13:俺の災難(別視点
遅くなりました!
今回も別視点です。
長くなりそうなのでもう1話続きます…I˙꒳˙)
よろしくお願いします!
中核都市カノリア守護隊 副隊長 ガイル・サーバント
それが俺の役職と名前だ。
この国で、そこそこ有名なサーバント商会の二男坊として生まれたが、俺に商才が無いことを早くから悟っていた父や兄により幼い頃から商人以外の職を勧められていた。
元々、体を動かすことは好きだったため、成人する前から兵士として働くことを決め、家族には伝えていた。
家に金があったため食事に困ることもなく、スクスク育ち、成人する時には父や兄より上背があった。
なんの困難もなく兵士になり、可愛い奥さんをもらい、可愛い子供たちにも恵まれた。
うん。はっきり言って幸せな人生だ。
ただ·····中核都市カノリア守護隊の隊長に目をつけられ、副隊長なんかになってしまったことは、俺の人生最大の災難だった。
俺は、元来考えるより動くことの方が好きなのだ。だから、上の者達に目をつけられないよう上手く誤魔化していたのだが、あいつだけは誤魔化されてくれなかった。
副隊長になることを断るとずっと付きまとわれ、否応なく目立ち、今まで誤魔化せていたことが崩れて行った。
周りにも賛成派に囲まれ外堀を埋められていた。
·····本当に面倒なやつだ。奴だけは今後敵には回したくないと思ったほどに。
結局、カノリア守護隊の副隊長に就任し、部下と上司やお偉い様達の間で板挟みされる面倒な役目を押し付けられた。
根っからの商人である家族と過ごし、兄や妹に施される商人教育を共に受けていたため、貴族相手の対応の仕方や情報操作など、商人に必要不可欠なことは無意識レベルで行えるようになっていた。
ただ、金儲けへの嗅覚や執着がなく、裏での騙し合いのような言動が苦手であったため、早々に兵士の道を選択しただけで、馬鹿でも愚かでもない。
まぁ、その偏った英才教育の賜物か、貴族や上司とも上手く付き合えていると思う。
それを見越していたのか、これ幸いと面倒事を押し付けてくる隊長を何度殺そうと思ったことか。
あの爽やかそうな外見とは裏腹に腹の中は真っ黒なあの隊長は、面倒事の全てを俺に押し付けてきやがる。
今回の事件もそうだ。
あのバカ兵士が、これまた馬鹿のお飾り上司の推薦で入隊してきてから、不可解な事が起こるようになった。旅人として入国した者の足取りが途絶えたり、無残な死体で発見されたり、孤児の子供なども少しずつ消えていったり·····
調査に乗り出そうとすると、別隊のお飾り上司達に邪魔をされた。そいつらは貴族の端くれで、おいそれと手が出せないのがイライラした。
今回の事件は、裏に貴族がいることはそいつらの動きからして明らかだった。
秘密裏に調査する為にも俺が適任なのは分かるが·····本当、面倒な役職についちまったぜ。
隊長は上手く立ち回り、俺達が動きやすいよう調整してくれる。あいつは自他共に認める有能な男だ。それに、あの憎めない性格もあり、俺はあいつの指示に従い行動するのを悪くは思っていない。
調査も進み、あとは決定的な証拠を掴めば捕えられるところまできた。
これ以上の犠牲者を出させないため、俺はあのバカ兵士と組んで仕事と監視をこなしていた。
バカはバカなりに気をつけているようで、俺に逆らわず淡々と仕事をこなしていた。
まぁ、俺と組んでから、事件発生率が下がったことからも自身が犯人であると名乗り出ているようなものだったが·····やっぱり馬鹿だろ。
そんな感じでグリューのフラストレーションは溜まっていった。
溜まりに溜まって冷静な判断が出来ていなかったのか、本当に馬鹿だったのか·····次の獲物として、やばい奴らに目をつけてしまった。
どうして、相手の実力がわかんねぇーのか不思議でならない。
入国時にわかりやすく冒険者ギルドのプレートを見せてもらっていたはずだ。確かに、母親は目を引く美人で体のラインも艶やかだ。その子供達も目を引く美人さんだった。
特に娘の方は妖精かと思うほどで、母親と兄の方が警戒しまくるのが理解できた。
たぶん今までも色々あったのだろう。1人家に置いておけずにクエストに連れてくるくらいには·····
母親のカーナはAランク、息子のほうは冒険者になったばかりだろうにFランクから飛ばしてCランクか·····たぶん実力的にはBランク相当だろう。経験が少ないためCランク処置なのだろう。母親の方もAランクではあるが上位の者だろう。
娘は戦闘向きではないな。だから余計に心配で過保護状態なんだろうな。
そんな家族をターゲットにするとは·····本物の馬鹿だな。
一応、注意するようあの家族に声掛けはした。
何も無ければいいが·····
やはり馬鹿だった···本当に、本物の、馬鹿どもだった!!
それを知ったのは次の日の昼過ぎた頃だった。
いきなり休暇を取ったグリューに嫌な予感がし、直ぐに部下を使ってグリューを見張らせた。昼過ぎた頃に報告があり、あの家族の近くを仲間と
唖然とするしかなかった。
何故、Aランク冒険者に勝てると思うんだ?グリューなんてよくてCランクの実力しかないだろうに·····それとも自身の実力さえ把握出来ていないのか?
