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騙され裏切られ処刑された私が⋯⋯誰を信じられるというのでしょう? 【連載版】 作者:榊 万桜
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47: 逃亡後の彼ら3 (別視点

少し長めです。





その頃、ルーシャル公爵家──────────


私は家の執務室で頭を抱えていた。

私達の可愛い末娘が行方不明となってしまったのだ。


2年前のあの日から、娘は変わった。


私達に無邪気に甘え、可愛いらしい我儘を言う子供だったのに·····


花が咲き誇るかのようなシェリーの笑顔が、あの日から消えた。代わりに完璧なマナーと貴族令嬢の顔を私達に向けてきた。それらは、私達との間に一線を引くかのような拒絶が含まれているのを感じ取れるものだった。


最初は他貴族や他国からの攻撃か罠かと考え、色々調べたがシェリーに起きたことに類似する計画は何も出てこなかった。

変身魔法等による成りすましの線も考え、魔法を解除する魔道具や解除魔法もシェリーに気づかれないよう施行したが変化は見られなかった。また、これにより思考誘導の類の魔法にかけられた線も消えた。


安心することは出来たが、シェリーの反応を見る度に可愛い笑顔を思い出して悲しくなる。

今のシェリーの微笑みは完璧で、シェリーの心は巧妙に隠してしまっている。それでも、親として家族として過ごしてきた私達にはその微笑みに隠された感情を読み取れてしまう。恐怖や拒絶、悲しみといった感情だ。


私達が何をしたというのだろう?


貴族とは、成長とともに民を守る誇り育て、魑魅魍魎が跋扈する貴族社会を上手く立ち回るための知恵と立ち振る舞いを身につけさせ、死ぬまで様々な苦難を笑顔で乗り越えて行かなくてはならない存在だ。それに見合う暮らしをしているのだから、文句はないが·····なにも分からない幼いうちくらいは甘やかしてあげたかった。

甘やかして傲慢にさせるつもりなどは毛頭なく、ただ辛い時に子供達の心を守る思い出となればいいと思ったのだ。


心の寄り所を私達が作ってあげたかった。


この世界で生きるためには、非情な選択も必要となってくる。心がすり減る出来事は多々あるのだ。

その時に、寄りかかれる場は必要となってくるだろう。

婚約者がその役目を受け持てる存在になるかもしれないが、貴族の婚約とは何かしらの利益が絡んでくるものだ。選択を誤るつもりは無いが、もしもの事があるかもしれない。


下級貴族ならある程度の自由を許されただろうが·····シェリーは公爵家の令嬢だ。

望まぬ相手との婚約が避けられないこともある。その時は、私達家族が少しでもあの子の寄り所になれるよう努めなくてはならないのだから、幼いうちに優しく囲っても問題ないはずだ。


·····ただ可愛い子供達を甘やかして、構い倒したかったのは否定できないが·····


『まさか·····唯一の女の子に早々に嫌われるとは·····思春期なのか?』

2年前は、そんなことを考えながら頭を抱えていたが·····

まさか家出されてしまうとは·····


どんなに変わっても愛する我が子であることは変わらない。

どうにか心を許してもらえるよう、信頼されようと色々手を出してしまい、それが良くなかったのかシェリーは体調を崩すことが多くなった。

医者からは精神的疲労からくるものだと言われてしまった。


確かに·····家族総出で構い倒してしまったのは良くなかった。気づけなかったのは親失格だ。反省してる。

その反省を生かし、シェリーとの距離感を図っている時に事件が起きた。


私達が出払っている時を見計らい、クルテール伯爵とその息子が我が家を訪れたのだ。本来ならあるはずの一報は訪れる直前に来たようで、返事も待たずに訪れるなど明らかに故意的な行動だ。それも、我が家の見習いフットマンと下級メイドを買収して、幼いシェリーを親の同伴もなく引き合わさせたのだ。

すぐさま執事と上級メイドが気づき、駆けつけたことで事なきを得たが·····シェリーは、その後2日間寝込んでしまった。


クルテール伯爵とその息子には、て・い・ね・い・に事情を聞き出した。

最近、深窓の令嬢と言われ始めたシェリーと懇意になり、あわよくば婚約を結ぼうと画策していたようだ。ご丁寧に(自分達が優位な)婚約書類まで用意して·····愚かすぎるだろう。


誰が一般的なマナーも守れないクズと可愛い我が娘を婚約などさせるものか!

