わきまえた女しか登用されなくなる
「わきまえない」とは、自分が持った違和感や反論を口にすることだ。今日本の組織で意思決定層にいる年配の男性たちは、これまでの自分たちの仕事を「成功体験」として捉えている。新参者である女性がこれまでの手法や慣例に異議を申し立てたら、自分や自分の「成功」が否定された、と思うのだろう。異議を口にする側は決して個人を批判している訳ではないのに、なぜか男性側(意思決定層にいる女性も含む)は「自分が攻撃された」と感じてしまいがちだ。
多様性の本質的な意味や効果をわかっているリーダーは、あえて自分とは違う意見や価値観、経験を持った人を側に置いてその意見に耳を傾けるが、わきまえた集団の中で出世したリーダーはそうした「耳の痛い」意見を傾聴するトレーニングができていない。
とはいえ、第2次安倍政権で女性活躍推進法が施行され、世界的にも多様性に欠ける企業は成長性がないとして投資家サイドからも見放される流れになっている中では、女性登用は「しなければならない」命題。どうせ登用しなければいけないのなら、組織の調和を乱さず、異を唱えないわきまえた女性の方が面倒臭くない、という意識が働き、結果「わきまえた女」が登用される連鎖が続く。
橋本聖子氏が森氏の後任に選ばれた時に、「女性だったら、能力や適性がなくてもいいのか」という議論になったが、私はむしろ「森氏は父」とまで言った橋本氏が「わきまえてきた娘」から脱皮できるかに注目していた。
残念ながら今の日本型組織で全くわきまえずにきた女性がいきなり抜擢されることはほぼ無いと言っていい。であれば、女性たちはポジションに就くまでは戦略的にしたたかに「わきまえ」、権限を得たら改革を実践する戦法は現実的だと思う。橋本氏も五輪組織委会長就任後に、「女性の理事を40%増やす」だけでなく、「そこから何を打ち出せるか」と話している。
私は森氏発言後、上野千鶴子さんにインタビューしたのだが、「一匹狼」的に組織内で闘ってきた印象の強かった上野さんでさえ、東大教授就任後、組織で生き残るため、そして自分の目的を達成するためには、「根回し」なども厭わなかったという。
「組織で働いて組織で何かやろうと思ったら1人じゃどうにもならないんです。だから根回しと忖度もしましたよ(中略)。でもそれは組織で生きる人間としては当たり前のことで。ただ上の人に黙って従うということはしませんでした」(上野さん)(ビジネスインサイダー「上野千鶴子氏は組織をどう生き抜いたのか。孤立しないためにやった“根回し”(後編)」より)