37: 寂しいな(別視点
ちょっとグロいシーンがあります。
ご注意くださいm(_ _)m
僕はいつもお母さんとお父さん、兄姉達の5人で楽しく仲良く生活をしていた。
お母さんたちが言うには僕はマイペースなんだって。
兄姉は、賢くて覚えが良いし、せいしん?とか言うのが大人だから、お父さんと一緒に狩りに行き始めている。
あの日は、朝起きたらお母さんしかいなくて、他の家族は狩りに出かけた後だった。お母さんも管理する地を見回る必要があるって言って、出かけちゃったんだ。
巣に1人でいるのがつまらなくて、お母さん達にダメって言われているのに1人で遊びに行っちゃったんだ。
いっぱい走って、いっぱい転げ回って、お母さんやお父さん達が使ってた魔法を見よう見まねで繰り出して遊んでいたら疲れちゃって、そのまま寝ちゃったんだ。
気づいたら見たこともない生き物達に周りを囲まれてるし、変な首輪を付けられてるしで、ビックリして逃げようとしたけど、首輪から真っ黒い手みたいな何かが出てきて、足を絡め取られて上手く逃げられなかったんだ。
変な生き物は、すっごい怒ってて、手に持ってる皮を薄く長く切った物で叩いてきたんだ。
毛並みが乱れ、軽く皮膚が削られて痛かったし、何故叩かれたか分からなくて、怖かった。
僕の他にも魔物やさっきの変な生き物と似たもの達が首輪と鎖で繋がれている。皆の目が濁ってて嫌な感じがした。
早くここから逃げたくて足掻くも·····首輪から出てくる変な真っ黒が僕を邪魔して逃げられなくするんだ。
日に何度も大柄の変な生き物達が来て、僕が入れられている檻を叩きながら「動けっ!」「吠えてみろっ!」「しっぽを触って媚びろ」「何も出来ない偽物フェンリル」「落ちこぼれ」とか意味分からないことを言ってくる。
いくら僕がマイペースで落ちこぼれでもフェンリルの誇りを捨てるほど落ちぶれてはいないつもりだ。
色々言ってくる変な生き物は人間と言うらしい。
人間の戯言を聞き入れるはずもなく、無視をすると鞭とか言うやつで叩いてくる。時には丸く太った頭頂に毛皮がない人間が来て、何かを言うと首輪にいる真っ黒が蠢き出して僕を縛り上げたり、僕の中に入ってこようとする。
最初は難なく抵抗できたが、ご飯もなく水もない、暴力と罵倒の嵐が続けば、体が弱ってくる。
最近では助けを呼ぶ遠吠えも喉がカラカラで声が出てない。
魔法を使おうにも首輪の真っ黒が邪魔してきて、上手く使えない。それに、この檻も魔法を使うのを邪魔してくるのだ。
ここから逃げられる想像がつかない。
それでも、いつかはチャンスが来ると体力を温存させていた。
そして、あの日·····チャンスが巡ってきた。
朝から檻の外が何時もよりザワついており、周りを見渡せば、他の檻の中にいる人間達がより目を濁らせ、頭を抱えてブツブツ呪詛を呟いていた。
これは何かがある。
下手には動かずに檻の中で大人しくして、チャンスが巡ってくるのを待った。
次々とどこかに連れていかれる人間や魔物達。
そして·····男達が数人近寄ってきて、大きな人間5人で僕の首輪に繋がっている鎖を掴んで軽く引っ張ってくる。
抵抗せずに体をフラつかせると、人間達がニヤニヤと気持ち悪く笑って僕を罵ってくる。
「おいおいおいっ!本当にフェンリルかよ?」
「ぎゃはは。見たか?ふらついてやがったぜ!」
「人間様に逆らう魔物は皆殺しちまえばいいのによォ」
「まっ!コイツらみたいな化け物のおかげで、俺達は贅沢できるんだっ!おいっ!化け物!良かったなぁ。使い道があってよ」
「こんな弱っちい偽物フェンリルを大金はたいて買おうってんだから金持ちの考えは分かんねぇーよなァ」
「おいっ、サッサと連れてかねぇーと此奴の番が来ちまうぜ!遅れたら親分にドヤされる」
「おっと、いけねぇ!おら!サッサと動けよ!化け物がっ!」
好き勝手騒いだ人間達が檻の鍵を開けた瞬間、足に力を入れて檻の扉に突進し檻の外へ出た。
いきなりの僕の行動に唖然としてつったている人間達を薙ぎ払い、邪魔できない位置まで離れると転移を行使した。
薙ぎ払った時に人間が構えようとしていた剣に足を切られてしまう。いつもなら切られることのない毛皮は魔力を通していないせいで防御が脆弱になっていた。痛む足を我慢しながら温存させていた魔力を転移に当てる。
真っ黒が邪魔をしてきたが、前にお母さんが実態のないハイレイスとか言う魔物を倒した時に使っていた魔法を真似て行使し抑えた。
何回か転移して、引き寄せられるようにあの泉に辿り着いたのだ。
力を使いすぎて倒れた体を起こすことも出来ず、霞む目で少し離れた場所にある優しい光を見つめる。
どうしてだろう?
