33: 正直、娘不足だ (別視点
シエルとキリアから離されて、ガルオだったかバカオだったか分からないが、筋肉隆々の厳つい男に腕を引かれている。
正直、気持ち悪い。
なんか、触られているところから腐っていきそうな気がする。
顔がキモイ、服装がキツい、喋り方がウザったい、性格も難ありだな。·····ん?いい所が1つも見つからないぞ。それはそれで凄いな。
はぁ、シエル達に会いたい。抱きしめたい。頬ずりしたい。頭を撫でて欲しい。名前を呼ばれたい。
あぁ、なんでいつも私だけ別行動になるんだっ!
あぁ、癒しがない。シエルとキリアの成分がっ!
·····もういいかな?まだ、ダメかな?
必死にシエル達のことを考えて、現実逃避をしていたが、グイグイと力加減を考えることもなく引っ張っていく男に現実逃避を邪魔される。
洞窟内の4つに分かれているのを1番左に進んでいく。
先程から、右の道から耳をつんざく様な絶叫と同じ声が聞こえてくるが、男は気にも止めていないようだ。
程なく進むと趣味の悪い部屋に着いた。
目が痛くなるようなキンキラな装飾の数々。一応配置などは考えられているようだが·····趣味が悪すぎる。
部屋の中央にキングサイズの天蓋付きベッドがある。そして·····部屋の隅にボロ雑巾のように投げ捨てられた女性の死体があった。
「おい!なんで片付けてねぇんだ!サッサと片付けろっ!雰囲気ぶち壊しじゃねぇか!」
部屋に入るなり、怒鳴り散らす男に顔が自然と顰めてしまう。
雰囲気も何も、こんな、さっきまでやってました!な臭いが籠っていて趣味の悪い部屋に雰囲気なんか無いだろ。
だっっっれもときめかねぇよ!
気づけよ!お前すげぇ趣味悪いぞ。服装も有り得ないし、それカッコイイと思ってるのか?
心の中で色々突っ込んでいる間に下っ端の男達が飛んできて女性の死体を担いで部屋から出ていった。
部屋の入口や付近に人の気配はないのを確認していたら、腕をグイッと引っ張られてベッドに投げ入れられた。
軽く身を捻り、衝撃を軽減させてベッドの上に寝転がった。
「待たせたなっ!ずっと静かだったが怖かったのか?大丈夫だぞっ!俺は気に入った女には優しいからな!まぁ、いつまで続くかは分からねぇがなっ!」
仰向けに寝転がったのは失敗だった。
ガッハハと笑う顔を下のアングルから見ることになってしまったし、奴の飛ばす唾がかかりそうになるし、首に一閃入れたら血がかかってしまうし、この位置自体失敗だったようだ。
「それにしても、いい体つきしてるじゃねぇかっ!大人しくしてりゃすぐ終わる。まぁ、優しくはできねぇがな。いいねぇ。艶とハリがある肌に豊満な胸、キュッとしたくびれ、スラッと伸びた手足·····縛りがいもありそうだ」
先程と言っていることが矛盾しているが、この男が屑であるとこは決定のようだ。
舐めるような視線を足先から頭にかけてねっとり滑らせてくる。それだけで、カーナの肌に鳥肌が立つ。
目が欲に塗れてギラギラしており、ニヤけた口で舌なめずりをしながら手を伸ばしてきた。
触れられる前にサッと移動して奴とは反対のベッドの縁に腰かける。
片膝を抱えながら出入口を見る。誰も近づいては来ていないことを確認して、どれくらい声が出たら4つに分かれた道のところに待機している3人の見張りが駆けつけてくるか考える。
先程、右の道から聞こえてきた声の気配は、分かれ道からそれ程離れていなかった。分かれ道から歩いてきた距離的に私と同じくらいの距離か·····そうすると、あまり叫ばれたり、暴れられると他の盗賊どもが来て面倒だな。
·····あぁ、シエルが、キリアが足りない。早く助けに行ってあげなきゃ、泣いてるかもしれん!
シエルが·····泣いてる?それはダメだ!早く行って抱きしめてあげなくてはっ!
