コロナ禍で品薄となった不織布マスクの転売行為が問題となったことは記憶に新しい。背景は異なるが、ブームとなった『鬼滅の刃』関連商品も品薄となるものがあり、フリマサイトなどでは高額転売される事例もあった。こうした品薄に乗じて転売行為をする人たちは“転売ヤー”と呼ばれ、批判されることも多い。フリーライターの吉田みく氏が、そうした行為に手を染めた一人の男子大学生に話を聞いた。
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「罪悪感はありました。でもコロナ禍を生き抜くにはこれしかなかったんです」──都内在住の大学生、竹内紀彦さん(仮名・21歳)は、“ネクスト鬼滅”と呼ばれる作品の単行本や関連グッズの転売行為をしてしまったとカミングアウトしてくれた。
2020年は『鬼滅の刃』ブームで関連グッズも大ヒット。そして年末あたりから、目ざとい一部の人たちの間で『鬼滅の刃』に続くヒット作品を探し、その関連商品を安く仕入れ高く転売する行為が盛り上がっているという。人気が上がるほどフリマサイトでも単行本や関連グッズには高値が付くため、転売ヤーたちはアンテナを張って情報収集しているようだ。
「きっかけはコロナによるバイト先の営業短縮。シフトは大幅にカット。主に深夜帯に働いていたので、収入はガタ落ちです」(竹内さん、以下同)
実家を離れ一人暮らしをしながら大学へ通っている竹内さん。学費は奨学金、生活費はバイト代で賄っているという。母子家庭の決して裕福ではない家庭に育ったこともあり、自分の力で解決せざるを得ないそうだ。母は基礎疾患を持っているためコロナ重症化リスクがあり、実家に戻ることはできないという。
最初のうちは貯金を切り崩しながら当座をしのいでいたが、徐々に底をつき始める。バイトを変えようと思ったものの、求人が少なく厳しい状況。デリバリードライバーにも挑戦してみたが、ライバルが多すぎて思うように稼げなかったそうだ。そこで考えたのが、ネット上で話題になっていた人気漫画の関連グッズの転売だった。
「友人がSNSで『これは流行る!』と呟いているのを見たのがきっかけでした。フリマアプリを見てみると、単行本が定価以上で売買されていたんです。時間はたっぷりある、でもバイト先がない……、そんな僕にはこれしかないと思いました」
自分の行為が恥ずかしいとは思いつつも、生活するためにはと割り切りながら自転車で高額転売が期待できそうな商品を朝から晩まで探し回ったという。所持金がほとんどなかったので、“売れたら仕入れる”を繰り返したそうだ。竹内さんはそうした日々に「リアル自転車操業ですよね」と苦笑する。
竹内さんが目を付けた商品は、人気漫画の単行本と、キャラクターグッズが当たるくじ。単行本は定価の約2倍の1000円、1回650円のくじは当たるキャラクターによって価格が変動するものの、例えばタオル1枚に2000円近い価格がついたという。
「送料や手数料を考えると、1割ほどしか利益が出ないこともありました。何回かやっているうちに、自分の行動が情けなくなってきて……」
自分自身に迷いが出はじめた頃、母から一本の連絡が入ったという。
「僕の生活を心配してくれていました。この電話が来たことをきっかけに、転売はやめることにし、生活を立て直すことを決めたんです」
母との話し合いの結果、一旦実家へ戻ることを決めた竹内さん。基礎疾患持ちの母に迷惑をかけないよう、感染症対策をより一層意識した生活を送りたいと話していた。
2度目の緊急事態宣言が発令されるなど、新型コロナウイルスの終息はまだ先のように見える。竹内さんのケースのように、困窮している学生も多いはずだ。生活が苦しくなると、目先の利益に飛びつきたくなることもあるかもしれないが、一旦立ち止まって考え直してみてほしい。