あんなに酷いことをされても泣きごとを言わず、フェンリルとしての誇りを守ってきたのに·····
『助けて』
目から涙が溢れて、あの優しい光に助けを求めてしまった。
微かに出た声は離れた光に届くはずがないのに、光は一瞬で僕の前に現れた。
人間なのに不思議な匂いがするその子は、僕を首輪から助けてくれた。
それに、素敵な名前もくれて、一緒に居てくれるんだ!
今まで見た人間は区別がつかなかったが、優しい光を宿しているその子はすぐに覚えた。
何故か真っ黒な目と毛皮で隠しているが、本当は僕達フェンリルに似た綺麗な銀色の毛皮に、碧と緋色の違う色をした丸いお目目をしている。人間の美醜は分からないけど、この子が美しいのは分かるんだ!
名前はシエルって言うんだって。本当の名前は違うみたいだけど、良いんだ!だって、シエルが教えてくれた名前はシエルだもんね!
シエルと一緒にいる大人の雌とその子供の雄は、とっても似ている·····外見だけだけど。
大人の雌は、カーナって言うんだって!
黙っていると鋭さが出てカッコイイのに喋ると残念な感じがするのは何でかな?
カーナは明るくて、少し変だけど良い雌なのは分かる!
家族を大切にするのは良い雌の証拠だってお父さん言ってたもん!
カーナは少し変だけど、僕のことも大切にしてくれてる。ただ、僕の毛皮を狙うのは止めて欲しい。
強い雌にジッと見られると、背筋がゾワッてなって、せっかくシエルが毛繕いしてくれたのに毛が立っちゃうんだもん!
カーナの子供の雄はキリアって言うんだって!
カーナに似てるのに性格が全然違うんだ。
静かだし、時々気配が消えるんだよ。どこに行ってるのかな?
キリアは優しいお兄ちゃんみたいなんだよ!
いつも優しくシエルを見守っているし、そこに僕も加えてくれるんだ。優しいけど、怒ると怖いんだ!·····気をつけよう。
でもね、僕を撫でる手は優しくて、いつも欲しい時に撫でてくれるんだ。これって甘やかされてるのかな?
この3人とまだちょっとしか一緒にいないのに、ずっと一緒にいたみたいに和んじゃうし、甘えちゃうんだ。
でも、時々僕もお兄ちゃんになってシエルを守るんだ!
ずっと一緒に行動してるの!キリアからもよろしくって言われてるんだよ!凄いでしょっ!
それなのに·····
森を出て、近くの人間の巣に寄ったら、子供達が攫われちゃったんだって。
カーナとキリアは冒険者?とか言う何でも屋さんだから、そこの人間達を助けてあげるんだって!
これは僕もお手伝いしなきゃって、お母さんやお父さん達が使ってた魔法を思い出しながら、すぐに展開できるよう準備してたのにお留守番するように言ってきたんだ!
僕のシエルも参加するんだよ?なんで、僕はお留守番なの?
村を守るように言われたけど、必要ないよね?
巣は自分達の力で守るものなんだよ!
余所者が手を出すと怒られるんだ。だから一緒に行く!
一生懸命説得したら、許可がおりたよ!
一緒には行けないけど、影からシエル達を守るんだ!なんかカッコイイよね!
陰に隠れて、シエルたちの後を遠くから着いて行く。
それにしても·····さっきのはなんだったんだ?
ベタベタとカーナ達に触って、とっても不愉快だった。
もし、次に同じことしたら風魔法を使って切り刻んじゃおう!
足音もなく、一定の距離感を持ってシエル達に着いていく。
盗賊とかいう人間が何かを光らせていたので気になった。
シエルにはカーナ達が着いているし、ちょっと確認してこよう!
サッと走り出し、ちょっとすると3人の人間が魔物の毛皮を被って隠れていた。
筒状の何かを覗き見て、確認しながら頷いている。
何をしているのだろう?
と興味から近くまで忍び寄り、木の上に飛び乗った。
音もなく木の枝に飛び移ると、耳を軽く向けながら人間達の話を盗み聞く。
「おい、見たか?」
「見た見た!なんだありゃ!めちゃくそいい女じゃねぇーか!」
「なにっ!俺見てねぇーぞっ!くそっ!変われっ!」
「もう行っちまったよ。どうせ後で見れるんだし、いいじゃねぇか」
「何言ってんだよ!そんないい女が俺たちのところへ来る頃にゃ、ボロ雑巾じゃねぇかっ!」
「まぁ、ボスは女の扱いがひでぇからな」
「シっ!おい!誰かに聞かれたら大変だぞっ!気をつけろ!!」
「誰も聞いてねぇよ」
「分かんねぇだろっ。この間だって·····」
「·····あぁ、そうだったな。すまん、気をつける」
「いや、分かればいいんだ」
「それにしても·····暗がりだったが、顔は美人だな!それにあの体!ボンッキュッボンッだったぜ!」
「なにっ!くそっ!やっぱり見たかった!」
「あの胸を掴んで·····後ろから·····げへっ、げへへ」
「おい!キモイ笑い方してんじゃねぇーよ」
「おっと、すまん。ヨダレも出てたわ」
「うおっ!汚ぇなぁ」
·····なんか嫌だな。
コイツらの会話に出てくる女とはカーナのことだろう。
それにしても、人間の中にはコイツらみたいな気持ち悪いのが多くないか?
