性別、年齢、顔写真なぜ必要?「履歴書」見直しの動き広がる

 就職活動などで使う履歴書のあり方を見直す動きが広がっている。差別を生むとして性別や年齢、顔写真の欄をなくすよう求める声がNPO法人などから上がり、7月には多くの企業が使っていた日本産業規格(JIS)の履歴書の様式例が取り消された。企業側も新しい履歴書や採用のあり方を模索し始めている。

 「性別や年齢、外見は仕事の適正や能力と関係ないのになぜ必要なのか」。今月8日、履歴書の性別、年齢、写真欄をなくすことを求めてオンラインで署名活動を続けてきた4団体が合同で厚生労働省に署名を提出した。

 きっかけは2月、若者の労働や貧困問題に取り組むNPO法人「POSSE」が、心と体の性が一致しないトランスジェンダーの当事者とともに、履歴書の性別欄削除を求めて始めた署名だ。

 出生時の性別は女性で、現在は男性の佐藤悠祐さん(29)も当事者の一人。5年前に転職しようと企業の採用試験を受けた際、性別欄を記入せずに履歴書を提出した。だが面接会場で記入を迫られ、やむなく当時の戸籍上の性別だった「女性」に丸を付けた。面接では「なぜ男性用スーツを着ているのか」「(性別適合)手術は受けたのか」など佐藤さんの性のあり方に関する質問に終始した。「大勢の前でカミングアウトを強いられ、自己アピールもできなかった」と振り返る。

 その後、別の団体が3月に年齢欄を、9月には写真欄をなくそうとそれぞれ署名活動を始め、合わせて2万4千人分を超える署名が集まった。

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 海外では公正な選考を担保するため履歴書で性別や年齢、人種を問うことや顔写真の添付などを法律で禁じる国も少なくない。

 「公平公正に採用しているつもりでも、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)が働く」。写真欄の削除を求める署名活動の発起人の一人、NPO法人「マイフェイス・マイスタイル」の外川浩子代表はそう指摘する。外川さんは病気やけがによって外見にあざや変形などがある人が差別や偏見を受ける「見た目問題」の解消に取り組んでいる。

 例えば、生まれつき肌や体毛の色が薄い遺伝子疾患アルビノの人々は、「黒髪が常識」の就活では写真が不利に働く可能性がある。自身を撮影すること自体に強いストレスを感じ、履歴書が必要な求人に応募できない人もいるという。

 外川さんは「写真欄をなくすことは外見の症状がある人に限らず、すべての人が能力によって判断されるための第一歩だ」と強調する。年齢欄をなくす署名を始めた「年齢至上主義を考える会」の金子大輔さんも「年齢で門前払いされることなく、チャレンジできる社会にしたい」と訴える。

 こうした声を受け、日本規格協会は多くのメーカーが参考にするJISの履歴書の様式例を削除した。厚労省は新たな様式例について作成するかどうかも含めて検討中。文具大手のコクヨは今後、性別欄のない履歴書を販売する予定だ。

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 日用品大手「ユニリーバ・ジャパン」のヘアケアブランド「LUX」は1月、採用試験で審査を担当する会社員ら424人にアンケートを実施。4人に1人が「採用過程で男性と女性が平等に扱われていない」と回答し「写真の印象が採用に影響すると思う」と答えたのは44%に上った。

 こうした結果を踏まえ、同社は3月、採用試験の際に提出を求める応募書類について、性別欄や顔写真に加え、性別を想起させるとして下の名前も記入させることをやめた。容姿や性別が与える無意識の偏見を排除し、意欲と能力に焦点をあてて優秀な人材を確保するのが狙いだ。

 導入には「写真なしで本人確認できるのか」「応募者が減るのではないか」などの懸念もあったが、本人確認は電話番号などで代用。応募者数はむしろ増加したという。

 自治体も動きだした。福岡県は性的少数者への配慮として昨年秋の職員採用試験から受験申込書の性別欄を廃止。大分県や熊本市も性別の記入は任意項目に変更した。

 東洋大学の北村英哉教授(社会心理学)は「履歴書が変わっても面接で偏見に基づいた採用が行われたら問題は解決しない。誰もが無意識の偏見があると自覚し、多様な人材の活用など働き方全体を変えていくべきだ」と話している。 (新西ましほ)

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