【片岡 亮】加藤浩次、吉本との契約終了は「粛清」なのか…? テレビ業界の人々が語ったウラ側

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本当に「粛清」なのか?

芸能プロダクションの吉本興業が3月9日、所属タレントである加藤浩次とのエージェント契約を3月いっぱいで終了することを発表した。「協議の結果、同契約の期間満了」としている。

過去、会社側と対立したことのある加藤だけに、一部ではこれを「大手芸能プロによる粛清」とする見方があるが、複数のテレビマンや業界人に見解を聞いたところ、そんな風に見ている人はいなかった。

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ある芸能関係者は「加藤さんがそう見せたいのでは」と言った。

「吉本の発表翌日、加藤さんは番組内で『僕自身は契約は続けようとは思っていたのに、吉本の方から契約延長しないって言われてビックリした』と、まるで被害者のように言っていましたよね。

でも、エージェント契約なんて都合の良い契約(仕組みについては後述)にしていたのは加藤さん自身。契約は互いの交渉で決めるもので、会社として損得で判断したのに、まるで不公平な圧力でもあったかのように言うのはおかしいのでは」

これまで大手の芸能プロがタレントに対して強権を持っていたのはたしかだ。しかし、近年、公正取引委員会の手が入り、芸能プロ側に過度に有利な契約はできなくなり、条件に納得できなければ退社して独立する人も急増している。

かつて「奴隷契約」などと言われた悪質な手法は、その独立したタレントを業界ぐるみで起用しないよう圧力をかけたりするものだったが、これも違法として消えつつある。今回の話は契約満了であり、それ自体に偏った強権を見ることはできない。

その背景に問題があるとすれば、吉本がテレビ界に力を持ちすぎている点だ。2007年から持ち株会社の体制に移行、吉本興業ホールディングスとして上場廃止し、吉本の主要株主は、フジテレビ、日本テレビ、TBS、テレビ朝日の主要テレビ局になった。吉本はいわば「テレビ業界の子会社」化したのである。

テレビメディアという強力な仕事先が株主として集結したことで、事務所とメディアの関係は緊密になり、事務所はタレントの出演について強力な権限を持つ。タレント側は、そんな会社の言いなりにならざるを得ず、フェアな競争が阻害されてしまう。この点は別途、独占禁止法の不公正な取引の問題として議論すべき点だろう。

だから長期的な視野で見れば、吉本の後ろ盾がない加藤が今後、テレビ仕事を減らす懸念はあり、加藤が2006年からMCを務めてきた日テレのワイドショー「スッキリ」の仕事も、吉本の看板が外れたことで近い将来、失う可能性もあるが、「加藤を使うな」という圧力でもない限り、「粛清」とまでは言いにくい。

「エージェント契約」を結んでいた

なにしろ加藤がエージェント契約なる形をとったのは、加藤にとって都合の良い話だったからだ。吉本関係者には「ドサクサ紛れで美味しい思いをした」とまで言われている。

2019年、吉本の所属タレントが多数、闇営業問題を起こしたとき、加藤は経営陣の対応を批判。番組内で岡本昭彦社長を「社員に対して恫喝みたいなことをしてる」として「経営陣が変わらないようなら自分が辞める」と退陣を突きつけた。しかし、退社はせず、同年10月から結んだのがエージェント契約という形態だった。

テレビ業界では通常、所属事務所がタレントの報酬から何割かのマネジメント料を受け取ることで成り立っているが、エージェント契約になる前の加藤の場合はそれが20%だったという。

吉本のスタッフ社員に聞くと「吉本内ではかなりの高条件」だというが、エージェント契約はスケジュール管理やギャラの配分をタレントの裁量で決められるため、うまくやれば収入を増やせるが、サポートは失う。自分で仕事を獲れるようなタレントはこっちの方が得だから、田村亮や友近らもエージェント契約に続いた。

