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こんにちは、朱野です。前回の記事では、伊沢拓司はなぜKITHを着るのか、ファッションと社会学の理論を用いて仮説を立てました。

今回は、伊沢さん本人にその理由を直撃してきました。ついに明かされる伊沢さんがKITHを着る理由、KITH愛とファッションへのこだわりをうかがえるインタビューをお楽しみください。

※このインタビューは2月中旬にZoomにて行いました

ざっくりわかるインタビューの流れ

伊沢拓司はなぜKITHを着るのか

朱野

前回の記事でわたしは、伊沢さんは戦略的にKITHを着ているという仮説に、

  1. YouTubeとテレビで違う自分を演出しているから
  2. 視聴者の違い、外からの目を意識しているから
  3. KITHというブランドのイメージに価値を見出しているから

この3つの理由を挙げました。これらの仮説を聞いて、どう思いましたか?

伊沢

端的にいうと、結構合ってるなと思いました。まず、演出として戦略的にKITHというブランドを選んだという要素は間違いなくあります。

ただ、どちらかというと、YouTubeみたいな「日常」にふさわしい服を着たいなと思って選んだのがKITHで、それがたまたま「非日常」であるテレビで着る服と分かれたというイメージですね。

なので僕の戦略としては、YouTubeや普段用の服として「伊沢といえばこれ」「これを着ているのは日常」という統一感を作れるブランドが欲しくて、そこにマッチした上で「好き!」と思えるブランドがKITHでした。ここまでは狙い通りで、そしたら、結果的にテレビとはかなり違う装いになっていたと。テレビとの差別化というよりは、単にYouTubeのTPOを重視した結果、そうなったという感じでした。だから使い分け、演じ分けを100%狙っていたわけではないけど、実質的には相違ないです。

朱野

「自分はここだ」といえるブランドとして、KITHを選んだのはなぜですか?

伊沢

一番は、僕がKITHを着はじめた2018年頃、まわりで着ている人があまりいなかったからです。当時ブランドができてから6年か7年で、注目のブランドくらいには選ばれてたんですけど、日本には専門店がひとつもなくて、基本的にはアメリカの公式サイトで買うしかなかったんですね。あとはフリマアプリで高額になったものを買うか。

ロゴの存在感があるので、「これを着ている!」と主張しやすかったのもありました。YouTubeでのキャラ付けで着ていたわけですからこのあたりは大事です。

さらにKITHはMonday Programという企画をしていて、毎週新商品が出るんですよ。おかげで、合わないなと思ったり、着逃したり買い逃したりしても後悔しなくて済むので、それも大きかったですね。大量のリリースの中から自分に合うものだけを好きなペースで買っていけば、徐々に自分のイメージができるという。

▲2019年ニューヨークのKITHの店舗を訪れた伊沢さん

伊沢

やっぱり、服を選ぶ時間をそんなにかけたくないなと思っていて、かといって良いものは着たいので、そうなったときにKITHを着ようということを自分の中に決めていたのは大きかったです。いろんなブランド見に行かなくていいですからね。ただ、そこで信頼できるのは、ひとえにブランドイメージがあるおかげです。このブランドイメージが好きだから、愛が根底にありますね。

朱野

「これを着ているな」っていうのを主張したい気持ちがあるんですね。

伊沢

そうですね。自分自身でも「これを着ているな」と思ってはいたいですね。KITHを着ているぞと思うと、自分のテンションも上がりますし、他人に見られているときにあまり気にしなくてもいいというか、自信につながっているというのもすごくあります。「俺はもうKITHだから!」という割り切りもありつつ(笑)。

YouTubeをやる上でも、「伊沢はあれ着ているな」ということで、視聴者に向けて統一感が出せる、「ここでの自分」を出せるのもいいところかなと思っています。

▲バッチリKITHを着て答えてくれた伊沢さん。それにしてもなぜこの画角だったんでしょうか……。

伊沢

どんどん今まで言ってなかった話を喋れるんで嬉しいですね(笑)。それこそ今はそんなに意識してないですけど、2019年あたりは「クイズを仕事にしてても十分にいろんな服を着られるくらいの余裕は出来るぜ」と主張したいと思っていて。儲かってない感を出したくはないなと思ってたんですよね。

