調子に乗って大コケしたあの商品や、思わぬ落とし穴にハマった巨大プロジェクトなど、どの会社も一つや二つは抱える「黒歴史」。「神田伯山のこれがわが社の黒歴史」は、そんな企業の黒歴史=苦労(くろう)の歴史を、人気講談師・神田伯山さんが語る異色経済番組。黒歴史を笑いに昇華しつつ、手痛い失敗から得られた教訓をあぶり出し、挑戦者たちにエールを送ります。
今回は、制作統括の伊東恵雄プロデューサーによる制作裏話とともに番組の見どころを紹介! さらに収録を終えたばかりの講談師・神田伯山さんに、番組についての感想をお聞きしました。
企業の黒歴史=苦労の歴史をひもとく
第1回は、1990年代、プレステ、セガサターンがしのぎを削るゲーム市場に挑んだ大手おもちゃメーカー・バンダイの黒歴史を振り返ります。
見どころポイント その1
講談師・神田伯山が企業の黒歴史を語る!
企業の手痛い失敗談を講談調で語るのは、6代目神田伯山さんです。臨場感あふれる伯山さんの語り口に、ぐいぐい引き込まれてしまうこと請け合い! 笑いあり、涙ありの「黒歴史」に、寄席を見ているかのような気分で没入してしまいます。
伊東Pの制作裏話
見るのをためらってしまうような堅い情報を、見たくなるような語り口で届けるというのがこの番組の趣旨です。そこで注目したのが、講談。どんな真面目な話も、講談なら思わず聞きたくなるだろうと。しかも世代を超えて人気を博す神田伯山さんなら、どんな話も「聞きたくなる物語」として語ってくださるはず。この番組は、伯山さんなくしては成り立たなかった番組とも言えますね。
見どころポイント その2
バンダイの“世界一売れなかった次世代ゲーム機”の秘話に迫る!
振り返るのは、大手おもちゃメーカー・バンダイが1996年に売り出したゲーム機「ピピンアットマーク」にまつわる失敗談。バンダイが米アップル社とタッグを組んで生まれた「ピピンアットマーク」は、テレビでインターネットができる“夢の次世代マルチメディア機”として売り出されました。ところが売上は一向に伸びず、270億円の損失を招く結果に…。番組では、徹底取材により明らかになった失敗の本質をも浮き彫りにします。
伊東Pの制作裏話
さまざまな会社の黒歴史を探る中で重視したのは、その会社が、黒歴史を振り返られる状態であるかどうかということ。今回でいうと、いま、バンダイさんの業績が好調であることが重要でした。成功につながる失敗だからこそ、そこから教訓を導いてこられる。大事なのは、失敗をネタにして笑うのではなく、その背後に隠されているチャレンジ精神を浮き彫りにすることです。「失敗を怖がらずに挑戦した、そのエネルギーを評価する」という視点を裏テーマに、番組を構成しました。
見どころポイント その3
再現Vで登場するのは、ガンプラ!?
黒歴史をひもとく再現VTRは、すべてガンプラのコマ撮り映像で演出! 一流クリエイターの手による“動くガンプラ”がストーリーを盛り上げます。
伊東Pの制作裏話
講談の魅力をそこねず、再現VTRを見せるにはどうすればいいのだろうと、かなり頭を悩ませました。人が演じるVTRだと、どうしてもそちらに意識を持っていかれるので、講談の妨げになってしまいますから。そこで、ブームになっているガンプラのコマ撮りに目をつけました。やってみると、グフやドムのプラモデルが、組織の中で一生懸命働くサラリーマンという役柄にピッタリはまって見えて。しかも表情が変わらないガンプラだからこそ、自然とそこに登場人物の心情を重ねられるんです。ぜひガンプラで描き出す“人間ドラマ”をご覧ください。
「失敗からどうやって立ち上がったのか、巻き返しの物語こそ見てほしい」(神田伯山)
「バンダイにこんな黒歴史があったなんて、全然知らなかった」と語る神田伯山さん。収録を終えてのご感想や番組の見どころをお聞きしました。
──収録を終えられてのご感想をお聞かせください。
おもしろかったですね~。なによりバンダイさんの黒歴史が、本当によくできているお話なんです。まさか世界中にエンターテインメントを届けている会社にこんな大失敗があったなんてと、驚きました。しかもいまは、その失敗を取り返して、業績は好調。いいこともあれば悪いこともあるもんですねぇ。私は「禍福は糾える縄の如し」や「人間万事塞翁が馬」ということばが大好きなのですが、そんなことばとも合致する番組だなと思いました。
とはいえ、失敗するということは、挑戦したということです。最近は、とかく失敗ばかりがクローズアップされがちですが、その後その人がどうやって立ち上がったのか、そんな巻き返しの物語こそがおもしろいと思います。逆にいえば、いくつもの失敗の末にガラッと大成功に逆転していく様っていうのも痛快ですしね。
──バンダイが、“世界で最も売れなかったゲーム機”を発売した過去があったとは驚きました。
私自身、ちょうどゲーム直撃世代なんですよ。子どものころは、とにかくファミコンやスーファミで夢中になって遊びました。1990年代に突入して、みんながソニーのプレーステーションに目移りする中で、「ファミコンにこれだけ楽しませてもらったんだから、任天堂を裏切るようなことはしないぞ!」というおかしな忠義心から、NINTENDO64をかたくなに待ち続けていた記憶もあります(笑)。
ですが、ちょうどその時期に「ピピンアットマーク」というゲーム機が発売されていたなんて、まったく知りませんでした。物語の中心で描かれるのは、クリエーターの宮河恭夫さん、営業マンの川口勝さんのお二人なのですが、当時の彼らと社長とのやり取りはもちろん、大失敗を乗り越えていま会社が順調であることも含めて、実によくできたストーリーなんです。ご覧になった方は、「俺も頑張ろうかな」という気持ちになれると思いますよ。
──伯山さんご自身が、宮河さんと川口さんに直接取材された映像も登場するそうですね。
そうなんです。印象に残っているのは、収録が終わったあとにお二人がぼそっと「おもしろい会社だよな、ここ」とつぶやいたこと。お二人の会社への愛情が伝わってきたんです。バンダイさんのすごいところは、大損失を出したお二人を切り捨てず、セカンドチャンスを与えたところです。そんな懐の大きなバンダイという会社が、お二人とも大好きなんだなあと。幼いころ、私が任天堂に思い入れがあったのと同じように、バンダイの製品を作り続けているお二人も自分の会社に愛着を感じていると知ることができて、よかったです。美しいなあと感じました。
──企業の歴史という堅くなりがちな話を、講談で語るというのも、番組の見どころですよね。
講談というのは、いま現在の視点から過去を振り返るという“振り返りの芸”なんですよ。今回の黒歴史について言えば、バンダイさんの黒歴史を、バンダイさんが隆盛を誇っている“いま”振り返るからこそ、そこにカタルシスが生まれると思うんです。そういう意味では、この番組でバンダイさんの黒歴史を振り返るタイミングも、ベストなのではないでしょうか。
──最後に、視聴者の皆さんにメッセージをお願いします!
あのバンダイさんの知られざる黒歴史を、私の語りとともに楽しんでいただければうれしいですね。また、バンダイにちなんで再現VTRをガンダムのプラモデルで描くなど、「本当にNHKの番組なんでしょうか」というような仕上がりになっています。多角的に楽しめる番組だと思いますので、ぜひご覧ください。
レギュラー番組への道「神田伯山のこれがわが社の黒歴史」
【放送予定】3月19日(金)[BSプレミアム]後11:15
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