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騙され裏切られ処刑された私が⋯⋯誰を信じられるというのでしょう? 【連載版】 作者:榊 万桜
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32:情報はありますでしょうか?


皆の空腹が少しだけ収まったところで、奴隷の女性達に声をかけてみた。

先程の応対で、話せはしないが言っていることは理解していると判断したことと、子供達よりは情報を持っていると考えたためだ。


「あなた達は何処から来たの?」


一生懸命、目ぶり手振りで教えようとしてくれているが、よく分からなかった。

私が理解してないと分かると、ソワソワと辺りを見回して、地面を見てハッとすると、ショートボブの女性が地面の砂を集めだした。ただ、掌を使って地面を滑らせて砂を集めだしたため、慌てて止めたが既に砂や地面の凹凸で小さな擦り傷がたくさん出来てしまっていた。


キリアさんが桶の近くに置いてあった盤を使って湧き水が溜まった桶から水を汲んできてくれた。

キリアさんにお礼を言いながら、その水に手持ちのハンカチを濡らして、手の傷を綺麗にしていく。

傷口が綺麗になったら、軽く包帯を巻いた。


ショートボブの女性の処置が終わると、先程盗賊たちに傷つけられていた女性にも腕や足の傷口を綺麗にしようと声をかけた。すると、慌てて自身の体を見回して申し訳なさそうな顔をして、キリアさんが持ってきてくれた盤を持って、湧き水の入った桶の元へ走って行き、服を脱いで勢いよく水を被ると布を使ってゴシゴシ洗い始めた。


その突然の行動に驚いてしまったが、直ぐにキリアさん達男性陣に女性を見ないよう、反対の壁を見ているように指示を出した。やせ細っていてボロボロになっていても妙齢の女性が裸になっているのだ。ロッジは良いとしても、ユシンとキリアさんは見てはダメだ。

ユシンは、慌てて行動しようとするが、それより早くリリとルルに目隠しされて強制的に反対を向かされていた。キリアさんは何事も無かったように目を瞑って反対を向いている。


女性は周りの目を気にする様子もなく、必死に体を洗っており、年下の男性だからと言うより、羞恥心自体がないように見える。私の前にいるショートボブの女性も男性陣に見ないよう指示を出す私を不思議そうに首を傾げて見つめていたのだ。

その様子に、この人達はこれまで、周りの者達から人として扱われてこなかったんだと容易に想像出来た。


先程、女性が自分の身体を見回して慌てて洗いに行ったのも、羞恥心からではなく、身体が汚れた状態で私の近くにいることで、叱られると思ったからだろう。

女性の目には明らかな怯えが見えたもの。


ここで下手に動くと女性達がより怯えてしまい、聞き出したいことも上手く聞き出せないかもしれないので、女性が気が済むまで放っておくことにした。


彼女が気が済むまでの間、私の前にいるショートボブの女性が先程何がしたかったのか聞くことにした。ショートボブの女性は少し考えて、何かを書く仕草をしたので、砂を集めて文字を書こうとしたのだと予想した。

