだらどうかと彼女は言ったのだろう。
※置いてある水を飲んでも違和感はない

 

〈目星〉
台所の隅に何かが隠されるように置いてある。
よく見ればそれは、女性ものの裁縫道具や化粧道具であった。
しかし、あなたの見慣れたものではない。一般家庭では手が出せないような高価なものだ。
ユキがいつのまに買ったのだろうか。
宝石のついた七本の美しい簪や高い紅に、違和感を覚える。
※ここには女郎部屋にあったものと、PCが他の部屋から持ち歩いていたものがある。適宜描写を追加してほしい

 

 

・ユキ
ユキを見る。
彼女はあなたの妻だ。
美しく気立てが良く、おいしい食事を作ってくれる。
ここでの生活は幸せなものだった。
ただ一つ、彼女との子供ができていないということが長らく夫婦間での悩みだった。

 

(全てを調べ終えた)
部屋に戻ってきたあなたにユキが声を掛ける。
「気分は良くなった?」
「じゃあ隣、戻ってきて」
彼女が布団をぽんぽんと叩く。
促されるまま彼女の隣で床に就く。
横になるあなたをユキはじっと見つめる。
「ねぇ、今日は…しないの?」
※彼女は性行為の伺いを立てている

 

→了承しない
「…そっか」
彼女は寂しそうに笑った。
あなたの頬を一度撫でてから、「おやすみなさい」と呟いた。

 

→了承する
「私、あなたの妻になれてよかったって思っているのよ」
彼女は微笑んで、心から嬉しそうな表情をあなたに向ける。
あなたを優しく押し倒し、胸の上に手を添える。
「……その、今日は私に任せてもらっても、いいかな」
あなたの衿を開き、肌になめらかな手を這わせる。

※以下[心中立てを行っていた場合][心中立てを行っていなかった場合]の2ルートに分岐

 

[心中立てを行っていた場合]
 

(指切りをしていた)
しかし、なにかが気に掛かったようで、ふと手を止めた。
「まぁ、誰かしら」
彼女はあなたの胸にある和紙の包みを取り出す。
開いた中には、人間の指が一本。
※PCのみが指を切っていた場合はPCの指、KPCが指を切っていた場合はKPCの指です。適宜描写を改変してください。

 

〈アイデア〉〈目星〉等
指を落とすのは、強い誓いの為だと、いつかどこかで聞いた気がする。
この指は、誰が何のために切った指だっただろうか。
あなたは確かに、その瞬間に居合わせていたはずなのに。
…隣りにいたのは、誰だっただろうか。

 

(起請文を書いていた)
しかし、なにかが気に掛かったようで、ふと手を止めた。
「まぁ、誰かしら」
あなたの懐には見覚えのない紙が入っている。
彼女はあなたの胸にある細い紙を引っ張り、取り出す。
それを床にするりと放った。

 

〈アイデア〉〈目星〉等
紙は婚約の証書ではないかと思う。
そこには、見覚えのない人物の名前と、あなたの名前が書かれている。
あなたの名前は、確かにあなたの字で書かれていた。
おかしい、これはいつか書いたものだと分かっていた。
誰と?
…隣で血判を押したのは、誰だっただろうか。

 

※以下同文

脳髄が揺すられる。
視界が、揺れる。
目の前にあるのは大きな大きな、極彩色の襖絵である。

ここはあなたの家ではない。
ここは夫婦の寝室などではない。
この女は、あなたの妻では、無い。

彼女はこの場所に巣食う恐ろしい異形達を従える女王なのだ。
今目の前にあるものすべてが、本来の姿ではない。仮初の、紛い物である。
そう、本能的に直感する。
あなたは見覚えのない場所にいた。
ここは大きな和室の広間である。
壁、床の間、建具等あらゆるところに青貝がはめ込まれ、装飾されている。
欄間には大波の彫刻が施されている。
捻れた巨木の柱が部屋の中央に生えており、水生生物たちが緻密に掘り出されていた。
聳立する大黒柱から渦を巻く波飛沫の合間から、飛び出す魚達。
虹色光沢を持った螺鈿細工の数々は光り輝きこちらを見る。
「私以外と契りを交わしたのね?」

 

