45: 逃亡後の彼ら2 (別視点
遅くなりましたm(_ _)m
目の前に陽の光を受けて銀色の髪が蒼く煌めく美しい髪が散らばり、宝石の様な碧と緋色のオッドアイに長い睫毛が影を落とし、悲しみの色を灯して私を見つめている。なのに、顔がよく見えない。髪や目の色も分かるのに、顔が認識できない。
シミひとつない、匂い立つような滑らかな白い肌に、触れたら壊れてしまいそうな華奢な体が微かに震えて、床に引きずり倒されたような姿勢で留まっている。……いや、よく見ると何者かの手が、その子を押さえつけているのが分かった。
その者の姿もよく見えない。しかし、体格の良さや制服から軍に所属している見習い騎士であるのが分かる。
礼節を重んじる騎士が、か弱い女性に手をあげるなど言語道断の所業である。もし、彼女が罪を犯したのだとしても、あの様な所業は許されるものでは無い。それに彼女は暴れる様子もないのだ。この者の所業は騎士の名を穢す行為だ。
上の者からの命令で動いていて、仕方なくだったのなら戸惑う様子が見られるものだが、この者からはそれが見られず、正当な行為と考えているのが分かる力の入れようだ。こんな者が騎士の端くれなどでは、やはり騎士の名を穢している。
顔さえ見えれば、この男から騎士の座を取り上げるのに·····
その手を離せっ!騎士の名を穢す不届き者めっ!
彼女のそんな姿は見たくない。
胸が痛くなり、吐き気が込み上げてくる。彼女を押さえつけている騎士に強い殺意が芽生える。
早く解放させて、この腕に抱きしめて「怖かったな。もう大丈夫だ」と安心させてあげたい。
あんな悲しそうな目をさせたくない。
彼女には笑っていて欲しい。
あんな華奢な体を震わせる姿が痛々しくて見ていられない。
早く、早く!早く!!
急かされるように騎士へ彼女を離すように指示を出そうとして、出た言葉に愕然とした。
「また、貴方か。何度言ったら理解するのだ。私の婚約者などと世迷言を言うのはやめよ!私の前にその醜悪な姿を晒すな。もし、また私の前に姿を現したり、世迷言を言うようなら、罪に問われると覚えておきなさい。·····次はない」
項垂れるように華奢な体がより小さくなり、か細く震えている。
彼女に駆け寄りたいのに、体が勝手に彼女を視界から外して、歩き進めてしまう。
彼女の姿が見えない。でも、彼女が泣いているのが伝わってくる。
止まれ!戻れっ!そして、彼女に謝らなくてはっ!
彼女が泣いているのが許せない。
彼女に別の誰かが触るのが許せない。
なぜ?なぜ、私は思うように体が動かないのだっ!
なぜ、勝手に心にもないことを言うのだっ!
自由にならないなら、体などいらないっ!精神だけになっても、彼女の元へ行かなくては·····彼女を失ってしまう·····そんな気がするんだ。
必死にもがいていたら、いきなりグイッと左腕を引かれ、胸を押し付けられた。
視線が勝手にそちらへ向けられる。
そこには、毛先にいくほどピンクが濃くなるピンクブロンドの髪を真っ赤な魔石を使ったバレッタで左サイドの髪を留め、ふわっと髪を靡かせ、カーネリアン色の大きな瞳を持った女がいた。やはり、顔が見えない。
ただ、その女に触られた箇所が気持ち悪く、目が合ったことでより不快感が増してくる。
その女の声は不協和音の嫌な音に聞こえ、何を言っているかなんの言語を用いているのかも分からない。女の手を振り払いたいのに、体が勝手にその女の腰を抱き寄せる。
親密なその行為に吐き気が込み上げてくる。
気持ち悪い。なんなんだ?
なんで、体が勝手に動くんだ?
気持ち悪い。この女が気持ち悪い。吐き気がする。
女から死臭がするだ。
気持ち悪い。吐き気がする。頭も痛くなってきた。
こんな女引き剥がして、彼女の所へ行かなくてはっ!彼女を助けなければっ!