これは他の社員とかとも話してたんですけど、YouTubeやってて、ちょっと貧相じゃんってなると夢がないなと思って。クイズを職業に生計を立てるということが簡単ではない、という通念がある中でこの仕事を選んだので、ちゃんと生活できて毎日を楽しむ余裕があるというのはアピールしたかったですね。特に、将来を担ってくれる世代に対して。まあそれを言い訳に服を買ってた部分はあるんですけど(笑)。これで食えていけるぜと主張をするために、でも直接言うのはめちゃくちゃダサいから、服のバリエーションは出そうかなという感じはありました。いや、これもダサいか??(笑)

伊沢拓司のファッション・ヒストリー

朱野

2018年にKITHを着ることを決められた時点で、ファッションやブランドに関心を持っていらしたのだと思いますが、ファッションに興味やこだわりを持ちはじめたのはいつからですか?

伊沢

ずっと男子校だったのでそんなに気にしなくてよかったし、基本制服みたいな時代が長かったんですけど、服自体は気になっていて、ただお金がないという大学時代をずっと過ごしていました。なので、どうやって少ないお金の中で目立っていくか、主張していくかみたいなことは考えていましたね。

高校生の頃に地元のモールか何かでa.v.vの安売りをしていて、そこでめちゃくちゃド派手なロンTを売っていたんですよ。高校生ながら「これいいな、これめっちゃ欲しいな」と思って、そのロンTをちょっと無理して買ったのが最初でした。残念ながら写真が見つからなかったのでお見せできないのですが。

その頃から、ちょっと主張のあるものというか、ちょっとオリジナルなものを着ていたいという気持ちがありました。斜め系の服が好きで……。斜め系っていうのは今作った言葉なんですけど(笑)。斜めにボタンがついているとか、斜めにジッパーがついているとか、そういうちょっと変なやつは逃さない、みたいな買い方をしていました。斜めジッパーのやつはYouTubeで着てて、斜めボタンも初期の動画では着てるかな。

▲斜めのジッパーを着た伊沢さん。動画はこちら

伊沢

2016年の夏くらいからは、ジョガーパンツ、ナイキとかのジョギングに使うような黒いパンツを多用するようになりました。ジョガーパンツは夏でも冬でも履けて動きやすいんで、大学生活にめちゃくちゃフィットしてたんです。なので、その頃やQuizKnock創業時には、同じジョガーパンツを3本くらい持って着回すとか、その前は、夏は白T5、6枚買って上に羽織るものを変えるとか、そういうことをしていました。安さと汎用性を重視しつつ、自分のこだわりみたいなものはあったと思います。

あとは高校生の頃からヒップホップとかを聴いていた影響は大きくて。ヒップホップや、それ関連の深夜ラジオとかを聴いていたので、ファッションの話もどうしても入ってくるんですよね。ヒップホップに限らず、音楽を聴きたいな、漫画を読みたいなと思って情報を集めていても、そこにファッションの情報も付随して入ってきやすかった。カルチャーはそうそうきれいに分けられないですからね。なので、今ストリートブランドを選んでいるというのは、ヒップホップ的なものへの憧れが大きくあると思います。

朱野

近年はファッション全体の流行としても、ストリートスタイルに寄っていると思うのですが、そうした世間の流行もご自身のファッションに影響していると思いますか?

伊沢

あると思います。それこそ雑誌を読むのがめっちゃ好きなので、情報を絶えず食っていたいというか、流行には流されやすいタイプですね。

QuizKnockを始める前、2015〜16年くらいからちょいちょいライター的な活動もしていたので、雑誌を読むようになって。それこそ『BRUTUS』とか、原稿書かせてもらった『ケトル』とか。そのあたりのサブカル誌的なもの経由でも流行り物を覗き見していました。がっつりストリートメインではないかもしれないけれど、ストリートファッションというのは流れの中にたくさんあったので、その影響は受けましたね。

でも逆に、SupremeとかOff-Whiteとかの王道流行り物路線はちょっと自分には違うかなと、全然手が届かない段階から思ってました。値段が高いのももちろんありますけど、みんな着てて大人気、というのも要因のひとつにはなりましたね。

朱野

やはり人とかぶらないもののほうがいいですか?

