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講義No.05274

人はなぜ「なつかしい」と感じるのか

なつかしいという感情は人間だけ?

 人は昔の出来事に触れると、なつかしいと感じます。そして、そのことをまるで追体験するかのように思い浮かべることもできます。例えば、小さいころ遊んだおもちゃを見つけて、「なつかしい」と当時の思い出に浸ったことはありませんか? 諸説ありますが、なつかしいという感情(ノスタルジア)や過去を思い返す能力は、ほかの動物にはない人間特有のものだと言われています。なつかしさは人間にとってどのような意味があるのでしょうか。

なつかしさを感じると気分がポジティブに

 心理学のある研究によると、人間がなつかしさを感じやすいのは少しネガティブな気分のときで、なつかしさを感じた後は逆に少しポジティブな気分に変わることがわかっています。また、なつかしいと感じるときは、ほかの人に支えられているという「社会的つながり」を感じる度合いが高くなるという結果もあります。つまり、なつかしさには気分をうまく調節したり、人との絆を深めたりする役割があるのです。

人間らしさを理解するカギ

 人間の記憶は、「エピソード記憶」と「意味記憶」に分類されます。エピソード記憶とは友だちと遊んだなど自分が過去に体験したことの記憶、意味記憶はものの名前など一般的な知識のことで、この2つは質的に異なるものです。なつかしさはエピソード記憶と関わっていて、人間の発達段階で比較的遅い4~5歳に獲得されることがわかっています。
 例えば、アルツハイマーなど認知症にかかり、脳の海馬と呼ばれる部分を損傷すると、このエピソード記憶がうまく呼び出せなくなります。ところが、そのような人にかつて好きだった音楽を聴かせるなどすると、いろいろな記憶が呼び覚まされ、元気になることがしばしばあります。なつかしさが刺激となるのではないかと考えられますが、そのメカニズムはまだよくわかっていません。人はなぜなつかしさを感じるのか、これを解き明かせば人間らしさの理解にまた一歩近づくことでしょう。


人生をささえる記憶:気づかない記憶の働き

夢ナビライブ2018 東京会場
記憶が評価にかかわる?
経験する自己と記憶する自己
なつかしさは感動すること!?
全編を視聴する(30分)
この学問が向いているかも 認知心理学

名古屋大学
情報学部 人間・社会情報学科 心理・認知科学系 教授
川口 潤 先生

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メッセージ

 人間の心を扱う心理学に、「認知心理学」という分野があります。その中で私は、記憶に関する研究を行っています。人間に記憶があるということは、人間らしさを保つ上で非常に重要です。物事を新しく記憶することも大事ですが、嫌なことを忘れたり、昔のことをなつかしく思い出したりするのも、人間にとって意味のあることなのです。人間の心には、不思議なことがまだまだたくさんあります。そうした「心の不思議」に興味を持つあなたを歓迎します。

先生の学問へのきっかけ

 高校時代「心理学は性格の相性を調べているのかな」くらいに思っていましたが、『数理心理学』という本に出会い、心理学が文系のイメージとはまったく違うことにショックを受けました。そして、「理系」の方法で「文系」のことを勉強できるという新しさを感じて、心理学を学ぶことにしたのです。その頃は、ちょうどコンピュータが普及しはじめ、認知科学、認知心理学が生まれた時代でした。コンピュータでメモリーが重要であるように、人間にとっても「記憶」は重要な機能であることから、記憶を専門に研究するようになりました。

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川口 潤 先生がいらっしゃる
名古屋大学に関心を持ったら

 名古屋大学は、研究と教育の創造的な活動を通じて、豊かな文化の構築と科学・技術の発展に貢献してきました。「創造的な研究によって真理を探究」することをめざします。また名古屋大学は、「勇気ある知識人」を育てることを理念としています。基礎技術を「ものづくり」に結実させ、そのための仕組みや制度である「ことづくり」を構想し、数々の世界的な学術と産業を生む「ひとづくり」に努める風土のもと、既存の権威にとらわれない自由・闊達で国際性に富んだ学風を特色としています。この学風の上に、未来を切り拓く人を育てます。