44: 皆笑顔が幸せでしょうか?
カーナとコハクは全力疾走で盗賊達の拠点である洞窟へ戻った。
そこには、生き生きとブランカ達に絡んで喜ぶオーロと、そんな3人を見守る位置でキリアがシエルを膝に乗せて地に座っていた。カーナ達が戻ったことに気づいていたようで、視線だけを向けている。オーロ達がカーナ達に気づく前に、カーナとコハクはシエルへとダッシュした。
そして·····キリアにアイアンクローされるカーナ。コハクは直前で気づいて、スピードを緩め滑るようにキリアの横に沿うように伏せをした。
シエルは真夜中の行動と魔法の行使により疲れたのか眠っていたのだ。カーナも気づいてはいたが、シエル達に抱きつくことを優先にしたためキリアに無言の抗議をされることとなったのだ。
「ちょっ、まっ!キリ、痛ぃぃいぃいいい!」
「シッ!せっかく寝たんだよ。起こす様な真似するな」
「ごめんなさいっ!わっ、分かったから!離してっ!!」
あまりにギュッとされるため痛みに耐えながら小声で抗議すると、冷静に小声で注意されてしまい謝るしかなかった。
やっと離してもらったが、顔が変形してないか心配になるほど痛かった。
私、母親なのにこの扱いっ!酷いっ!酷すぎる!
もう少し優しくしてくれても良いじゃないかっ!
あんなに頑張ったのに!!酷い息子だ!!
可愛いけど最近容赦ないから辛い。昔は『ママ大好き』とか言ってくれたのに最近は言ってくれないし·····思春期なのか?難しい年頃なのか?
えっ、もしかして·····私、嫌われてる!?
はっ!もしかして·····反抗期っ!なんてこった!!
反抗期なんて反対だ!!いつまでも『ママ大好き』な息子でいてくれっ!悲しすぎるっ!!
いじけて洞窟の隅で小さくなるカーナは、時々、いや頻繁にチラチラとキリアを見る。その視線を受けてキリアがため息を吐きながらカーナを労り、少し釘を刺した。
「はぁ、カーナお疲れ様。嫌いではないが·····家族愛も程々にしてくれ」
パァッとスポットライトが当たったかのようにカーナの嬉しそうな笑顔が輝く。
「うん!キリア、シエル、コハクもお疲れ様!よく頑張ったな!あと、これでも抑えている方だっ!」
一瞬で距離を詰めて、キリア達の頭を優しく撫でる。コハクはカーナ達のことは認めているのか、頭を撫でることを拒否せず嬉しそうに尻尾を振った。
キリアは家族愛への表現があれでも抑えている方であることを知り、大きくため息を吐いてしまったのだった。
カーナとキリアは別れてからの経緯をお互いに話し、次の行動を決めていく。
眠っている盗賊達が、オーロ達が死んだと思っているのなら、合わないようにしなくては行けない。
今は眠っているから良いが、起きた時にオーロ達を見たら改竄されている記憶との齟齬に何が起きるか分からないのだ。
見た目的にもオーロは目立つから余計に注意しなくては行けない。
混乱して狂ってくれるなら良いが、記憶の改竄に注視されては面倒だ。
先にシエルを連れてオーロ達を村に連れていくことにして、オーロ達に説明していると、オーロが話を止めた。
「ちょっといいか?こっちのオーロのスキルに擬態とか言うのがあるんだって、使えば人に紛れるのが楽になると思うんだ!どうかな?村の人達に怖がられるのも嫌だし、今のうちに擬態を使ってもいいか?」
ナイトメアスネイクが見つからないのは、その隠密に長けたスキルのせいな気がしてきた。出会っても記憶改竄されて見ていなかったことにされたり、擬態を使って隠れていたり、他にも幻覚幻聴などのスキルも隠れるのには有用なスキルだろう。
オーロが擬態のスキルを使用することに反対はないので、体に負担がない程度でスキル行使をするようにキリアが伝えた。
早速、オーロの下半身を人の足に擬態するようで、下半身を上から下に向かって撫でて足へと変化させた。
「おっ!この方が歩きやすいやっ!ナイトメアスネイクのフォルムも可愛くて好きだけど、歩きやすさはこっちかな?」
