38: カーナさん達にはお説教が必要でしょうか?
子供達が手を繋いで生きる活力を漲らせ、カーナさん達を見上げて頭を下げてくる。
「ご迷惑をおかけすると思います。ですが、しっかりと貴方達について行きます。どうぞ、よろしくお願いします」
ユシンがしっかりした声で頼んでくる。それに、カーナさんは優しく笑いながらユシンの頭を撫でる。
「あぁ、任された!」
力強く頷きながら声を発するカーナさんに子供達が嬉しそうに笑ってお互いに顔を見あって決意を固めている。3ヶ月間恐怖の対象だった盗賊達の前に行くのだ緊張しないはずがない。カーナさんの言葉と態度に恐怖と緊張が和らぎ決意を固めることが出来たようで、強い光を称えた目をして前を見ている。そんな子供達を見て、ヴァネッサとブランカも決意を固めたようだ。守るべき存在を確かめるようにオーロを見て、その手を握り、しっかり前を向いた。
これから、眠っていない盗賊達がいる洞窟の外へと出るのだ。盗賊達に追いかけられ、襲われる可能性が高い中、計画を把握している年上組とヴァネッサ、ブランカがそれぞれ幼いクウリ達を連れて、先導するキリアさんから離れないよう面倒を見なくては行けない。カーナさんが殿を努めることになっているため、安全度は高いが必ずしも襲われない訳では無い。その事についても説明されており、何が起きたとしても文句はないと言っていた。皆分かっているのだ、これが最後のチャンスだと·····
洞窟内を列を作って歩く。
先導するキリアさんの後ろからリリとルルに挟まれて手を繋いでいるクウリ、ユシンと手を繋いでいるロッジ、ヴァネッサとブランカに挟まれて手を繋いでいるオーロ、シエルと続き、カーナが殿を努めている。
最初、シエルはリリかルルのどちらかと手を繋ぐ予定だったが、咄嗟の時に魔法を行使するのに邪魔になることを遠回しに説明・説得して、1人で歩くことになった。
カーナがシエルを抱き上げて殿を努めることをカーナ自身が提案したが、キリアに即座に却下され、シエルからも必要ないと拒否されてしまった。不貞腐れグズるカーナに代打案としてカーナの前をシエルが歩くことになったのだ。
なんとも反応しづらいやり取りである·····
洞窟の出口に向かって歩いていると、壁のそばで腕と足を縛られ眠っている盗賊達が転がっていた。
それを見て、ヴァネッサとブランカは顔を青ざめさせていたが、子供達は興味津々な感じで無様に転がっている盗賊達を眺めていた。
「なんか芋虫みたい」
「やだ、芋虫に失礼よ」
「狩の時に使ってる縛りと似てる。なるほど、ああいう風に縛ると抜け出せないのか·····」
リリとルルはかなり辛辣なことを言っていた。
ユシンは盗賊達を縛っている方法を見て、何やら感心しているようだった。
クウリは檻の外へ出れたことが嬉しいのかぴょんぴょんとスキップしそうな歩き方で盗賊達には見向きもしない。
ロッジは怖がっているかと思ったら、前を歩くクウリを見ていて盗賊達を見ていなかった。
·····なんか、この子達意外と逞しいわ。
そういえば、3ヶ月もこんな劣悪な環境下にいて、周りとの支え合い、助け合いがあったとしても精神的に来るものがあるはずなのに、今のところ問題は見当たらないわね。
もしかしたら、村の大人達より精神的に逞しいのかもしれないわね。
そんなことを考えながら進んでいると、キリアさんが右手を横に出して止まれの合図を送ってきたので皆で進行を止めた。
咄嗟に察知魔法を行使すると、盗賊達は先程感知した時とさほど変わりなく過ごしているようだ。ただ、察知に引っかかったコハクを確認して、つい声を上げてしまった。
「えっ?嘘でしょ?魔物も一緒だわっ!」
コハクは牧羊犬よろしく魔物達を追いかけ回して、見張りらしき盗賊達を狩っていたのだが、まさかこちらにまで魔物をけしかけるなんて思いもしなかったのだ。
先程、察知魔法を行使したあとは現実逃避よろしく察知魔法を切ってしまっていたし、それだけでなく、スタンピードを故意的に作るのを試そうと考えるカーナさん達を諌めたり、カーナさんに抱き絞め殺されそうになったりと大変だったのだ。