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海外でも大物スターは事務所不要でこれに近い形をとる者が大半だが、日本はなにしろ芸能プロとテレビ局が密着して、タレント側に強い力を持ってきたから、事務所側からするとこれまでより損する話にもなりかねない。この方式が業界全体に広がっていないからこそ、他の事務所ではタレントの独立が相次いでいるともいえる。

「加藤さん自身、本当にエージェント方式が良いなら、吉本に残留する必要はないはずなんです。それでも、吉本専属のエージェント契約なんていう半端な選択をしたのは結局、加藤さんだって吉本の後ろ盾の必要性も知っているからでしょう。

本来、加藤さんほどの人気タレントなら、吉本も損だからといって、縁を切らなくてもいいんですが、エージェント契約が主流になってほしくないという吉本側の姿勢もありますよね」(同スタッフ社員)

ただ、同じエージェント契約でもロンブーの亮のように契約を終了されていないタレントもいる。

「そこも重要なポイントですよ。吉本にとってエージェント契約なんて本来は必要なく、だったら独立すればいい、というぐらいの話。そこを温情で、吉本の看板を使いながらも自由に商売してもいい、という譲歩ですからね。亮さんは相方の淳さんが運営する会社に入って、それは淳さんが周囲への気配りをする人で、彼の顔があるのが大きいです。

でも、加藤さんは態度が高圧的なことも多い人で、じゃあ誰が頭を下げてフォローしているのかといえば吉本の人々です。エージェント契約なのに結局、通常契約のタレントと同じようにフォローが必要なんて、吉本から見たら不公平に見えますよ」

こう話すスタッフ社員は、仕事現場でもエージェント契約は「吉本であまり好かれない」という。

「吉本は、若いタレントをどんどん輩出していく養成所をやっていて、新人を続々スターにする仕組みを作りました。そこで重要なのが、若手を強く押して取り上げてもらう交渉で、吉本は人気タレントをブッキングする代わりに若手も起用してもらう営業に長けてます。エージェント契約では、そうした若手の要請・プロデュースの仕方とは無関係になりますよね」

吉本の営業努力

業界でしばしば見られるのが、バーターといわれる抱き合わせ商法で、人気タレントの起用時に別のタレントもセットで起用してもらうことだが、吉本の場合はそれだけではない。数年前、筆者も出演したトークイベントでは、吉本のあるマネージャーからこんな話が出た。

キャスティングの際、予算に合わせて当初テレビ局は8名の出演者を起用する予定で、うち吉本タレントは6名分を占めていたが、吉本のスタッフが予算同額のまま吉本のタレントだけで10名を起用させたというのだ。「この4名、タダでもいいから使ってあげて」と追加、若手タレントの仕事を増やしたという。

その分、個々のギャラ配分が減ってしまうから、よく「吉本はギャラが安い」と文句が出るのも、こうした裏事情のせいだったりするが、無名タレントを引き上げるための、真剣な営業努力ともいえる。

実はこのマネージャーは、ある人気タレントから「エージェント契約を考えている。その場合は個人マネージャーになってくれないか」と相談されたことがあるというが、即答で断ったという。

「個人タレントひとりに人生を預けて、さらに吉本と対立するなんてリスク高すぎます。会社にいて若手タレントを次々育て、そこからスターが生まれて出世する方が安定的ですし、そもそも自分が伸び伸びクライアント(テレビ局など)と交渉できるのは、吉本の看板があるから」

最近ではオリエンタルラジオ、キングコング・西野亮廣ら相次いで退社した吉本興業だが、抜けたタレントの仕事受注を妨害などせずとも、配下のスタッフたちが独特な営業力を駆使して、空いた席を獲っている。

問題があるとすれば、それはテレビ局が株主という、もっとスケールの大きな話であって、近年は教育事業で政府のクールジャパン機構から最大100億円の予算を獲ったなんてニュースもあった。それを見れば吉本にとってタレントひとりの収益など微々たるもの、粛清などと躍起になる話でもないだろう。