人のオーロの感性を疑ってしまうような発言が聞こえたが、あえてキリア達は反応を示さなかった。
「うー!にゃっ!いちゃっ」
「ん?そうだな。村に行って座るまでは僕が担当するよ。ゆっくり休んでて」
ナイトメアスネイクのオーロに意識が変わったようで、人の足に慣れていなかったせいで、ふらつき転んでしまった。歩きづらいようで、意識を奥に引っ込めてしまい、人のオーロが村まで責任もって歩いていくことが決まった。
キリアがシエルを抱っこした状態で先導し、その後ろをヴァネッサ達が着いていく。視認できないくらい離れてから、カーナが縄で繋いだ盗賊達を引きずって行こうとした。コハクはまたも殿を努め、先をゆくカーナが引き摺っている盗賊達を風のスキルを使って浮かしてカーナのフォローを行いながら、面倒事が終わったことが嬉しくて尻尾を振ってご機嫌に着いていく。
道中は盗賊達を態と木にぶつけさせたり、地面に落としたりしながら、盗賊達がボロボロになっていく様をカーナと一緒に喜び、カーナの遊びという名腹いせに加担するコハクの姿があった。
先に村へと着いたキリア達は村人達に温かく迎え入れられた。着いてすぐに村長宅へヴァネッサ達も一緒に連れてこられ、温タオルとお茶、軽くつまめる程度の食事を用意された。
村人達に感謝して、温タオルを使ってシエルの顔を拭き、手を拭いてあげる。そして自分も軽く汚れを吹いて落とし、お礼を言って返した。
ヴァネッサ達も村人たちに恐縮しながらも温タオルを受け取り、体を軽く拭いて汚れを落としてサッパリしていた。
ヴァネッサ達が、サッパリした後を見計らったように村長が部屋へ入ってくる。お互いにお茶を飲みながら、現状の確認をした。
「今、カーナとコハクが生き残った盗賊達を連れて帰ってくる。盗賊達を閉じ込めておく場所の用意をした方がいい。突き出すにしても閉じ込めておくのが1番だからね」
「そうじゃな。既に閉じ込めておく部屋はある。奴らが来たら、そこに放り込んでおくつもりじゃ。若いのにしっかりしておるの。·····本当にありがとう。子供達は体を綺麗にして少し眠っておる。そちらも寝れるよう準備は出来ておる。休んでくだされ」
「ありがとう。シエルが疲れて寝てしまっているんだ。早く休ませて上げたかったんだ」
「それは良かった。こちらへどうぞ」
キリアがシエルを抱き上げた状態で案内してくれる村人について行く。後ろからヴァネッサ達も着いてきており、1度で休むことになったようだ。
布団がひかれた部屋に通され、少し休むことになった。お昼に起こしに来るようだ。
ヴァネッサ達は隣の部屋へ通され、こちらと同じように布団がひかれていた。オーロほ疲れたのかヴァネッサ達の手を引いて、お布団にライブし仲良く笑いながら眠りについた。
キリアは腕の中で安心しきって眠っているシエルをお布団の上に優しく乗せて、寝具を整えてあげていると·····ドタドタドタっと誰かが走ってこちらに向かっているのが分かり、軽くため息が出てしまった。
急いでこちらに来たようだが、温タオルは貰っていたようで肌の汚れは無くなっている。そんな2匹は流れるように部屋に入り、シエルの横にお互いが静かに寄り添い、川の字のように横になった。
「はぁ、カーナ。盗賊達はどうしたの?」
「ん?村人立ちに言われた部屋に投げ入れといたぞっ!問題ない!村長にも昼まで休んでくれって言われたしなっ!お昼はご馳走してくれるそうだぞっ!楽しみだなた」
「ワンっ!」
まるで僕も楽しみだと言うようにコハクは軽く吠えて、尻尾を振った。
夜どうし行動したのだ、村長の言葉に甘えて昼まで寝ることになった。
シエルの両隣りにカーナとコハク、コハクの隣にキリアと並んで眠った。──────────目を閉じた瞬間に眠りに落ちた。
トントントンっと軽いノックの音で目が覚めた。
目を擦りながら起き上がり、軽く伸びをする。
あれ?ここどこ?·····あっ!あっ、あぁぁぁぁああ!!
