39: 無事にコハクと合流できるでしょうか?
年下組のこれからの成長が楽しみだと思い、ロッジとクウリの頭を撫でていると、ヴァネッサ達の近くにいたオーロがシエルに近寄ってきた。
「あぅー」
両手を前に出して距離を探るオーロにクウリとロッジが近づいて手を握ると、オーロの歩みに合わせてシエルのところまで歩いてきた。
「どうしたの?」
今まで、自分からブランカの近くを離れることがなく、目が見えないのもあり、自分から積極的に動くこともなかったのに、ブランカに助けを求めることなくシエルのところへ来たのだ。何かあるのかと聞くと、オーロが私の顔をペタペタと確かめるように触ってきた。
「あぅー?シエー、こど?おト?」
しきりに首を傾げながら発したのは、レザン帝国で使われている言葉だったが、意味がある言語になっていなかった。
ただ、シエルには「シエル、こども?おとな?」と聞こえ、背中に冷や汗をかいた。
オーロは目を隠してしまっている分、視覚情報に頼らず生活している。そのため、シエルの見た目ではない情報を集めて子供なのか大人なのか判断がつかず混乱してしまったのだろう。少し一緒に過ごし、シエルに慣れ、友達になりたいと思ったのもこんな行動に出た理由の一つなのだろう。
今も首を傾げながら、純粋に不思議そうに「こド?おと?」と聞いてくるので、シエルは優しく笑って、オーロの手に顔を預ける。
「今は子供だよ」
何故か、嘘をつきたくなくてオーロにだけ聞こえるように言うと、納得したのか笑って、シエルの顔を支えていない方の手で目を覆っている包帯を少しずらした。
片目だけ包帯から覗き出て、シエルを見つめると目を見開いてキラキラと輝かせた。
その目は魔物と同じ真っ赤な色に縦に割れた瞳孔をしていた。ただ、魔物の目のような恐怖や嫌悪を感じることは無く、キラキラ輝くルビーのような綺麗な目に見えた。
包帯をずらすオーロの行動にブランカが息を飲むのが聞こえ、こちらに駆けてくるのが分かる。
オーロも気づいたのか、ハッとして目を閉じると包帯をグイッと引っ張り目を隠してしまった。
気まずそうにソワソワとしながら、シエルから手を外し後ろへ徐々に下がっていき、上手く脚に生えた手が動かないのか躓いて、よろけてしまった。すぐさま手を伸ばして、オーロの腕を掴み、自身の胸に抱き寄せる。
驚いて顔を上げるオーロに「転ばなくて良かった」と言うと、ハラハラと涙を流しているのか、目を覆っている包帯が濡れていった。
「ごーちゃっ!シエー」
シエルの胸にすがりつくように泣きながら、オーロが何かを言っているが、やはり意味のある言葉には聞こえない。ただ、謝っているのは分かるので、何に謝っているのかは分からないが気が済むまで胸を貸すことにした。
ブランカがおずおずと近づいてきて、私の目を覗き込んで何かを伝えようと口を必死に動かしている。
何が言いたいのか読み解けず、檻の中で使った紙とペンを片手で出して渡すと、必死には何かを書いて私に見せてくる。
『オーロの目を見て、変な感じはしなかった?頭はボーッとしてない?』
「え?しなかったよ。オーロの目はルビーみたいで綺麗だね」
笑ってそう言うと、ブランカまで泣きな出してしまった。
「えっ?な、なんで泣いてるの?」
予想外の展開についていけず、狼狽えてしまう。
そんな様子を見ていたクウリとロッジが、私達に突進するように抱きついてきて、倒れそうな所をカーナさんが支えながら抱きとめてくれた。
「シエルちゃんは不思議な子ね」
「子供なのか大人なのか分からないわね」
リリとルルが呆れた顔をしながらもユシンと共にシエル達を優しく見つめていた。
ヴァネッサが近づいてきて、ブランカが持っていた紙とペンを使い、書いた内容をシエルに渡してきた。
『オーロの目を見ることが、スキルの発動条件なの。シエルちゃんは見ても平気だったからオーロが喜んで泣いてしまったの。ブランカはオーロの事を弟のように感じているから、オーロの目を褒められて嬉しかったのね』
