▼行間 ▼メニューバー
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
騙され裏切られ処刑された私が⋯⋯誰を信じられるというのでしょう? 【連載版】 作者:榊 万桜
47/67

46: 多重魔法の行使は大変でしょうか?


ユシン達の村から次の街へ向けての道中、私を抱き上げようとするカーナさんを躱しながら、コハクの横を歩いている。

時折、コハクが頭を擦りつけてくるので、撫でてあげているとカーナさんから抗議が飛んでくる。それを見て、キリアさんがため息をつくという、最近の日常に自然と笑顔がこぼれる。


ふと、まだカーナさんにちゃんとお礼を言っていなかったことを思い出した。


「ねぇ、カーナさん。 ありがとう」


「ん?何のことだ?」


「ふふふ。なんでもないわ」


カーナさんは惚けているが、私の言葉を理解して嬉しそうに笑っている。あえて惚けていることを暴く必要も無いので私も惚けておくことにした。


村での緊急クエスト受注はカーナさん達にとって、なんの旨味もないクエストだった。それでも、緊急クエストを提案してくれたのは、高ランク冒険者の義務でも、ましてや善意でも無い。


そもそも冒険者は善意で動くことは無い。稀に善意と正義感で動く冒険者もいるが、彼らが生き残り、長く冒険者として活動できることは無い。

世の中はそんな甘いものでは無いのだ。

彼らの善意や正義感に付け込み甘い汁を啜る者や、彼らを騙しランクに合っていないクエストを受注させ依頼料をちょろまかす者、また悪意無い者達による懇願で身の丈に合わないクエストに飛び込むなど様々な危険にさらされて壊滅する。

例え、壊滅を逃れたとしても、彼らが五体満足でいられる可能性は低く、人間不信など精神的に障害を負う者もいる。

そんな人達が冒険者を続けられるはずも無く、これまで助けてきた人達や、彼らから甘い汁を啜っていた者達にも見捨てられ、名誉も金も残らず身を崩し死んでいくのだ。

世界を、人を呪いながら·····


だからこそ、冒険者達のランクに合ったクエストしか選択できず、危険に見合った褒賞が貰えるクエストしか受注しない。

そして、他者を簡単に信用はしないのだ。


まぁ、そういう危険を避けるために、冒険者ギルドが依頼者と冒険者の間に立ち、しっかり調査をしてクエストのランク分けを行うので、冒険者達も比較的安全にクエストを受注出来ている。

また、冒険者育成も担っており、善意という名の危険に巻き込まれないよう、登録初めに必ずクエストを受けるためには冒険者ギルドを通すことを徹底的に教えられるそうだ。


これは冒険者を守るための措置なのだが、初心者ほどこれらの教えをギルドが仲介料や名誉取得のためだと勘違いしてしまう。ギルドも勘違いさせないように説明はしているようだが、冒険者自体が癖がある者が多く、説明だけでは納得せず疑い反発するのだ。説明を聞くならいい方で聞かずに反発する者も多いため、ギルドを悩ます種となっている。まぁ、多くの冒険者は経験を積む事で、その意味を理解して納得するので、放置することも多いと聞く。話を聞かない者たちに根気よく説明するだけ無駄と思っているようだ。


中には経験を積んでも理解出来ず反発し続ける者もいるが、そういう者の多くはギルドを通さない違法クエストを受注して死んでいく。自業自得なので同情は出来ない。というか、ギルドに登録して冒険者となったのなら、ギルドの最低限のルールくらい守れと言いたい。荒くれ者の方々でも最低限のルールを守っているというのに·····。


あっ、思考が逸れてしまったわ。


そうそう、今回カーナさん達がギルド認定用紙を出してまで、依頼を受けたのは私のためだろう。

村の大切な子供達を助け出し、盗賊という脅威からも助けたのだ。あの村の人達はカーナさん達に恩を感じ、私達を裏切るようなことは出来ない。

もちろん、彼らが善良で自身より他人を優先させるある意味特殊な人種であることも手を貸した理由の一つだ。


それに、あの盗賊達はカーナさん達の手に余るような優秀な盗賊ではないのは、直ぐに判断できた。

あんな小物とはいえ魔物が出る森近くの辺鄙な村に兵士ではなく子連れの旅人が来ること事態、おかしいと気づくべきだろう。それなのに、なんの疑いもなく攫って自分達の拠点に連れていくなんて·····愚かとしか言いようがない。