私ったらなんてことをっ!
お日様の陽が入り明るい部屋を見渡して、カーナさんとコハクが私の両隣りに眠っていた。
ドア近くでノックしてきた人の対応をしているキリアさんが目に入ると、寝る前の状況を思い出してしまった。
オーロが今後も生きていられる方法が見つかり、安堵と共に夜中の行動と魔法の行使で疲れた体は足取りが覚束なくなり、キリアさんに抱き上げられたのだ。
そして、なんの抵抗も出来ずにキリアさんの胸に顔を埋めて眠りについてしまったのだ。
寝る前の記憶を思い出し、恥ずかしくて、キリアさんを直視出来なくて俯いてしまった。
カーナさん達も目覚めたようでグッと伸びをすると、クワっと欠伸をして私と目が合った。瞬間、私はカーナさんの腕の中で抱きしめられていた。痛くはないので、抵抗せずにカーナさんを見上げる。
「おはようシエル。よく眠れたか?昨夜はお疲れ様っ!」
「おはようカーナさん。うん、頭もスッキリしたし、疲れも溜まってないよ。カーナさんもお疲れ様」
カーナさんに返事している間もカーナさんは私の頭に頬ずりをして嬉しそうにしているので、そのままにした。
昨夜のクエストで嫌な思いをしたのはカーナさんだ。ガルガに腕を掴まれ襲われそうになり、盗賊達の欲にまみれた視線を浴びたりと、嫌な思いをすることが多かったのだから、こんな事で喜んでくれるなら、気が済むまでそのままにしておこうと思ったのだ。
コハクもグッと前足を踏ん張って伸びをするとキリアさんの所まで歩いていった。
キリアさんが村の人とのお話を終えたようでコハクを撫でて一緒に戻ってきた。
「おはよう。村の人達がね、僕らを歓待したいんだって。申し訳ないけどお断りしておいたよ。もうここを出て次の街へ向かわないと行けないからね」
「そうだなっ!村長には歓待とか硬っ苦しいのは要らないって言ったんだがな。気が収まらなかったんだろっ!さぁ!シエルっ!出発出来きる?」
「うん!大丈夫だよ!」
ここで荷物を広げたりしていないので、そのまま出発して問題ない。カーナさん達と朝の身支度をサッサと行い。キリアさん達がここに置いていっていた荷物を既に回収していたようで、荷物を背負い外へと向けて歩き出した。それにシエルがコハクとともについて行った。
村長宅から出ると村人達が全員が集まっていた。
中には子供達とその親御さんもいる、皆の目が腫れぼったいのは、再会を喜ぶとともにやせ細り体のあちこちに見られる痣や傷にどのような悪環境で過ごしていたか想像が着いたからだろう。
それでも、生きて帰ってきたことは喜ばしいことであり、どんな悪環境でも心が歪んでいないことが分かって嬉しかったし誇らしかったのだろうと彼らの顔を見たら分かる。
「旅の者よ、本当にありがとう。お礼をいくら言っても足りないくらいじゃ。先を急ぐと聞いておる。どうか危険の無い安全な旅ができますよう祈っている。これらは儂らからの僅かばかりのお礼じゃ。少なくて申し訳ないが受け取っておくれ」
そう言って、干し肉、干し果物など保存が効く食料や薬草など、旅に必要なものが所狭しと入れられた籠を渡された。
金品などは受け取らないつもりでいたが、それが分かっていたかのようなお礼の数々に苦笑してしまう。
本当に良い人達だ。
皆無事に帰らせることが出来て本当に良かった。
村人達にお礼を伝えて籠を受け取り、キリアさんがそれらを鞄に詰めていく。
それを見ていたら、子供たちに囲まれた。
