34: あれはカーナさんでしょうか?
「オーロ君とブランカさん、ヴァネッサさんはお互いを大切に思いあっているのね」
3人の仲の良い姿を見て自然と声が漏れた。
オーロは嬉しそうにユラユラ揺れて、ヴァネッサはそんなオーロの頭を優しく撫でている。先程まで、盗賊達のことを思い出して顔を青ざめさせていたブランカも、顔色が少し戻ってオーロを優しく見て微笑んでいた。
そんな3人を見て、隅で身を寄せあっていた子供達が近づいてきた。
私とヴァネッサのやり取りに気を使っていたのか、ヴァネッサとのやり取りの間、クウリがシエルのところへ行こうとするのをリリとルルが止めて、止められたクウリはブスっとしていたがリリとルルにあやされて2人の間に座り大人しくしていた。
そんな3人を見て、オロオロするロッジをユシンが膝に座らせて頭を撫でて一緒にクウリ達を見守っていたのだ。
私達が話し終えたのを雰囲気で感じとり、そろそろと近づいてきたようだ。
「話は終わったのか?」
「なんか難しい顔してたけど」
「何を話していたの?」
「ねぇ、ねぇ!シエルちゃんお話終わったの?お話終わったのなら、遊んでー!」
ユシンが声をかけてくると次々と話しかけられる。
クウリに至っては、リリとルルに手を繋がれていたが、ユシン達がシエルに話しかけている隙をつき、リリとルルの手をすり抜けて、シエルの背中に抱きついて構ってとばかりにじゃれてくる。
「あらっ、クゥ!」
「ダメよ。邪魔しちゃ」
リリとルルに窘められて「だってー」とブスくれて言いながらも、シエルの背中から離れようとしないクウリが可愛くて、自然と笑ってしまう。
干し果物をあげただけで、随分懐かれたようだ。
クウリの手を優しく外して向き合うと、手を外されたことがショックだったようで悲しそうに顔を俯かせてしまっていた。慌ててクウリを抱き上げて、いつもカーナさんがしてくれるように膝に乗せて頭を優しく撫でてあげる。
「クゥちゃん。私とお兄ちゃんが怖くないの?」
「なんでぇ?シエルちゃんもそこにいるお兄ちゃんもクゥたちに怖いことしないもん。だから、こわくないよ」
純粋な目でハッキリと言われてしまうと何も言えなくなってしまう。こんな場所で3ヶ月もの間、盗賊共による恐怖が続いていただろうに、こんな純粋な目ができるのは、周りの人達が一生懸命守っていたからだろう。そして、幼いながらクウリも分かっているのだろう。
年齢的に我儘を言う駄々期だろうに、リリやルル達の言うことをしっかり守り、また、怖がりで引っ込み思案のロッジを果敢に守っている様子も見られた。
ここでの3ヶ月で、無理やり心を成長させてしまったのだろう。歪んだ成長をしなかったことがせめてもの救いなのかもしれない。
ロッジも怖がりで引っ込み思案なのだろうけど、積極的で怖いもの知らずのクウリの突飛な行動にオロオロしながらも、ユシンの前から出てきて、こちらを見ており、クウリに何かあったら直ぐにでも助けに入りそうな様子が見られる。
本当に5人で支え合いお互いに守り合ったから、急激な成長を余儀なくされても歪むことがなかっただろう。
そして、ユシン達の反応を見るに、ヴァネッサ達が子供達を守ってきたことが伺える。
本来、ここに連れてこられる原因になったオーロに対して憎しみや不信感があってもよさそうだが、それも見当たらない。隠しているとかではなく、本当に信頼しているのが態度やまとう空気で分かる。
たぶん子供達を3ヶ月の間、できる範囲で守り続けて来たのだろう。そうでなければ、ここまで信頼を得ることはできていなかったはずだ。
不思議そうに首を傾げて、私を見るクウリの頭を優しく撫でて「ありがとう」と自然に言葉が出てきた。
キリアさんもクウリを優しい目で見ていて、そんなキリアさんを見てリリとルルが顔をほんのり染めて2人がユシンの服を掴むと行き良いよく話しかけている。
