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騙され裏切られ処刑された私が⋯⋯誰を信じられるというのでしょう? 【連載版】 作者:榊 万桜
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49: 野営地は人が多いのでしょうか?


 予定していた野営地に着いた。


 大街道の横に大地がむき出しになった広場が今回の野営地だそうだ。野営をする人が踏みしめて自然と大地が剥き出しとなり、ならされた広場だそうだ。


 既に、大きな商隊が広場の中央に陣取り、その少し離れた周りを何組かの冒険者達が野営の準備をしていた。


 大きな商会などが中央に野営を組み、その周りを冒険者や旅人が野営を組むのが基本だそうだ。

 中央に野営を組んだところは、火を絶やさずに燃やすことが暗黙のルールとしてあり、今も商隊の人達が焚き火を焚いている。


 大きな商会は、それ相応の実力を持った護衛を複数人連れており、その護衛達が警戒していることが周りに野営している人達の精神的安静に繋がっているようで、1番安全である中央に野営を組むことに異論はないそうだ。それに、魔物や盗賊などに襲われた際は、腕利きの護衛人の数名が手助けしてくれることがあり、それも異論が出ない要因でもあった。


 基本的に自分の身は自分で守ることがルールであるため、商隊の護衛が中心になるが、手助けがあるとないとでは心の負担が変わってくるものだ。特に戦闘を得意としていない旅人などがそうだと聞く。なので、商隊に合わせて旅をする人も多いようだ。 今も何組か戦闘など出来なそうな人達が簡易テントを張り、食事をしていた。


 今まで人目を避けて大きな野営地を利用しなかったのもあり、物珍しげに周りを見回していたため、カーナさん達が教えてくれた。


 この街道の野営地は大きく作られているため、わざわざ野営地以外の場所で野営を組むのは何か後ろめたいことがあるのではと勘繰られて逆に目立つ。そのため、今回は野営地を利用することになったのだ。


 野営の中心付近は多くの人がいるため、人が少ない野営地の端に場所を確保しテント設置を行った。


 カーナさんが野営地の中心にいる商隊に声をかけに行き、キリアさんがテントや焚火の準備を行ってくれていたので、私とコハクで焚火に必要な枝探しに野営地の少し外にいた。


 野営地に着いて野営を組む場所を決めたら、中心にいる商隊へグループの代表が声をかけに行くのもルールの一つなのだとカーナさんが教えてくれた。野営地にいるグループの把握と非戦闘員の有無の把握も中心に野営を組むグループの仕事なのだそうだ。

 確かに、把握できていれば非常事態時に的確な行動ができるだろうが、中心地で野営をしているグループが悪い人たちだった場合、それは悪手ではないのか。

 そんな風に考えていると、キリアさんが優しいまなざしに凍えるような冷たさを一筋孕んだ眼をして笑った。「そんなことしたら……商売なんてできなくなるだろうね。商売は信用が大切だから」と言われて、だから中心に野営をするのが大きな商隊なんだと納得した。


 それにしても……随分冷たさが孕んでいたがキリアさんは何かあったのだろうか?

 軽くキリアさんを見上げたが答えが返ってくることはなかった。

 人には言えないことも言いたくないこともあるのも理解しているので私もあえて聞くこともなかった。


 それから、各々の作業に移った。いつも野営ではカーナさん達がテント設置から焚火の準備を行い、私は近くから焚火に必要な枝を探してくるのだ。テントの設置や焚火の準備の仕方も習ったが、危ないからと一人でさせてもらえなかった。唯一許可が下りたのが焚火の枝拾いなのだ。ただし、テントから500m以内と条件が付けられている。


 なんでも、500m以内なら一瞬で助けに行ける距離だとのこと。一瞬って……速過ぎないだろうか?

 距離の制限も私の身を案じての条件なのだ。護衛として護衛対象の安全は第一条件なのに、対象が離れることを許してくれるのは偏にカーナさん達の実力と危険なことはしないという私への信頼からだと思うと心が温かくなり、容易に条件をのめてしまう。


「コハク、一緒に来てくれてありがとう。カーナさんに引き留められて何にもできなくなるところだったわ」


「ワフン!」


 コハクと一緒に歩きながら、自分の仕事ができて嬉しくて自然と顔が緩み、コハクを見て声をかけると嬉しそうに尻尾を振りながら返事をしてくれた。


しっかり帽子をかぶり顔を隠して、何があってもすぐに対応できるよう身体強化を付与し、野営地から少し離れた木々の下で焚火に必要な枝を拾っていく。コハクは普通の犬を演じているのか、私たち以外の人の前では極力魔法を使わないようにしているようで、枝を銜えて持ってきてくれる。二人で集めたため、すぐに必要量集められた。