「シエル、俺もっと強くなるよ。俺より年下のシエルがあんなに強いんだ。俺も負けていられない!村の人皆を守れるような強さを手に入れるよ。安全に過ごせる村にする·····から、また遊びに来て·····くれるか?」
「シエル!!本当にありがとう!あなたと離れるのが寂しいわ」
「シエル!!私達も頑張るわっ!だから、また会いましょう!」
「シエルちゃん!ありあとうっ!これか、らも、げんき、でにぇ。また·····遊びに、来て、くれりゅ?」
「·····ぼく、がんばる·····げんきでね?」
皆が一気に話しかけてくるので、必死に聞き取りながら返事をしていく。皆涙で目に膜を作りながら、時にはその膜が決壊してこぼれ落ちながら、必死に笑顔を作って見送ろうとしてくれているのがわかった。
「皆、ありがとう。また来るね。それまで無理せず元気に過ごしてね」
優しく声をかけると、皆の目から涙が止まらなくなってしまって、私の目もつられてしまう。皆が私を包むように抱きしめてくるので、余計に泣いてしまった。
準備が終わったキリアさん達に促されて、皆と離れてキリアさん達の元へ戻る。
村長の息子のスヨンさんとカーナさんがお話をしていて、クエストの依頼達成をギルドに伝え依頼料を払うことと、捕まえた盗賊達を警備隊に引き取ってもらえるように使いを出したことなどの説明を受けていた。
コハクが私の横に来て、頭を擦り付けてきたので、その魅力的なモフモフを触っていると、人型をとっているオーロがヴァネッサ達を連れて、近づいてきた。
「シエル!僕らはこの村で生きることになったよ。村の人達が余所者の僕らを受け入れてくれたんだっ!少しの間は、村長宅から出ないように過ごすことになったよ。まだ、安全か分からないし、調査に来る奴もいるかもしれないからね。家の中でできる仕事を頑張るよ。·····本当にありがとう。こうしてヴァネッサ達と一緒に暮らせるのはシエル達のおかげだ!僕らは今幸せだよ!」
「良かった。幸せに過ごしてね」
お互いにギュッと抱きしめあって、お互いの今後の幸せを願った。
村人達に囲まれながら、村の出入り口へ向かい、今日も門番をしていたおじさんが優しく笑ってシエルの頭を撫でた。
「ほんに、あっがとなっ!子供だちも皆戻ってきで、村も元気になっだ。あんたらには感謝しかねぇ!無事を祈っどるでなっ!達者でな!」
「あんたも元気でなっ!」
カーナさんが笑いながら答えて、村を出て先に進んでいく。
少し進むと子供たちに名前を呼ばれた。
振り返ると村の外に全村人達が集まっており、皆が一斉に頭を下げた。
「本当にありがとうございました!」
その言葉が辺りに響いた。
皆が幸せそうに笑っている顔を見ながら、私達も心が温かくなり、手を振って別れを告げた。
おはようございます!
やっと、やっと!終わりました° ✧ (*´ `*) ✧ °
皆さん!応援して下さりありがとうございます !
皆さんの応援に助けられ、ここまで来れました!
いつもコメント、ブックマークありがとうございます!
本当に嬉しいです⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝
これからもシエルの旅は続くので、よろしくお願いします☆°。⋆⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝
次は安心安全な旅になりますよに!!