彼女が一言、呟いた。
 

「ねぇ、PCくん」
「一生私と一緒にいましょう?夫婦になるの」
「私、今日からここの女王になったのよ」
「ここに、あなたが居てくれたら嬉しいと思うのだけれど、どうかしら」
彼女の表情が沈む。
顔を伏せて、ためらいがちに言葉を続けた。
「あなたのことが本当に好きなのよ」
「好きになってしまったの。どうしたらいいか分からないくらいに」
彼女の浴衣から豊かな乳房と血色のよい肌が覗く。
美しく黒い髪はいっそう情欲を掻き立てる。
「私はここに来るしかなかった…でも、私が死んでしまっても、次の女王が人魚たちの中から選ばれるわ」
「なら、約束してくれないかしら。私を殺して、その肉を食べて。お願いよ」
「あなたの中で一瞬でも生きたいの」
「そしたら帰してあげる」

 

→彼女と夫婦になることを誓った
【エンドA】へ

 

→彼女を殺して肉を食うことを受け入れた
【エンドC】へ

 

→彼女を殺して肉を食うことを断った
「…そう」
感情のない顔がこちらを見る。
彼女の表情から先程まで見えた人間の欠片が消え去ったのを感じた。
ここで一行動できます。
彼女に攻撃する、あるいは自由に行動するチャンスは一度のみです。
※取りそびれた情報を求める場合は、欲しい情報についての明確な宣言がPLPCからあれば可能とします

 

↓以下行動例一覧

(銀の簪または銀製のものをユキに刺す)
触れた途端、女の体から青い血が吹き出した。
「いっ……ヴ」
「ア゛アッオオ゛」
彼女の口元が大きく変形する。
口から勢いよく青碧の触手が飛び出す。
大きな肉の帯の先端に付いたボール状の大きな眼球がこちらを見据える。
ごぼりごぼりと青い粘液が彼女の穴という穴から流れ出した。
瞼から、口から、鼻の穴から。
目はぽっくりと落ち窪み、眼孔のうつろから溢れる粘液はあなたの顔を反射する。
女の体は次第に膨れ上がり、着物を引き裂いて青い不定形の塊が伸び始める。
いくつもの触腕を持つ、肥大した青い泥。
これこそが彼女の本当の姿だった。
ゾス・サイラ、緑の深淵の女王を目撃したあなたは1d8/1d20+1d4の正気度ロール

もうここに居ることは出来ない。
あなたは逃げなければいけない。
彼女の腕がこちらに伸びた時に、横から鋭い刃物が割って入った。
眼の前でぶつりと飛んだ腕は、床に落ち、渦を巻いて泥になり、女の体へと戻っていく。
「おい!大丈夫かPC!」
扉近くにはあなたの見知った人物が立っている。
彼が刃物を投げたらしかった。
「逃げるぞ」

 

〈アイデア〉
出口の鍵は彼女が持っているのではないかと思える。

※(銀の簪または銀製のものをユキに刺す)を行った場合のみ、KPCとこの時点で合流できる
 

→次イベント【逃走ロール】に以降
※出口の鍵のありかが分かっている場合は【鍵の発見】も同時に説明する

 


(銀の簪以外でユキを刺す)
女の体から青い血が流れ出す。
「あら」
驚いたような声を上げた彼女は、その痛みをものともしない様子だった。
手で傷口を押さえ、指でぐりぐりと空いた穴をかき回す。
次第に青緑の粘液が肌の周辺を覆い、あっという間に傷口は塞がってしまった。
「…私に手を上げるのね」
無感動な目がこちらを見た。
彼女の口元が大きく変形する。
口から勢いよく青碧の触手が飛び出す。
大きな肉の帯の先端に付いたボール状の大きな眼球がこちらを見据える。
ごぼりごぼりと青い粘液が彼女の穴という穴から流れ出した。
瞼から、口から、鼻の穴から。
目はぽっくりと落ち窪み、眼孔のうつろから溢れる粘液はあなたの顔を反射する。
女の体は次第に膨れ上がり、着物を引き裂いて青い不定形の塊が伸び始める。
いくつもの触腕を持つ、肥大した青い泥。
これこそが彼女の本当の姿だった。
ゾス・サイラ、緑の深淵の女王を目撃したあなたは1d8/1d20+1d4の正気度ロール

