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騙され裏切られ処刑された私が⋯⋯誰を信じられるというのでしょう? 【連載版】 作者:榊 万桜
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51: 魔法石は美味しいのでしょうか?

《聖森の守り人》が出るのは次のお話です。

お付き合いいただけると嬉しいです。




 

 寝る準備も終え、テントから出ると焚き火の近くに座るカーナさんへおやすみを言うために近づいた。今日の見張りはカーナさんからのようで、焚き火で沸かしたお湯をコップに入れてのんびり飲んでいた。私が隣に座るといつの間に用意したのかちょうどいい温度の白湯が入ったコップを渡してくれた。


「明日もいっぱい歩くから、これ飲んで温まったら早めに寝るんだぞ」


「うん。いつもありがとう。おやすみなさい」


「あぁ、いい夢を……。か、可愛いぃぃ‼ 私の娘、可愛すぎるぅぅぅ‼」


 焚火と白湯で温まった体を休めるためテントに戻った。

 後ろからカーナさんの奇声が聞こえたが、いつものことなのでスルーした。


 最近スルー技術が向上しているような気がする今日この頃です。


 テントに入ると既にキリアさんは横になっており、私が寝る場所にはコハクがいつものように横になって私を待っていた。コハクのお腹に体を預けていつも寝る前にする魔法石作りを行う。


 体に流れる魔力をゆっくり循環させて手の中で凝縮させていく。全身にくまなく魔力を循環させる練習と上質な魔法石を作ることは魔力量の上昇にもつながる。それに魔法石はお金に返金もできるので一石二鳥どことか一石三鳥なのである。なら、多くの人が魔法石を作り市場が潤い過ぎて価値の低下につながるはずだ。しかし、そうなってはいない。

 それは世間一般に魔法石を作ることで魔力量が上昇することが知られていないのと、正しい魔法石の作り方が知られておらず、劣化品が正規品のように扱われていることが要因と考えられる。

 本来の魔法石と劣化品の魔法石に内包されている魔力量と質には歴然の差がある。それにより流通されている劣化品の魔法石は、付与できる魔法もその威力、継続力も脆弱で価格も安い。つまり買い取り価格も安く、魔力がある民の小遣い稼ぎとの認識なのだ。

 それに比べ、魔石は魔物のランクにより内包されている魔力量が変動し、それに合わせた価格となる。低ランクの魔物の魔石でも魔法石より高く取引されるため、魔法石作りに意欲を燃やすものおらず、必然的に魔法石作成は廃れていったのだと思う。


 私も古代語で書かれた魔法書に軽く載っていて偶然知ったのだ。魔力量が増える理由も詳しい方法についても何も書かれていなかったが、それを読んだ時から魔法石を作って研究するようになった。

 研究で分かったことは、普通に作る魔法石では魔力量が上昇しないということ。体内の隅々まで魔力を循環させ、自身の魔力を極限まで凝縮させて飴玉サイズの魔法石を作ることで魔力量がやっとわずかに上昇するのだ。


 動力に見合わないわずかな上昇だが、やらない手はない。

 私の体は小さく弱い。どう生きていくにしても、自衛できなければすぐに野垂れ死ぬ世の中だ。現実が甘くないことは嫌というほど理解しているつもりだ。だから、生き残るために私ができることは全力で取り組まなければいけない。

 まだルーシャル侯爵家にいた私は、魔力量を上昇させるため、上昇方法が分かった時から毎晩欠かさずに魔法石作りを行ってきた。

 極限まで魔力を凝縮させるのだ、身体的にも精神的にも疲れが来るので寝る前のルーティンとしている。作る魔法石は最大2つ。それ以上は負担が大きく何かあった時に動けなくなるので控えている。旅路で疲れていた最初のころは1つにしていたが、今は2つ作っている。


「んっ、今日もきれいに作れたわ。はい、コハクにあげる」


「わふっ!」


 掌にコロンっと転がる緋色と碧色の魔法石をコハクに差し出すと嬉しそうに口にくわえて飲み込んだ。もう見慣れた光景なのだが、最初は大騒ぎした。


 最初は私が作る魔法石を見て、クンクン嗅いでソワソワ体を揺すり、魔法石の前にお座りして上目使いで私を見上げて「キュン、キュン」鳴くのだ。何を意図しての行動か分からなくて困ってしまったが、チラチラと魔法石を見るので光物の収集癖でもあるのかなと思いあげたのだ。そしたら、先ほどと同じように口に含んでしまって私は慌てた。

 コハクの頬を両手ですくい上げ、「ペッしなさい! それは食べ物じゃないのよっ⁉ お腹を壊してしまうわっ‼」と必死に説得したが、コハクは嫌々と首を振り、渡さないと言うかのように素早くゴックンと飲んでしまったのだ。

 このままじゃお腹を壊しかもしれない、魔法石が何かと反応してコハクの体に害を与えるかもしれない、最悪死ぬかもしれないと思うと泣きそうで、必死に吐き出させようとコハクに縋りつく。


 コハクはまだ子供だったのだ。コハクの今までが、あまりに賢く思慮深かったのでそれを忘れてしまっていた。

 私は……なんて愚かなの。私の愚かさのせいでコハクが死ぬの?

 嫌っ‼ 嫌よ! どうすればいいの?


