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周りの人のファッションについて

朱野

ここまでのお話は、伊沢さんご自身のファッションとイメージについてでしたが、他の人のファッションとイメージはどのくらい気にしますか?

伊沢

何着てるんだろう、というのは気にはなりますけど、あんまり他人を気にしはしないし、価格とかではなく清潔感が大事かなと思っています。僕が服をたくさん持つようになった理由のひとつに、単純に服が長持ちするからというのもあって。ローテーションすることで服がすり減らなくなるので、いろいろな服を着ると清潔感も増すなと思っているんですね。単純ですけど。なので、そのあたりは気にしてます。

でも逆に、どんなスタイルであろうと「格好いいな」と思うことはあっても、他人に「こうしろよ」と思うことはないですね。職業に応じた清潔感さえあれば。これはこの人の主張なのかなと思うこともあるし、QuizKnockも、バラバラ感があるのがいいところだと僕は思っているので。みんな全然コンセプトが違うじゃないですか。コンセプトがあるかどうかもわかんないけど(笑)。ファッションに全然興味がなさそうな奴がいるのもいいなと思っています。

それにやっぱり、QuizKnockはいろいろな人がいることに意味があると僕は思っているので、全員がカチッと同じイメージだったりするのは嫌で。そのイメージが「ダサい」と判定されちゃうと、「東大生=ダサいよね」みたいになって、「東大生の集団」というひとつのレッテルにもうひとつ「私服が地味め、ダサめ」みたいなレッテルが重なっちゃう。こうなるとイメージが不要なまでに強固な結びつきを持ってしまうので、単純にいろいろな人がいるという形でレッテルから逃れたいと思っていました。それだけは、周りとの関係の中で意識してきたところです。

▲YouTube FanFest Japan Creator Live Show出演時(2019年12月)

伊沢

他人の服を見て、この服いいなと思ったらごくたまに即ポチしたりもします。それこそアーティストのMVとかを見ていて、この服いいなとなることもあります。衣装さんが提案してくれた服がいい感じだったので値段を調べたら「うわあ、手が出ない……」となることもありますし。結構憧れはするタイプかもしれない

朱野

具体的なファッションアイコンはいますか?

伊沢

僕が一時期すごくかっこいいなと思っていたのが、ラッパーの般若さんです。ちょっと強面系で、スラッとしていて、筋肉質な感じで。そもそも体型がかっこいいから、スポーツブランドとシンプルなTシャツが似合う方で。般若さんが『Beats & Rhyme』という曲のMVで着ているパーカーが高校生の頃からずっと欲しかったんですよね。

ちょっとしか映らないので、僕は最初それをパイソン柄だと思って、パイソン柄のパーカーをずっと探してたんです。でも見つからないから「うわあ、このパイソン柄きっとめちゃくちゃ高いんだろうな」と思ってて。で、大学2年の頃かな、「あれこれパイソン柄じゃなくて本当はドットなんじゃない?」と思って。コインドットぐらいの大きさのドット柄を、斜めに映してるんだと気付いて、検索したら見つかった。ナイキのジャージで9000円くらいだったかな。即買いましたね。

伊沢

イメージ通りでかっこいいなと思ったのは、格闘家の那須川天心さん。何度かテレビで共演させていただいたんですけど、スポーツ×ストリートブランドみたいなスタイルで。スニーカーにしてもNikeとOff-Whiteのコラボだったりとか、スポーツ選手だからこそちゃんとスポーティにしつつ、おしゃれもバッチリ、みたいなところが素敵ですね。

作り上げたイメージと実際に着ている服が合致している、そういうところの上手さに憧れますね。なので、その服や格好自体に憧れるというよりはイメージとのマッチ具合に憧れる、世界観に憧れるという感じです。

朱野

コンセプト作りというと、QuizKnockにはいろいろな人がいるということが大切だというお話が先ほどありました。そのビジュアルの多様性は、QuizKnockの「楽しいから始まる学び」、学びを身近に感じてもらおうというコンセプトとつながっているのでしょうか? 

また「東大生」に対する世間のステレオタイプについては、どのように考えていますか?