兎に角、入国審査での事で敏感になっているだろう母親達を刺激させないよう、見廻りという名の抑止を行うことにした。
何かあっても対処できるよう6人の部下を連れ、あの親子が泊まっている宿屋の周りを重点的に見廻りをした。
グリュー達は、俺達の見廻りの意図に気づいたのか、宿屋の周りからいなくなったが、安心はできないため2班に分けて交代で見廻りを行うこととした。
これが功を奏してグリュー達が現れる事はなかったのだが·····
まさか、娘が1人で外に出ているなど考えも及んでいなかった。母親か兄ちゃんが一緒だと思い込んでおり、見逃していた。
そのせいで·····俺達は恐ろしい目にあうこととなった。
·····本当に俺はついてないようだ。
陽が暮れてきた夕暮れ時、真っ白な小さな鳥があの親子の部屋へと飛んで行ったのが見えた。
あれは貴族達がよく使う簡易の手紙魔法だったはず·····そんなことを思っていると宿屋の扉から真っ黒な影が俺たちの方へ飛んできた。
直ぐに身構えて対峙しようとしたが、それがあの母親だと気づき、何事も無かったように「よう!」と手を挙げた瞬間·····鬼がそこにいた。
美人がキレると怖いと言うが、鬼になるとは知らなかった·····
背後に真っ黒な気配を漂わせ、美人の顔が鬼の形相となり、綺麗な形の顎をクイッとしゃくり付いてこいと無言の圧力をかけてくる。
何かあったことは明白で、逆らっても良い結果は出ないことも理解した。
直ぐに足の早い部下に休憩中の別隊を呼びに行かせた。また、その足のまま隊長への連絡も任せることにした。
慌てて別部隊を呼びに行く部下を見送り、未だ鬼と化している母親について走り出した。
俺の部隊の制服には迷子防止グッズにも使われている魔道具を装飾品に変えて付けてある。それと対の道具があれば、何処にいるかは辿れるはずだ。
それにしても·····速いな。
たぶん、俺達に合わせてのスピードなのだろうが、俺達のぎりぎりついていける速さで絶妙に調節しているのが流石と言うしかないな。
やっと着いた先は、郊外の今や使われていないはずの貴族の館だった。
あの母親が躊躇もなく屋敷に踏み入るのを慌てて追いかけた。
屋敷内には確かに人のいる気配があった。
直ぐに男が複数人駆け寄る足音が聞こえ、同じ黒の軍服を着ている3人の男達が現れた。
俺たちを視界に入れると目を見開き、苦々しく顔を顰めながら帯刀していた剣を見せびらかすように抜こうとして·····2人、地に落ちた。
うん?俺の表現は間違っていないはずだ·····
本当に一瞬のうちに筋肉質の2人の男が地に沈んでいるんだ。
あっ、何が起きたか把握出来ず狼狽えていたもう1人も地に沈んだ。
俺達がいる意味あったのか?
·····いや、あったわ。
「おい!ボーッとしてるな!こいつを止めるの手伝え!!」
唖然と立ち尽くしていた部下達に怒声を以って指示を飛ばす。
最後に倒した奴は、わざと手加減して意識を狩らずにいたようで、呻きながら起き上がろうとしていた。
母親は、そいつの後ろ首を掴みながら片手で持ち上げると、抵抗しようとしたそいつの鳩尾付近を躊躇なく殴り、後ろ首を掴んでいた手を離し、再び地に落ちたそいつの髪を掴みあげ、無理やり顔を上げさせた。
「なぁ。何処にいる?」
平坦な声のはずなのに、底冷えするような恐怖を感じる。
男は痛みと恐怖から顔を歪め、目に涙が浮かび、顔が青ざめていた。
質問の意味を理解できないのか、恐怖から声が出せないのか、口がはくはく動くが声が出てこなかった。
「なぁ。聞いてるのか?私の、可愛い、娘が、ここにいる。どこの部屋にいる?」
質問に答えない男に痺れを切らしたのか、顔を床に押し付けながら、言葉の区切りごとに男の頭を持ち上げ床に沈めることをし始めた母親を、慌てて後ろから羽交い締めでし止めようとしたが、直ぐに1人では無理だと判断して部下達に怒声を飛ばした。
3人がかりでやっと止められた。
やばい、本当にヤバいぞ。このままだと、この屋敷にいる馬鹿ども全て殺して回りそうだ。
この世の害悪の馬鹿どもだが、貴族の関係者の可能性が高い。それになんの証拠もなく手を出せば、こっちが不利になる。
部下の3人に屋敷内を探索し、証拠となるものを集めるよう指示を飛ばす。
安堵の息を漏らしながら、さっさと別行動をする部下3人と対照的に母親を未だに取り押さえている部下2人が絶望の表情となる。
分かるぞ!その気持ち!
この仕事が終わったらこの2人には労いの酒盛りをしてやろうと心に決めた。
母親はサッサと掴んでいた男の意識を刈ると、俺達を振り払い、自由になると「シーエールー!!!!」と叫びながら歩き始めた。
意識を狩られた男達3人を縛り上げながら、部下と共に慌てて追いかけることとなった。
「あぁ、そんなに叫ぶな!敵に存在がバレるだろ!!!!」
なんの反応もない。
俺の言葉など聞こえてないんだろうな·····
目的の場所がわかっているかのように歩き進める母親に必死についていく。
その間にも、軍服を着た男達が襲いかかってくる。
その度に、なんの抵抗も出来ずに地に沈んでいく。
そして、やり過ぎないよう俺達が必死に母親を止める。
結果、俺達がボロボロになっていく·····
部下達も徐々に視線が遠のいていっている。
早く娘を見つけなくては俺達の命が危うい·····
何処にいる?
早く!早く!!見つけなくては!
傷一つない姿で!
いつもありがとうございます!
皆さんのコメントなど、本当に嬉しいです(*´˘`*)♡
暑い日が続きますが、皆さんも体に気をつけてお過ごしください( •̀ω•́ )✧
私は、暑さで今年も溶けてます(✽´ཫ`✽)