 枝拾いに行く前に少しだけひと問答あったのだ。いつも通り枝を拾いに行くため少し離れようとすると、カーナさんが止めてきたのだ。「いつもと違い人が多くて危ないから一人にさせれられない」や「私がやるからテントで待っていてくれ!」など言われて、何にもできなくなるところだったが、キリアさんとコハクがカーナさんを諫めてくれて、なおかつコハクが付き添うことと身体強化を自身に付与することを条件に許しをもらえた。


 カーナさんが私を思って言ってくれていることが理解できたので、拒否もしにくく困っていたから、キリアさん達のフォローは助かった。


 貴族としての生活が長いためか、行動を制限さることには慣れており、それに不快感を感じることはない。しかし、『自分にも何かできることはないか、カーナさん達のお手伝いをしたい』その気持ちが自分の中に芽生えており、行動として表れ始めていた。なので、キリアさんたちのできる限り私の行動を制限しないよう気を配ってくれていることが、申し訳なく思いつつも嬉しかった。


 私はカーナさん達に甘えているのだ。まだ出会って行動を共にして少ししか経っていないのに、私の中でカーナさん達の存在が大きくなっている。それを自覚しても不快感はなかった。

 人を信用することは今でも怖いが、カーナさん達は信じてもいいのではないかと思ってしまう自分の心の変化に少しだけ戸惑ってしまう。でも……少しだけなのだ。


 そんなことを思っているとコハクがお座りをして首を傾げてくる。


「くぅ?」


「ううん、何でもないの。さぁ、カーナさん達のところへ戻ろう」


焚火に必要な枝も集まったので、カーナさん達のところへ戻ろうとすると、コハクが野営地の方を向いて威嚇した。


「! グルルルゥ!!」


 野営地の外といっても野営地からは見える範囲であり人の目もあるため、隠蔽をかけた察知魔法を展開していなかったが、コハクの威嚇で誰かが私に向かってきていることが分かった。

 視線を向けると冒険者風の身なりをした男女の二人がこちらに向けって歩いてきていた。


 視線が合うと肩口くらいまでの赤銅色の髪を軽く編み込んだ女性が笑って手を振ってきた。一緒にいる薄氷色の長髪を軽く編み込んで左肩から流している男性は申し訳なさそうに笑いかけてきた。


 敵意は感じないが、初対面でもあり警戒して持っていた枝を地面において軽く後ろに後退した。それに合わせて、コハクが私の前に陣取り身を低くして威嚇し続けた。


「あわわっ! ご、ごめんね! 私たち危ない人じゃないよ。だから、そんなに怯えないでぇ」


「いや、知らない人が気安く笑いながら近づいてきたら、十分危ない人だろう」


 女性の方は私たちの行動に慌てて両手を前に出して振りながら、必死に危ない人ではないと弁解している。その横の男性が呆れた視線を女性に向けながら、私の気持ちを代弁するかのように発言する。

 すると女性が男性の方に向きを変えて抗議しながら、私たちを指さしてきた。


「ちょっと、アイラト! 余計に不安を煽るようなこと言わないでよぉ! ほらっ!! 怯えちぇったじゃないっ!」


 男性は私たちに向けられた女性の指を腕ごと下げさせて、またも私の気持ちを代弁する。


「いやいや、あれは怯えてるっていうより不信感ありありって感じだよ」


「えぇ!? なんでぇ? 私そんな不審者に見えるのぉ?」


 女性が髪と同色の瞳を潤ませながら、その豊かな胸の前で両手を組んだ。少し気が強そうな整った顔立ちと色合いだが、しゃべり方やしぐさで随分と印象が変わる。

 男性は頭を掻きながら申し訳なさそうに、こちらに来た理由を教えてくれた。でも、その内容に焦りが生じる。


「だから、先に親御さんに声かけに行こうって言ったのに……先走ってこっちに行くからこんなことになるんだよ。怖がらせて、ごめんね。こっちのお姉さんが君とフェンリル様とお話ししたくて、いきなり近づいちゃったんだ」


 えっ、今なんて言った? コハクのことフェンリルって言わなかった?

 コハクがフェンリルってばれてるってこと? でも、そうするとお話ってフェンリルを連れていることについてかしら? フェンリルは神獣だけど、冒険者の人達には魔物と一緒として扱う者もいるって書物で読んだわ。彼らはコハクを討伐しようとしているの? でも、それならお話とは言わないわ。問答無用で切りかかってくるはずだもの。じゃあ、彼らは何のためにこちらに来たの?


