女の子がムラムラしてはいけないの? イギリス文学における女と性欲

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まとめ

 中世から19世紀末頃までのイギリス文学における女性の性欲をかなりざっくり振り返りました。我々が考える「性欲」というものとその描写が非常にその時々の社会通念に左右されるものであることがなんとなくおわかりいただけたらいいなと思います。

 性的なものが溢れているように見える現代日本ですが、『ジャンプ』の巻頭挿絵や所謂ラッキースケベ表現などが流行しているところを見ると、我々はまだヴィクトリア朝人、しかもものすごく社会的に性欲を規定され、固定観念にとらわれたヴィクトリア朝人なのかもしれません。

 こういう状況は女性にとってはあまり良くないものだと思います。主体性を持って性欲を表現するのははしたない、慎ましくかつエロくないといけないというような規範が女性だけに適用されるのは不公平ですし、性欲も主体性もある女性を苦しめることになります。もしちょっと抑圧がキツいなと思ったら、女性の性欲をポジティブに描いた作品を手にとって読んでみてほしいと思います。イギリス文学にはクレオパトラとかロザリンドみたいな古株をはじめとして、いろいろなヒロインがあなたに読んでもらうのを待っていますよ。

※この記事では、戯曲及び聖ヒエロニムスの引用は全て文献リストにある英語版を自分で翻訳していますが、イアン・ワット『小説の勃興』は日本語訳を引用しています。

文献一覧

サラ・ウォーターズ『荊の城』全2巻、中村有希訳、東京創元社、2004。
ウィリアム・シェイクスピア『アントニーとクレオパトラ』小田島雄志訳、白水社、1983。
ウィリアム・シェイクスピア『新訳ハムレット』河合祥一郎訳、角川文庫、2003。
ウィリアム・シェイクスピア『新訳ロミオとジュリエット』河合祥一郎訳、角川文庫、2005。
ウィリアム・シェイクスピア『お気に召すまま』小田島雄志訳、白水社、2008。
リン・ハント編『ポルノグラフィの発明―猥褻と近代の起源、一五〇〇年から一八〇〇年へ』正岡和恵他訳、ありな書房、2008。
スティーヴン・マーカス『もう一つのヴィクトリア時代――性と享楽の英国裏面史』金塚貞文訳、中央公論社、1990。
サミュエル・リチャードソン『パミラ、あるいは淑徳の報い』原田範行訳、研究社、2011。
ミシェル・フーコー『性の歴史』全三巻、渡辺守章訳、新潮社、1986。
オスカー・ワイルド『サロメ・ウィンダミア卿夫人の扇』西村孝次訳、新潮文庫、1953。
イアン・ワット『小説の勃興』藤田永祐訳、南雲堂、1999。

Vern L. Bullough and James Brundage, ed., Handbook of Medieval Sexuality, Routledge, 2013.
Jerome, St., Against Jovinianus, The Principal Works of St. Jerome by St. Jerome, ed. by Philip Schaff, trans. By M. A. Freemantle, Christian Literature
Publishing Co., 1892, 563 – 662.
William Shakespeare, Antony and Cleopatra, Arden Shakespeare Third Series, ed. by John Wilders, Arden Shakespeare, 2006.
William Shakespeare, Hamlet, Arden Shakespeare Third Series, ed. by Ann Thompson and Neil Tayler, Arden Shakespeare, 2006.
William Shakespeare, Romeo and Juliet, Arden Shakespeare Third Series, ed. by Rene Weis, Arden Shakespeare, 2012.
William Shakespeare, As You Like It, Arden Shakespeare Third Series, ed. by Juliet Dusinberre, Arden Shakespeare, 2006.
Robert Palfrey Utter and Gwendolyn Bridges Needham, Pamela’s Daughters, The Macmillan Company, 1937.
Oscar Wilde, The Importance of Being Earnest and Other Plays, ed. by Peter Raby, Oxford University Press, 2008.
Pamela by Samuel Richardson’, British Library, 2017年7月23日閲覧。

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