貴族としての責任も果たせていないバカにシェリーを安心して預けられると思ってるのかっ? 幸せにできるのか?

出来ないだろっ!それとも、そんな判断も出来ない愚か者だと遠回しに私やシェリーを馬鹿にしてるのか?

·····殺すぞ。


しまいには、シェリーの可愛さに惚れやがって·····何が『幸せにします!シェリー嬢と婚約させてくださいっ』だっ!


やはり殺すか·····今からでも遅くはない。

既に貴族社会では落ちぶれているが·····生きてはいるからな。

奴らを思い出すだけで胃がムカムカする。

あの時、優しさなど与えるべきではなかったな·····



「君達、お得意の《貴族》として話そうか。君達は伯爵家だ。そして、我が家は公爵家。なんだったか·····あぁ、そうそう。

身分の違いを分からせるために体に教え込むんだったか?

何がいい?特別に選ばせてやる」


少しばかり軽い拷問具を見せただけで、奴らは泣きながら平謝りする。それぐらいの覚悟しかないなら、始めから手を出さなければよかったものを·····


まぁ、あの後奴らの不正を暴き、芋ずる式に古狸共の不正もいくつか得られたから良しとした。カードはいくつあっても足りないものだからな。これで奴らも少しは静かになるだろう。と思っていたが·····今思い出すと足りなかったように感じる。もう少し苦しめるべきだった!


それに·····婚約の話を広めたり、王子とカミュール公爵家の倅が勝手に我が家に乗り込んできたり·····王家も勝手なことをしてくれる。

あの時、王子達を勝手に娘の部屋へ案内したメイドは王家の手の者だった。だからと見逃すはずもなく、しっかりと罰を与えた·····我が家にはもういない。


シェリーは、アーサー王子との婚約を嫌がっていたのだ。

それなのに·····王家の勝手な行動で我が家の愛しい娘は家出してしまった。

王家を止められなかった私にも落ち度はある。それは認めよう。

だが、王家にも責任は取ってもらわなくてはな·····アルフレッド覚悟しとけよ。悪いのはお前の妻と息子だが、夫として抑えられなかったお前も同罪だからなっ!

それとカミュール公爵家の倅も子供だからと甘く見るつもりはない。王子の側近をしているのだから、主の暴走を止めるのも仕事のうちだろう。それも出来ず、あまつさえ一緒に暴走するなど論外だ。全員覚悟しておけよ!


と、それは後で動くとして、今はシェリーを探すことが最優先だっ!

大人のような振る舞いをしていたが8歳のまだ幼い子だ。

こんな寒空の下、苦しんでいなければいいが·····

寒くはないだろうか?

空腹で泣いてはいないだろうか?

温かいご飯は食べられているだろうか?

痛いことをされていないだろうか?

泣いていないだろうか?

·····色々なことが次々と思い浮かぶが、それを無理やり頭の端に追いやり、シェリーの行動を思い起こす。


最近知ったが、シェリーは高祖父が秘密裏に集めたコレクションを読んでいたようだ。

公爵家が集めたコレクションだけあり、本当に様々な魔法・魔術に関する文献を集めた図書館なようなものだ。

古代語で書かれた物が多く、読むのも苦労するのが溢れている。中にはいわく付きの本もあり、子供達が入らないよう壁にしか見えない扉を固く閉じ、部屋全体に結界魔法で空間固定していたはずが、何度か外されて新たに魔法をかけ直した跡が残っていた。