しかし、ここの地面に文字を書くのはオススメ出来ない。

硬いし細かい凹凸もあるので、文字を書こうとすれば指を傷つけてしまう。

どうしようか考えて、読みかけの本をエプロンバックに入れていたことを思い出した。


ちょっとした休憩の時や夜眠る前に読み進めている本とメモ用の雑紙と愛用の魔石を使った万年筆を取り出した。

本を台座代わりにしたら雑紙に文字か書けるだろうと、文字を書きやすいように用意して、ショートボブの女性に万年筆を渡した。


女性は私の行動に驚いた顔をして恐縮してしまって万年筆を受け取らないので、優しく手を取り、強制的に万年筆を手渡した。


「色々教えて欲しいの。それを使って教えて貰えないかしら?」


優しく声をかけると、万年筆をジッと見つめた状態でだったが頷いてくれた。


「文字は書けますか?」


女性は少し迷ってから『はい』と雑紙に文字を書いて答えてくれた。それから色々質問をして、彼女の分かる範囲のことを教えてくれた。


彼女の返答は簡潔明瞭で分かりやすく、文字も綺麗で読みやすい。教養の高さが伺えたので、何処かの貴族やそれに類ずる家系出身なのかもしれない。

奴隷になった経緯などは答えたくなさそうだったので、聞かなかった。ただ、書かれた文はレザン帝国の公用語だったので、レザン帝国の出身であるようだ。


分かったことは以下の通りだ。


1. ここへは3ヶ月程前に報酬の一部として連れてこられたこと


2. ここへ連れてこられたのは女性奴隷5人とオーロ(ベビーピンクの髪をした6歳くらいの子供の呼び名らしい)だけだったこと。その内の3人は既に死亡しており、死体は盗賊達に弄ばれて魔物等を引き寄せる餌にされたようだ。


3. 報酬とはオーロの管理と実地での利用精度の測定、その始末と報告に対するものということ。


4. ここ3ヶ月、盗賊以外の者でこの拠点を訪れたの者はおらず、連れてこられたのは私達以外には、2ヶ月前に盗賊に捕まった女性冒険者のみということ。


5. オーロは、特殊なスキルを持っているようで、何処かの研究機関から連れてこられたこと。


6. オーロの特殊スキルは精神干渉のようなもので、魔力に影響されやすく、魔力抵抗力の低い子供のみに効果があるそうだ。その効果は対象者をオーロの傍に誘導するだけだということ。ただ、オーロの中身は2歳くらいだそうで、寂しがり屋で盗賊達に唆されて、村の子達と友達になろうと今回スキルを使ってしまったようだ。


7. その悲劇の実験場として選ばれたのが、あの村であそこにいる子供達だそうだ。


8. 3ヶ月後にオーロは始末され、今回の実験結果と新しい子供の奴隷達は、オーロを卸した者達に金と引き換えに引き渡される予定だということ。


以上がヴァネッサ(ショートボブの女性の名前だそうだ)から知り得た情報だった。

檻に入れられ、自由などない、そして死と隣合わせのこの状況下で、よくここまで詳しく情報を集められたことだ。


オーロのスキルに関しては自信なさげであったが、その他の情報は確かだと答えてくれた。


奴隷は、ひと目で奴隷と分かるように奴隷の首輪を付けられる。これは特殊な首輪で特定の人を認識し、その人にしか外すことが出来ないようになっている。無理に外そうとすると爆発して装着者の命を確実に奪うような陰湿な作りをしているのだ。奴隷の首輪は、外すことが困難だけでなく、逃走防止のための追跡機能が着いているため逃げることはほぼ不可能なのである。それ以外に行動を強制するものは無いが、首輪を付けられ、人としての尊厳を踏みにじられ続けることにより、殆どの人が逆らうことの無い従順な奴隷となってしまうようだ。


そんな従順な奴隷を悪用されないよう、首輪が認識する人数は3人に設定されており、うち2人は奴隷合法のレザン帝国の王族とマルリナ聖国にいる3名の枢機卿のうちの1人となっている。そして、3人目は奴隷を扱う奴隷商の商会長で、買われた時にその権限を購入した者に移すのだ。


マルリナ聖国は、広く一般に知られているルーメン教を国教としている。マルリナ聖国は、王族とルーメン教の教皇達により治められている国である。ただし、王族の多くが臣籍降下してルーメン教の司教や枢機卿、教皇となっており、政治と宗教が融合してしまっている国なのだ。

本来、マルリナ聖国は中立の立場であり、ルーメン教は世界を安寧と平和に満ちたものとすることが教えのはずだが、年々腐敗が増していると、きな臭い話を小耳に挟んだことがあるが、現状は不明だ。


まぁ、レザン帝国の王族のみでは奴隷を悪用するかもしれない。だから、ストッパー役として『悪しきものに屈せず、正しきことを行い、皆が安寧と平和を得られること』が教えのルーメン教の枢機卿達が首輪の認識設定に加わっているのよね。


なので、ヴァネッサの行動は違和感を感じた。今までの行動や表情からブランカ(肩の下くらいまである茶髪の女性の名前だそうだ)と同様に従順な奴隷のようであったのだが、それならどうして、ここまで奴らの情報を得ているのだ?