もうここに居ることは出来ない。
あなたは逃げなければいけない。

 

〈アイデア〉
出口の鍵は彼女が持っているのではないかと思える。

→次イベント【逃走ロール】に移行
※出口の鍵のありかが分かっている場合は【鍵の発見】も同時に説明する

 


(出口の鍵を探す、逃げようとする、等のその他行動)
※〈目星〉に成功し、〈DEX*5〉に成功すれば、彼女の着物の中に隠された出口の鍵を見つけ、素早く取ることが出来る。二つのロールに失敗した場合は次のフェーズの【鍵の発見】で行うこと
※逃走する場合は〈DEX*5〉を振り、次のフェーズで行う【逃走ロール】で1進んだ状態になる

「まぁ、私から逃げようとするのね」
「残念だわ」
彼女の口元が大きく変形する。
口から勢いよく青碧の触手が飛び出す。
大きな肉の帯の先端に付いたボール状の大きな眼球がこちらを見据える。
ごぼりごぼりと青い粘液が彼女の穴という穴から流れ出した。
瞼から、口から、鼻の穴から。
目はぽっくりと落ち窪み、眼孔のうつろから溢れる粘液はあなたの顔を反射する。
女の体は次第に膨れ上がり、着物を引き裂いて青い不定形の塊が伸び始める。
いくつもの触腕を持つ、肥大した青い泥。
これこそが彼女の本当の姿だった。
ゾス・サイラ、緑の深淵の女王を目撃したあなたは1d8/1d20+1d4の正気度ロール

もうここに居ることは出来ない。
あなたは逃げなければいけない。

→次イベント【逃走ロール】に移行
※出口の鍵のありかが分かっている場合は【鍵の発見】も同時に説明する

 


[心中立てを行っていなかった場合]
 

「あなたは一生、ここで一緒に暮らしてくれる。それだけで私、幸せよ」
幸せそうに微笑む彼女の口元が大きく変形する。
口から勢いよく青碧の触手が飛び出す。
大きな肉の帯の先端に付いたボール状の大きな眼球がこちらを見据える。
ごぼりごぼりと青い粘液が彼女の穴という穴から流れ出した。
瞼から、口から、鼻の穴から。
目はぽっくりと落ち窪み、眼孔のうつろから溢れる粘液はあなたの顔を反射する。
女の体は次第に膨れ上がり、着物を引き裂いて青い不定形の塊が伸び始める。
いくつもの触腕を持つ、肥大した青い泥。
これこそが彼女の本当の姿だった。
ゾス・サイラ、緑の深淵の女王を目撃したあなたは1d8/1d20+1d4の正気度ロール

悍ましい生き物を目撃したあなたは思い出す。
自分とKPCはこの場所に囚われていること。そしておそらく、そう仕向けたのは他でもない、目の前いる女王なのだと。
もうここに居ることは出来ない。
あなたは逃げなければいけない。

 

〈アイデア〉
出口の鍵は彼女が持っているのではないかと思える。

→次イベント【逃走ロール】に移行
※出口の鍵のありかが分かっている場合は【鍵の発見】も同時に説明する


【逃走ロール】
先行はPC。1Rに一回振れる〈DEX*5〉に3回成功すれば、地下から階段を上り逃げることができる。
(1回成功で部屋から出る。2回成功で廊下を抜ける、3回成功で階段を上る)
触腕65%(回避可)の組み付きから逃げることができれば、次ラウンドも1行動可能。
また、KPCがいる場合、触手からの回避に失敗してもKPCの〈DEX*5〉に成功すれば、手を引かれて避けることが可能。しかしこれは、KPCが未行動の場合のみ行える。

 

触腕に組み付かれた時点で確定イベントに入る。
狙われるのはPCのみである。
※銀の簪でユキを攻撃した場合、組み付き成功値に-30%される。

 

1回目成功
あなたは急いで部屋を出る。
ゆるやかに、しかし重量感のある泥のような触手達が、壁にぶつかりながらもあなたの後を追った。

 

2回目成功
廊下に出る。
先程まではなかった、奥へと続く通路が現れていた。
通路にはいくつもの牢がある。

(ユキに銀の簪を使っておらず、また一度も組み付かれていない場合)
並んでいる牢屋の中の一つに、青痣だらけになったKPCが地に伏している。
気を失っているようだ。1R使えば助け出す事ができる。

