「オーロ！あなた、魔術使えたわよね？」

キリアと一緒に戻ってきたシエルがオーロに飛びつかん勢いでオーロの肩を掴む。

「はぁ？魔術？あっ！もしかしてナイトメアスネイクが使っていたスキルのこと？あれはこっちのオーロが使えるだけで僕はたぶん使えないよ」

「えっ？そうなの？」

「うん。魔術なんて使ったことないよ。教わったりしなかったしね」

魔術が使えてしまえば、もしかしたら逃亡するかもしれないとか思って、魔術を教えなかったのかしら？

「もしかして、僕が魔術を使えたら、こっちのオーロは助かるの？」

「まだ、分からないけど·····」

「助かるかもしれないんだよね？なら、教えて！シエルは魔法使いなんだろ？」

確証もなく、根拠も曖昧な言葉を信じて、掴みかかる勢いで両手を握られ顔が接近する。吃驚したが最後の言葉に引っ掛かりを覚えた。あの時の会話を聞いていたのはナイトメアスネイクのオーロだったはずなのだ。

「クウリとの会話聞いていたの？」

「うん！オーロが楽しそうに聞いていたから覚えてるんだ！」

「·····ねぇ、もし魔術が使えてこっちのオーロが目覚めたら·····あなたはまた奥に行っちゃうの？」

「それは僕にも分かんないよ。でも、ブランカを置いて独りで逝くのは辞めたから」

また、ナイトメアスネイクのオーロに意識を取られるかもしれないのに、怖がることなく真剣に今後の未来を見つめようとしているようだった。

「分かった。今から魔力を送るから魔力を感じたら、それを全身に回すように動かしてみて」

オーロの両手を握り、オーロの手を通り入れていく感じで、ゆっくり魔力を流していく。

「ん？なんか温かいのが流れてくる！これが魔力？」

「多分それね。ゆっくりでいいから、自分の全身に流れるようにしてみて」

「うー。んー？くぅー！はぁ、なんか難しいね！もうちょい流してくれる？なんか掴めそう！」

掴む手に力を入れながら、首を傾げたり、肩を引きあげたり、体を揺さぶったりと変な動きに合わせて顔も動く。

でも、何かが掴めそうだと言ってからは、徐々に魔力を体に回せるようになった。

「おぉ！行けた！全身が温かいよ！僕って優秀じゃない？」

「えぇ、覚えるのが早いわ！」

「んー？あれ？ ねぇねぇシエル。ここら辺に魔力を流すと吸い取られる感じがするよ」

そう言って下腹部をさするオーロの言動で、魔石がそこにあるのだと当たりをつけられた。吸い取られる感じがするのなら、私の予想が当たったのかもしれない。無理をさせないよう冷静に声をかける。

「ねぇ、その場所に魔力を多めに流せる？」

「やってみる！」

両手を下腹部に置き、深呼吸を繰り返すオーロを静かに観察していると、オーロの下半身にある手の指先がピクっと動いたのに気づいた。その動きは徐々に下半身の手指全体に広がり、だらんと伸びていた下半身がクルンっと体に巻き付いた。

「ハハハッ！動いた！凄いよ！思う通りに動かせるんだ!!」

人のオーロは嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねて、自身の下半身に隠された目を巡らせていた。少しすると、オーロが何かを見つけたような声を出して、固まった。

「んん？おっ！いたっ!!」

「どうしたの？おーい！オーロ？」

固まってしまったオーロの目の前で手を振りながら、方を軽く叩いて声をかけるも返事が返ってこなかった。恐る恐るオーロの心臓部に耳を当て鼓動があるのを感じ、ホッと息をついた瞬間、オーロの手がシエルの肩を行き良いよく掴んだ。

「えっ、えっ？なに？」

「シエー、あいあとー」

二パッと笑ったオーロが舌足らずの言葉を発した。拙いながらなんと言っているのか分かる程度に話す能力が成長しているが、それがナイトメアスネイクのオーロであるのが分かった。言葉を発しながら抱きついてきて、嬉しそうにシエルの肩に額を擦り付ける。まるで気に入ったものに匂いを擦りつけるような仕草も相まって目の前のオーロがナイトメアスネイクであることは間違えないようだ。

