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騙され裏切られ処刑された私が⋯⋯誰を信じられるというのでしょう? 【連載版】 作者:榊 万桜
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19:罠は利用するのが正解でしょうか?


「お待たせしました。このお茶はとても香りがよく味も柔らかで美味しくて有名なんです。あと美味しいお茶菓子も用意しましたから、どうぞお食べ下さい」


とても上手な作り笑顔で私達と自身のお茶を用意したモノクルの男は、カーナさんの向かいに座りお茶を優雅に飲み、私達にも飲むように促してきた。

何か入っていても香りの強いこの紅茶では分かりにくいだろう。

嫌な感じがして、私達の紅茶に隠蔽した無毒化魔法をかける。もし異物が混入していても人体に影響を与えないものに変化するため貴族には必須の魔法だ。

しかし、おもてなしで出された物に無毒化魔法をかけることは相手を信用していないことを表しており失礼に当たるため、毎年毒殺される者がいる。命よりプライドとは貴族社会の面倒なところだ。


カーナさん達も何かを感じていたのか手を出さずにいたが、私が無毒化魔法をかけるとすぐに気づき紅茶を手にした。


所作が綺麗に見えないよう、カノリアの子供達が温かい物を飲む時にする仕草を真似る。

カップを両手で持ち、フーフーと冷ます仕草をしながら、ちょびっとずつ飲んでいく。

ふと視線を感じ、チラッと周りを見るとカーナさんとキリアさんが暖かい目で私を見ていた。

そして、モノクルの男はモノクルの位置を直すふりをしながら獲物を狙う鋭い視線を私に向けていた。


気持ち悪いわ。

あの目がカーナさん達に向けられてないだけマシだけど·····それにしても、子供だからって油断して顔に出るなんて、この方はまだまだ小物ね。


カーナさんも男の視線に気づいていたのか「私の娘に何か?」と軽く牽制する。男は慌てて表情を戻し「可愛い娘さんですね」などと誤魔化していた。


モノクルの男は、ガダー商会の商人でググマだと名乗った。

今は商品の買い出しの道中だったようだ。

カノリアへは食料の補填と休息のために寄るのだと、嬉しそうに話していた。


ガダー商会·····ね。ガダーリュ商会の子飼いの商会じゃない。表向きは装飾品や家具などを主に扱う。しかし、裏の顔は奴隷商と親店への奴隷輸送係。

豪華な装飾を付けた奴隷を装飾品といって売り、家具に奴隷を隠して売買・輸送している。

確か·····各国で違法に人を攫い奴隷に落としていたはず·····

ガダーリュ商会はレザン帝国に認可されている商会で、罪があれば取り締まれるが武力大国であるレザン帝国に喧嘩を売るのは得策じゃない、とか難癖つけて全然動かなかったのよね。

まぁ、レザン帝国が未だに奴隷合法な国だから、ガダーリュ商会も表で生き残れているのよ。そうじゃなかったら、他国で暗躍しているように裏の商会として生きていくしか道はなかったでしょうね。

表の商会と裏の商会では、得られる物が違う。彼らは両面で多くの物を得られているのでしょうが·····心は醜く歪んで悪臭を放ち周りを汚染していくんでしょうね。


嫌なことを考えたせいで心が澱んだため、少し冷めてきて飲みやすくなった紅茶の香りを楽しみ心を晴らしていく。紅茶は香りが強いがいい茶葉が使われているのは確かだ。久々の紅茶を楽しんでいるとググマが茶菓子のクッキーを勧めてきた。

これにも隠蔽した無毒化魔法を行使し、小さなチョコが混ぜてあるクッキーを頂いた。


カーナさん達が微笑ましそうに私を見ていて、ググマは訝しげに私を見ていた。


いつまでも平気そうな私達に冷や汗をかきながら、カーナさんに何処に行くのか、何しに行くのかを事細かに聞いてくるググマ。

カーナさんは、グビっと麦酒を飲むかのごとく紅茶を飲むとクッキーを齧りながら適当に答え、キリアさんは静かに紅茶を楽しんでいた。

しかし、いつまで経っても謝礼金を出すこともないググマからのしつこい質問にイライラしたのか、話を終わらせることにしたカーナさんの言葉でググマがより焦りだした。


「そろそろ出発したいんだけど·····いつまで待たせるんだ?」


「あぁっ、すみません。貴方のような美しい方とのお話が楽しく時間を忘れていましたよ」等と言いながら謝礼金の用意ができたはずと取りに席を外した。


隠蔽した察知魔法で彼らの動きを絶えず見張っていた私は、ググマが傭兵に近づいたのも把握していた。

何か指示を出したのか傭兵達が馬車の荷台に行き、私達がいる魔道具のキャンバス周りを見えないよう囲んできた。

襲いかかろうとしているようなので、気づいているとは思うがカーナさん達に伝えようと視線を上げると、カーナさんが真剣な顔で外套の裾を掴んで私の口と鼻を覆い隠した。


「シエル。昨日使ってた空気浄化を付与した魔法石持ってるか?持ってるなら口に含んでおけ、奴ら毒を使うようだからな。ふっ、少しは頭を使うじゃないか。先の戦闘で敵わないと判断したか?」