 

3回目成功
→【出口に辿り着く】に移行

 

 

【鍵の発見】
ゾス・サイラの持つ鍵を発見しなければ、PC達はこの建物から出る事ができない。
6本の触手の中の一つに鍵が隠れている為、KPは1d6を振って、その中の何本目に鍵が入っているかを設定してほしい。
PCは何本目の触手を探すかを宣言した上で、〈DEX*5〉または〈目星〉を振り、成功すれば鍵の有無を判断できる。
鍵を見つけた場合は、宣言のみで鍵を奪うことが可能。
【鍵の発見】は【逃走ロール】と同時に行うことは出来ない。
※KPCと合流している場合は、KPCも【鍵の発見】の為のロールを行うことができる

 

【確定イベント(触腕に組み付かれた)】
あなたの体の上に大きな不定形の塊がのし掛かる。
四肢は青い触腕に絡め取られ、体内に飲み込まれた。
どこまでも青と緑が広がる肉の海の中。
溺れるような圧を感じる中で、あなたの着物は太い足達に引き裂かれていく。
抵抗することはできなかった。
感じるのは明確な死、圧迫により起こる呼吸困難のせいか、身を包む溝のような緑色の肉達が、チカリチカリと光って見えた。
天鵞絨の帳だ。
死にかけの魚のような息を吐き出すたびに、極彩色に包まれる。
強い蜜の香りが堪えるほどに臭っている。
ぬめる吸盤が、あなたの首筋を、胸を、腿の内を愛撫しては吸う。
気味の悪さと気持ちの良さが綯い交ぜになる。
脱がされた着物から見える自分の性器は勃起していた。
その性器に沿うように、化物の肉の房が開いた。
女の鮑のようにも見えるそれは、この化物の女性器なのだと混濁する意識の中で感じる。
触腕達に体を押され、潰されるように、性器が青緑の口に取りこまれていく。
肉の襞が自身のものに絡みついてくる。
縛り付けられ前後に体を揺すられながら、獣のような交尾は続く。
苦しくて苦しくて仕方がないのに、心地が良くて逃げられない。
恐ろしい。
意識が飛びかけたところで、眼前の触手が口を開いてあなたの頭を包み込んだ。
口内に触手を入れ込まれ、酸素を送られて、無理矢理意識を繋げられる。
このまま意識を飛ばせたなら、どれほど良かっただろう。
あなたはこのおぞましいまでに可逆的な蹂躙に、これまでにない快楽を感じていた。
興奮と抵抗、恐怖と陶酔。
柔らかい肉に全身を包まれ、圧迫されてあなたは絶頂する。
搾り取るように淫口が何度も何度も吸い付く。
それがまた心地良くて、同じ体勢のままで幾度も達してしまう。
HP2+1d3減少

(KPCと合流していない場合)
ここに居ることは出来ない。
逃げなければいけないのに。
彼女の腕がさらにこちらに伸びた時に、横から鋭く大きな刃物が割って入った。
眼の前でぶつりと飛んだ腕は、床に落ち、渦を巻いて泥になり、緑色の肉へと戻っていく。
「おい!大丈夫かPC!」
横を見ると、化物の肉を切り裂いて、見知った男があなたを見ていた。
彼に手を掴まれて、肉の房から引き摺り出される。
「逃げるぞ」


〈アイデア〉※鍵を発見しておらず、PLも鍵の在り処に気付いていない場合
出口の鍵は彼女は持っているのではないかと思える。

 

(KPCと合流している場合)
やっとことで厚い肉を切り裂けたのか、KPCが僅かに裂けた化物の内壁に腕を突っ込む。
彼に手を掴まれて、肉の房から引き摺り出される。
「しっかりしろPC、ここでヘバると死ぬぞ」
蛞蝓のように蠢く触手を背後に、あなたと彼はまた走り出す。

→【逃走ロール】【鍵の発見】フェーズに戻る。今後、女王による触腕による組み付きが成功した場合は1d4のHP減少


 