ということは·····人のオーロはまた奥へと閉じ込められてしまったのか·····そう思い俯きそうになった瞬間、オーロがシエルの肩から頭を離し、何かに向けて優しく諭すように話す声が聞こえてきた。

「分かった！分かったから！後でいっぱい変わってやるから少し待っててくれ。シエル達に説明しなきゃ行けないんだ。な？いい子だ」

「·····人のオーロ？」

「あぁ、そうだけど、どうしたの？そんな呆けた顔して？

まぁ、理由はわかっているけどね」

オーロが頭を掻きながら、苦笑しシエルたちを見て、深呼吸をすると話し始めた。

「シエル！成功したんだよ！ナイトメアスネイクの魔石が僕の魔力を吸い取って、息を吹き返したんだっ！あとね、あっちのオーロと話せるようになったんだよ。入れ替わるのも僕の方に主導権があるみたいなんだ」

そう言いながら、ナイトメアスネイクの下半身を撫でて笑った。

「·····よかった。本当に、成功して、生きてて、良かったぁ!!」

シエルはオーロを抱きしめてそう言った。ヴァネッサとブランカも駆け寄ってきてギュッと上から一緒にオーロを抱きしめる。ブランカは泣き笑い顔がグシャグシャだったが、今まで見た顔の中で一番綺麗な表情だった。

ほ、本当にっ！良かったっ！

なんの確証もない私の考えを否定することなく、必死に魔力を体内で操ることを習得して、ナイトメアスネイクの魔石に魔力を！魔素を！取り込ませるとこに成功させたのだっ！

·····これからも生きることが、生きていくことができる。ブランカさんと一緒に未来を歩むことができるのだ！

これは、今まで理不尽なことがその身に降り掛かっても腐ることなく、前を向いてきたオーロ達への褒美なのかもしれない。そうでなければ、なんの根拠も確証もない、私の思い付きが成功するはずがないのだからっ！

嬉しい、嬉しい、嬉しいっ！生きて、この場で笑い合えるのが本当に嬉しいっ！

皆で涙を流しながら喜び合い、少しして落ち着くと、現実に目が向けられるようになった。

今後のオーロの状態はまだ分からないが、ナイトメアスネイクのオーロが『魔石、お腹いっぱい』と言っていたそうなので魔石の働きは再開したことになる。

それはおいおい観察して対処していけば良いが·····今すぐにでも対処しなければいけない事がある。それは少し離れたところでこちらを見ている盗賊達だ。彼らはオーロが生き残れたことや生き残れた経緯など、意識を失っていない盗賊達は先程の状況を一部始終見てしまっている。

盗賊達は誰かからオーロの管理と実地での利用精度の測定、その始末と報告が依頼されていた。

盗賊達を警備隊に突き出してしまえば、これまでの事や先程のこともすぐに吐いてしまうだろう。それをコイツらに依頼した者達に知られたら、オーロが狙われるのは必至だ。

帝国で破棄されるはずだったオーロ達を他国であるこの国まで連れてこれたこと、そして盗賊達に依頼をした内容からも個人ではなく組織だった動きのように感じる。それも他国への干渉力と権力を持った者がいる組織ということだ。

そんな危なそうな奴らにオーロ達が生き残っていることを知られるのはまずい。·····いっそ、盗賊達を全て殺してしまうか。それが一番手っ取り早く事実を隠蔽できる方法だろう。そして、洞窟内を焼き尽くすなり爆破するなりすればオーロが生きている証拠など残りはしないのだ。

そう思って盗賊達を見てしまったら、視線に殺意が乗ってしまったようで「ヒィー！」と盗賊達が声を出して身を寄せ合ってしまった。

「シエル」

「·····しないよ。今は」

キリアさんに諌められたので、先程の考えは最後の手段となるようだ。キリアさんは私にあまり人の生き死に関わらせたくないようだ。キリアさんとカーナさんという、とても優しい真綿に包ませて傷つかないように大事にしてくれているのが分かり、嬉しさと気恥しさで顔が赤くなりそうだった。

さて、オーロの事もだが私の顔もよくよく見せてしまったのもまずいような気がする。どうするか·····。

「なぁ、ナイトメアスネイクが奴らのこと惑わせていいか？ってさ」

今後の対応に悩んでいるとオーロの口からとんでもない言葉が飛び出てきた。

「えっ？惑わせる？どういうこと？」

「うーんとな。僕たちの事とかアイツらの記憶に正しく残るのは困るわけだよね？なら、ナイトメアスネイクのスキルで間違った記憶を正しいと認識して貰えばいいってことだよっ！」