女の手を剥がそうとするとより腕を絡ませ、胸を押し付けてくる。
やめろっ!気持ち悪いっ!私に勝手に触れるなっ!
私に触れていいのは、彼女だけだっ!離せっ!近寄るなっ!
抵抗すればするほど、絞め潰されるほどの痛みが女が絡みついている腕を起因にして全身を駆け巡る。
彼女の元へ行くんだっ!彼女を抱きしめるんだっ!
だから、離せっ!その手を離せっ!近寄るなっ!離せっ!離せっ!!離せぇぇええええ!!!!!!
「あ゛あぁあ゛あぁああぁぁっ!!!!!!!!!」
「「殿下っ!どうされましたっ!? 」」
普段静まり返っている王子の執務室から王子の叫び声にもとれる大声が聞こえてきたのだ。扉前に控えていた護衛騎士達が許可なく入室し、王子の身を守るため王子の元へと駆け寄り、ちょうど執務室に入ろうとしていた側近のクラウスも慌てて入室した。その目に飛び込んできたのは、椅子を倒して立ち上がり、泣きそうな顔をして焦点の定まらない目を歪め、必死に自身の左腕を掻きむしっている王子の姿だった。
護衛騎士達が自傷行為ととれる王子の行動を抑制しようと、2人がかりでそれぞれ腕と体を押さえ込んでいる。それでも、錯乱している王子の行動は止まらない。護衛騎士達を振り切ろうと何事かを叫びながら抵抗を示すのだ。
「つっ!! 殿下っ!! 落ち着いてくださいっ!殿下っ!·····アーサー!!!」
護衛騎士達も押さえ込みながら、必死に王子へと声掛けを続けていたが、王子の錯乱状態が改善することはなく、クラウスが王子の顔を両手で挟んで掴み、無理やり視線を合わせ、意識して低く鋭い声で王子の名前を呼び捨てた。
「ハッ!·····ク、ラウ、、ス?」
焦点が定まっていなかった瞳がクラウスの切れ長に整った目を見つめ、肩で息をしながら状況を把握しようと、自分の腕と体を必死に押さえつけている護衛騎士達から、いつもピシッと乱れなく整っている服が少し崩れているクラウスへと視線を巡らせ、呆然としながら聞いてきた。
「·····何があった?」
「それはこちらが聞きたいですよ。何があったんです?執務室で仕事をなさっていたはずの殿下がいきなり大声を上げて、自傷行為に取れる行動をし始めたんですから·····本当に心配したんですよ」
「·····そう、なのか?」
「はい。我らは殿下の声に反応して入室した時には、この部屋に殿下しかおりませんでしたので·····原因を把握出来ず、申し訳ありません。直ぐに、魔術師を呼んで執務室内の魔法残渣を調べさせます」
王族の執務室は特に厳重な結界が展開されており、魔法を行使することは困難ではあるが、不可能な訳では無い。そのことから、護衛騎士達は今回の王子の所業を他者からの魔法攻撃ではないかと考え、原因追求のため魔術師に魔法が行使された痕跡がないか調べようと動き出す。それを、王子がすかさず止める。
「よい、問題ない。仕事中に寝てしまったようだ。夢見が悪かったんだろう。心配かけたな。各自仕事に戻ってくれ」
「しかし·····」
「大丈夫だ。魔法残渣は感じられないし、最近無理をしすぎてたようだ。少し休むよ」
「私も近くにお控えさせてもらいますので、安心してください」
「·····分かりました。何かあれば、なんなりとお申し付けください」
最初は渋った様子を見せた護衛騎士達だったが、王子とクラウスの言葉に渋々元の場所へと戻っていった。
王子は幼いながら眉目秀麗であり、魔法の知識も既に城仕えの魔術師達と同レベルと言わせるくらい持ち合わせているため、その言葉を強く否定することは出来ず。また、王子と同様に優秀とされている公爵子息のクラウスが傍に控えるとあっては強引な捜査は行えなかった。
護衛騎士達が執務室から出ていくと、クラウスが軽く手を振って執務室内の結界に組み込まれている防音魔法を展開する。
「で、何があったんです?」
「はぁ·····本当に夢見が悪かったんだ。·····ただ·····」