【出口に辿り着く】
階段を駆け上がり、出口の扉まで走る。
戸口を開けば勢いよく海水が流れ込んできた。
水圧に体が押し戻されそうになる。

〈知識1/2〉〈救助知識〉等
水中に飛び込む前に、息を吸い込むことで呼吸を持続させることが出来ると思い出す。

あなた達は逆らうように、魔物のような海へと飛び込んだ。
泥のような腐敗臭が体に染み込むようで、見渡した青黒色の世界には、魔物たちが漂っている。
それらをかき分けて、地上に微かに見える光へと浮上することだろう。
ここでKPは現時点でのPC、KPCの【特殊処理】㈠深海進行の値を開示する。


【浮上】
ここは深い海の底。地上まで泳いで上がるためには、〈水泳〉に3回成功する必要がある。
毎ラウンド水泳技能を振り、一人でも成功すれば二人で浮上を行ったことにできる。双方が成功した場合は2回分浮上できる。
続いて、ラウンド最後に溺れ・窒息ロールである〈CON*倍数〉を行う。
海水に飛び込む際に、息を吸い込むという宣言があった場合、〈CON*10〉スタート、
息を吸い込むという宣言がなかった場合、〈CON*6〉スタートとなる。
次ラウンドに回った際に、〈CON*倍数〉で掛けられる値は-1される。
〈CON*倍数〉に失敗した場合、探索者に1d3のダメージ。
進行が1つ進むたびに、水泳技能とCON対抗ロールに+10の補正が与えられる。
※この時点で女王はもう追ってこないので【逃走ロール】の処理は行わない

 

 


《以下エンド》
エンドA
ユキと夫婦になる


エンドB
ユキから逃れ地上に帰る

 

エンドC
ユキを殺して肉を食う約束をする

 

エンドD
触腕からの攻撃でHPが0になる

 

エンドE
両者とも浮上に失敗する


 

エンドA
・ユキと夫婦になる

「…ありがとう」
「私ね、お嫁さんになることが夢だったのよ」
「人だったときには誰にも愛なんて誓えなかったけれどね」

あなたは日に日に、地上での記憶を失っていくことだろう。
生まれた場所、家族、共に過ごした友人、そしてKPC。
すべてはどこか遠い夢のように感じる。
そのうちあなたの身体の鱗は徐々に増え始め、全身を覆うまでになるだろう。
人として生きた時間は、全て泡のように消えていく。
もはやこの場所で、あなたをあなたと認識してくれるのはユキしかいない。
しかし彼女はいつでも、あなたに微笑みかけてくれるだろう。
変わりない笑顔で、変わりない言葉で。
「おかえりなさい。あなた」

エンドA「入水心中」
探索者ロスト


 

エンドB
・ユキから逃れ地上に帰る

あなた達は、細やかな泡と飛沫を抜けて、暗澹とした海底から浮上する。
顔を上げて息を吸うと、酸素を伴った冷たい空気が入り込んでくる。
黒い油絵の具を広げた海は星を鏤めたように輝いていた。
夜光虫が漂い、海中を鮮やかに照らしているのだ。
岸までを導くように、進むべき道を照らしている。
やっと、あの空間から抜け出したのだと実感するだろう。
陸に上がると、冷たい風が吹き付ける。
暗い海岸には誰一人おらず、旅館までこのまま戻ることになる。

旅館に戻り、部屋の風呂に入った時に、刺青は溶け落ちて消えていった。
体にも傷跡は残っているものの、健康体であり、あの空間での変化は消えたようだった。

(PCまたはKPCの深海進行が5になっている場合)
ふとKPC(あるいは自分の体)を見れば、
顎から首にかけて、うっすらと切れ込みが入っている。
自分(相手)のものはすでに消えたのに、彼(自分)の鰓はそのままだ。
この変化は一生治ることがないのだろうと、あなたは直感する。
彼(あなた)の体は呪いを受けたのだった。


あなた達は二人共、眠りにつく。
あの場所での疲れは想像以上のもので、布団に入ってすぐに瞼は下りるだろう。

【翌日】
窓から差し込む光で目が覚める。
先に起きた相手が窓を開けたのだろう。雲のない空が見えて、ほんのりと潮の香りがした。
体には僅かな倦怠感が残っており、夢ではなかったのだと改めて感じる。
海の底で過ごした時間は約一日、今日はチェックアウトの日だ。
旅館の従業員に一日戻ってこなかったことの詫びをいれたり、帰宅の準備をしながら、朝の時間を慌ただしく過ごすだろう。
出掛けに、港近くでふと振り返る。
地獄への道連れなら、あなたがよかったわ。
潮風に紛れた声が聞こえた気がした。
あなた達は、海潮町を後にする。
海からは今でも彼らの声が聞こえるという。