また、カーナさんがコハクがこっちに戻ってくると聞いた時も、ユシンからの質問に、家族愛が爆発したカーナさんの暴走を遮って止めたりと目まぐるしくて、再度察知魔法を行使するのを忘れてしまっていた。
そして、洞窟の外の盗賊達の状況を把握しようとして行使した察知魔法でコハクの現状況を知り、頭を抱えたくなった。
多分、カーナさんとキリアさんはコハクの行動を把握していて、あえてそのままにしていたのだろう。そうでなければ、洞窟の出口が見えてすぐの所で歩みを止めさせなかっただろう。盗賊達の状況を確認するために歩みを停めさせたとしたら、斥候としてキリアさんが動くか、私に察知魔法を行使するよう言うはずなのだ。
それもなく、歩みを停めさせてから今までジッとして動かないキリアさんを見れば、コハクが連れてくる魔物達の襲撃に巻き込まれないようにしているのだと分かる。
後ろにいるカーナさんを見れば、目をキラキラさせて興奮しているのが分かってしまった。
コハクに会った泉の時のような危険度が高い魔物もおらず、数もあの時より少ない。確実に対処出来てしまう規模のスタンピード擬きに、今後作戦に盛り込めないとしても(私が諌めて了承した時点でカーナさん達はやらない)興奮してしまうのは冒険者として魔物を狩るものの性なのか·····
それにしても·····対処できると分かっていても、盗賊達の殲滅に効率的だとしても、人が手を出していい領分ではないのだ。今回はフェンリルのコハクが起こしたもので、こちらに来る時には魔物達を解放するなり沈静化させると思っていたから、後で注意しようと思っていたのだ。
魔物を連れて洞窟の外にいる盗賊達の殲滅をしようとしていると分かっていたら、どんなことしても止めていたし、止められなかったのなら、ことが済むまで檻の中で待機させていた。
それを·····全て把握していて、私に止められると分かっていたから黙っていたのなら、カーナさん達にお説教が必要である。
「カーナさん、キリアさん」
にっこり笑って相手を見ながら名前を呼ぶと、2人とも「あっ、まずい」みたいな顔をして、カーナさんは笑って誤魔化そうとして、キリアさんはスイっと目を逸らした。
「·····後でお話があります」
今はお説教する時ではないので、何も言わず後でお話があると告げると、2人とも観念して項垂れてしまった。
反応の差はあるが、似たような反応を示す2人に思わず笑いそうになるが、反省しなくなるので、必死に表情筋を固めて何でもないようにすました。
「ふふふ。シエルは怒ると怖いのね」
「これは逆らえないわね」
そんなやりとりを見て、内容は分からず困惑している皆をよそに、シエルに怒られているのだと目ざとく気づいたリリとルルが笑っていた。
項垂れる2人をスルーして、子供達とヴァネッサ達にこれから起こることを怖がらせないように説明しようと向き合い声を出そうとしたら、タイミング悪く始まってしまった。
カタカタカタ·····と微かに地面が揺れだし、次第に揺れが大きくなっていく。それに呼応するかのように『グォウォォオ!』『ブギャァァア!』『グギャァッ!』と幾つか魔物らしきものの雄叫びが聞こえてきた。
それに合わせて「何が起こってるっ!」「おい!あれを見ろっ!」「武器を持てぇ!」「グッ!ボスに知らせをっ!」などと声と共に、何かと戦う音が響き渡る。中には叫び声もあり、盗賊達の走り回る音も聞こえてきた。
何が起きているのか分からない子供達も、洞窟の外でのことを音だけでも最悪な想像ができるのかガタガタと震えながら皆で集まって抱きしめあっている。先程までの穏やかな雰囲気も決意に満ちた顔も全て消えさり、皆顔を青ざめさせて不安を払拭させようと、少しでも安心を得ようと抱きしめ合っているのだ。中には声を殺して涙を流しながら震えている子もいる。声を出せば見つかると分かっているのだろう。
だから、止めさせたかったのに!
止めさせられないなら、音があまり聞こえてこない洞窟の奥の檻の中で待機させたかったのに!