厄介な盗賊達なら相応の下調べをし、自身達との力量差を把握して、必ず勝てると踏んでから攫うはずだもの。


まぁ、それだけでも知能が足りていない盗賊であることがわかるし、実力のある盗賊なら収穫の低いあんな場所に居を構えるはずもない。その時点で兵士も商人の護衛を勤める冒険者にも勝てない、競争に負けた盗賊達なのは明らかだったのだ。


そこまで考えて対処可能と判断し、今後のために有益だと考えあのクエストを出したのだ。

これで、私達を追いかけてくる追跡者がいたとしても、あの村から情報を得ることはある程度不可能となった。

少しは足止めとなるだろう。カーナさん達は私が無事に隣国へ逃亡できるよう所々で細工をしてくれている。


·····そう考えると、カーナさんって頭もいいのよね。

なんか、ずっとワンちゃんなカーナさんばかり見ていたからなのか·····頭のいい素敵冒険者なカーナさん·····うん、違和感しかないわ。

キリアさんなら違和感ないのに·····似てる顔でどうしてこれほどの印象の違いがあるのかしら?

·····ワンちゃんだからかしら。


逃走のために調べた冒険者ギルドの情報を思い出しながら

カーナさんがギルド認定用紙を持てるほどの優秀なAランク冒険者であることを思い出すが、悲しいほどに違和感しかない。

今もコハクと対抗するように私に手を伸ばし抱きあげようと必死になっているカーナさんを見てしまうと素敵冒険者は夢幻かな?って思ってしまうのは私だけじゃないだろう。


「カーナ、いい加減にしなよ。カーナの手を避けようと余計な動きをしてシエルが疲れるだろ」


「うぅー。あっ!だったら私が抱き上げて歩いた方が疲れないぞ!我ながらいいアイディアだっ!!」


「はぁ。シエルは自分で歩くって言ってるんだから邪魔せず、大人しく前へ進め。あんまりしつこいと嫌われるよ」


「それはダメだっ!!」


キリアさんに怒られて、ブーブー文句を言いながらも私を抱き上げることを諦め先へ進み始めた。


周りは見晴らしのいい草原で、リンザール国との国境の代わりとなっている『魔の森』と『神魔の山脈』を比較的安全な道で通り抜けるため、道の関所となっているサザリンが次の目的地だ。

比較的安全な道は『神魔の山脈』と呼ばれる山の1つ『ラリュンヌ』の裾に引かれた道で、エリスタ王国とリンザール国の国交にも使用されているため、定期的に両国の兵士や国からの依頼を受けた冒険者が魔物の間引きを行って安全確保している。


『ラリュンヌ』は神狼フェンリルが住んでいる山として有名であり、コハクを無事にご両親へ返すためにも必ず通る必要がある道だ。その道を進むためにはサザリンから出国しなければならないため、目指しているのだが·····


身体強化して必死に距離を稼いではいるのだが、一向にサザリンの外壁を見つけることは出来ない。


追っ手を惑わすために行った偽装工作とガイル達かそれ以外かは分からないが·····馬に細工をされていたので、そうそうに馬を手放さなければならず、思うように距離も稼げなかった。

また、道を外れて森を突っ切ったため、現在はサザリンへ向かう大街道から大きく外れた位置にいる。

マリスからサザリンへの古い大街道を進む手筈が·····予定が大幅狂ってしまっている。


整備されていない街道を進みながら気配察知を行い、安全の確認を行っている。

カーナさん達には身体強化と気配察知など多重に魔法の行使をすることは疲れるため控えるよう言われたが、いつ独りになるか分からないのだ。独りになった時にも対処できるよう、カーナさん達といる安全安心な場で練習していく必要があるのだ。


魔法の多重行使を息をするかのごとく自然に行えるよう必死に練習していると、適度にカーナさんとコハクに邪魔をされ、強制的に休憩を入れられる。


「わっ! コハク、いきなり前に出てくるのはダメよ。ぶつかったら危ないでしょ」


「わふん!」


「ねぇ、分かっているの?私、身体強化しているから、ぶつかって怪我するのはコハクなんだよ」


「くぅ?」


「うっ!そ、そんな可愛く首を傾げてもダメなものはダメなのっ!」


「そろそろ休憩しようか」


「そうだな!さっ、シエル!魔法は解除しような」


私は今まで令嬢として走ることなんてしてこなかったため、初めは走る姿がぎこちなかった。でも、今は走ることにも慣れてぎこちなさもなくなった。それでも、カーナさん達のようなスムーズで綺麗な姿勢の走り方には遠く及ばない。


