59:私の話は信じられるでしょうか?
「お父様、私には前世の記憶があります」
目の前に座るお父様は、困惑した顔で私を見ていた。チラッと横を見ると、カーナさんはポカンと口を開けてビックリしていて、キリアさんは何かを考えているようで口に手を当てて難しい顔をしていた。
どうやらカーナさん達の鑑定眼を持ってしても、私に前世の記憶があることは分からなかったようだ。
「前世の、記憶?」
未だ困惑した様子のお父様は、それでも私の言葉を理解しようと聞き返してきた。
「えぇ、『前世』なんて言葉では語弊があるかもしれませんが、この言葉が1番しっくりくるので、あえて『前世』と言わせていただきました。お父様、私はルーシャル公爵家令嬢シェリーとして18歳まで生きた記憶がありますの」
「…18歳までなのは……どうしてだ?」
さすが公爵家当主として貴族界の魔窟を生き抜いてきた人だと感心する。他にも気になるところがあるだろうに、話の核心となる所を読み解き、着眼する頭の回転の良さに私は少し笑ってしまう。
「私が……死んだからですわ」
皆の息を飲む声が聞こえてきた。
話はまだ始まったばかり、私が死んだことくらいで息を飲まれては、これから話す内容を冷静に聞き終えられるのか心配してしまう。
「何が起きたんだ? シェリーの不調と関係ある…のだろうな」
眉を寄せ悲しみに耐えるような顔をして、足に肘を置いて前かがみになり、ギュッ手を結びながら祈るように何が起きたのか聞いてきた。お父様の表情や微かに震える声から、最悪の予想ができてしまったのだろう。
――――私の死にお父様たち家族が関わっていることを。
「えぇ、私はあらゆる冤罪を背負わされ、公開処刑されました」
「つっ‼ 私達は……シェリーを、助けなかったの……か?」
「えぇ、私に罪を押し付けてくださった貴族の方々とご一緒になって、私を処刑に追い込んでくださいました」
私の言葉を、意味を、理解しているだろうに、それを心が拒むのだろう。
お父様は手を握る力が強くなりすぎて赤くなってきているのに気づきもしないのかそのままで、ギュッと眉を寄せて涙を目に溜めて、既に答えが分かっていることを聞いてきた。
今のお父様がしたことではないことは分かっているが……あの時、私に罪をかぶせた者や私が這いつくばらされているところを喜んでみていた者どもと一緒になって私を追い落としたお父様達を思い出して、冷めた笑みをもらしてしまう。
「……な、なぜ……。私は、そんなに……愚かだったのか? 愛しい娘を死に追いやるほどッ! 狂っていたっていうのかッ‼」
私の言葉がよほど理解しがたきことだったのか、絶望に彩られた顔が項垂れたと思ったら、掠れていた声が徐々に大きくなり、ガッと自分の頭を抱えながら慟哭のように叫んだ。
ここが離れでよかったと思うほど声は大きく、前世を入れてもこんなに取り乱すような姿のお父様を見るのは初めてで、ビックリしてしまった。それと同時に前世の記憶に引っ張られていたのが、今の私に戻るような不思議な感じがして、頭がスッと冷静になれた。
「……狂っていた。そうなのかもしれませんわね。あの女がこの国にいらしてから、皆さんおかしくなっていきましたから……」
そう、あの女が来てから皆おかしくなった。正常な判断できなくなって、記憶も感情も、あの女の都合良いものに変わっていく感じ……気持ち悪くて、狂っているというのが正しい言葉のような気がする。
「あの女?」
「えぇ。 というか……皆さん、私の『前世の記憶』に疑問を持ちませんの? 少しは疑ってもよろしいと思いますが……」
首を傾げながらあの女のことを聞いてくるカーナさんに答える前に聞きたくなった。私の『前世の記憶』なんて話を疑いもせずに聞く3人の反応が理解できなかったから……
「ん? シエルがそんな嘘をつくわけないしな。それより、その女が気になる。そいつがシエルを苦しめたんだろ? どんな鬼女なんだ?……今のうちに殺しておくか」
「カーナの言うとおりだね。それより、計画は俺が立てておくから、まだ手を出すなよ。そんな奴のために捕まるなんて愚かすぎるからね……殺るなら確実にだよ」
「取り乱して済まない。私もその計画に加えてもらえるかな? 色々伝手がある。……最悪、全て握りつぶす」
なんてことない様子で、私が嘘をつくはずないと即答してくれるカーナさんとキリアさんに唖然としてしまう。少しは疑うことをするべきだと思うが、信じてくれることが嬉しかった。しかし、そんな気持ちもカーナさん達の不穏な発言に霧散する。お父様がいつもの冷静さを取り戻したようで、カーナさん達を諫めると思ったら、まさかの加担するような発言に驚いてしまう。
今はまだ起きてもいない処刑の原因と思われるあの女を抹殺しようと、躊躇なく計画の話し合いを始めるカーナさん達に慌ててしまう。
このままじゃ犯罪者一直線だわっ!