檻の中やガルガ等の相手をしている時に聞こえてくる情報だけでは、足りないし、確証も得られない。なのに、ヴァネッサはオーロのスキル以外のとこは確かな情報だと頷いたのだ。つまり、この情報達はヴァネッサが意図的に集めた情報であるという事だ。では、なんのために?


「ヴァネッサさん。どうしてあの人達の情報を集めたの?」


『情報は生き残るために必要不可欠なものです。彼らのことを知ることで子供達だけでも逃がせる機会があるかもしれない。

私達は首輪があるから逃げることが出来ないけど、あの子達はまだ首輪がないし、帰れる場所もある。どうにかして逃がしたかった』


情報を集めた意図を直接聞いてみた。

素直に聞いたら、答えてくれると思ったのだ。キリアさんが止めなかったし、ヴァネッサから嫌な感じがしなかったから。


ヴァネッサは、首を傾げながらスラスラと文字を書いていく。ただ、帰る場所と文字を書く時だけ少し悲しそうな顔をしているように見え、文字も弱々しく感じた。


ヴァネッサにとっての帰る場所とは何処だったのだろう?

奴隷としてここに連れてこられたことで、そこには帰れなくなってしまったのか、それとも、帰る場所そのものが無くなってしまったのか·····彼女が過去を話したくなさそうなのはそこにも関係あるのかもしれない。


ヴァネッサが顔を上げると優しく微笑んだ。


『あなたが来てくれてよかった。ここからあの子達を逃がせる方法を伝えられるから』


ヴァネッサ達は言葉が話せなくされているし、身振り手振りでは情報を伝えるのにも限界がある。また、言葉を話せても言語の違いであの子達には分からなかっただろう。

そんな中、私達がここに来たのは偶然だ。それでも、彼女からしたら奇跡の祝福に思えたのだろう。


そんな話をしていると体を洗って気が済んだブランカが戻ってきて、オーロの隣に座った。湧き水で洗った体が冷めたのか、ブルっと振るえ、それに対して心配したオーロがブランカを温めようと抱きしめていた。


そんな2人をみて、ヴァネッサが檻の奥に積まれている藁とそこに畳まれている布類から所々継ぎ接ぎされているブランケット持ってきて、2人を包んだ。

嬉しそうなオーロの頭を撫でると隣に座り、オーロはヴァネッサとブランカに挟まれて座るのが嬉しいようで、体がユラユラと揺れている。


そんな3人を見ているとガルガとか言うのに連れていかれたカーナさんが気になってしまった。


大丈夫かしら·····カーナさん。

あの男·····もし·····もし、カーナさんが少しでも傷つけられていたら。

·····殺す



カーナさんが心配で、要らぬ想像をして負の感情がフワッと漂ってしまった。

直ぐにキリアさんに抱き上げられて、膝に座らされたので、漂いそうだった負の感情(冷気)は霧散した。

だが、近くにいたヴァネッサ達は気づいたようで、顔を青ざめさせて2人でオーロを抱きしめており、オーロはそんな女性達のワンピースを握りしめている。軽く震えていたが、目が見えていたらキッと睨みつけていただろう雰囲気を醸し出していた。


「ごめんなさい。ちょっと母が気になってしまったの」


素直に謝ると、オーロの雰囲気も和らぎ、ヴァネッサも居住まいを正してくれた。

ブランカだけは、先程の光景が目に焼き付いているのか、青ざめた顔は元に戻らず、手が震え続けていた·····


こんばんは!

皆さん⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝

いつも本当にありがとうございます!

これからもよろしくお願いします☆°。⋆⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝

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