伊沢

そうですね、流行り物は好きなんですけど、流行り物からちょっとずらしたいみたいなひねくれ感が、いろんなものに対して自分の中にはずっとあって。まさに服はそれが出てますね。ただKITHは去年ついに渋谷に直営店がオープンしてしまって。僕としてはもちろん嬉しかったんですが、悔しさもちょっとあります(笑)。

テレビの衣装について

朱野

テレビのお仕事は、スタイリストさんがついているんですか?

伊沢

テレビは9割がスタイリストさんの選んでくださった衣装で、私服を着るのはテレビ側から「私服で」と指示があった時だけです。

ありがたいことに事務所から良いスタイリストさんをアテンドしていただき、僕以上に僕のことをわかってくださっていると思っています。僕はやっぱりTPOを一番大事にしたくて、TPOに合った格好の中で自己主張できればと思っているんですけど、スタイリストさんは衣装を通して本当に上手に、僕以上に僕のイメージコントロールをしてくださっています。

例えば『グッとラック!』という番組でコメンテーターをしているんですけど、コメンテーター陣がちょっと入れ替わって、僕が若手ペーペー枠じゃなくなったタイミングがあって。それまでの若手枠の頃は、キレイめカジュアルからセミフォーマルの間くらいの服を着ていたんですけど、リニューアルのタイミングでスタイリストさんにご提案いただいて、完全スーツの衣装になりました。

▲スーツになってからの『グッとラック!』出演時

伊沢

他にも『アイ・アム・冒険少年』は小学生も見ている番組なので、「もうちょっと砕けた格好がいいよね」ってことで普段の僕の服よりもラフなくらいのファッションを提案してくださったり。

出身である『東大王』ではいつもマントを着けていたので、いざ『東大王』を離れると、テレビに出るための服ってどんなんだろ、という状態だったんですね。その状態から今のスタイリストさんにお世話になっていて、体型も含め僕のことを僕以上に理解してくださっているので、本当に信頼しかないです。

▲『東大王』でのマント姿

朱野

用意された衣装・イメージについて、伊沢さんから何か意見を伝えることもありますか?

伊沢

ほとんどないですね。もちろん最初は僕の方に知識がないので「自分の趣味じゃないかな」と思うこともありました。でもそれが意外と評判が良かったり、スタッフさんに似合ってるねと言ってもらうことがあって。あと、スタイリストさんは大体3着か4着持ってきてくださって、そこから僕が1着選ぶようなスタイルなので、どうしても僕の好みにも寄っていきますし。TPOの幅をスタイリストさんが提示してくれる、という安心感がありますね。

逆にいえば、テレビというもの自体に、スタッフさんの「こういう映像が欲しいのでこうしてください」という思いを演者としてできる限り実現する場という要素があるので、自分のブランドイメージはスタッフさんが設けた大原則の中に収まる範疇で主張していくものだと考えています。なので少なくとも今の僕にはファッション的主張の場ではないですね。

YouTubeも原理原則は同じですけどね。河村さんとかは特に企画のこだわりが強いから、河村さんの描く理想の中で、自分がどう振る舞うかというのが勝負なので。ただ、服装が世界観を壊すことがあまりない、という点で自由度が高い。そうした違いだなと思っています。

朱野

テレビで私服を求められるのはどんな時ですか?

伊沢

『アイ・アム・冒険少年』で、無人島に行っている人に応援メッセージを送る時は私服指定でした。これは明確に、テレビの外側から話しかける、テレビの中にいない自分としてコメントをするシチュエーションですからね。こういう時は普段の自分の格好が求められていると思うので、パーカーを着て出ることが多いです。

あとは講演会とかも私服ですね。ただ講演会とかは綺麗めな私服で、と言われるのでジャケットスタイルが基本です。QK GOとかは「インテリで売ってるヤツがいきなり学校に来る」という抵抗感をなくしたくて、あえてパーカーで行くことも多かったですね。まあ、講演会は移動が長いのでパーカー楽ですしね(笑)。

▲パーカーで講演に臨む伊沢さん。(2019年、駒場祭)

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この記事を書いた人

朱野

ロンドンの大学院でファッションの研究をしています。日本ではまだまだ馴染みの薄いファッション研究の世界の紹介をはじめ、皆さんに楽しく読んでいただける記事を書いていきたいと思います。ちなみにロンドンにも美味しい食べ物たくさんあります。

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