お父様も金と権力使って犯罪を握りつぶそうとするなんてッ‼
それに、根拠なく私の言葉を信じるなんて正気なのッ⁉
「え? あの、ちょっと? おかしな方向に話が進んでいるわ。待ってくださいッ! 私の話は終わっていませんし、この話を根拠もなく信じるなんて正気ですかっ⁉」
「根拠ならあるぞ」
「え?」
「シェリー、高祖父のコレクションが仕舞ってある秘密の部屋に勝手に入っていたね。魔法狂いだった高祖父のコレクションだ。危険なものも多く仕舞っているから、あの部屋を知っている者は限られた者だけだった。それに、あの部屋は結界魔法で空間固定していたはずなのに……場所も開け方も知らないシェリーが何何度も出入りしていた。それだけじゃない。シェリー、君はいつの間に古代語が解読できるようになっていたの? 魔法も魔術も使えるよね? 部屋から消えた方法は短距離転移だね。シェリーの部屋に残っていた本の間に君が書いたメモが挟まっていたよ。逃亡先も国内外の情勢を理解してのようだったしね。お茶会にも出ず、外部と関わりを持っていなかったはずなのに把握できているなんて不思議だったんだ。でも、シェリーの言葉で納得できた。だから、シェリーの話を疑ってはいないよ」
根拠がないとの私の発言に冷静さを取り戻したお父様が、淡々と私の話を信じると判断した根拠を反していく。確かに、前世の8歳の時は魔法も魔術も習っていなくて使えなかったし、あの部屋の存在も知らなかった。古代語なんてミミズが張ったような変な模様にしか見えなかったわね。
そう考えると、『前世の記憶』があることを知らない人からしたら、今の私は神童とかではなく、子供の姿をした得体のしれない何かみたいで気色悪いでしょうね。
気持ち悪がることなく接してくれるカーナさん達と引き合わせてくれたエルサさんには感謝しかないわ。
お父様達も気持ち悪く感じたりしなかったのでしょうか? カーナさん達への態度と違い、最悪な態度でしたし……よくここまで追いかけて来ようと思いましたわね。こんな扱いずらい子供、これ幸いと処理してもおかしくないでしょうに……
認めにくいけど、お父様は愛情深い方なのでしょうね。
だからこそ、貴方は私の話を聞いて絶望を感じるでしょうね。最悪、精神に害が生じるかもしれません。
でも、貴方が望んだことだもの、聞いていただきましょう。
「そうですか。これから話す内容は私が処刑される1年半前からのお話になります。気分が悪くなるようでしたら、止めていただければと思います」
「1年半前……」
「えぇ、私の周りの人たちがおかしくなり始めたのがその時期くらいからでしたので」
私は大丈夫ですけど、私に起きた出来事は気分が悪くなるようなことも多々含まれますから、無理に最後まで聞かなくてもいいと思い声掛けをしたのですが、キリアさんは時期が気になったようです。
私の言葉に納得したのか「そうか」と消え入りそうな声で頷きながら、真剣に私の話を聞こうとしてか座り直してこちらに視線を向けてきた。
小さく息を吐き出して、つい最近の出来事のようにあの苦痛の日々を鮮明に思い出せる。
そう……アーサー殿下との結婚をあと1年半後に控えた、あの日からすべてが狂っていった。
こんばんは。
少し短めですが、切りよさげだったので一度切ります!
皆さんいつもありがとうございます。
今後も頑張りますね(*^-^*)
書き方が定まらず読みにくくなってしまってすみませんでした(;´・ω・)
時間作って直していきますね。58話についての修正は、もう少しお待ちください。
手探りですが頑張ってやっていきますね。
優しい目で見守っていただけると嬉しいです。
よろしくお願いします(^^♪