皆の反応を見て、すぐさま風魔法を展開させて、防音防御の風の壁を行使させた。
外の音が聞こえなくなり、静まり返ったことが不思議だったのか、抱きしめ合っていた皆が顔をおずおずと上げて周りを見渡した。自分達の周りをうっすら白くなっている風が渦巻いて取り囲んでいることに気づき、驚き固まっている。
いつも冷静なキリアさんもあの時は、興奮のあまり冷静な判断にかけていたようで、皆の恐怖に染った様子を見て、正常に戻ったようだ。
後悔しているのかキリアさんの眉間のシワが深く刻まれて落ち込んでいた。カーナさんも申し訳なさそうに眉根を下げてシュンっとしている。
そんな顔をするならもっと考えてから行動しなさいっ!と、お説教しそうになるのを堪えて、2人をスルーし、驚き固まっている子供達とヴァネッサ達に向き合った。
「ごめんなさい。怖い思いをさせてしまったわね。もう大丈夫だから、安心して」
「な、何が起きてるんだ?」
「大丈夫なの?」
「本当に?」
「ふぇっ、ぐすっ、ほ、ほんとうに?」
「·····ひっ、ぐすっ」
ゆっくりと優しく声をかけると、驚き固まっていた顔が私の方へゆっくり向けられた。
ヴァネッサもブランカも声が出せないため、顔を青ざめさせながら口を動かそうとして、上手く動かせなかったのか、何が起きたのか分からず首を傾げているオーロを抱きしめて、真剣な目を向けている。
ユシンは困惑しながらも、状況を把握しようとして声を発した。それを皮切りにリリやルル達も声を出して、必死に聞いてくる。ロッジに至っては、口を手で押えて鳴き声を出さないよう必死に噛み殺している。
あまりの姿に心が痛くなり、皆が安心できるように優しく笑いかけながら大丈夫と伝える。
「大丈夫よ。この壁の中には盗賊も魔物も入ってこれないわ。コハクが私達を助けようと、ちょっとだけやんちゃをしちゃったみたいなの。怖がらせて、ごめんなさい」
しっかり皆の目を見て真摯に謝ると、安心したのか、納得出来たのか、皆の困惑が治まってきた。
「そうなのか。突然の事でびっくりしたんだ。こちらこそ、助けようとしてくれているのにちょっとした事で怖がって、ごめんな」
後頭部を掻きながら、罰が悪そうに眉根を下げて謝ってくるユシンに心が痛くなる。
いえっ!貴方たちは間違ってないわ!
あんないきなり、地響きに魔物の雄叫びや盗賊達の怒号が響いてきたら、誰だって怖いわよ!
怖がらない方が無理な話だわ。
それに、何も知らなかったら怖がるのが普通だし、最悪、パニックになってもおかしくない状況だったわ!
必死に恐怖と戦い、声を押し殺して一塊になる判断までしてくれた皆に感謝しかないわ。
皆の判断に感謝をしながら、今の状況を説明していく。
その間もカーナさん達はスルーだ。
もう少し反省しててくださいっ!
フェンリルのコハクが私達を助けようと周辺に住んでいる魔物達と共に、盗賊達を襲っているのだと伝え、私達の周りに展開した風の防壁内には魔物も盗賊も入ってこられないことを説明した。
本当は一定以上の強さを持つ者なら、風の防壁をこじ開けて入ってこれるのだが、察知魔法で把握した中にはそれだけの強さを持つものがいなかったので、入ってこれないと説明しておいた。その方が、皆の精神的に安心も増すと考えたからだ。
説明を聞き、外の音が聞こえないことで安心したのか、リリとルルの間にいたクウリが私の膝に座って抱きついてきた。
「ねぇねぇ。シエルちゃんは魔法使いなの?」
「うん、そうだよ。悪い奴らはここに入ってこれないから安心でしょ?」
「うん!クゥね、こわい音しないから、もうこわくないもん!泣かないもん!クゥ、偉い?」
「そうね。クゥちゃんは偉いわ」
「えへへ」
嬉しそうに笑いながら、足がぴょこぴょこ動かす姿が可愛らしい。すると、ロッジが腕で涙を拭っておずおずと近づいてきて、シエルの服の袖を掴んで座り込む。
「僕も·····僕も·····もう泣かない!僕でも·····クゥを·····みんなを、守れるかな?」
俯いていた顔を上げて、少し震える声で聞いてくる。
必死に勇気を出したのだろう。ここに来るまで、ロッジは誰かの後ろにいるか、年上組の誰かと一緒にいることが多かったのに、自身の足でそこから出て、私のところへ来たのだ。
その勇気を、クウリや皆を守りたいと不安になりながらも声をだした行動を、誰が否定できるのか。
「守れるよ。誰かを守ろうとする心があるのだから、こうして行動する力があるのだから·····ロッジの優しい心は皆を既に守っているよ」
優しく頭を撫でながら肯定する。
ロッジは、確かに臆病で引っ込み思案なところが見られるが、恐怖で押しつぶされそうな中、泣きながらも声を必死に押し殺して、怖い者に気づかれないようにしていた。あれは、盗賊や魔物に気づかれて襲われたら、年上組やヴァネッサ達が自分を庇って傷つくのを知っているからだろう。
それに、ユシン達のことをよく見ていて、心が傷つきそうな時や折れそうな時はすぐに駆け寄り抱きしめたり、寄り添ったりして必死に守ろうとしているのだ。
盗賊などの直接的な暴力には無力なのかもしれないが、精神的な部分を守ることは既にできているのだ。
まだ、身体ができていない幼い子供だ。これから、心も体も成長して行くのだ。どう成長するかは今後の努力次第だろう。
肯定されたロッジの目は強い光が灯り、自分の手を見つめるとギュッ握り、力強く頷いた。
「もっと·····強くなる!」
多分、ロッジはこれから正しく成長して、言葉通り皆を守れるほど強くなるのだろう。
成長したロッジを想像して自然と笑顔がこぼれた。
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