 少しパニックになってしまっていた私に一緒にテント内にいたカーナさんが呆れたようにコハクに声をかけた。


「おい、食い意地を張るなよ。シエルが驚いちゃってるじゃねぇか」


「わふ? っつ‼ キュワン」


 カーナさんの言葉に驚いたように私に振り返ったコハクが、私の顔に自身の顔を擦り付け、私が大好きな尻尾をお腹に巻き付けてきた。フワッモフな尻尾の感触にパニックも収まってきた。


「だ、大丈夫なの? お腹痛くない?」


「わふん‼」


 胸を張り「大丈夫だよ!」というように元気な鳴き声が聞こえた。

 ホッと胸を撫でおろしていると、カーナさんに頭を撫でられて説明された。私に向けられた顔は優しさにあふれていたのに、コハクに向けた顔は呆れかえっていた。


「シエル、大丈夫だ。神獣や魔物の中には魔石などを好んで食べるやつがいるから、コハクもそれだろう。よほど、シエルの魔法石が美味そうだったんだろうな。……涎垂れてたぞ」


「わふっ⁉」


「本当に? コハクは死んじゃったり……しない?」


 コハクとカーナさんが大丈夫だと言ってくれても心配で、カーナさんを見上げながら聞き返してしまった。


「あぁ、大丈夫だからそんな顔すんな。コハク、シエルにちゃんと謝れ」


「コハクは悪くないわっ! 私が何も考えずに魔法石をコハクにあげちゃったんだもの……」


 自信満々の笑顔を向けられて安心する。

 カーナさんはコハクが悪いと言ったが、あげたのは私なのだ。責任の所在は私にあるだろう。なのに、カーナさんはジトっとした目でコハクを見下ろし、コハクも申し訳なさそうな声を出す。


「おい」


「ワ、わふぅ」


 納得していない私にカーナさんは母親が子供に教えるように語り掛けてきて、納得できなかったことが少しだけ解消できた。


「シエル。コハクは確かに幼いが神獣だ。誇り高き神獣は生まれながら知能も高い。だから、危険なものや害あるものを簡単に口に入れたりしない。もし、口に入れ害があったとしても、それはコハク自身の責任だ。だから、シエルが自分を責めるべきじゃない。神獣に対しても失礼な行為になるぞ」


「……そうなの?」


「ワン‼」


 カーナさんの言葉を同意するように頷くコハクを見て、謝ることは自身の許されたいという欲求であり自己満足的な考えであると分かっても、言葉として出てしまう。自分の弱く醜い心が露出する。


「でも、ごめんなさい。自分勝手なのはわかるけど謝らせてほしいわ。それに、取り乱したりして……恥ずかしいわ」


「知らなかったんだ、慌てるなんて普通だろ。それも大切な家族が危険かもと思ったんだ。その行動は当然だ」


 そんな醜い心が露出している私にコハクは優しく寄り添ってくれ、カーナさんは私の心の弱く出てしまった行動を肯定してくれる。


「……当然」


「あぁ。私だって家族が危険にさらされてるって知ったら、慌てるし取り乱して、相手をすぐに殺してしまうかもしれないしな……すぐ殺すような慈悲を与えるなんてナンセンスだ」


「ふふふ、ありがとう」


 カーナさんが胸を張りながら言うものだから、笑ってしまった。

 なんか……最後の方に物騒な言葉が聞こえたが気のせいだと思う。


「ワンっ」


「コハク、私の作った魔法石は美味しいの? コハクの体に害はないの?」


「ワン‼」


「たぶんコハクにとって、シエルの魔法石はデザートみたいなものなんだろうな」


「デザート……なら、作ったらコハクにあげるね」


「わふっ‼ ワンワンっ‼」


 コハクの嬉しそうな声に視線を向けると、タイミングよく私の頬を舐めてくる。

 どうしてコハクは私が作った魔法石を食べたのだろう?と気になって聞くと、コハクは満足そうに頷き質問に答えてくれた。そこにカーナさんが補足説明してくれた。コハクも否定しないでいるところを見ると当たっているようだ。

 コハクが嬉しそうにしているのを見るのは癒されるし、私も嬉しい。それに、いつも私を助けてくれるコハクに、なにかお返しもしたかったのだ。私の作る魔法石なんかを気に入ってくれているなら、あげたいと思った。


「いいのか? あれだけの純度の魔法石は高く売れるぞ」


「いいの。毎日作るし、コハクが嬉しいならそれが一番だもの」


「……ずるい。でも、シエルが可愛いし、コハクも喜んでるから今回は我慢するか」


 カーナさんは気を使って声をかけてくれたが、魔法石をもらえることに喜んで尻尾を全開に振っているコハクを見て、自然と笑顔になって私の気持ちが言葉として出た。カーナさんが何か呟いたように感じたが何も聞こえなかったし、優しく笑ってコハクを見ていたので気のせいかと思った。


 ……なんてことがあり、今では魔法石を作ったらコハクにあげるまでがセットになっている。


 コハクは2つの魔石を飲み込んで満足したのか、私のお腹に尻尾を置いて目を閉じた。すぐに規則正しい寝息が聞こえ、あまりの寝入りの良さに笑ってしまう。


 いつも思うけど一瞬で眠るのね。

 ……明日にはサザリンに着く。

 あと少し、あと少しでこの国から出られる。

 最後まで気を引き締めなければ……私は絶対に逃げ切って見せる。


 コハクの体温を感じ、コハクとキリアさんの寝息を眠り歌に聞きながら私も眠りについた。


こんばんは!

いつもありがとうございます(*^-^*)

遅くなりましたが、やっとアップできました。

ちょっとした小話になってしまい、すみません(-_-;)


次は《聖森の守り人》の変人たちが出てきます!

よろしくお願いいたします('◇')ゞ

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