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騙され裏切られ処刑された私が⋯⋯誰を信じられるというのでしょう? 【連載版】 作者:榊 万桜
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52: 休んでていいのでしょうか?

 

 朝日が顔を出す時間に、いつも通り目が覚める。

 朝はまだ肌寒さがあり、いつもコハクの温かい毛皮に包まれた至福の場所から起き出すのが億劫になるが、一気に起き上がり未練を断ち切る。


 魔法鞄からタオルを取り出し、魔法で水を少量出してタオルに含ませ、眠気がいまだ付きまとう顔を拭いて強制的に目を覚ます。次に身だしなみを整えようと立ち上がり、テントの外が騒がしいことにやっと気づいた。

 何か緊急事態が起こったのかと思ったが、隣にいるコハクが大きく伸びをして、あくびをかいている姿を見て、緊急事態などではないのだと判断できた。眠気覚ましに隠蔽魔法を付与した察知魔法を行使しながら、身だしなみを整える。

 焚火の近くにキリアさんと相対する4人の人達を把握する。昨日、正座させられていた4人の冒険者だと当たりをつけて、慌てることなく手早く身支度を整える。

 身支度を整え終わり、テントから出ようとすると、後ろから抱きしめられてテント内に引き戻された。


「えっ!? ちょ、ちょっと、カーナさん! 危ないわ‼」


「シエルぅ、もう少し寝ようよ。寒いし、キリアも起こしに来てないだろ? もう少しゆっくりしよう?」


「……もう」


「へへへ、シエルは温かいなぁ」


 後ろから抱きしめられたまま、ゴロンと寝転がり、寝床に戻されてしまった。

 いきなりのことだったが、カーナさんに抱きかかえられることで守られ痛みはない。しかし、毎度されると困るので、一応注意をしたのだが、カーナさんはそんな声が聞こえていないのか、寝起きのトロンとした眼差しで腕の中にいる私を見下ろし懇願してくる。さながら捨て犬が『拾ってくださいワン』と言うかのような哀願漂う顔でだ……反則だと思う。


 寝起きで力が入っていないのか、抱きしめてくる腕の力はいつもより弱いが、逃げられない程度の力はある。

 逃げようと思えば逃げられそうだが、私を腕の中に閉じ込めて嬉しそうに柔らかな顔をしながら、甘えてくるカーナさんが可愛くて、怒れなくなってしまう。抵抗しない私に気をよくしたのか、私の肩口に額を擦り付けながら、二度寝を始めてしまった。そこに、起き上がっていたはずのコハクも加わり、私の背中側にぴったりくっついて二度寝をし始めてしまった。


 カーナさんとコハクに挟まれ、安心感と温かさで夢の世界へ旅立ちそうになるが、いまだにテントの外は騒がしい。


 キリアさん大丈夫かしら?

 カーナさんもコハクも外が騒がしいのに気付いているはずなのに、この反応なのは、あの4人に危険がないと判断したか、キリアさん1人で対処可能と判断したのか、どちらにしても危険はないのだろう。


 どうしよう……眠くな…る…


「……寝たか?」


「わぁーふっ」


 耳元でスースーと可愛らしい寝息が聞こえてくる。小声でコハクに問いかけると、あくびをかみ殺すように返事が返ってきたので、ゆっくり起き上がりシエルを覗き見る。

 あどけない寝顔に愛しさが増し、抱きしめたいのを必死に我慢して顔を背けながら立ち上がったカーナは、振り返らずテントの出口へ進みながらコハクに声をかける。


「もう少し、寝かせておいてくれ。……あいつら絞めてくる」


「グルゥ」


「あぁ、コハクの分も絞めてくるな」


 テントを出る前に一度振り返り、寝返りをうちコハクの胸に顔と体を預けるように眠っているシエルを見て、コハクに視線を向ける。シエルに向けていた慈愛に満ちた優しい眼差しは幻だったかのように、殺る気に満ち溢れた不機嫌さを隠しもしない鋭い眼差しにコハクも同様の目を向けて力強くうなずいた。