「おいっ!お前っ!今、何した!!·····いや、待て、今のは気のせいだ。女が俺より早く動けるわけねぇ。女は俺にあったら恐怖で震えるか、媚びへつらうか、必死に逃げ出すくらいだ。珍しく反抗して敵対してきても、ちょっと躾てやったら泣きながら謝って、よがるくらいしか能がねぇ。女なんて俺の玩具でしかねぇんだよ。お前も俺に気に入られるよう今から必死に媚びれよっ!出来なきゃ、俺の手下共の玩具になっちまうぞ!ガッハハ」
ベッドに乗り上げて近づいてくる男が何やら騒いでいるが、こちとら緊急事態で直ぐにでもシエルのところへ行って抱きしめて泣き止まさなきゃならねぇんだよっ!
グワッと私に掴みかかろうとした男の片手を掴み、男が襲いかかってくる勢いを使って、さほど力も使わずに厚手の趣味悪い絨毯が引いてある床へ男を叩き落とす。
男の大柄な体格と体重、そして勢いよく床へ叩き落とされたことで大きな音と振動がした。背中からまともに落ちたはずだが、意識を狩るまでには至らなかったようだ。しかし、強打した背中は痛みが強いようで、顔を歪めて、手で背中を押さえながら立ち上がる。
これだけ騒いでも誰も駆けつけてこないってことは、大声も物音もいつも通りなのだろう。ただ、いつもの物音はガルガが女性を乱暴に扱っている音なだけで、今日は立場が逆転だな。
私の顔を見ると憎々しげに睨みつけており、顔を真っ赤に染めて血が頭に昇ったのか血管が浮き出てしまっている。
余程痛かったのか、馬鹿にしていた女に痛い反撃をされて怒っているのか、やられた時に反応もできず、受身なく背中を強打してしまった自分の不甲斐なさに怒っているのか、どれなんだろうか?
「お前っ!お前っ!おまえぇぇぇえ!俺を投げやがったなっ!もう、優しくなんてしてやらねぇ!縛り付けて、顔の原型がわからなくなるまで殴りながら犯してやるっ!泣いて許しを乞いても、止めてやらねぇからなっ!お前が壊れるまで、いや、壊れてからも死ぬまで手下共も使って犯し続けてやる!覚悟しろよっ!」
やられた自分への不甲斐なさなど微塵も感じていないのか、馬鹿にしていた女に痛い目に合わされたことがよほど気に入らなかったようだ。聞くに耐えない言葉の羅列が、男から発せられる。
声も態度も大きい割には、羅列される言葉のボキャブラリーが幼稚すぎて滑稽の一言だ。
一応、盗賊の頭をしているだけあり、怒っていても闇雲に突っ込んではこない。ただ、武器をチラつかせて恐怖を煽ろうとする演出に、呆れてしまうと同時に時間が無駄に感じて苛つきそのまま言葉として出てしまう。
「うるせぇっ!! こちとら娘達の所へ行って、泣いてる娘を泣き止ましてやらなきゃいけねぇんだ!お前みたいな悪趣味ナルシストの相手してるほど暇じゃねぇんだっ!」
「あ゛ぁ? 今からお前は俺に泣いて許しを乞うんだよっ!『逆らってごめんなさい。許してぇー!』ってなっ!自分以外のやつ気にしている暇なんてねぇぞ!
あっ!そうだ。そんなに娘が大事ってぇなら、娘連れてきて娘の前で犯してやるか。あー、いや。お前みたいなタイプは自分がやられるより大事にしてるもんを壊される方が効くんだよな。よしっ、決めた!お前を縛り付けて、お前の前で娘を犯し壊しでぇっ·····あ゛がっ·····グォッ」
「おい。
今·····なんて言った?シエルに手を出すとか言ってなかったか?聞き間違えじゃねぇよな?