オーロとブランカの反応の理由が分かり、なるほどと納得出来た。それにしても、あの時オーロの情報は自信なさげであったが、フェイクだったようだ。その証拠に、ヴァネッサを見ると気まずそうに目を逸らしてきたのだ。多分、オーロを守りたかったのだろう。この人もオーロ達の側を離れず、オーロとブランカの2人を優しく見守っているのが見ていて分かっていたから、責めるつもりはない。
風の防壁内が安全とはいえ、だいぶ騒いでしまった。ただ、この騒ぎで魔物や盗賊達の戦闘に恐怖し、疲弊した心が和んだのは良かったことだろう。
察知魔法で確認したところ、外の戦闘も無事に終わったようだ。当然、盗賊達は全滅された。盗賊達の死体はそれぞれ魔物達がお持ち帰りをして、解散となったようだ。
それぞれの群れになり、そそくさと森へ帰っていくのが分かった。
コハクは大人しく風の防壁の前で待ち構えているようだ。
「あのね。外も安全になったようだから、防壁を解こうと思うの。盗賊も魔物もいないよ。ただね·····コハクが近くにいるんだけど、怖がらないであげてね?」
皆を見回して声をかけると、先程のことを思い出したのか、皆がサッと顔を青ざめさた。ただ、すぐに顔色が戻り、頷いてくれた。
「大丈夫だ。配慮してくれてありがとう。僕らのために大変な魔法まで使ってくれて、本当にありがとう。疲れてないか?」
ユシンが嬉しそうにお礼を言いながら、シエルの体を心配してソワソワしだした。
「大丈夫だよ。簡単な魔法だから。心配してくれて、ありがとう」
「あ、いや。だ、大丈夫なら良かった」
優しい言葉は、心を温かくしてくれる。本当に心配そうにしているので、安心してもらえるように笑って答えると、ユシンの顔が真っ赤に染まってしまった。
「あら、ユシン」
「お顔が真っ赤よ」
「そ、そんなことないっ!見るなっ!」
リリとルルがニヤニヤ笑いながら、ユシンの顔を覗き込んでからかうと、ユシンが腕で顔をガードしながら必死に否定していた。
そんなやり取りを見ながら、風の防壁を解いていく。
私達の周りを覆っていた風が緩やかに解かれ消えていく。
視界が明るくなると、銀色の尻尾が揺れ動くのが目についた。シエルと目が会うと少し鋭い目尻が下がり、丸い金色の瞳が緩やかに弧を描き、温かさを感じる瞳になる。
「ウォン!」
嬉しそうに弾んだ鳴き声が洞窟内に響き渡る。
シエルに飛びかかりたいのを必死に堪えているようで、右前足がウズウズと何度も地面を踏みしめており、まるで褒めてと言わんばかりの尻尾がブンブン揺れ動く。
全身からシエルの近くに行きたいと希望が溢れ出ており、その様子を見たユシン達が目を丸くした後、優しく笑っていた。
たぶん、ユシン達が怖がらないよう、必死に動かずにシエルが良いと言うまで待てをしているのだろう。
「ワンちゃん?シエルちゃんのおともだち?」
クウリが目を輝かせながら聞いてくるので、頷きながら「コハク」と優しく呼ぶ。
嬉しそうに、でも怖がらせないようにゆっくりと歩み寄ってきて、シエルの横に伏せをした。
その間も尻尾だけはブンブンと際限なく激しく揺れている。
コハクの頭を優しく撫でると、嬉しそうに頭をシエルの手に押し付けてくる。クウリとロッジが目をキラキラとさせて、見ているのに気づいたコハクが、首を傾げながらクウリとロッジを見つめ、尻尾でクウリとロッジを撫でた。
尻尾で撫でられたことが嬉しかったのかキャッキャッと喜んで、尻尾に絡んでいる。
リリとルル、ユシンも近づいてきて、触っていいかソワソワしながら聞いてきた。
チラッと自身の背中を見て「わふっ!」と鳴き、リリ達に興味がなくなったかのように、シエルの体に頭を擦り付けてきた。
「多分、背中を撫でていいって事だと思うよ」
コハクの耳後ろを掻いてあげながら、リリ達にコハクの返事を伝える。
恐る恐る手を伸ばして、コハクのフワフワな毛皮を撫でて、パァーっと顔を明るくさせた。
分かるわ!コハクの毛並みは素晴らしいわよね!
このツヤツヤでフワッフワッな毛並み!最高級の毛布にも勝ててしまうポテンシャル!
あぁ、本当はコハクに伝えないといけないことがあるのに·····もうちょっとだけ、もうちょっとだけ、この毛並みを堪能させて!