伊沢

僕自身「自分が東大生だから云々」と思うことは在学中本当になくて。「東大生だからじゃなくて自分だから」と思うことが多かったし、林先生がいつだったか「東大生は外からの目を気にしすぎ。東大生と言われ続けていたがゆえに、自分で外からの押し付けみたいなものを作っちゃっている」とおっしゃっていて、それに相乗りしていました。灘俺的なやつですね(笑)。

ただQuizKnockを始めてみると、「なるほど、こういうステレオタイプを我々の中に見出そうとしているんだな」という発見も正直あったんですよ。ありがたいコメントをたくさんいただいたりもして。だから、ステレオタイプを壊したいとは全然思っていなかったんですけど、ステレオタイプから逃れたいなとは思っていました。「ああ、そうじゃないパターンもあるのね」みたいな、多様な余地を残す感覚で。なのでそうしたステレオタイプから逃れるための試みはそれこそ、QuizKnockではヘアスタイリストさんをお願いするとか、背景を明るくするとか、結構随所にあったと思います。

僕も初期は、営業行ってスーツのまま動画に出たりもしていたんですけど、今はよっぽどのことがない限りちゃんと服に着替えるという気遣いも出てきましたし。そこの、「ステレオタイプを壊すぞという意気込みはないけれど、いい塩梅に当てはめられないスタイルでいる」ことへのこだわりは、僕の中には少なくともありましたね。

伊沢

それこそさっきもチラッと話したところに繋がりますけど、QK GOの活動で各地の学校に講演に行く時、僕はほぼパーカーを着て行きます。ジャケットを着ない。やはり「画面の中にいた奴がそのまま来たな」あるいは「学校教育の文脈にいない奴・普段の授業の文脈にいない奴が現れたな」という感じはすごく出したかったんです。今日学校で一生懸命授業受けて、疲れてるのに放課後にQK GOとかいうイベントがある。いきなり来た奴の講演を聴かされる。そういう状況なので、僕としては「7時間目じゃん」とは思われたくなかったんですよね。その時点でお客さんの心をつかめてないし。

なんなら「芸能人が来るのね」程度でもいいなと思っていました。授業の延長ではなくイベントとして捉えて欲しくて。軽いテンションで来てもらって聴いてもらって、結果的にちょっぴり学びを持って帰れたね、ラッキー! くらいのスタンスが理想かなと考えていたので、ラフなパーカーを選んでいました。学校がそもそも生徒さんに不利な場というか、教壇に立つだけで相手を黙らせることができてしまう場でもあるので、せめてフレンドリーな何かを発信したいなと思った時に、服は僕が語らずとも語ってくれるので、実際すごく役に立ってるな、と感じてますね。

▲ラフな格好でQK GOに挑む伊沢さん

伊沢拓司のこれからのファッション

朱野

こうした仕事をしていると、自分の服装の遍歴がアーカイブとして残ることになりますが、過去の自分の服装を見てどう思いますか?

伊沢

昔の映像を見ていると、やっぱりYouTubeをやっている時が明確に自分が変わっていくタイミングだったんだなと思いますね。2017年の動画とかは結構スーツを着ていて。何でスーツを着てたんだろうと思うと、他のバイトに行ってたり、いろんなところに営業に行ってたり、ビジネスセミナーに話を聞きに行ってたり、あとは単純にお金なくてスーツくらいしかキレイめな服がなかったから着てたというのもありました。だから、昔の自分を見ていると、自分の中にも見られることとか、このメディアへの自覚が段々と芽生えていったんだなと思いますね。

アーカイブが残るのは、まあ別に残ることのメリットってそんなにないんだけど、仕事ですからね。それこそ昔の動画で、ナナマルサンバツ解説の生放送の時に「キャラの一人がこういうの着てそう」って、わざわざ3000円のSupremeの模造品を買って着てたりするんですけど、そういうのを見ると「コイツ……若いな……!」と思います。

▲ナナマルサンバツ解説生放送の伊沢さん。動画はこちら

朱野

では今後着ていきたい服はありますか?

伊沢

僕の身体つきにも合っていると思うので、長くパーカーとかストリートを着られるといいなというのはあります。一方で、合わなくなる瞬間もいつか来ると思うので、そしたらまた別のもの、キレイめのカッターシャツとかが似合うようになりたいとも思いますね。でも、カッターシャツは背が小さいとツンツル感が出ちゃうので、あと5cmは身長が欲しかったかな(笑)。

まあでも、年齢もTPOのうちですし、求められるファッションは当然変わってくるので、だんだんきっちりした方向にいくのかなと個人的には思っています。

朱野

今後、周りから求められる役割の変化に合わせて、服装の変化も起きるだろうと?