それだけではシェリーが出入りしていた確実な証拠となりえないが、あの部屋にあるはずの魔法・魔術書が数冊、シェリーの部屋にあったのだ。

書物にはいくつかシェリーの字で書き込みがされたメモが挟まれており、魔法を習得しようとしていたのを伺わせるものであった。


まだ、8歳のシェリーが成人でも解読難解な古代語を理解し、これまた習得の難しい魔法・魔術を自己学習で習得しようとしていたことは、さすがに親の欲目抜きで驚愕した。


あとで、確認したところ数冊なくなっており、シェリーが家出する際に一緒に持ち出したようだ。

それだけでなく、挟まれたメモなどから短距離転移を習得していることが分かった。


たぶん短距離転移を施行して、旅に必要な物品などを少しずつ集め·····そして、家出もこの魔法を上手く施行し成功させたのだろう。


シェリーの身に何が起き、何を考えこのような行動に出たのか分からない。

ずっと前から用意していた様子から王子との婚約だけが原因では無いのだろう。


認めたくないが·····認めるしかない状況だ。

シェリーは自身で決めて、我が家から出ていった。


理由が分からないため容認したくはない。しかし、全てを否定してシェリーを連れ帰っても、また逃げ出すことだろう。

ここまで1人で用意して実行までしたのだ。

シェリーの決意は固い。


·····私は貴族として·····いや、シェリーの親として、あの子に理由を聞かなくてはならない。

理由によっては我が家の力を全力で使用し、あの子を守ろう。

まだ8歳と幼いのだ。親としてあの子を慈しみ護りたい。

あの子にとって不甲斐ない親かもしれない·····

王子との婚約が確実だと伝えた時のシェリーの顔は恐怖と絶望に染まり、一瞬でその感情を貴族特有の笑みに隠し、私達に失望と拒絶を明確に線を引いたのを感じたから·····

もう、あんな顔をさせたくない。


シェリーは『私は死んだものとして処理してください。』と書いていた。


出家するのなら教会に入り修道女となると考え、マルリナ聖国への道や街に捜索の手を広げていたが、最近のマルリナ聖国はきな臭い気がする。

あの子は聡い子だ。自らに危険があり、騒ぎが起こりそうな場所に逃げることはないだろう。それに魔法・魔術の習得内容を鑑みるに魔物と戦うことも視野に入れているような学び方だった。

とすると·····必ず魔の森を通る必要があるリンザール国へ逃げていると仮定するほうがしっくりくる。

あの国は現在安定しており平和な国だ。おおらかな者も多く、(まぁ、大雑把とも言えるが·····)それに幼子を大事にする習性の獣人が多く住む国だ。


今後の生活を考えれば、リンザール国へ逃げるのは確実だ。

とすれば、リンザール国への安全な行路となっているサザリンに最終的には行くことになるはずだ。

他の行路もあるにはあるが、サザリンからの行路以上に安全なところは無いからな。

さすがに『神魔の山脈』には1人で入らないだろうから、サザリンから出ている乗合馬車に乗るか冒険者を雇って護衛をつけるか·····どちらにしてもサザリンで張っていた方が無難だな。


重要な仕事はほぼ終わらせた。あとは執事のパーシバルに任せられる範囲だ。彼なら問題なく回せるだろう。

公爵として動くと後々面倒だ。今回は身分を偽るしかないだろうな。


そんなことを考えて席を立とうとすると、ノックの音が聞こえた。


トントントン


「ご主人様、パーシバルです。入ってもよろしいでしょうか?」


「いいぞ」


「失礼します。お嬢様の件でお伝えしたいことがあります」


柔らかな顔立ちで優しげな雰囲気を持った男が入ってくる。

私と同年代のはずだが、顔立ちや雰囲気から年若く見える。

しかし、身のこなしに隙がなく、柔らかく見える目をよく見れば鋭い光が点っているのが分かる。雰囲気に騙され舐めてかかれば痛い目をみるのは明らかだ。


まぁ、そうでなければルーシャル公爵家の執事など勤まらないだろうがな。


「お嬢様と思わしき少女がカノリアの西門を出たことが分かりました。冒険者を2人連れていたようです」


「そうか·····西門を、ね」


「失礼ながら、私はお嬢様がマルリナ聖国へ向かっているとは思えません」


「何故だ?」


「·····分かっていらっしゃるのに聞くんですか?人が悪いですね」


「くくくっ、私と一緒の考えか確認したかっただけだ。人が悪いなどと人聞きが悪いなぁ」


「はぁ、あまりそのようなお顔を外ではされませんようご忠告させて頂きます。

最近のマルリナ聖国はきな臭い感じがしておりますれば。以前のお嬢様ならいざ知らず、最近のお嬢様が把握していないはずありません。そんな所へ赴いたら面倒に巻き込まれる可能性が高いですし、それに·····」