·····殺すぞ?」
いきがって叫ぶ男が、触れては行けないところに触れてしまった。
ただでさえ、シエル達と引き離されて苛立っているカーナに、大事な子供達に手を出すと宣ってしまったのだ。
これはギルティ。ガーナの中でガルガの死刑·····極刑が決定した瞬間だった。
軽く出入口に向いていた体が、ガルガの言葉を聞いた瞬間にユラっと揺らめいて消えた。
一瞬のうちにガルガの目の前に現れたカーナが、ガルガの口を覆うように顎を掴むと殺気を滾らせながら言葉を発し、手に力を入れた。
「殺すぞ?」と言う言葉とガルガの顎からバギャッという音がなるのが同時だった。
ガルガの顎は砕かれ外され、血を滴らせて言葉が発せない哀れな状態になっていた。
カーナが手を離すとガルガが顎の近くに両手を置きながら、触ることも出来ず、痛みで涙を流しながら膝を着いて、叫んでいた。
「がァ!あ゛ァアぁ゛ァぁっ! ァガっ、アがガぁぁぁあっ!」
「うるせぇなぁ。
なぁ·····お前。 もう一度言ってみろよ。ほら、なんだっけ?私の娘をどうするって?」
ゆっくり上半身を屈めて、跪いているガルガの顔に顔を近づけて目線を合わせて聞く。
叫んでいたガルガが怒りと恐怖と困惑と色々な感情が目に現れているが、ブルブル震えて後ずさる姿には怒りよりも恐怖が強く出てしまっているようだ。
そんなガルガを気にせずにカーナは後ずさった分だけ歩を進めて近づいた。
「なぁ、答えてくれよ。私の娘を、私の前でどうするんだ?」
「あガッ、あ、ァ」
「あ゛ぁ?何言ってるか分かんねぇよ。ほら、言えよ」
パシパシと頬を軽く裏手で叩くと、ガルガは錯乱して近くに転がっていた大振りの湾曲した刀剣を掴み闇雲に振り回した。
そんな攻撃がカーナに当たるはずもなく、難なくバックステップで避けると、絶対零度の冷めた目でガルガを見ていた。
武器を手にして、カーナとの距離が空いたことで、余裕を少しだけ取り戻したガルガは、恐怖よりも怒りが増してきた。
痛てぇ!
絶対に殺してやるっ!俺を馬鹿にしやがって!
俺の顔を、俺のカッコイイ顔に傷つけやがって!
殺すっ!コロスっ!ぶっ殺すっ!
怒りが増幅して、痛みと感情の振り幅が大きすぎて身体に負担を強いたため肩で息をしながら、目の前の女を殺すため俯いていた顔を上げた。
しかし、目の前の女と目が合った瞬間、増幅した怒りよりも恐怖が体を覆って動けなくなってしまう。
ガルガは、目の前の女と目を合わせることを拒否したくてたまらなかった。あの目を見たくない。同じ空間にいたくない。できるだけ遠くに、あの女から、あの女の手が届く範囲から逃げたくてしょうがなくなる。
それは、カーナの発した殺気に対して、初めて感じる死への恐怖からだった。
だが、これまで体と運に恵まれ、自分より幾分も上の強敵に相対することがなかったガルガは、それが死への恐怖だと気づくことが出来ず、死を回避のために逃げ出すことも上手く出来なかった。
蛇に睨まれた蛙状態で、身動きひとつ取れず、折角手にした武器も自然と手から離してしまう。
──カランッと武器が床に落ちた音だけが虚しく鳴り響く。
無音の中、目線を外せず見つめ続け、冷や汗と脂汗で体がグッショリしても気にすることも出来ず、何十時間も経ったように感じた時、女がユラっと揺らめいて消え、その絶対零度の瞳が眼前に現れた瞬間 ───── 終わりを告げた。
ガルガの頸動脈を一瞬で絞めて意識を刈り取ると、倒れる巨体を支えることもせず避ける。
ドスンっと倒れたガルガの巨体を冷めた目で見つめて、サッと縛り上げていく。
殺すことなど容易かったが、これからシエル達を抱きしめに行くのだ。こんな男の返り血や臭いに汚されたら、可愛い我が子をギュッ抱きしめられないので、意識を刈り取ることにしたのだ。
顎を破壊した時に手に僅かに血が着いたが、部屋の隅に設置されている湧き水の台座で洗えば落ちる程度だ。
そもそも簡単に返り血などかかるわけがないが、あまり血を流しすぎると血の臭いが服や肌についてしまう。そういう臭いは洗っても直ぐには落ちてくれないのだ。
だから、今は殺さずに意識を刈り取る程度に納めたのだ。
シエル達と合流してギュッと抱きしめたら、サッサと奴らを皆殺しにしてクエストクリアするか·····
動けないように縛られた男の横で腕や腰などの柔軟をすると、手に真っ黒なダガーナイフを握り締め、天高く手を挙げると1人意気込んで出入口に進んでいった。
さっ!
シエル!キリア!泣かずに待っててねっ!
今から、お母さんが抱きしめに行くからねっ!
カーナさん·····待てができません(´∩ω∩`*)
まぁ、そのまま突っ走っちゃって!
しょうがないのよ。だってカーナは·····野生の狼だもの。
皆さん
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