「持ってるよ。2人の分もあるから口に含んで」


悪い顔をしたカーナさんの口に飴玉位の大きさの青い魔法石を入れてあげる。キリアさんにも口に入れようとしたが、持っていた魔法石を取られて私の口に入れられてしまった。顔を真っ赤にしながらキリアさんに新しい魔法石を渡し、熱くなった顔を冷ましながら、珍しく静かなカーナさんを見ると·····

「シエルのあーん!あぁ!この魔法石ずっと口に入れておこう!!」とか呟きながら美しい顔が溶け崩れていた。


カーナさん·····ずっと口に入れておいても美味しくないよ?それ飴じゃないからね?分かってるよね?ね?


カーナさんの反応にちょっと戸惑いながら、私達の口に入っている魔法石に付与した空気浄化を展開させた。


少しするとキャンバスの下から麻酔と睡眠の効果を持つ薬草が調合された獣用の煙玉が5つも投げ込まれた。

一瞬で煙が広がり真っ白になり、視界が閉ざされた。

カーナさんは私を片手で抱き上げた。いつの間にか漆黒の拳鍔を装着しており、何時でも相手を殴り倒せる準備が出来上がっていた。

キリアさんは私の視界に映るよう近づき今後の動きを確認してきた。チラッとキリアさんの手元を見ると既に漆黒のダガーナイフが握られていた。こちらも準備万端のようだ。


「どうする?全員気絶程度に仕留めておくか?」


「そうだなぁ·····それがいいんだが、あの人数を一気に気絶または動けないようにするのは難しいな。でも、一気にやらないと人質とか取りそうで面倒なんだよな·····。まぁ、シエルに手を出そうとしなければいいか」


カーナさんとキリアさんが彼らより強くても、あの人数を相手にすれば傷を負うかもしれない。

それは嫌だわ。

なら、昨日と同じことをしましょうか。

丁度いいところに麻痺と睡眠の煙が充満しているもの!


左手を前に出し掌を上に向ける。

掌の上を起点にして風を集約する。キャンバス内の煙を全て集めたため、視界が良好になった。

カーナさんとキリアさんは、少し目を見開いて驚いていたが、すぐに私がやろうとしていることを理解してニヤリと悪い顔をした。それに釣られて、私もニヤリと笑ってしまった。


カーナさんがタイミングを図って、キリアさんはキャンバスの出入口で体を低くしてダガーナイフを構え特攻体勢になっている。私は集約した煙を効率よく外の敵に向けて放てるよう調整を図った。


察知魔法で彼らの位置は把握し、タイミング良く魔法の行使ができるのだが、魔法の同時行使は魔力、体、精神に負担をきたすため、簡単にやれると言ってもカーナさん達に止められた。そのため、カーナさんが周りを把握して(勘で·····)タイミングを私とキリアさんに伝える役を担ったのだ。

あと、私の護衛役でもあるようで「シエルに傷一つ付けさせないから!てか、触らせないからな!安心してくれ·····触れやがったら殺す」と殺る気満々でギュッと拳を握りしめた。


3・2・1とカウントが入り、「今だ!!」の合図でキャンバス外の敵に集約した麻痺と睡眠薬の煙を拡散させる。

「なんだ!」「うわっ!」「·····くっ」などの声が多数聞こえ、すぐにドタバタと何かが崩れ落ちる音が聞こえた。

風を操り煙を操作しながら、自分達の近くには煙が来ないようにしキャンバスを出る。

未だにカーナさんに抱えられた状態だが、まだ全員を動けない状態にした訳じゃないので、大人しく抱かれたままで移動する。


キャンバスの周りにいた傭兵は殆どが眠りについていた。何人かは軽い痙攣を起こしており、動けないようで視線だけで私達を追っていた。残念ながら声も出せないようだ。

カーナさんの合図と共にキャンバスを出ていたキリアさんは何かを引きずりながら馬車から出てきた。

引きずっていた物を私達の前に置くと少し口角を上げて表情が柔らかくなり、私の頭を撫でてきた。


なんか·····獲物を捕まえてきた犬みたい。

偉いぞ!お利口さんだわ!