「それに、なんだ?」


少し歯切れが悪い様子で口を止めたパーシバルに続きを促す。


「いえ、これは私の感じたことであり、確実なことでは無いので·····」


「それでも良い。話せ」


促してもなお、言おうとしないので更に追求すると、迷いながらも話し始めた。


「·····お嬢様はこの家からと言うより、貴族社会から逃げたいように感じられました。

もし聖国で修道女になったとしても貴族社会との関わりを断つことは難しいかと。あの聡明さと立ち振る舞い、お顔立ちに·····あのお色ですから。

周りはほっといてはくれないでしょう。最悪、暴力と権力にものを言わせ囲いこもうとする貴族(バカ)達が出てくるでしょうし、それらから運良く逃れたとしても教会の上層部が手出ししてくるでしょうね。聖職者という皮を被ることも出来なくなったグールとオーガが腐臭を撒き散らし数を増やしているようですから」


「ほう。もうそんなに腐敗が進んでいたか·····あの方も歳を重ねそろそろ引退の話が出ているようだし、止められなくなってきているということかな」


「そのようです。ですから、マルリナ聖国には行かれないと思います」


「私も同意見だよ。パーシバルの情報からもマルリナ聖国へ行く可能性は極めて低いな。じゃあ·····」


「サザリンへ行かれるのでしょう?お部屋に用意をさせて頂きました。それから、偽りの身分はこちらです。決してご無理はなされませんようお願い致しますね」


「ふっ、準備がいいな」


パーシバルが用意した身分証を掴み、部屋を出ようとしたところで、今思い出したとばかりにパーシバルが紡いだ言葉にハンマーで頭を殴られたような衝撃を受けた。


「あぁ、それとお嬢様と一緒にいる冒険者は母と息子でパーティを組んでいる珍しい冒険者だそうですよ」


「·····息子。おい、息子の方の歳は?」


「確か·····14歳だったかと」


「な、なに!?シェリーは年頃の娘なんだぞっ!何かあったらどうするんだっ!あんな地上に舞い降りた天使のように可愛いシェリーを好きにならない男はいないっ!

くそっ!直ぐに出る!シェリーは私が守るっ!!」


「落ち着いてください。シェリーお嬢様はまだ8歳の幼子ですよ。相手の母親も一緒なのですから間違いが起きることもないかと。それにお嬢様が一緒に行動するのを許した相手です。そのような不埒ものではないはずですよ」


「そんなの分からないじゃないかっ!シェリーは可愛いんだぞっ!天使なんだっ!何かあってからでは遅い、グゥっ、お、お前」


「落ち着きましたか?」


「·····はい」


颯爽と部屋を出ようとしたリーカスの襟首を掴み、落ち着き払った声で諌めるも、なお暴れようとしたため鳩尾に1発入れられた。あまりの痛さに軽くかがみ混んみながら、パーシバルを見上げ抗議しようとしたが、柔和な笑顔と有無を言わせない圧がかかった声に返事をするしか無かった。


パーシバル。代々ルーシャル公爵家に仕える家系の生まれで、ルーカスの幼馴染にして教育係でもある。その柔らかな顔立ちと優しげな雰囲気を持ち、ご令嬢方に癒し系と言われているが、その実、ルーシャル公爵家最強の男でもある。


ルーカスは、大人しくサザリンヘ向かって馬を走らせた。

その後ろから2つの影が追いかけていることに気づかずに·····



こんにちは⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝

皆さんお久しぶりです!

遅くなってすみませんでしたm(_ _)m

これからもよろしくお願いします!


いつもコメント、ブックマーク、誤字脱字修正ありがとうございます!

とても楽しみに見ています!私の糧です♡\(*ˊᗜˋ*)/♡

ただ、お豆腐メンタルなので優しくして頂けると嬉しいです!

でも、ご指摘などは大歓迎です!

今後もよろしくお願いいたします(*´꒳`*)

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