「本当にごめんね。気づいた時にはエマがいなくて…」


「ちょっとぉ、まるで私が悪いみたいじゃない。ちゃんと朝になるまで待ったもんっ!」


「もんっ! て、エマが言っても可愛くないから、いい歳してもんっはないわ。もんっは」


「アメリア、ひどいよぉ。そんなにもんっもんっ言ってないもんっ!」


「言ってるじゃねぇか」


「これはアメリアがもんっもんっ言うからつられたのぉ」


「私のせいにしないの。それに、エマが私たちに隠れてここに来たことは間違えないでしょう。私たちはエマの暴走に慣れているから今更だけど……彼には迷惑かけたんだから、謝りなさいね」


「えぇ、私ちゃんと朝日がるまで待ったよぉ」


「エマ、朝日が出てすぐにお伺いするには失礼なんだよ。彼らにも準備があるんだから、もう少しゆっくり行くのが正しいんだからね?」


「でもぉ……」


 テントを出ると、焚火の近くで昨日の4人グループの冒険者《聖森の守り人》が騒いでいた。キリアは不機嫌さMAXを隠すことなく、奴らに向ける視線と身にまとう気配に出していた。それに、気づいているのか、気づいていても気にしないのか、騒ぎ続ける奴らだけに殺気を放つ。


 うるせぇんだよ! シエルが起きたらどうしてくれるっ‼


 テント内にいるシエルを起こさないよう声を出さずに、心の声を殺気に変換して奴らだけに放ったところ思いが届いたようだ。一気に静かになって4人仲良く正座をしてうつむいている。


「はぁ。カーナ、シエルは?」


「コハクと一緒に寝ているよ」


 今まで無表情で不機嫌さMAXを醸し出していた気配が霧散させ、溜息を吐きつつも、いの一番にシエルの様子を聞いてくるあたり、キリアも随分過保護になったものだ。

 その間も静かに正座をしている4人へ顔を向ける。


「で? なんでここにいるんだ?」


「ごめん。目を離した隙にエマが暴走した」


「ちゃんと日の出を待ったよぉ」


「「「エマは黙ってろっ‼」」」


「酷いぃぃ」


 何だろう……昨日も同じ光景を見た気がするんだが、気のせいか?


「日の出後に来いって言ったけど……日の出直ぐに来るなよ」


「ごめん。エマには明日、日が出てから皆で伺うことを言っていたんだが……待ちきれなかったようなんだ」


「うぅ、ごめんなさい。早く会いたかったのぉ」


 エマの気の強そうに見える目と眉がシュンと下がり、見た目と違って素直に謝ってくる。その姿を見て、エマに悪気があったわけではないことを理解しているキリアは、ちゃんと反省をしているなら後の面倒ごとはカーナに任せようと動き出す。もとはといえば、明日の朝に来いと言ったカーナにも責任があるのだし、その責任を取ってもらおうと考えたようだ。


「はぁ、カーナ。俺は朝食の用意するから、そっちよろしく」


 キリアは、テント内に朝食の材料を取りに行ってしまった。


 えぇ、こいつらの相手するの面倒なんだけど……はぁ、しょうがないか。

 ちゃんと躾しておかないとシエルが危ない目に合いそうだし……


 面倒なのを隠しもしない表情で、《聖森の守り人》を見る。


「なぁ、何度も何度も面倒なんだよ。1回でちゃんと覚えろ。私たちに迷惑をかけるな。いいな?特にそこのお前っ!」


「ふぇ、何で私だけ指さされるのぉ」


「「「いや、お前しかいないだろ」」」


 カーナに指さされたエマの悲痛の嘆きに、他のメンバーが呆れかえった顔でエマを見ながら呟いた。


「はぁ、とにかく。次、また私たちに迷惑かけてみろ。その首撥ね飛ばすからな」


「「「はいっ‼」」」


 リーダーのアイラト以外のメンバーは、強者のオーラを滲ませたカーナの言葉が本気であることを悟り、エマとアメリアに至っては少し涙目でピンッと背筋を伸ばして力強い返事をした。

 アイラトは申し訳なさそうに笑いながら謝ってくる。


「昨日に続き今日まで、本当にごめん」


「そう思うなら、そいつちゃんとコントロール下に置いておけ。いつかもっと面倒ごとに巻き込まれぞ」


 腕を組んで睨みつけてくるカーナに怯むことなく話すことからも、アイラトもカーナと同レベルの強者なのが見てとれる。ニコニコ笑うアイラトにカーナも毒気が抜けて溜息が漏れ出る。