!!·····ごめんなさい。キリアさんはワンちゃんじゃありません!


私の失礼な考えが見抜かれたのか、キリアさんが珍しくニッコリ笑いながら冷気を発していた。

すぐさま謝った。私を抱き上げてるカーナさんの腕もビクッと軽く反応を示していたところを見ると、キリアさんを怒らせてはいけないという私の勘は間違っていないようだ。


「一応、これで全員だ」


「馬車にいた女の人達は?」


「あぁ、彼女達にも眠ってもらった」


グランドウルフを片付けている間に女性達は馬車の見えない位置に移動させられたようで、彼らにお茶に誘われた時には見当たらなくなっていた。

隠蔽した察知魔法で場所は把握していたが、彼らはうまく隠せていると思っていたようだ。


残念な人達です。


キリアさんは、馬車周りにいた傭兵とググマを峰打ちで気絶させたようで、彼らに外傷は見当たらなかった。余程実力が離れていないと出来ない芸当です。

傭兵の中で1番有能そうだった彼はキャンバス周りで指揮を執っていたようで、出入口付近で意識は混濁し痙攣しているが昏倒せずにいた。毒の耐性もあるようだ。


こんなに実力があるなら、もっといいところで傭兵やればいいのに·····もしかしてガダーリュ商会と馬が合うとか言わないよね?

嫌な臭いがしないのに·····もし、ガダーリュ商会と馬が合うならとても残念な人だわ。


「じゃぁ、一件落着だな!あとは、コイツらを縛って·····と」


「馬車の中にいる彼女達はどうするの?」


「逃がしてもいいけど·····あいつらがどうにかするだろ。大丈夫だから、そのままにしてサッサと先に進もう!·····あいつらに捕まるのも面倒だしな」


最後の言葉は聞こえなかったが、カーナさんは確信した様子で大丈夫と言うので、多分大丈夫なのだろう。

不思議なことだけど·····なんの根拠もないカーナさんの言葉に安心感を覚えてしまう。


縛り上げたググマ達を集めて馬車の後ろに転がして放置した。何故か、 傭兵のリーダーの男だけは縛らずに近くに放置していた。

まぁ、彼から嫌な臭いはしなかったし、カーナさん達が意味もなくそんなことをしないのは一緒に旅をしていて理解出来ていたので、私も見なかったことにした。



「カーナさん。私、歩くから下ろして」


「シエル。もう少しだけ我慢して」


全ての処理が終わり、馬車を後にした私達は軍馬も放して徒歩で次の目的地へ進んでいた。

今もカーナさんに抱き上げられている私は、下ろしてほしいと抗議していたが、カーナさんは離してくれずニコニコと嬉しそうに笑ってギュッと抱きしめてくる。

キリアさんも何故かもう少し我慢するように言ってくるし、抵抗するのも疲れるので諦めてカーナさんの首に腕を回して安定を図った。

カーナさんが嬉しそうに奇声を発してクルクルと回るので目が回りそうになり、カーナさんの肩を叩き行動を諌めた。キリアさんも苦言を呈してくれたおかげで普通に歩いてくれた。


少しすると西にまっすぐ進んでいた道をそれ南に向けて道無き森の中を走って進んだ。

カーナさんとキリアさんの走りはとても速くて、身体強化の魔法を使っても追いつけるかどうかという速さだ。


は、速いわ。まるで森の木々が意志を持って、カーナさん達を自ら避けてくれているみたい。


そう思えるほど、物凄い速さで森を進んでいく。

少しすると開けた場所に出た。大きな岩の割れ目から水が溢れ出ており、その先が小さな泉となっていた。

森の動物達の水飲み場なのか、鳥達が泉で水を飲んでいた。


ここが森の中であることを忘れそうなほど、のどかな場所だ。

カーナさんは私を下ろすと、少し休憩しようかと水が溢れ出ている岩の近くに腰を下ろした。

キリアさんも近くの座りやすそうな岩に腰を下ろしている。

私はカーナさんの横に腰を下ろし、エプロンバックに入れて置いた干し果物を取り出しカーナさんとキリアさんにあげる。

一緒に干し果物を食べながら一息ついた。




シエル達は一休み(*´艸`)

少しでも疲れを癒して先に進んで欲しいな!




皆さん!

お久しぶりです( •̀ω•́ )✧

いつもコメント、ブックマークありがとうございます✨

元気を貰ってます!!

頑張って続きも書きますねヾ(*´∀`*)ノ

本当にいつもありがとう(*´˘`*)♡

これからもよろしくお願いします!


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