 

エンドB「入水願い」

SAN報酬
生還した 2d10+5

後遺症:《怪物の血》
※深海進行が5まで行った場合
探索者は「緑の深淵の落とし子」の血が体に馴染んでしまう。傍目からは気が付かないが、鰓が生えていたり、体には鱗が残る。
特徴表4-9暗黒の祖先(D)に1d10追加。これは子供に遺伝する可能性がある。

 


エンドC
・ユキを殺して肉を食う約束をする

「…私、まだ女王として完全じゃないの。だから弱点がある」
「みぞおちに銀を取り込むと死んでしまうのよ」
「…台所に銀の簪があったと思うわ。それで殺して頂戴」
「一口でいいの……ちゃんと食べてね。食べないと呪ってやるんだから」
「私の肉を食べなさいな。愛しい人」

あなたは台所に向かい、銀の簪を手に取る。
鳳蝶が象られた美しい簪は、先が細く尖っている。
あなたが簪を持っていても、彼女は動揺する様子も、畏れる様子もなく、続けた。
「ここは暗い海の底よ。帰る時は気をつけて帰ってね」
そう言って、あなたの足首に口付ける。
「これで帰りは安全。お友達は外の牢にいるわ。あとで迎えに行ってあげて」

彼女は抵抗しなかった。
あなたがみぞおちに向かって刺すと、あっけなく死んだ。
「あなたは私のこいびとよ」
そう最後に言い残して。
事切れた彼女のはだけた衿の内からは、銀色の鍵が落ちた。
おそらく出口の鍵だろう。

(ユキの肉を食べる)
包丁で彼女の肉を切る。
人のそれを切ったことはなかったが、あなたは直感で理解するだろう。
彼女の体は明らかに、人ではなかった。
鋭い刃で切れ込みをいれた場所から、肉はやわらかにほどけていく。
血が出ることはなく、赤赤とした断面を見せてすっぱりと。
ゴトリ、という音だけが、死んだ生き物の命の重みを伝えてきた。
あなたは確かに、彼女を殺したのであった。
切り分けた肉を一口、運び、咀嚼する。
魚の白身のような味だが、脂が乗っており、今まで食べたどの肉とも魚ともつかないものだった。
唾液と共に飲み込めば、すんなり彼女はあなたの胃に収まる。
待っていたわ、待っていたの。
彼女の声が聞こえた。
それきりだった。

※ユキの肉を食べずに廊下に出ることもできますが、その場合重い後遺症が付与されます

 

銀色の鍵を手に取り、廊下に出る。
先程まではなかった、奥へと続く通路が現れていた。
通路に幾つも並んでいる牢屋の中の一つに、青痣だらけになったKPCが地に伏している。
気を失っているようだった。
あなたが助け起こせば目覚め、事の成り行きを聞くだろう。
怪我をしているが、命に別状はないようだった。
互いに無事を確認した後、階段を上がり、たったひとつの出口へ向かう。
鍵を使って扉を開ければ、海水が流れ込んできた。
水圧に体が押し戻されそうになるが、不思議と恐怖はない。
「息を吸って、飛び込んでくれ」
気づけばあなたはそう言っていた。

 

KPCの腕を取り、あなたは魔物のような海へと飛び込む。

深い海の底は泥のような腐敗臭がする。
見渡した青黒色の世界には、異形の魔物たちが漂っていた。
それらをかき分けて、地上に微かに見える光へと向かう。

細やかな泡と飛沫を抜けて、暗澹とした海底から浮上すれば、酸素を伴った冷たい空気が入り込んでくる。
黒い油絵の具を広げた海は星を鏤めたように輝いていた。
夜光虫が漂い、海中を鮮やかに照らしているのだ。
岸までを導くように、進むべき道を照らしている。
やっと、あの空間から抜け出したのだと実感するだろう。

 