「ただ、何です?」
「なんの夢を見ていたか·····覚えていないんだ。それでも、大きな喪失感と不快感が入混ざった生々しい感情の激流を感じたのは覚えている。·····本当になんの夢を見ていたのか」
倒れた椅子を直し腰掛けながら項垂れ、片手で顔を覆うアーサーの姿を見て、クラウスは心配をした。
ルーシャル公爵令嬢が行方不明となった日から、アーサーは何かに追われるように休みなく執務をこなしている。まだ、体も成長を終えていない未成年の自分達は、公爵令嬢の捜索に関わることは許されなかった。また、勝手に行動して他の貴族達に知られるような事があれば、シェリー嬢に言われもない噂が出てくるだろうし、自分達の行動によってはルーシャル公爵家や国王の捜索の邪魔をしてしまう可能性があるため、悔しく思う気持ちは強いがそんな気持ちはお首にも出さず自粛する必要があった。
そんな状況でできることをと考えたアーサーは、少しでも公爵令嬢の捜索へ力を割けるよう、王の執務を積極的に肩代わりしようと動いた。王はそんなアーサーを諌めずに、アーサーの力量を把握して程々の量の仕事を送ってくるのだ。それにより、アーサーの精神は崩れずに正常の域を保てている。
もし、何もせずにいたら、愛する公爵令嬢を目の前にして守ることが出来なかったことを後悔して、精神的に崩れていたかもしれないのだ。それを考えたら、王がどれほどアーサーを大切にしているか分かる。
「それほどですか。夢見が悪い·····と言うだけではないのかも知れませんね。こちらでも少し調べてみます。今は少しお休み下さい。ルーシャル公爵令嬢が行方不明となってから、根詰めすぎですよ。アーサー」
「·····分かっている。分かっているが·····まだ何の手掛かりも見つかっていないのだ。ルーシャル公爵も我が父も必死に探しているのは分かっているんだがな·····悪い、少し弱気になってしまった」
「心配なのは分かりますが、気を揉みすぎて倒れては、いざと言う時に動けませんよ。さぁ、お茶にしましょう」
「そうだな。ありがとう」
ほとんど知られていないが、この国の王族は直感で自身の伴侶を選ぶのだ。
アーサーが選んだ伴侶はルーシャル公爵令嬢のシェリー嬢だった。その愛しい少女を目の前にして攫われてしまったのだ。アーサーの苦痛はいかほどか·····そう考えると今回の夢もそれに起因したものではないかと考え、クラウスは思考を逸らそうとアーサーの好きな紅茶をいれて目の前に置き、自身の分もいれてソファーに座る。
本来なら侍女がすることなのだが、クラウスには他人が近づく煩わしさが勝るため、人目を気にしなくて良い時は自身でお茶をいれるのだ。アーサーもそれが分かっているので、何も言わずに目の前にある紅茶を口にし、芳醇な香りが鼻をぬけ、口に広がる程よい渋味が口に合い、好みな紅茶の味と匂いにホッと一息つけた。
それを感じ取ったクラウスは、柔らかく口角が上がり、こちらもホッと息をついた。
早く見つかることを願いながら、周りに悟られないよう、いつも通りの日常を過ごすのだった。
アーサーとクラウスもシェリーの書き置き読んでるけど、攫われたと思っているようです(´xωx`)
家出なのに·····
皆さん!こんにちは!
投稿が遅くなり、すみませんでした(´xωx`)
ちょっと現実がバタバタしてて、このまま終了かと思わせてしまってすみませんでしたm(_ _)m
少し落ち着いてきたので、また徐々に投稿していきたいと思います!
次は、モフモフのコハクくんがいるシエル達のお話に戻ります!
コメント、ブックマーク等、本当にありがとうございます!
いつもお力を頂いております!
誤字脱字報告もありがとうございます!
徐々に反映させていきたいと思いますので、今後もよろしくお願い致します⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