嬉しそうにクルンっと一回転すると、盗賊達のところは歩いていき目を覆っていた包帯をはずした。

「もう、これも要らないみたい」

そう言って包帯を手に巻きつけながら、ご機嫌に鼻歌を歌い出す。その鼻歌に合わせて下半身も蠢いている。

盗賊達は何が起きるか分からないようで、困惑した顔でオーロの行動を注視している。

少し遠くから見ていた私はある異変に気づいた。私と同じようにヴァネッサ達も気づいたようで『あれは何？』とお互いに首を傾げている。

盗賊達の周りは薄ピンクの煙が取り囲んでおり、それを当事者である盗賊達は気づいていない。徐々に眼がトロンっとしてきて微睡み、全員が眠ってしまった。

「ふぅー。できぃー！えりゃい？」

振り向いたオーロはニパニパっと笑いながら、シエルの元へ駆けてきて聞いてくる。

「すごいね！偉い偉い！」

とオーロの頭を撫でてあげると『きゃー！』と嬉しそうに騒いでブランカ達にも報告に行っている。

キリアさんの所へ何が起きているのか教えて貰いに行くと、キリアさんが驚いた顔をして盗賊達を見ていた。

「キリアさん？」

「あっ、シエル」

「何が起きていたの？」

「·····オーロがナイトメアスネイクのスキルを使って記憶の改竄をしたようだ。内容まではわからないが·····本人達が改竄されたことを気づくことも、周りに気づかれることも無いようだ」

「そんな·····。でも、持っているのがオーロで良かった」

キリアさんから聞いた瞬間、そのスキルの恐ろしさに気づいてしまった。キリアはさんも気づいているからあんな顔をしていたのだろう。

記憶の改竄が出来てしまうなんて、犯罪を犯しているもの達からしたら喉から手が出るほど欲しい能力だろう。それも1度で複数相手にも使えるのスキルなのだ。使いようによっては国を滅ばすことも可能なスキルだ。民を偽りの記憶で先導して反乱を起こさせることなど簡単だろう。

でも、だからこそ、持っているのが善良なオーロで良かったと素直に思えた。

キリアさんも同意するように頷いた。

「シエル！こっちのオーロに協力してもらって、奴らの記憶を《魔物が押し寄せてきて仲間が殺され、僕達も巻き込まれて殺され死体は食われた》と改竄しておいたよ。あと、尋問したのはキリアお兄ちゃんに変えておいたよ」

「·····なんで、尋問したのをキリアさんに変えたの？」

「えっ？だって、こんな可愛い少女が尋問したなんて目立つし、ずっと帽子をかぶっていたからあんまり顔を見せたくないのかな？って思ったから·····あれ？もしかして迷惑だった？」

「ううん。ありがとう！」

改竄した内容を教えに来てくれた人のオーロから聞いた内容に驚いてしまったが、私を気遣ってのことであるのが嬉しかった。そして、オーロは人を観察する能力が高いようだ。今後、生きていくためには必要な能力だろう。そんなオーロが逞しく感じた。

さて、その頃のカーナさん達は──────────

カーナさんを先頭に村へ向かって歩きていた。

下り坂もあり、徐々に体力が奪われ、少しでも体力を温存するため、そして魔物に見つからない様にするために、子供たちは声も出さずに静かに歩いていた。

歩き続けると年下組のクウリとロッジの2人が遅れ出した。2人は年上組より体力は無く、歩幅も違うので、体力の消費量も多くなってしまうのだ。

それに気づいて、ユシンが手を伸ばそうとすると、カーナに遮られて頭を軽く撫でられた。ユシンが吃驚と嬉しさとで固まっている間にカーナがクウリとロッジを抱き上げて、道を進み出した。それに子供達はそれぞれカーナにお礼を伝え、顔に出ていた疲労感を少し軽減させて先に進んだ。

カーナは先導し魔物の対処をしなければいけないのだが、殿を努めているコハクが周りを威嚇しているため、襲いかかってくる魔物はいない。それどころか遠くへ逃げるように動いているのを感じた。だからこそ、子供達を抱き上げて両手を塞いだ状態になれたのだ。