話しの内容の半分も理解できなかったが、気持ち悪いのはわかったぞっ!
コイツらの居場所も臭いも覚えたし、シエル達を追いかけよう。
·····ずっと一緒にいたからかな?ちょっと離れただけなのに寂しいなぁ。
このあとも、ここ以外に2箇所同じような気持ち悪い雄が魔物の毛皮を被って隠れていた。
あれれ?今のところ隠れてた人間達は全て気持ち悪かったぞ!
大丈夫なのかな?
種族的に嫌悪感を抱かせるスキルでも持ってるのかと疑っちゃったよ。でも、そうするとシエル達はコイツらと別の種族ってことかな?
人間にも種類があるんだなぁ。
そんなことを思いながら、シエル達の匂いを追って走っているとグランドウルフとオークが睨み合って縄張りの取り合いをしているのを発見した。
その少し離れたところでゴブリン達が漁夫の利を狙って待機していた。
木の枝の上から珍しい光景を見ていると、ふと、面白いことを思いついた。
猫のように目が弧をえがき、静かに笑って枝の上でタイミングを図る。
一触即発しそうな瞬間にグランドウルフとオークの間に飛び降りた。グランドウルフとオーク、そして少し離れた場所にいるゴブリン達は驚くもすぐに威嚇をし始める。
だが、その威嚇が弱々しい。
生後2ヶ月の子供といえどフェンリルなのだ、その実力差は歴然である。
本来なら喧嘩を売ることもなく、関わらないよう逃げに徹しないと命がない相手がいきなり目の前に現れたのだ。驚くなという方が酷である。
固まる魔物たちにコハクは圧を込めてひと鳴きする。
「ウォウ!」
すると、今までいがみ合っていたグランドウルフとオークが仲良く逃げ出した。
その魔物達をゴブリン達が待機している場所へ誘導していく。それに気づいたゴブリン達が「グギャッ!」と顔を強ばらせながら、回れ右をして逃げ惑う。
郡が乱れないよう左右に揺さぶりをかけながら、群れの横も走り調節していく。
必死に逃げる魔物達を上手く纏められ、思うように動かしていくのが楽しくて遊んでいると、シエルがよく使う察知魔法を感知した。
シエルが周りを把握するってことは、奴らを倒していいってことだよね?
と自問自答して「GO!」の合図だと勝手に受け取り、魔物の毛皮に隠れていた奴らを潰すことにした。
魔物の群れを上手く操り、コソコソと隠れている盗賊達はコハクという存在に気づくことなく、いきなり現れた魔物に蹂躙され死んでいく。
グランドウルフに噛み殺される者、オークに潰される者、ゴブリンに毒の付いた刃物で傷つけられ苦しみ殺される者など、様々な殺され方をした盗賊達が所々原型を保てていなかった。
3 対 約40だ。1匹1匹が弱くても数の暴力の前では圧倒的な力量差が無ければ負けるのは必須だ。
盗賊達は声を出すことも出来ずに、魔物の群れに呑まれて意味もわからず死んでいった。
グランドウルフ、オーク、ゴブリン達は、追いかけ回すだけで殺しに来ないフェンリルにより一層恐怖する。
まるで猫が狩りを覚えるために、わざと獲物を弄ぶように·····
何時でも殺せるのに、自分達が逃げ惑い、誘導されるまま人間を殺すのを冷静に観察しているのだ。
自分達に観察する魅力が無くなれば殺される。でも、魅力が無くならないようにするには、どうすればいいのか分からない。
出口の見えない暗闇を走っているようで、得体の知れない恐怖が襲う。それでも、生き残るために誘導されるまま必死に走るのだった。
なるほどっ!相手の動きを止めるには足を潰すといいのか!
ん?あれは毒かな?そっかぁ、毒を使うと力量が上の者にも勝てるのか!
すごいなぁ!狩りって頭を使うってお兄ちゃん言ってたけど、こういうことだったんだ!
魔物達が盗賊を襲撃しているのを観察しながら、感心してしまう。
僕は棍棒も刃物も持てないし、違う方法を考えなきゃっ!
今後、シエル達を守るためにも、もっともっと強くなって!
シエル達に褒めてもらうんだぁ!
いっぱい撫で撫でして欲しいなぁ·····
·····なんか·····寂しくなってきちゃった。
もういいかな?もう会いに行ってもいいよね?
うん!このまま、シエル達のところまで行こぉー
シエル!今から行くね!
おぉ!コハクちゃん!よく頑張りましたね⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝
1人は寂しいね(´・ω・`)
早く合流して欲しい!
皆さんこんばんは!
いつもコメント、ブックマーク
ありがとうございます(*´꒳`*)
皆さんの温かいコメントに癒され活力を頂いております!
今後も頑張りますので、応援よろしくお願いします☆°。⋆⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