伊沢

そうですね、やっぱり僕の場合は周り中心になっちゃうので。着てる服によってテンションが変わるので、自分が着たい服は着続けたいですけど、その中で自分が効果的だと思う自分のブランドイメージが今の服に合わなくなるのであれば、変えていくということになっていくのかなと思っています。

いや、でもまだ派手なのめっちゃ着たいな、派手好きなので(笑)。あと3年くらいはめっちゃ派手なの着続けたいですね。

伊沢拓司のクローゼット

最近買った服:KITHのブランド設立10周年記念スウェット

伊沢

KITHは今年(2021年)ブランド設立10周年で、こないだ記念のスウェットが販売されたんですけど、それが今年に入って最初に買った服です。おそらく。

これまでは自己主張のひとつとしてKITHを選んでいたのですが、最近は方向がちょっとそれて、コレクターになりつつあります。KITHが好きな人としての購買行動をとっている感じです。このスウェットも、デザインがめっちゃ刺さったわけじゃないですけど、10周年ってだけでやっぱり買っちゃったんで、それで自分はコレクター化してるんだなということを自覚しました。

着ていて快適な服:スウェットのセットアップ

伊沢

僕は夏でも長ズボンがよくて、ずっとジョガーを履いてました。「動きやすくて着てる感がない」というのが好きな服の条件のひとつです。KITHを着ている時は安心と信頼と自己主張が全部同居している感じがするんですけど、逆に本当に何も主張しなくてもいい・もう気持ちから安らぎたい・服から安らいでいる自分であることを自覚したい、みたいな時は、セットアップのスウェットとか着ています。

2019年末にオフィスでみんなで麻雀だけ打ってゆるりと過ごすみたいな会をしたんですが、その時はTHE NORTH FACEの上下揃いのスウェットのセットアップでした。ちょっとズレたら「ドンキ店内かお前」みたいな格好ですね(笑)。


周りからは「セットアップは似合ってない」と言われることもありますし、拭えないヤンキー感みたいな、それこそ中身は全然ふにゃふにゃなのに格好だけヤンキーみたいなショボさはあるんですが、「俺はこれが好きなんだ!」と気にせずに着ます(笑)。休むモードの時は何者にも邪魔されんぞ、格好から休みに入っていくぞという強い心意気ですね。

勝負服:2019年のイベントで着たKITHの赤いジャケット

伊沢



最初はそれこそKITHが勝負服だったのですが、今は割合が増えて9割になってしまったので(笑)、2019年末のYTFFとQuizKnockの100万人達成イベントで着ていた赤いジャケットが勝負服です。この服にはイベントのイメージが付き過ぎているので、もう普段は着ないようにしています。これもKITHのものなのですが、襟のところに金のロゴバッジがついていたりちょっとラグジュアリー仕様なのもあって、これは特別なときのために取っておこうと。



▲金のロゴバッジ

伊沢

このジャケットはQuizKnock色をしているのも気に入っています。YTFFはいろいろなYouTuberさんが出演するところだったので、「QuizKnockいるよ!」と主張したくて、ロゴのイメージと一致するこの色にしました。

QuizKnockのイベントの時も、ひとりひとつQuizKnock色のモチーフを仕込もうという衣装コンセプトがあって、ほかのメンバーは衣装を用意してもらってたんですけど、「あー、伊沢さんは例の服で」みたいな(笑)。まさに僕にとってこの服は、QuizKnockの伊沢として表に出ていく時の服、ここぞという時に着る服になってます。

▲「QuizKnock感謝祭2019」の様子

まとめ

2回にわたってお送りしてきた「伊沢拓司はなぜKITHを着るのか」。「テレビではスーツ姿が多い伊沢さんが、どうしてYouTubeではストリートブランドを着ているのだろう?」というわたしの長年の疑問は、今回伊沢さんに直接お話を伺って、以下の通り解決されました。

  • 伊沢さんはTPOを最も重視しており、テレビとYouTubeそれぞれの場面にふさわしい服装を大切にしている。
  • テレビでは、演者として求められる役割やイメージの中で自分らしさを出すことを意識しており、スタイリストさんの用意してくださる衣装を着用する。
  • YouTubeや普段は、他人とはかぶらない個性的な服を着たい一貫性のある自分を演出したいという思いでKITHを着ている。
  • KITHが持つブランドイメージのおかげで、服を選ぶ時間をかけずとも、自信と安心感を備えた装いができる。

また、服装を通して「学びのイメージの変換」を試みているというお話も、興味深かったのではないでしょうか。

普段自分や周りの人が着ている服について意識することは少ないかもしれません。

しかし、伊沢さんの「僕が語らずとも服が語ってくれる」というお言葉通り、服は着ている人やその人が属するコミュニティについてたくさんの情報を伝えていて、またわたしたちも服からたくさんの情報を受け取っています。

今回の記事を読んだみなさんのファッションに対する見方にも、少し変化が訪れていたら嬉しいです。

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この記事を書いた人

朱野

ロンドンの大学院でファッションの研究をしています。日本ではまだまだ馴染みの薄いファッション研究の世界の紹介をはじめ、皆さんに楽しく読んでいただける記事を書いていきたいと思います。ちなみにロンドンにも美味しい食べ物たくさんあります。

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