森を抜け、村へ進んでいると、村の灯りが見えた。

子供達が嬉しそうな声を上げて、最後の踏ん張りを見せる。

村の灯りは出入口の松明2箇所のはずがそれよりも多くの灯りが見える。

カーナ達は殺気も何も感じないので、少しだけ警戒させて村へと近づいた。

あちらもこちらに気づいたようで、恐る恐る近づいてきた。

そして、あちらの持っている松明とランプで照らされて、お互いに顔が見えると一瞬、時が止まった。

「お、父さん？」

「ユシンか？」

「父さん!!」「ユシン!!」

先頭に立っていたのは村長の息子のスヨンで、それにいち早く気づいたユシンが戸惑いながらも声をかけるとスヨンもユシンに気づいたようで、手に持っていたランプを手放して、自身の息子へ駆け寄り抱きしめた。

周りの村人達も子供達が戻ってきた事を認識し、名前を呼び抱き上げて無事に帰ってきたことを喜んだ。

「リリ？ルル？」

「「ママ！」」

「クゥちゃん!!」「クゥ！」

「ママァー！パパァー！」

「ロッジ!!ロッジ!!私の可愛い子！」

「お母さん！」

喜びの声は村にまで届き、村の中にいた人達も駆け寄ってくる。

中には子供達の母親達もいて、涙を流しながら、存在を確かめるようにギュッと抱きしめて自分の子供を離さない。父親も母親と子供を一緒に包み込むように抱きしめていて、どれだけ心配していたのかが分かる光景だった。

皆の幸せそうな姿を見て、幸せになりながら、自分の息子娘に会いたいと思いを馳せた。

まだ、別れてそんなに経っていないのにカーナは既に子供達の存在が不足しているようだった。

「ほら、嬉しいのもわかるがの、子供達の状態を確認して、傷の手当と温かい食事を出してあげるのが先じゃろ」

喜び騒ぎあっている中でも聞こえる声に村人達も興奮を抑えて、慌ただしく動き出す。

家に薬草を取りに行く者、体に優しい温かい食事を作りに行く者、子供達の体を拭く清潔な温タオルを用意する者、状態を見れる薬師に知らせに行く者などスヨンが指示を飛ばしてそれに従い村人達は素早く動きだした。

そんな中、村長のスジンがカーナとコハクに近づいて、頭を下げた。

「此度は誠に感謝申し上げる。子供達の命だけでなく村人達の心も守ってくださって、感謝してもしきれぬくらいじゃ。盗賊の拠点にあなたの子供達が待っているのじゃろ？我らの子らを先に送り届けて下さった、その心遣い嬉しく思います。どうぞ、迎えに行ってあげてください。我らはあなた達が帰ってくるまでに歓待の準備を整えさせて頂きます。·····本当は我らも一緒に行くべきじゃが、足で纏いになるのが関の山じゃ。どうかお気をつけて」

「気にするな。私達はクエストを達成させただけだ。しかし、あなた達の言葉は受け取るよ。さて、すまんな！そっちの言葉に甘えさせてもらう！息子達を連れてまた戻ってくるなっ！あっ、歓待とか硬っ苦しいのはいらないから、温かい茶と体を拭くタオルだけ用意してもらえるとありがたい。じゃっ！」

村長からの言葉に返事をして、コハクを連れてサッサと盗賊達の拠点に戻って行った。時々、「シエルー！キリアー！」と叫ぶ声が聞こえ、その声が遠ざかっていった。

1人残された村長はそんなカーナとコハクの後ろ姿を見えなくなるまで見送り、もう一度深く頭を下げた。

「·····ほんにお優しい方々じゃ」

そう呟いて空を見上げる。日が明けてきており、山間から覗いた太陽が夜空を茜色に徐々に染め上げていた。

「いつかは陽が昇る·····か、わしも歳じゃの」

そう呟いきながら村へと戻り、カーナ達の歓待に向け準備の指示を飛ばした。その顔はいつも以上に晴れやかだった。

お疲れ様です！

皆さん！こんばんは！

お元気ですか？私は元気です！

ラストスパート!!この話で終わりたかった·····あと1話(´TωT｀)

頑張ります！

今後も応援よろしくお願いします！

いつもコメントやブックマーク本当にありがとうございます⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝

これからもよろしくお願いします！