「ははっ、肝に銘じておくよ。でも、あの自由さに救われることもあるんだ」


「はぁ、ならもっとしっかり守れよ」


「そうする」


 そんな2人を尻目に、他の3人が小声で話す。


「うわぁ。あの人、強いと分かっていたけどぉ、アイラトと同じくらいの強さだよね」


「ほんと、うちのリーダーも化け物だけど、あの人も化け物並みだわ。あの殺気、ほんとに首に刃が当てられているように感じたもの。……でも」


「ほんと、俺も一瞬死んだかと思ったぜ。やべぇ人だな。リーダーと同レベ、化け物だな。……だけど」


 青紫色の髪に青花色の瞳の見た目おっとり系お姉さんのアメリアは、その見た目に反し慎ましい胸の前で両手を組み、青花色の瞳を潤ませ恍惚しているかのように呟く。

 同じタイミングで、茶色の短髪に紅色の瞳の見た目厳格な騎士のローワンは、長身で筋肉質な体を震わせ、紅色の瞳に怪しい光を灯し、乾いた薄い唇を潤すかのように一嘗めして呟く。


「イケ女のあの強い眼差し…ゾクゾクするわ」


「あの強さ……一度殺り合いてぇな」


 そんな2人の姿を両手に顔を乗せながら眺めていたエマは、心からの言葉を呟いた。


「私……2人よりはまともだと思うよぉ」


「あら、何言ってるの。私は迷惑かけないよう鑑賞するだけで我慢しているもの。ただ……あのイケメンとイケ女が罵ってくれるなら、喜んで跪つくわ」


「おい、何言ってやがる。俺は誰彼構わず、突撃なんてしなぜ。ちゃんと相手の了承得てから、殺り合うんだからよぉ」


 エマの心からの呟きを耳聡く聞いていたアメリアとローワンに同時に責められたエマは、マジの泣きが入った。

 確かに、アメリアもローワンもあの姿をあまり他人へさらけ出すことはないが、メンバー内ではあの姿が常時であるため、エマ的には自分より2人の方が変人だと思ってしまうのだ。


「ふえぇ……絶対私の方がまともだよぉ」


「どっちもどっちだろ」


 3人が油断して話している後ろに立ち、呆れた顔を隠しもしないカーナが立っていた。


「ほぅ……ご褒美だわ」


 カーナの呆れた冷たい視線に、3人で話して気が緩んでいたアメリアがポソッと誰にも聞こえないような小声で心の声が出てしまった。内緒話するように話していたためお互いの距離が近かったせいで、エマとローワンにはアメリアの呟きが聞こえていた。しかし、カーナとは少し離れているため、聞こえなかっただろうと安心していたのだが……


「……お、おぉう。アイラト、サッサと連れて帰れっ! 朝食食べて出発の準備を軽くしてから来い。こっちも用意しなくちゃいけないんだ。次はタイミング間違えんなよ」


 寒さを耐えるように腕を摩りながら、カーナの後ろで成り行きを見ていたアイラトへ振り返り、サッサと帰れと慌てるようなカーナの姿にアメリアの呟きは確実に聞こえていたのだと判断できた。

 アイラトは笑いを我慢するかのように、口に手を当て軽く顔を背けながら、エマたちを自身の野営地へ戻るように声をかける。


「気を付けるね。さっ! 一度戻ってご飯でも食べよう。さっきは焦ってここへ来てしまったから、テントや荷物も気になるし……」


「! あうぅぅ、ごめんなさい」


「ふっ、いいから行くよ。皆もね」


「「「はぁい」」」


 アイラトの言葉にやっと、自分たちの野営地に荷物やテントの管理をするものが誰もいない無防備な状態であることを思い出した。

 エマは自分の勝手な行動のせいで荷物やテントに何かあったらどうしようと焦りながら皆に謝った。

 メンバーは、エマの素直なところを好ましく思っており、エマの暴走は謝罪までが一つの流れなので慣れたものだ。

 アイラトは、シュンとしているエマの頭を撫でながら、皆を促して自分たちの野営地へ戻っていった。


 嵐のような時間だった……

 できれば、あいつらが次に来るときは落ち着いた状態で会いたいものだ、お互いに。


 そう思いながら、朝食の準備をしているキリアのもとへ戻り、一緒に朝食の準備をチャッチャか終わらせた。シエルを起こしに行くために‼


こんばんは‼

いつも読んでいただきありがとうございます。

今後も頑張りますので、よろしくお願いいたします( *´艸`)


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