 焦りながら彼らを見ていたら、こちらを気にすることもなくテンポよく会話を繰り広げている。


「ちょっと、私だけが悪いみたいに言わないでよぉ。アイラト達もお話ししたいって言ってたじゃない」


「確かにあいさつしたいって言ったけど、エマみたいに突っ走って失礼なことはしないつもりだったんだよ。ちゃんと親御さんに声かけようとしてたんだから。それなのに……」


「うぅぅ、私が悪かったわよぉ。でも、こんなにかわいい子と素敵な毛並みの子を見たら、誰だって止まらないものぉ」


「いや、それエマだけだから」


「……つっ!!」


 エマと呼ばれた女性の言葉に焦りながらも、さり気なく帽子の位置を直す。

 しかし、それをめざとく見ていたようで、アイラトと呼ばれた男性が優しく笑いながら声をかけてきた。それに、顔を見せたくない理由も勝手に勘違いしてくれたようだ。


「あぁ、顔は見えないよ。ただ、エマはかわいい子へのセンサーが異常なだけだから。エマがこれだけ騒ぐんだ。とってもかわいい子なんだろうけど、それだけ危険な目にも合ってきたのかな? だったら、余計に怖がらせてごめんね。フェンリル様も護り子を怖がらせてしまい申し訳ありませんでした。あと……そちらの家族の方かな? 武器を下ろしていただけると助かります」


 アイラトは私たちに謝りながら、エマの後ろでダガーナイフを音もなく構えたキリアさんに声をかけた。

 エマはアイラトの言葉で気づいたようで、驚きながらも冒険者よろしく直ぐに飛び退き、ナイフを構えられていた首をさすりながら絶叫する。


「うおぉぉっ!! い、いつの間に後ろにいたのぉ! やだぁ、イケメンに殺されそうなくらい睨まれてるんだけどぉ」


「自業自得だよ。ほら、エマも謝りなよ」


「ごめんなさいぃ。そんな睨まないでぇ。あと、なんか喋って怖いからっ!」


 アイラトとエマが謝っても無視して、一瞬でシエルの前に移動したキリアさんが私の頬とコハクの頭を撫でてくれる。


「シエル大丈夫? コハク偉いぞ」


「くふんっ!!」


 コハクが胸を張りながら嬉しそうに鳴くと、少し離れたところから悶えるような絶叫が聞こえた。


「いやぁん、かわいいぃ!!」


「…グルゥ」


 すぐにコハクの不機嫌そうな声と冷え切ったキルアさんの視線にさらされ、アイラトさんが冷や汗をかきながら、こちらに手を伸ばすエマさんを引っ張って野営地の方へ戻っていった。


「はぁ、エマ落ち着け。すみません。ちょっとこいつを落ちつけてきます。また、そちらにご挨拶に伺いますね。ほら、エマはこっち!! いくよっ!!」


「あぁん、かわいい子が……モフモフがぁ」


「失礼だからっ!!」


 二人が遠く離れるとキリアさんが私に視線を合わせて軽くかがんでくれる。


「大丈夫か?」


 キリアさんの心配そうな声と瞳に少しずつ冷静になれた。


「え、えぇ。ちょっとビックリしてしまって。何だったのでしょうか?」


「大街道に出たときに遠くに見えた冒険者パーティーの人達だね」


 質問の答えではありませんでしたが、キリアさんも彼らの行動の意味が分からなかったのでしょう。

 近づかれた私も意味が分かりませんでしたから。ただ、悪い人ではないのでしょうね。嫌な感じがしませんでしたもの。

 大街道に出たときに遠くに見えた人達……あぁ、私が物思いに耽ってしまった、あの時見えた人達だったんですね。


「あぁ、あの手を振ってくれた人達ですか」


「冒険者には不思議な人たちが多いから」


「そうなんですね」


 キリアさんも彼らから嫌な感じを読み取らなかったのでしょう。少し苦笑いしながら彼らの、と言うかエマさんの弁解をしていました。


「それより言葉。戻ってるよ」


「えっ? 戻ってましたか? あっ、気を付けないと」


 あまりに突然でビックリしたり焦ったりと、心の余裕がなくて以前の話し方に戻っていたようです。気をつけなきゃいけない。これから、心に余裕がなくなる度にこれでは、カーナさん達に迷惑をかけてしまうもの。それに一人になったときに対処できなければ、いいカモとして危ない目に合うかもしれないんだから。

 気合を入れなおしていると、キリアさんに手を出されて、とっさに握ってしまった。少し顔が熱くなったが、そんなことに気を取られている場合じゃないと、気を取り戻して守ってくれた二人にお礼を言った。


「ほら、帰ろう」


「う、うん。コハク、キリアさん守ってくれてありがとう!」


「わふん♪」


 コハクが嬉しそうにクルンと一回転して鳴いて隣を歩いてくれる。

 キリアさんを見上げると、野営地に顔を向けて軽くうなずいてくれた。その耳が少し赤く見えたのは夕日が合ったっていたからか、それとも……


皆さん!!

こんにちは!!

いつも更新遅くてすみません(´-ω-`)


もうすぐ年も明けますね。

年明けまでにもう少しアップしたいと思ってます!!

頑張りますね!


いつも皆さんの応援✨に助けられています(*ノωノ)

お豆腐メンタルな私ですが、今後も頑張りますね!!

今後もよろしくお願いいたします(`・ω・´)

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