陸に上がると、冷たい風が吹き付ける。
暗い海岸には誰一人おらず、旅館までこのまま戻ることになる。

旅館に戻り、部屋の風呂に入った時に、刺青は溶け落ちて消えていった。
体にも傷跡は残っているものの、健康体であり、あの空間での変化は消えたようだった。

 

(PCまたはKPCの深海進行が5になっている場合)
ふとKPC(あるいは自分の体)を見れば、
顎から首にかけて、うっすらと切れ込みが入っている。
自分(相手)のものはすでに消えたのに、彼(自分)の鰓はそのままだ。
この変化は一生治ることがないのだろうと、あなたは直感する。
彼(あなた)の体は呪いを受けたのだった。


あなた達は二人共、眠りにつく。
あの場所での疲れは想像以上のもので、布団に入ってすぐに瞼は下りるだろう。

 

【翌日】
窓から差し込む光で目が覚める。
先に起きた相手が窓を開けたのだろう。雲のない空が見えて、ほんのりと潮の香りがした。
体には僅かな倦怠感が残っており、夢ではなかったのだと改めて感じる。
海の底で過ごした時間は約一日、今日はチェックアウトの日だ。
旅館の従業員に一日戻ってこなかったことの詫びをいれたり、帰宅の準備をしながら、朝の時間を慌ただしく過ごすだろう。
出掛けに、港近くでふと振り返る。
声が聞こえたような気もしたが、誰のものかは分からなかった。
強く吹いた風の音は、何かを悼むような響きを持っていた。
風に押されるように、あなた達は海潮町を後にする。
海からは今でも彼らの声が聞こえるという。

 

エンドC「入水未遂」

SAN報酬
生還した 2d10+5

 

PC後遺症:《人魚の肉》
※ユキの肉を食べた場合
身体再生能力が異常に早くなる。ダメージを負った場合、1RにHP1回復する。
回復が追いつかないダメージを一度に受け、他者からの治療が間に合わなかった場合、膿のような泡となって消えてしまう。
これから一般的な医療現場で治療を行うことは困難になるだろう。
水泳に+20%。

 

PC後遺症:《人魚の呪い》
※ユキの肉を食べなかった場合
1セッションを行うごとに、幸運ロールを行い、失敗した場合はCON-1される。これは永続し、探索者のCONが0になった時点で呼吸が行えなくなり死亡する。

 

後遺症:《怪物の血》
※深海進行が5まで行った場合
探索者は「緑の深淵の落とし子」の血が体に馴染んでしまう。傍目からは気が付かないが、鰓が生えていたり、体には鱗が残る。
特徴表4-9暗黒の祖先(D)に1d10追加。これは子供に遺伝する可能性がある。
水泳に+20%。


 

エンドD
・触腕からの攻撃でHPが0になる

あなたの体を、触腕たちが捕らえる。
人一人を容易に絡め取れる触手の前では、あなたの持つ力など眇眇たるものだった。
抵抗も虚しく、みちみちと音を立てて、四肢が引き剥がされていく。
筋肉の繊維が切れ始め、残った神経のすべてが痛みを肉体へ訴える。
電気を脳に流し込まれ、さらにすりこぎで潰されていくようだ。
嗄れた喉を引き裂くような、声にならない叫びが漏れた。
すでに疲弊しきった肉体では、悲鳴さえ十分に上げられない。
体が軽くなる。開放されたのか、そう思いたかった。
最後に全方面から力を込められ、四肢が一気に引き抜かれていた。
意識がだんだんと遠くなる。
もう目覚めることはできないのだと、暗澹とした絶望だけがあなたを包んでいた。

 

エンドD「無理心中」
両者ロスト

 


エンドE
・両者とも浮上に失敗する

あなた達の息は完全に止まった。
肺を水が満たしていく。
手足の力が抜けていく。
薄れ行く意識の中で、相手の姿が見えた。
揺らめく髪だけが、この暗い海の中を漂っていた。
十分に足掻いた。ただ、あと少しで届かなかった。
今までの出来事が走馬灯のように流れる。
瞼が下りる。
時は止まる。
夏の終わり、心中した二人は、永遠に見つかることはない。

エンドE「夏の終わり、入水心中」
両者ロスト

 

19 トロ川.png

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