2006年に京都アニメーションの手によりTVアニメ化され、エンディングで流れる「ハルヒダンス」を真似た「踊ってみた」動画が相次ぎ社会現象と化した谷川流の小説「涼宮ハルヒ」シリーズの9年ぶりの新刊『涼宮ハルヒの直観』が2020年11月25日に発売になった。
最初の『涼宮ハルヒの憂鬱』が刊行されたのは2003年6月。これを機会に『ハルヒ』受容の17年史を振り返ってみよう。ラノベと一般文芸をめぐるこの20年の動きが垣間見える。
『ハルヒ』が刊行された2003年とはどんな時代だったのか。
同年5月より、角川スニーカー大賞出身の冲方丁によるSF『マルドゥック・スクランブル』が早川書房のハヤカワ文庫JAから3か月連続刊行され、同作は日本SF大賞を受賞。
同年9月に講談社から舞城王太郎、西尾維新、佐藤友哉、清涼院流水など講談社ノベルス――80年代後半以降、新本格ミステリの牙城とされてきた――で活躍していた若手作家を起用した雑誌「ファウスト」が刊行。
同年12月、2007年に直木賞を受賞する桜庭一樹の『GOSICK』が富士見ミステリー文庫でスタート……等々。
2000年代初頭は、ライトノベル出身作家がSFやミステリーなど一般文芸のレーベルで書く、ミステリーの新人賞でデビューした西尾維新がラノベとして支持される、という現象が起きていた頃だった。
2004年には日経BP社からムック『ライトノベル完全読本』が刊行され、新聞や経済メディア上でもライトノベルの市場規模の大きさなどが改めて喧伝された。
上記で述べたライトノベル出身作家が一般文芸で書くことは「越境」と形容され、文芸業界的にも注目された(現在まで続く年間ランキング企画のムック『このライトノベルがすごい!』が宝島社から刊行され始めたのも2004年末からである)。