154話 コミックス1巻発売記念SS マリー・ウィルキンソンは視た 2
マリー・ウィルキンソンは魔力を色で見ることができる。
弱い魔力は青で、強い魔力は赤で、中くらいの魔力は黄色だ。
だが赤く見えるほど強い魔力を持つ人間は数えるくらいしかいない。
さすがにエルトリア王国中の貴族や魔力持ちの平民が集まる魔法学園には何人か赤い魔力を持つ教師や生徒がいるが、王族や高位貴族に限られていた。
特にシェリダン侯爵家のレナリアは、金色にも見える燃え盛る赤い魔力を持っていて、ついつい目を奪われてしまうことが多い。
以前はあまりの眩しい魔力に圧倒されて言葉を交わすこともできないくらいに緊張していたが、同じ風魔法クラスのクラスメートとして接するうちに、最近では少し喋れるようになってきた。
相変わらず目もくらむような眩しい魔力の持ち主だが、そういえば遠目に見かけるレナリアの兄のアーサーも、元々魔力が強いほうであったが、このところレナリアほどではないにしても赤い色が濃くなってきているような気がする。
そういえばセシルもそうだ。
たまにすれ違うセシルの魔力も、少し色味が強くなってきているような気がする。
と、そこまで考えて、マリーはエレメンティアードで見た教皇の魔力の色を思い出す。
レナリアのものと見比べて遜色のない、見事な黄金。
むしろ輝きの度合いは、教皇の方が
だがその中心部は視たこともないような魔力の色になっている。
黒——。
教会の頂点に立つ教皇の魔力は、なぜか黒から黄金へと変わる色を持っている。
初めて見る魔力の色に、マリーはエレメンティアードで応援に来てくれていた父にもそれとなく聞いてみた。
だが、父にはあの黒い魔力は見えなかったらしい。
だからマリーは、あれは見間違いなのだと思っていた。
しかし……。
アンジェとすれ違ったマリーは、思わず廊下の途中で立ち止まり、振り返る。
レナリアのリッグルを傷つけようとして停学処分になっていたアンジェは、停学期間が明けて学校へと戻ってきている。
そしてエレメンティアードで怪我を負ったセシルを回復したのは、霧の聖女ではなく自分だと
最初は誰もその言葉を信じなかったのだが、学園に戻ってきたアンジェは今までの劣等生ぶりが嘘のように光属性のクラスで素晴らしい成績を修めるようになり、もしかしたら本当にアンジェの言う通りなのではないかと信じるものが増えてきた。
今では同じく復学した教皇の甥ロイド・クラフトを筆頭に、アンジェこそが真の聖女だといって崇拝する生徒たちまで現れている。
「やっぱり、黒い」
マリーが見つめる先にいるアンジェの体から、教皇と同じような黒い魔力がにじみ出ている。特に右手の指輪をしているところが濃い。
教皇ほどはっきりした色ではないが、停学前にはまとっていなかった色だ。
「何が黒いのですか?」
突然後ろから声をかけられて、マリーはビクッとして体を硬直させた。
恐る恐る振り返ると、そこには新任のルキウス・ソロモンがいた。
先日のエレメンティアードでセシルとレナリアのリッグルが足を取られて転んだ事件で、学園側の調査によって、土魔法クラスを受け持っていたドーソンが犯人だということが分かった。
エレメンティアードで風魔法クラスが優秀な成績を残すことによって、土魔法クラスが最下位になるのが許せないという身勝手な動機によるものだった。
もしかしたら他の動機もあるのかもしれないが、
当然ドーソンは騎士団によって拘束され、現在は厳しい取り調べを受けている。
その後任としてやってきたのが、ルキウスだ。
黒髪黒目の美丈夫だが、左目は怪我をして見えないということで、長い黒髪で隠している。
そのミステリアスな雰囲気に、すぐに女生徒たちからは人気となった。
だがマリーは決して近づかないようにしていた。
なぜなら、ルキウスの魔力はアンジェや教皇とは比べ物にならないほど、漆黒の色をしていたからだ。
「あ、あの……いえ、なんでもありません……」
下を向いて小さな声で答えるマリーを、隻眼がじっと見下ろす。
マリーはそれ以上の会話ができないようで、小刻みに震えていた。
そこへレナリアが通りかかって、ルキウスに挨拶をしてからマリーに声をかける。
「マリーさん、授業に遅れてしまいますわ。行きましょう」
「はい。あの……失礼します」
マリーは急いでレナリアのそばへ寄る。
すると清浄な風が、濃い闇を払ってくれるような気がした。
ルキウスが放っていた圧迫感から解放されて、息をするのが楽になる。
マリーは思わず安堵の息を吐いた。
「マリーさん、具合が悪いの?」
「い、いえ……。大丈夫です」
「それならいいのだけれど」
心配そうなレナリアをうながして、マリーは風魔法クラスの教室へと急ぐ。
一刻も早く、この恐ろしいルキウスの前から遠ざかりたかったのだ。
そうして風魔法クラスの教室へ向かうレナリアとマリーの背を、ルキウスはしばらくその場で見つめていた。
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