その後、ユシンとヴァネッサ達も加わり、コハクの素晴らしい毛並みを皆で堪能した。
クウリがソローっと手を伸ばして、コハクの耳を触ろうとしたが、コハクが軽く威嚇したのですぐに手を引っ込めて、「ダメだったー」と笑いながらロッジが触っている尻尾を触りに戻っていった。どうやら、コハクの頭は触らせて貰えないようだ。
フェンリルとは、神獣と呼ばれ、高潔でプライドが高い生き物として有名だ。
子供で心優しく穏やかなコハクでも間違えなくフェンリルなのだ。自分の認めた者以外が自身の頭を触ることを許しわしない。それが例え、年端もいかぬ幼子だとしても·····
コハクは一緒にいられなかった時間を取り戻そうとするように、自身の頭をシエルに擦り付けて、「寂しかったの!頑張ったの!もっと撫でてー!」と催促している。
それに応えるように、「寂しかったのね。よく頑張ったわ」と撫でてくれるシエルに存分に甘えたのだった。
そして、それをずっと端で黙って見ていたカーナが我慢出来なくなって爆発して、コハクのモフモフタイムは終わりを告げた。
「ず、ずるいぃー!私も頑張ったんだぞっ!あの悪趣味ダサ男に我慢して着いて行ったし、ことが荒立たないよう、注意を払ったんだ!私だって頑張ったんだぞっ!コハクばっかりずるいっ!さっきのことだって反省したし、もうしないから!だ、だから·····私も·····撫でてくれっ!」
あっ、撫でさせてじゃないのね。それに·····嫉妬している相手は子供のフェンリル、コハクなのね·····
カーナのあまりの勢いに、皆唖然としながらカーナを見るが、見られているカーナはそんなこと気をもせずに、ジッと涙目でシエルを見つめている。それも、チラチラとシエルのお膝に顎を乗せていたコハクへ嫉妬丸出しの視線を浴びせて牽制している始末だ。
カーナさん·····子供に嫉妬するなんて、もういい大人でしょうに·····
まぁ、そんな姿を可愛く思ってしまう私も大概なのかもしれないが·····
「カーナさん」
苦笑しながら声をかけると、パァーっと顔を明るくさせて、嬉しそうにシエルの隣に素早く座り込み、頭を差し出す。
あまりの躊躇の無さに、愛しさまで感じてしまう。
「お疲れ様。大変だったよね?頑張ってくれてありがとう」
優しく声をかけながら、カーナさんの艶々サラサラな髪を撫で梳いていると、もう1つ頭が差し出された。
視線を向けると、キリアさんが隣に座って形のいい頭を差し出していた。
「き、キリアさん?」
「僕も頑張ったよ?」
いきなりの行動にビックリして名前を呼ぶと、軽く頭を上げて、私を覗き込んで軽く主張してくる。
えっ?だ、だから何ですか?
まっ、まさか撫でろとっ!?
えっ?キリアさんが!?
頭の中がパニック寸前だ。というかパニック通り越してショートするかと思った·····
コハクとカーナさんを撫でて、キリアさんだけ撫でないのは、差別になるのかしら?
確かに、キリアさんは私と一緒に居てくれて、カーナさんが合流したあとは、洞窟内の盗賊の縛り上げや状況の把握をしてくれていた。それに、カーナさんの制御としての働きを遺憾無く発揮してくれたおかげで、私は今ここに生きているのだ。それを考えたら、頭を撫でることでキリアさんの気が済むなら、感謝の気持ちをめいいっぱい込めて撫でるとしよう。
カーナさんの髪質と似ているが長さがない分、髪のサラサラ感がより際立つ。手触りが良くて夢中で撫でていると、ムッとした顔をして「私ももっと撫でてくれっ!」と空いていた手に必死に頭を押し付けてくるカーナさんに笑い声が自然と出てしまう。
「ふふふ、そんな押し付けられたら撫でられないじゃない。もう、可愛いわね」
思っていたことがスルリと言葉に出ると、いきなり視界が上へと揺れて、カーナさんに抱き上げられた。
「か、·····かわっ!可愛いいいぃぃぃいぃぃぃ!」
抱きしめられる腕の強さは絶妙に加減されており、痛くはないが腕から逃げられる隙がない。
どうにか腕から逃げようと腕を突っぱねているの、今度は視点が横へと揺れ、キリアさんの腕の中に収まっていた。
「カーナ。落ち着け」
「ん!落ち着いたっ!さぁっ!シエルを!!」
いやいやいやっ!落ち着いてないし!興奮冷めやらぬ感じじゃないかっ!
さっきは痛くなかったが、次も同じとは限らないっ!
カーナさんは可愛いけど、興奮しているカーナさんは怖いわっ!
必死にキリアさんに抱きついて、カーナさんの魔の手から逃れることにした。
そんな私達の攻防を見て、リリとルルが笑いだし、それに吊られるように、皆がクスクス笑いだした。
「ふふふ、シエルは天然ね」
「あはは、天然のたらしだわ!」
「あぁ、あれは今後、色々な男を泣かしそうだな·····無自覚に」
「分かるわ!でも、お兄ちゃんもよ」
「そうね!でも、お母さんもよ」
「「あら、全員じゃない」」
「わふっ!」
「ええ、あなたもお仲間よ」
「ふふふ、似たもの家族ね」
リリとルルが顔を見合わせて、笑いながら話していると、シエルの隣をカーナ達に譲ったコハクが鳴き声で話に加わると、カーナ達家族と一緒と言われて、満更でもない顔をして胸を逸らして尻尾を揺らした。
ご、合流出来た·····やっと·····
そろそろ誘拐事件も終わりに近づいてきました!
頑張ってラストスパートかけますね!
読みにくいところとか多々あるかもしれません(´・ω・`)
ごめんなさいm(_ _)m
一気に書き終えてから、皆さんのご指摘を参考に修正を図っていこうと思います!
これからもどうぞ、よろしくお願いします!