身体強化を行使して、やっとカーナさん達の軽い走りについていけるレベルだ。カーナさん達も私にペースを合わせてくれているのが分かるため、迷惑かけないように必死に食らいついている状態で私に余裕はない。その上、練習のため気配察知を行使している。


つまり、突然のハプニングに対応出来るキャパがない状態ということで·····


そんな状況下で、「わんっ!」の一鳴きの軽いアクションの後に、突然目の前にコハクが躍り出てきたら·····最悪、蹴ってしまう。

必死に急ブレーキとダンスで習得しているターンを屈指してコハクを避ける。


コハクも私が上手く避けられるように、ターンで回らない方向に体を少しずらすので当たることは無いが、私の精神的な負担が生じるのでやめて欲しい。


何度もコハクのお顔を両手で包み、目を合わせて叱るのだが、辞めてはくれない。

しまいには、『分かんなーい』と言うかのようにお目目を丸くして顔を傾げるのだ。


·····可愛すぎるっ!


フワッフワッの毛並みが私の手を包み、程よい温かさを伝えてくる。それに、お顔を傾げると顔の重さも加わり、夢見心地の素晴らしさなのだ。


ずるいわっ!こんなの叱れないじゃないっ!

それに、カーナさんもキリアさんも誰もコハクを叱らず、逆に擁護するような行動をとるなんて·····


コハクが私の走りを止め、キリアさんが休憩の準備をサッとして、カーナさんが私を抱き上げて座るというパターンが出来てしまっているのだ。


「シエルの魔力はまだ余裕があるかもしれないけど、体力と集中力はギリギリでしょ?」


「シエルは無理するからなぁ。コハクがタイミングよく止めてくれるから助かるなっ!」


「わふんっ!」


「あぁ!これからも頼んだぞっ!」


「わんっ!」


「そんな·····」


確かに少し疲れてきていたが、まだ続けられたのに。それに、コハクに止められなくても自分の限界くらい把握しているつもりよ。だって私、大人だもの。


それにしても·····カーナさん、なんでフェンリルのコハクとスムーズにお話出来ているのかしら?

カーナさんと何か通じるものがあるのかしら?

·····ワンちゃん仲間·····みたいな?


カーナさんのお膝に座らされ、キリアさんから水の入ったコップとユシン達の村でもらった干しラフランスを3切れ渡された。

ラフランスは、森の木によくなる果物で安価で庶民に食されている甘味だ。甘い匂いは強いが、実際の甘みは微かにしか感じられない果物だ。干すことで生で食すより甘みが強くなるので干し果物にされることが多いが、私は生でも好きな果物だ。


「ほら、僕達も少し疲れたから丁度休みたかったんだよ」


「そ、そうだぞっ!なっ、コハクも疲れただろ?」


「わんっ」


「·····そうなの。(気を使ってくれて)ありがとう」


カーナさん·····下手すぎだわ。

カーナさんが演技下手すぎるせいで、コハクが困った顔して返事してたじゃない。·····子供に気を使わせちゃダメでしょう。

演技できないなら、キリアさんの言葉に便乗しなければ良かったのに·····

·····もう、可愛いわね。


大人しくカーナさんの膝上で座ったまま、ラフランスの干し果物を少しずつ頬張りながら、可愛いカーナさん達の気遣いを受け入れるしかなかった。


こんなの受け入れる以外どう対応すればいいのよっ!

キリアさんは絶対分かっててやってるわ!

でも、私には拒否できないわよっ!


お、遅くなりました(´∩ω∩`)

本当にごめんなさい!!


待っていてくださった皆さん!

初めましての皆さん!

本当にごめんなさい!

そして、ありがとうございます⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝


今後もどうぞよろしくお願いします!


あ、あと!

小説2巻が発売されました!

今回も麻先みち先生のイラストが神がかってます!

めっちゃくちゃ可愛いんです(*´꒳`*)

ぜひ、イラストを楽しんでください!

  • ブックマークに追加
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
ポイントを入れて作者を応援しましょう!
評価をするにはログインしてください。

感想を書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。