「大変よ。ユシン」
「シエルちゃんのお兄ちゃんはイケメンだわ」
「シエルちゃんもすっごく可愛いし」
「これは遺伝ね」
「リリもルルも落ち着け!」
ユシンが2人の肩に手を置いて宥めていると、キリアさんが檻の出入口に視線を向けて軽い溜息を吐いた。
「シエル。カーナは我慢できなかったようだ」
その言葉が聞こえた瞬間、微かな足音が近づいてくるのが聞こえてきた。
今まで和やかムードだったヴァネッサや子供達をは、一気に静かになりピリッとした空気が張り詰めたのを感じた。
私の膝に座っていたクウリも体を固めて、ヒシッと私の服を掴んで顔を私の体に埋めてきた。少し震えているので優しく背中をポンポンと叩いてあげた。
ブランカも青ざめて震えおり、隣にいるオーロを抱きしめていた。オーロはそんなブランカの背中を撫でてオロオロしていた。
足音は迷う感じも止まる様子もなく近付いてきて─────
足音の正体が姿を現した。
「シエル!キリア!無事か?」
軽く手を挙げて、幸せそうな満面の笑顔で近づいてくるカーナさん。
キリアさんがもう一度溜息を吐いて、やれやれと頭を軽く振っている。
ヴァネッサ達は理解できない状況に唖然としている。
クウリが顔を上げて、私越しにカーナさんをチラッと見ると、体の強ばりや震えが消えて、忙しそうにカーナさんとキリアさんの顔を何度も行き来している。
「まぁ、シエルちゃんのお母さん?」
「お兄ちゃんにそっくりね」
リリとルルがいち早く状況を理解して声をかけてくる。
ただ、どうして連れていかれたはずの母親が1人で檻まで来たのか分からなくて首を傾げてしまっている。
ユシンも傷などなく五体満足で、我が物顔で盗賊達の拠点内を闊歩するカーナに、意味不明と顔を出しながらも疑問を呈てしきた。
「どうやってここまで?貴方はシエル達のお母さんですよね」
「ん?ここまではシエルの気配を辿ってきたぞ」
「いえ、あの、聞きたいのはどうしてあなたがここに居るかなのですが·····」
「ここは盗賊達の拠点よ」
「盗賊達がいっぱい見張っているはず」
「あぁ、分かれ道で見張りしている3人なら、気を逸らした隙に見つからないように通り抜けてきたんだ。ん?この子達は·····」
「依頼の村の子達だよ」
「おぉ!良かった!無事だったのか」
カーナさんはいつも通りで、どうやってここまで誰にも見つからないように来れたのか詳しくは分からなかったが、カーナさんの言動から難しいことは無かったようだ。
カーナさんを上から下まで観察して、怪我がないことを確認できると安心して、肩を力が抜けた。
私は思っていた以上に、カーナさんのことが心配だったようだ。
子供達も無事であることを知ったカーナさんは嬉しそうに笑って、檻に近づいてきた。檻の扉を開けようとして鍵がかかっているのがわかり、面倒くさそうにして、足を振り上げた。
「おい、待てっ!」
キリアさんがすぐに止めたことで、「えー」と言いながらも振り上げていた足をおろしてくれたカーナさんは、ブツブツと文句を言っていた。
「シエルとキリアを抱きしめに来たのに、扉閉まってるとか嫌がらせか?やっぱりあの男もう少し痛い目見せた方が良かったか?でも、あれ以上アイツに構うのも面倒だったしな。シエルも泣いてないようだし、鍵でも奪いに行ってくるか」
独り言のように呟いて自己完結して、納得すると来た道を戻ろうとしたのを、すかさず止めるキリアさん。
いつもの行動を見て、少し和んでしまう自分がいた。
「おい、どこ行くつもりだ?」
「鍵取ってくる!」
「いや、待て。少しそこで待っててよ」
キリアさんに待てをされて、大人しく扉の近くで待つ姿は本当にワンコにしか見えない。
カーナさんとキリアさんのやり取りに翻弄されて、皆口をポカンと空けている。
そんなに口開けたままにしてたら、なにか入れたくなってしまうわ。
何かなかったかしら?
「シエル。シエルも大人しく待っててね」
皆のお口になにか入れたくなり、手持ちの食べ物を探そうとして·····まだ行動も取ってないのにキリアさんに止められた。
やはり私の考えていることは筒抜けのようだ。
大人しくクウリを膝に乗せたまま大人しく待っていると、キリアさんがヴァネッサさんに話しかけ、ヴァネッサさんは少し驚いてはいたが、直ぐキリアさんの質問に答えるため目の前の紙とペンを持った。
「ヴァネッサさんは、子供達を逃がそうとしてましたよね?」
『はい』
「逃がす方法の中に、あの扉を開けることも組み込まれていますよね」
キリアに聞かれて頷きながらブランカを見た。ブランカはキリアの質問を聞いてオーロに埋めていた顔を上げ、ヴァネッサを少し困ったように見つめた。
ヴァネッサが服から針金のようなものを取り出すとブランカに渡して、真剣な目で視線を合わせて頷いた。
ブランカは、掌に乗っている針金を見つめて、視線を子供達へ移した。
彼女達のやり取りを静かに見ていたユシン達が心配そうにブランカを見ている。
「やらなくても良いぞ。別の方法を考えるだけだ」
「大丈夫だよ。鍵を開けたことがバレたらって考えたら、誰だって怖いものね」
キリアが他の方法を考えながら、ブランカの行動を強制させなかった。シエルも穏やかな声でフォローを入れる。
ブランカは鍵を空けて、それを盗賊達にバレたらどんな事をされるか、下手したら死ぬより怖いことをされるのではないか、また、開けて逃げても盗賊達に捕まったら子供達が殺されるかもしれないなど考えが頭を巡っていた。
奴隷になってから今までの扱われ方で心も体を擦り切れそうになっていたのを、この檻の中の人達の優しさや温かさで少しずつ修復されてきていたのに、先程ガルガに無茶をされ盗賊達の欲にまみれた目で見つめられた恐怖でまた、心と体が擦り切れそうになっていたのだ。
でも·····ガルガに連れていかれたのに無傷で檻の前にいるカーナを見て、檻の中でも凛として隙なく立つキリアを見て、こんな奴隷にも目線を合わせ優しく接してくれるシエルを見て·····これがあの優しい子供達を逃がせる最後のチャンスなのではないかと思った。
そうしたから、震えていた体も怯えていた心も体を包んでいた恐怖も霧散して、目の前に見えた光の糸を掴むために針金を握り締め立ち上がり、檻の扉の前まで来れた。
檻の間から手を出し針金を器用に使って、30秒もかからず鍵を開けた。
空いた扉から入ってきたカーナは、扉を開けたブランカの頭を優しく撫でて「よく頑張ったな」と笑顔で声をかけていた。
ブランカは、光の糸を掴めたのだと安堵の息を吐き出したとともに、先程まで自由に動かせたはずの体が力を失って、ペタリと座り込んでしまった。
そんなブランカの様子にヴァネッサが駆け寄り、支えて起こそうとするが、力の抜けた体は普段より重く、元々痩せ細った女性には支えることも、ましてや抱き上げることも出来ない。それでも、一生懸命助けようとするヴァネッサにカーナが近付いて、ヴァネッサの肩をポンポンと叩きブランカから少し離れるように伝えた。ヴァネッサが少し離れるのを確認すると、軽々ブランカを抱き上げて、先程まで座っていたオーロの横に降ろしてあげていた。
ブランカは顔を真っ赤に染めて俯いてしまったが、ペコリと頭を下げてお礼をしていた。
「見た?ルル」
「見たよ。リリ」
「なんかこの家族·····」
「ジャンルの違う人たらしだよね」
リリとルルが、顔を寄せ合い何か囁いていたが、カーナ達には聞こえていなかった。ただ、2人の隣にいたユシンには聞こえたようで2人の頭を軽く叩きながら窘められ、そんな3人にロッジがオロオロしながらも、叩かれたリリとルルの頭を撫で撫でして慰めていた。
そんな子供達を他所に、カーナがシエルへと視線を向けると、クウリを膝に乗せているため座っているシエルが、クウリ共にカーナを見上げていた。
目が会った瞬間、カーナが崩れ落ちた。
キリア以外の皆がカーナの様子にビックリして、カーナを凝視している。
ヴァネッサが気遣って手を伸ばした瞬間、カーナがガバッと顔を上げたため、ビクッと手を引っ込めていた。
「かっ、可愛いぃぃぃっ!天使が天使を抱っこしてるっ!イイっ!可愛いっ!お揃いの服とか着せたい!今から買いにっ!痛っ!」
目をキラキラと、いや、ギラギラと輝かせて、騒ぐカーナをキリアがいつも通り頭を引っぱたいて強制的に黙らせる。
「カーナ、ここで騒ぐな。奴らが来るだろ」
「痛いじゃないかっ!最近酷くないか?絶対、気のせいじゃない!だって、叩かれる回数が増えたんだ!それに、大声なんか出てないだろっ!ちゃんと抑えたのに!」
「抑えてても、騒いでいたら奴らが来るだろうが」
「ぐっ!分かったよ。クエストが終わってからにする」
抗議するカーナにキリアは正論で淡々と返して、黙らせた。
カーナは、キリアの言い分に納得しながらもシエルとクウリの頭を優しく撫でて、相貌を崩していた。
カーナさん·····なんか嵐のようだわ
シエルは、カーナに頭を撫でられながら、そんなことを思い呆れていたが、カーナと合流出来たことが嬉しく、自然と笑っていた。それに、本人だけ気づいてはいなかった。
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